これから一級建築士の製図試験に取り組む受験生のために、勉強のコツとスケジュール感のようなものをまとめてみたい。去年合格できた経験から「このくらいのペースで分量をこなせば受かるかな」という目安だ。
すべてがむしゃらに取り組むよりも、記述の暗記タイムは終盤に持ってきたりした方が効率がよい。逆に作図は8月頭からハイペースでこなさないと、なかなか時間が縮まらない。エスキースは地道に課題を解いていれば、ある時点から急成長する。
3スキルのバランス
「製図試験に受かるためのスキル」は次の3つに分けられる。
- 作図力
- 記述力
- エスキース力
作図力が足りなければ、どれほど美しいプランを考えても絵に描いた餅に終わってしまう。時間切れで図面が未完成ならランクIV。図面の書き方が雑だったり、線が薄くて自信なさげだと、最終選考でランクIIに下げられる原因になるといわれる。
逆に作図力だけ突出していても、間違ったプランを全力で仕上げるほど悲しいことはない。植栽も注釈も密に書き込みできて図面表現はパーフェクトなのに、プランニングに重大ミスがあればランクIIIに振り分けられる。
記述力の優劣というのは客観的に評価しにくい。試験元から解答例が公開されないからだ。しかし「計画の要点等」を白紙で出して受かったという話は聞いたことがない。作文した内容と図面との整合性もチェックされるらしい。
記述は定番の設問に対してキーワードを押さえつつ、そこそこまともな内容で全行埋めればOKといわれる。やることはほとんど解答例の暗記なので、学科試験をパスできた製図受験生なら余裕で習得できるはずだ。
製図ではこれら3つのスキルをバランスよく発揮することが求められる。実質的には足切点が設定された3科目で構成される試験に近い。本番の時間配分にも、3科目の緊張関係がそのまま反映される。途中で1科目の出来が悪くても、見切り発車せざるをえない場面が出てくる。
3スキルの学習曲線
7月の課題発表から10月の製図試験まで約2か月。実体験によると、各スキルの習熟度は次のグラフのように発達していく。
作図力は単調増加だ。所要時間は課題ごとの作図量によって変動するが、基本的に努力した分だけ伸びていく。図面を書けば書くほどスピードは上がる。しかし枚数を重ねなければ進歩しない(その意味ではシビア)。
毎回タイムを測れば自分でも成長を実感できる。図面の密度や線の質といったクオリティーも、時間にゆとりができれば自然と改善されていく。
記述は暗記もの。過去問と解答例をインプットして、設問と解答欄スペースに応じて自在に作文できるようになれば合格レベルとみなせる。
本番では初見の問題も出るが、誰もわからないのであまり差が出ない。ノート数ページ分、頭に詰め込んで反復学習すれば、1週間くらいでピークに達する。
エスキース力の発達は一般的な学習曲線に近い。練習問題によって条件が異なるので、すんなり解けることもあれば、いつまで経っても終わらないときもある。一進一退を繰り返しながらゆるやかに向上して、本番1週間前くらいになると急速に上達するタイミングが出てくる。
学習ピークの調整案
作図はひたすら書くしかないので、「毎週2枚」とか目標を決めればいいと思う。予備校の授業で1枚、家で1枚宿題をこなせば、8~9月で合計16枚書ける。たいていの人には、このくらいのペースが現実的だろう。
10月に入ったらがんばって週3枚は書く。作図手順を整理して、毎日半分ずつ書くのも効果的。合計20枚仕上げれば3時間は切れる。
記述は9月末、ひと通り練習課題を解き終えたくらいで暗記に取り組むと効率がよい。その頃には二級の製図試験が終わって、その年の新傾向(昨年の場合は防火区画など)が明らかになってくる。記述の練習問題にも反映されるので、バリエーションが出尽してから勉強しても遅くない。
解答例をノートに写して共通の言い回しをピックアップすれば、計画・構造・設備の合計3日間で丸暗記できるだろう。あとは本番まで作文練習して、記憶が衰えないようにキープするだけで済む。
記述力の養成は短期間で可能で、かつ試験本番に近い方が暗記効率は良い。すると記述のピークを9月後半に移す代わりに、8月中に作図力を集中強化しておくのが安全策といえる。
早めに作図で3時間を切れるくらいスピードアップできれば安心感が持てる。さらに、何らかの理由で終盤にまとまった練習時間が取れないときの保険にもなる。もし8~10月で勉強時間を均等に配分するなら、序盤で記述を無視する代わりに作図力を鍛えておくのが無難だ。
施設の見学
平行定規がかさばるので、作図を練習する場所はたいてい自宅になる。エスキースと記述なら、学科のようにカフェや図書館でも勉強できる。作図は肉体労働なので、ときどき施設の見学にでも行って体をほぐすのがおすすめだ。
昨年はさいわい課題がスポーツ施設だったので、近所のプールを開拓して実例を学びつつエクササイズも兼ねられた。裏方の管理ゾーンは見られなくても、利用者動線や更衣室のつくりを観察するだけで参考になる。
今年の課題は美術館なので、リフレッシュにちょうどよさそうだ。事務室や収蔵庫には入れなくても、駐車場からの搬入出経路などチェックできるだろう。カフェやショップを下見したり、屋上庭園もあれば参考になる。
道具にこだわる
もうひとつ息抜きにちょうどいいのが、製図用品の研究だ。画材屋や文具店をまわって、理想の定規やテンプレートを探すのも受験生らしい趣味のひとつ。実際はバンコ一本で済んでしまうのだが、「いつか禁止される説」があるので予備テンプレートも買っておくのが無難だ。
特にシャープペンシルは奥が深い。芯の太さと固さ、折れにくい特殊機構など調べ始めると、いろいろ試してみたくなる。せっかくの機会なので、作図ごとにペンを替えてベストなセッティングを追求してみるのも一興だ。
試験にかかる費用の中では、文具代などたいしたことはない。試験本番で消しゴムはいくらあっても困らない。製図板以外にも予算1万円くらいは見込んで、いくつも試してみるのがおすすめだ。