一級建築士製図試験「計画の要点」対策~『記述の合成に関するノート』

製図試験の中で、地味ながら得点配分はあなどれないといわれる答案用紙II「計画の要点等」通称「記述欄」。エスキースや作図に比べると、たいした分量もない暗記ものなので、強いて勉強法が取り上げられることは少ない。

来年の再受験に向けて、避けては通れない「記述」の効率的な学習方法を紹介しよう。まずはイラスト欄の増加やコンセプトルームの再来といった、新要素が満載だった平成30年課題の分析から。

今年の記述が楽に感じた理由

4学科ですさまじいボリュームのある学科試験を通過した受験生なら、この程度の暗記はお手の物だろう。マークシート4択からA3サイズの手書き作文に変わるが、基本的には定型化された常套句を使いまわせば1時間以内に行間が埋まる。

今年の試験で補足図以外の記述欄は、わりとオーソドックスだったように思う。「温水プール室の構造計画」は特にイージー。誰もが長スパンのPC梁や、鉄筋コンクリート造の耐火・耐水・耐腐食性など、事前に覚えてきたメリットをアピールできただろう。

「多目的スポーツ室の振動・騒音」についても、床を二重床にしてゴムや吸音材を入れる対策は『建築設計資料』の序章に書いてあった。竪穴・面積の防火区画に関しても事前告知があり、事前の二級建築士製図試験で出題方法もわかったので、対策できた人がほとんどだと思う。

唯一肩すかしを食らったのは、プールに絡んで出題されると思った空調設備が不問だった点だ。昨年はパッケージ方式の排除で辛酸をなめた空調の記述欄。「単一ダクトでも床置きダクトでも何でも来い」という万全の体制だったが、まったく記述で問われなかったのが残念で仕方ない。

その代わり、要求室にプールの空調機械室がなく「気を利かせて任意に追加しなければならない」というハイレベルな設問だった。暗記一辺倒の受験生だと、こういう問われ方をしてもピンとこない。

補足図増加の由々しい傾向

昨年のリゾートホテルに引き続き、今年のスポーツ施設も作文と一緒に補足図を求められた。特に計画の分野では、吹抜けのパッシブデザインから、上下足履き替え、他施設との一体使用など、すべての設問が補足図付きだった。

イラスト欄の説明は「補足してもよい」という曖昧な書かれ方だったが、文章欄と同じサイズで答案用紙を半分も占めている。伝えたいことを言葉ですべて表現し尽くしたとしても、補足図を空欄で提出するのはかなり気が引ける。図面の注釈と同じで、他の人がみんな書くなら埋めるしかない。

たとえばパッシブのイラストであれば、吹抜けの断面図をベースに太陽光線がトップライトから降り注いだり、ルーバーで日射が遮蔽されたり、仕組みを簡潔に図解する能力が求められる。履き替えや一体利用の欄なら、もっと抽象的なダイアグラムやフローチャートの方が説明しやすいかもしれない。

普段からポンチ絵を描いてクライアントにわかりやすく説明するとか、プレゼンや論文で図をつくる作業に慣れていないと、案外難しい。上下足の履き替えは、断面図をもとにした階別ゾーニングのような、わかりにくい絵になってしまった。作図のような1/200スケールやフォーマットがない分、絵心の有無が如実に表れる。

記述の補足図対策は、スクールの練習課題でもほとんど見たことがなかった。せいぜい過去問をベースに、柱・梁の配筋とか照明の配置を図示させる程度。ここ2年の傾向からすると、来年も補足図はさらに増えて出題されるだろう。予備校の記述対策も、半分はイラストの作画練習にあてられそうだ。

今年のコンセプトは案外難しかった

コンセプトルームは2年続けての出題だったが、「使用方法・設い」の提案で昨年と同じだった。今年は観光でなく、「健康増進・世代間交流」というテーマだったので、内容を考えるのが少し難しい。

コンセプトに関して建築的なソリューションとしては、展示やワークショップのような使い方だとイメージしやすい。しかし今回は「町内運動会の写真展示」とか全然おもしろくなさそうだし、100㎡も部屋を割り当てて展示する価値もなさそうだ。

一方、ワークショップの方を選ぶと、テーマ的にどうしてもデイサービス的なお絵かきや粘土細工をイメージしてしまう。確かに健康増進や世代間交流には微力ながら貢献できそう。だが、その手のサークル活動や生涯学習は旧校舎のカルチャーセンターで行われそうなので、スポーツ施設としてはもっとアクティブなアイデアがほしい。

コンセプトルームもダンススタジオみたいに鏡張りにして、ピラティスや太極拳など負荷の少なそうなレッスンを実施するのは模範解答のひとつだろう。また、マインドフルネス志向で坐禅、瞑想、アレクサンダー・テクニークなど指導してみるのもありだったと思う。

「平行定規を抱えながらスクワットする建築士体操」など、独自のエクササイズを考案してもいい。「A2サイズ方眼用紙のすべてのマス目を4mm角柱で埋める訓練」なんて、写経より無我の境地にいたれそうだ。

初学者は記述暗記が無難

その他の記述文章欄は、基本的に暗記でいける。実務経験のない自分としては、むしろスクールの解答例どおりに一字一句再現しないと、常識的に間違ったことを書きそうなのが不安だ。

対策してなかった地下水の設問は、「消火用水や屋上散水に有効活用するため、地下水位より深めにべた基礎でピットを計画した」なんて、思いつきでとんでもないことを書いた。採点官にとっては、まるで「耐火性にすぐれた木造」「環境負荷の低い重油焚きボイラー」のようなブラックジョークに聞こえるだろう。

笑ってスルーしてもらえるならラッキーだが、建築士としての常識度を推し量るこのテスト。無知丸出しの珍解答は、相当印象が悪いと思う。話のネタとしては楽しめるが、1年まじめに準備した製図試験の本番で堂々と披露するのはヘビーだ。

ブログで鍛えられる文書捏造スキル

受験日記を書いていると、どうでもいい話に尾ひれや背びれをつけて無意味に膨らませる特殊技能が身につく。おかげで想定外の記述問題が出たとしても、見た目だけそれらしく行間を埋めることができるようになる。

たとえば「水冷ヒートポンプ」とか「バイオエタノールボイラー」とか、未知の設備機械方式について急に説明を求められたとしても、自信満々で架空のメリットを列挙できる自信がある。

「仕事はできないけど世渡りがうまいサラリーマン」みたいにろくでもないスキルなので、資格を取ってから苦労することになるだろう。こういうのが会社の上司にいて幅を利かせていると、部下からすごく嫌がられるタイプだ。

建築士の試験では、あいにく(さいわい?)付け焼刃の偽装知識を見破るトラップがいたるところに散りばめられている。学科に受かったときはちょろいと思ったのに、製図で苦労しているのはそれが原因だと思う。

形態素の合成による記述生成

さてここからが本題。具体的な記述の暗記方法を紹介しよう。

勉強方法としては、典型的な設問の解答例をトピックごとに整理して、微妙なニュアンスに合わせて使い分けられるよう訓練する。毎年新しいタイプの設問が数題出るが、暗記で対応できない新種は誰も解けないので、とりあえず適当に行間だけ埋めて捨ててよい。未知の設問にそなえる勉強時間を、エスキースの訓練にあてた方が効率的だ。

昨年同様、記述もノートをつくってまとめたが、やっている作業はまるで自然言語処理のようだ。解答のサンプルを脳内で形態素解析して、単語の辞書を作成する。意味はよくわかっていない脳内のエージェントに単語のつながりを覚え込ませ、「見た目だけそれっぽいテキスト」を自動生成するよう学習させる。

たとえば「単一ダクト」というキーワードが与えられたら、設置対象がプールなのかトレーニング室なのか、またその広さによって、「天井の高い大空間を…」と次に続く補語を予測する。

そして記入欄の残り文字数や、ほかの解答と内容がかぶらないように注意しながら、「一定の温湿度環境に保つのに…新鮮空気の導入…換気能力に優れた…効率が良い…」など候補となる形容詞を連ねる。

最後に表現の重複を避けながら、「…配慮した…考慮した…計画した…工夫した…を図った」などの慣用句で締めくくる。この中では配慮と考慮の「慮」という漢字が記入にかかる時間が長く、また潰れて読みにくくなりがちなので、きれいに書けるとレベルが高いとみなされる。

「配慮」と「考慮」をバランスよく使い分けられれば、知的な文章に見えて印象がいい。時間がないとか手が震えて丁寧に書ける自信がないときは、次にメジャーな動詞「…計画した」に格下げする。それでも間に合わないときは、最後の手段「…した」という小学生みたいな言い回しで逃れるしかない。

出力結果をバリデート

学習が未熟だと、まるで出来の悪い自動翻訳みたいな文章が生成される。

「バリアフリーに配慮して…明るく開放的な…アースチューブを設け…動線の短縮を図った」

もしアースチューブが透明な外皮で覆われた「動く歩道」みたいなものだとイメージすると、何となく意味は通じる。そして作文した当人も無知なので、根本的なエラーに気づかない。これが機械学習みたいに機械的な学習法の限界だ。

発展的な記述の勉強とは、解答例から合成されたテキストが、

  1. 課題の出題意図に正しく答えているか
  2. 自分のプランと整合性がとれているか
  3. 残り時間でちゃんと図面に表現できるか

という基準を満たすかチェックする訓練といえる。

特に3番目が意外と重要だ。どれほどすばらしいアイデアでも、作図が時間切れで図面に表現できないと2番目の記述不整合とみなされ、かえってマイナス評価を受けてしまう。

詰め込み型には生きづらい世の中

課題条件から合格プランを自動生成する3次元的な計算に比べると、記述の説明文をそれらしく生成する人工知能の方が簡単に実現できそうだ。

実用性とユーモア度のパラメータを調整して、コンセプトルームのアイデアを授けてくれるAIなんていうのも、受験生の暇つぶしやブレストに需要がありそうだ。地域おこしやスポーツ振興の企画でリアルに使ってもらえるかもしれない。

とはいえ記述も年々、補足図が増えて高度になってきているので、暗記に頼った詰め込み型教育にはいずれ限界が来そうだ。来年の課題では、むしろ文章よりイラスト欄の方が大きくなっているかもしれない。

昔のもっとパズル的だったらしい製図試験の時代に受けていれば、暗記だけが生きがいのコピー忍者でも難なくストレート合格できたと思う。見た目や口先だけでしのいできた人間にとっては、生きづらい世の中になってきた。