一級建築士製図試験デザインパターン2「クロスコリドー」で廊下を通す

前回紹介した「シングルコア」に続いて、一級建築士製図試験で使える2つ目のデザインパターンを紹介しよう。その名も「クロスコリドー(Cross Corridor、十字廊下)」だ。

何よりもゾーニングと動線計画が合格の鍵を握るといわれる製図試験。シングルコアは階段・エレベーターの垂直動線を集約して、省スペース化を図るテクニックだった。今回提案するクロスコリドーは、水平方向の動線を単純化してゾーニングを機械的に行う方法である。

ネタのつもりだったが、実際にエスキースで使ってみたら普通に役立った。バリアフリーや避難距離が不利になるようなデメリットもないので、シングルコアより実用的かもしれない。これを図式通りに1階から3階まで試験本番で決められたら、合否はともかく爽快感だけは味わえると思う。

廊下が通れば合格できる

製図試験におけるエスキースの指導法で、よく「廊下を通せ」といわれる。

それは誰でも部屋をつなぐのに廊下は当然つくると思うのだが、単に隙間を埋めるのではなく、「廊下をなるべく直線でつくれ」という意味だ。美しい図面の褒め言葉として「廊下の通りがよい」と表現されることもある。

廊下がまっすぐだと、単に「見た目がわかりやすい」とか好みの問題だけでなく、実際上のメリットがいくつも生じる。

  1. 利用者が目的の部屋を見つけやすく、迷わない
  2. 車椅子使用者が通りやすく、バリアフリー
  3. 避難時も利用者がスムーズに直行階段にたどりつける
  4. 廊下に死角ができないので、セキュリティー上も安全
  5. 構造や配管がシンプルになるので施工的・経済的に有利
  6. 廊下まわりに長い直線を引けるので、作図時間が短くなる
  7. 採点者がプランを把握しやすく、印象がいい

実は最後の採点者に対するアピールこそが、一番の強みでないかと思う。

図面は見た目が9割

あくまで人間が採点する(と思われる)製図試験、図面の見た目や第一印象が重要なのは、言うまでもない。

整然としたレイアウト、書き込み密度も高く、一目で合格答案とわかる図面は、中身も無駄がなさそうだ。細かくチェックするだけ時間の無駄なので、どうしても採点が甘くなりがちなのが人情というもの。

一方、妙に空白が多くてスカスカだったり、廊下がごちゃごちゃして不便そうな図面からは、おのずと低ランクな香りが漂ってくる。嗅覚鋭い採点官に、「ん?この図面なんか臭うぞ」と勘付かれるたらまずい。「見た目だけランク1偽装」の図面ならスルーされたかもしれない細かいミスを、あら探しされて墓穴を掘る。

見た目の印象という点で、「廊下の通り」は非常に重要である。極論すれば、むしろ廊下さえまっすぐであれば、各部屋の面積が多少ずれていてもOKとすら言える。下手にグリッドから壁をずらして室面積プラスマイナス10%の近似値を狙うより、廊下を直線状に保った方が採点に有利な可能性もある。

プランニングの最初に十字廊下を想定

第2のデザインパターン「クロスコリドー」は、この「廊下の通り」を真っ先に確保する手法だ。

まず敷地の中央、1階に十字状の廊下を想定する。廊下の幅は利用者用として、バリアフリー最低寸法よりさらに余裕ある3m。後ほどゾーニングして一部が管理者用になるなら、幅2mまで狭めてもよい。

廊下で仕切られたプランを、XY軸と4つの象限からなる2次元座標ととらえてみよう。

敷地の周囲には必ず接道条件や公園の眺望など、利用者/管理者部者を向けるべきヒントがある。2面接道なら間口広く接する、あるいは幅員の広い方が利用者用エントランス、狭い道路はサービス用通用口という感じだ。

このスクールが教える解法があまりに単純すぎたため、平成30年のスポーツ施設課題ではうやむやにされた感がある。実は「東西南北4方向どこでも出入口OK」という今年の課題こそが、クロスコリドーを最も生かせる課題だった。スポーツ施設でなくても、1階がカフェや事務室程度の共用部門で、上階を専門用途でゾーニングする種類のビルディングタイプには適用できると思う。

廊下で分節された4象限を部門分け

外部環境の条件により、十字に仕切った4つのゾーンの役割を決める。サービス部門はたいてい1つの象限で済むはずだが、2階にプールがあるため広い機械室を要するとか、ホテル課題でレストラン厨房を管理部門につなげるとか、条件によっては2象限使う場合もある。

事務室は受付カウンターからエントランスを見ることができて、利用者の入退館を管理できるよう十字廊の中央交差点に向けるのが効率的だ。もしエントランスを1つしか設けないなら、そのそばに近接させるのもあり。いずれにしても、製図試験で事務室は無窓OKとみなされているので、グリッドの中央に設けて支障ない。

管理ゾーンから厨房分離してよいカフェなどは、利用者象限に入ってくるだろう。カフェ系はたいてい「外部からも利用」「屋外テラスと一体的に使用または動線に配慮」という付帯条件がついてくるので、向けるべき方向を推測しやすい。

たまに道路と反対側の公園からサブアプローチを求められる課題も出るが、スクールの出す答案例では、常に2つの出入口が一直線でつながっている。間にホールやラウンジのたまりを設ける場合もあるが、基本的に複数風除室は直線でつなぐのがセオリーらしい。

クロスコリドーであれば、エントランスが複数でも直線廊下で接続される点が自動的に保証される。先にXY方向に両方とも廊下だけ通しておくことによって、余白のゾーンに多少無理が生じても、プランの完成度を底上げしようという戦略だ。

廊下のXY移動で部屋の面積調整

ここで割り振ったゾーン内の各所要室面積に合わせて、2本の廊下をXY軸に沿ってずらしながら調整するのが肝だ。

1階で想定した十字廊下を、基準階方式でそのまま上階に当てはめていく。2~3階にプールや運動室などの大部屋が来る場合は、1階でなくそちらのフロアで調整した方が早い。

面積調整の結果、4つの中で狭すぎる象限が出てきたら、要求室でなく便所やホールに割り当ててもよい。たいてい階段コアを配置した象限にしわ寄せがきてしまいがちなので、エレベーターの位置を調整してまるごとEVホールにしてもよい。今年の課題のようにエントランスホールの吹抜け指定がある場合は、フロアによって1象限まるごと吹抜け付きのホールにするとまとめやすい。

余ったスペースは中央部の交差点に集めてそこをホール化すると、プランに「明るい解放感」を演出しやすい。施設の中で道路をつくって交差点に広場を設けるというような、都市計画をしている感覚になる。

常に「廊下の通り」だけは保証される

画一的な都市計画は人心を荒廃させるので、曲がりくねった廊下の方がよいと考えるコミュニティー派の人もいるだろう。製図試験では、そこまでハイレベルな議論は求められないので、工学的に無駄のない直線廊下を優先して差支えない。

クロスコリドーのルールとして大事なのは、部屋ごとに面積調整する際に必ず「2本の廊下を直線状に保つ」という点だ。もしある部屋が400㎡もあって1つの象限に収まらない場合など、変に廊下を屈折させるよりは、中央交差点で廊下を1本塞いで2象限割り当てる。

このシンプルなルールによって、製図試験の重要ファクターである「廊下の通り」が確実に担保されるというわけだ。全フロアに廊下さえ通せていれば、最初からランク2の土台に乗った状態で6割の合格率が保証される。

また、季節によって敷地の南北または東西方向に卓越風がある課題の場合、各階廊下が建物両端の開口部まで貫通していれば、通風促進のアピールもできる。自然採光という面ではあまりメリットのない手法だが、理想通りに実現できれば通風面でのパッシブデザインを強調できる。

プールが1階でも楽に解けた

ためしにクロスコリドーを今年の「スポーツ施設」、プール1階案に適用してみたら、驚くほど簡単にエスキースがまとまった。しかもプール縦置きなら、面積が厳しい1階のなかで、3番目に優先度の高い南側エントランスまで設けられだ。データ化できたら後ほどプランをアップしたい。

今回はプールが巨大なので、どうしても廊下で区切った2象限は消費してしまう。もしプールを2階に上げれば、クロスコリドーで1階に4つ目の風除室もたやすく計画できただろう。

日建学院の解答例にクロスコリドー出現

試験から1週間経過して、大手スクールの採点会も軒並み終了したようだ。裏ルートで入手した日建学院の解答例によると、2階プールで1階はまさにクロスコリドーを適用した十字路・4エントランスが実現されていた。

試験中、時間に余裕があれば、ぜひエスキースしてみたかったパターンだ。履き替えスペースのため、交差点と離れた位置にホールが出てきたり、自分の理想形とは若干異なるが、廊下の通りの良さでいえば今まで見た答案例の中でベストだった。

おそらく試験終了から数日間、全国の日建学院講師が検討を重ねて絞り出した究極形態だろう。とても一介の受験生が試験本番のプレッシャーのなかでまとめ切れる案とは思えない。

今年の標準解答例はさすがにここまでいかなくても、T字廊下の3エントランスくらい打ち出してきそうだ。「4方向いくらでも出入口設けてOK」という破格の条件だったスポーツ施設、まさにクロスコリドーの真価を試せる絶好の課題だった。

解答例の出し方に見る予備校の経営戦略

あらためて考えると1週間前、試験日当日の夜に答案例を速報したTACと製図試験.comはすごいと思う。自分の出したプランが多数派なのか、気になって仕方ない受験生に素早く模範解答を示してくれたスピード感がすばらしい。

むしろ製図試験.comさんは、少数派のプール1階組を勇気づけるために、あえて王道を外した1階案で出してくれたのではないかとさえ思う。おかげで当日の夜は、つかの間の安堵を得ることができた。

大手予備校の凄腕講師がよってたかって数日プランを練り上げれば、ウルトラCの超絶技巧4エントランスも出てくるだろう。新規市場に遅れて参入し、資金力と物量にモノを言わせてシェアを奪うのが大手企業の経営戦略だ。

少なくとも、試験終了後に答案を早出したTACと製図試験.comのパブリシティーはすさまじく向上したと思う。TACも建築士の分野では後発といえ、一部上場の大企業。上司の承認や社内の稟議を通すため、実質的にエスキースにかけられたのは30分しかなかったかもしれない。

受験生に近いか、それ以下の短時間で解かれた「まずまず合格しそうなプラン」という意味では、TACの初期案も悪くない気がする。そのあと入手したTACの別案は、さすが時間をかけてやり直したのか、日建の答案並みに洗練されていた。