一級建築士製図試験に革命を起こすデザインパターン「シングルコア」

歴代の標準解答例を眺めていると、ふとプランニングを効率化できる普遍的パターンが存在するように思われた。オブジェクト指向のソフトウェア開発におけるデザインパターンのような感じで、エスキースの生産性を上げる典型的な方法論がありそうだ。

そもそもIT業界における「デザインパターン」という概念自体が、クリストファー・アレグザンダーのパタン・ランゲージから派生したといわれている。お金をかけて実験するのが難しい建築分野より、計算機上でシミュレーションできる情報科学と相性がよい考え方だったのだろう。

「マニュアルに従えば誰でもそこそこよい建築をつくれる」というのが趣旨だったと思う。近年出てきたアルゴリズム建築とは、またちょっと違う意味に感じる。自分のように暗記しか能がないエスキースセンス0の受験生には、うってつけの方法論だ。

とりあえず思いついた1つ目のパターン、名づけて「シングルコア」を紹介しよう。

階段・EVコアのマンネリ化

2年間、製図試験に関わってきて不思議に思うのは、階段やエレベーターのデザインがきわめて画一的なことだ。建築物移動等円滑化基準で決められている、最低限の寸法は守らないといけない。たいてい敷地に余裕はないので、無駄に広くてゴージャスな階段を設計するわけにもいかない。

例外的に、昨年の標準解答例②に見られるような第3のオプション階段が出てくることもある。エントランスホールに連続する吹抜けの中を、ゆうゆうと回りながら上り下りできる娯楽性の高い余剰設備。たまたま課題がリゾートホテルだったから許されたアイデアだろう。

合格ラインの目安を示す標準解答例とはいえ、こんな発展的な提案ができた受験生がそうそういるとは思えない。しかも作図が面倒な階段を含んで断面を切るなんて、「正気じゃない」と製図学校の講師に止められそうだ。

垂直移動に関してほかにひねりがあったのは、平成20年に出題されたエスカレーターくらい。長さが√3×階高で決まるので、ルート3の近似値1.73…を覚えていなかったらアウトという厳しい年だったことだろう。暗記法は「人並みにおごれや」というすばらしい語呂合わせがあるので、これだけは思い出せた。

今年のスポーツ施設でも、余裕があれば勝手にエスカレーターを追加しようと考えていたくらいだ。階段の代わりに避難経路として使えるのかわからないが、当時に広い吹抜けも導入できるので、豊かなエントランスホールを実現するにはぴったりだと思う。

おもしろみにかける縦動線

たいてい見かけるのは、7×7mの1コマに7×4mの利用者階段を収めて余白にエレベーターを配置するパターン。管理用なら階段の寸法は5×3mで済むので、EVだけでなく設備シャフトや便所も1コマに詰め込める余地がある。

階段・EVコアの位置は全階一致だから、ここにPS/DS/EPSを入れると上下階の通りが良いという発想だ。製図受験生なら、まず最初に学ぶ基本のテクニック。プールのような大部屋が多くてコアに廊下を通す場合は、階段とエレベーターを分離したりもするが、基本的にそれぞれの寸法は変わらない。

利用者階段も管理階段も、たいていはコンクリートの壁で四方を覆われた、おもしろみのない空間になりがちだ。竪穴になるので防火区画上、不用意に開口部を設けられないのかもしれない。ただ、せっかく湖畔や桜並木が見える外側に階段を設けたなら、ガラス越しに景色が見えてもいいんじゃないかと思う。

製図試験において階段・EVコアはあまりにもテンプレート化されてしまっているので、デザイン的な遊びを入れる余地がない。どうせ開口部もない、つまらない移動専用空間なのだから、なるべく建物の内側に置いて居室を外部に向ける方が合理的だろう。

ただし、利用者・管理者2つの直通階段を近づけると、二方向避難の重複距離が長くなる。余裕があれば、できるだけグリッドの隅に離してコアを置くのが定石だ。階段・EVの計画に関するノウハウといえば、せいぜいこの程度だと思う。

階段・EVを統合して省スペース化

図面を眺めていて、厄介ものの階段コア2つを融合できないかと思いついた。標準的なスパン割りで7×7mの空間があれば、利用者階段・管理者階段に加え、2×2.5m最低寸法エレベーターも寸法的にぎりぎり収まる。

当然、2つの階段が近接して避難の重複距離が長くなるので、屋外階段など別途増設する必要が出てくる。しかし、面積条件が厳しい課題で階段コアを1つに減らせるとなれば、プランニングの自由度が飛躍的にアップする。

仮にこの配置をシングルコア(Single Core)と呼ぶことにしよう。プログラミングにおけるデザインパターンのシングルトン(Singleton)と似た感じで、増えてもあまりうれしくない階段EVコアのインスタンス生成を抑える方法だ。

シングルコアの利点と欠点

エレベーターの出入口は一方向に限られるが、利用者用と管理用の階段は踊り場を介して2方向に扉を開ける。柱が邪魔して通路が狭くなるので、基本的には階段の短辺方向に出入口を設けるのがおすすめだ。

シングルコアは敷地の中央に置くのが適切で、ここを境にして利用者ゾーンと管理者ゾーンを明確に分離できる。コアに接する周囲でサービス廊下の通用口を設ければ、縦動線を介してスタッフが相互のゾーンに短い動線で行き来することも可能だ。

2つの階段の踊り場レベルを合わせれば、隣接した階段内で利用者/管理者ゾーンを直接接続することもできる。領域間のインタフェースをコア内に設けられるので、ゾーニングと動線が明快になる。ここからMediatorのような別のデザインパターンも導けそうだ。

デメリットとして、先述の二方向避難、重複距離を回避する別の階段が必要になる。これはシングルコアから離して屋外階段を設ければ解決できるだろう。グリッドの外なので、プランニングへの影響は少ない。

また、これまでサービスコアに含めるのが定番だった、EPSやPSなどの設備配管を別途設置しないといけない。どちらも天井ふところで横引きは可能だと思うが、上下階でなるべく位置が揃うよう、従来手法より余計な気をつかうことになる。

エレベーターが小さいので、せいぜい11人乗りしか用意できないという問題もある。しかも出入口に邪魔な柱が隣接するので、うまく施工できるのかわからない。移動等円滑化基準に合わせるには13人乗りEVの内寸が必要なので、バリアフリー面での減点は覚悟する必要がある。

余裕があれば連結してセンターコア化も

発展系としてシングルコアを2つ隣接、あるいは間に1スパン挟んでそこに便所や倉庫を収める方法もある。余計な面積を食うが、管理用のエレベーターも計画できるメリットがある。2つ目のコアの階段を省けばスペースにゆとりができるので、EVを増やしたり広くしたりもできる。

2つのシングルコアをダブルコアと呼ぶと、学科試験の計画で出てきたオフィスビルの両端コアをイメージしてしまう。シングルコアの連結は、どちらかというとセンターコアに近い設計思想だ。

縦動線と設備配管を中央に集約して効率化でき、コア周囲の平面計画も自由度が増す。居室も採光しやすくなる代わりに、屋外階段を省略すると避難距離の重複という問題がまた出てくる。

面積制限のある課題で有効なシングルコア

シングルコア・センターコアは、基準階のあるオフィスビルや、建築面積が広い課題で使える手法だ。もしホテル宿泊者や有料会員専用の縦動線が必要な場合、コアを連結させて複数の階段・EVを集約するのは効果的だろう。

とにかく階段コアに利用者・管理用に関わらず縦動線を詰め込めば、その分ほかの居室やホールをゆったり設けられる可能性が出てくる。コアが敷地中央に来る分、外壁に面した開口部も増やせるので、無窓居室ができるリスクも下がる。

課題の条件によって常に適用できる手法ではないが、建蔽率や容積率がタイトな場合は比較的役に立ちそうな気がする。例えば今年のスポーツ施設でプールを1階に配置した場合、カフェや更衣室と広いプール・機械室を同一階で共存させるには、有効なソリューションだったと思う。