もっと早く出会いたかった、一級建築士製図試験独学テキストの決定版

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今年の製図試験勉強は、手に入れた予備校課題を解くだけで精いっぱいだった。

一応、日建学院の『1級建築士設計製図試験課題対策集』はAmazonで取り寄せて目を通したが、解説部分は去年と同じで読む意味がない。4問入っていた課題も、スクールで配っているものに比べると難易度はやさしめ。

8月中旬に出版された書籍なので、9月に入って対策強化された、防火区画や延焼ラインが詳しく盛り込まれていないのは仕方ない。去年は日建の市販テキスト頼りにせいぜい5課題解いてみた程度。大金払って何十課題もこなしている、正規の受講生にかなわないのは当然だった。

設計製図対策研究会の『直前対策と課題演習』は昨年「配置図独立出題」という予想を外したので、いまいち信用できない。余力があれば買おうかくらいの気持ちで、結局試験本番まで取り組む時間はなかった。

圧倒的ボリュームの製図独学テキスト

書店の建築士コーナーを物色中、製図試験用のテキストが新しく出ているのを発見した。独学向けのノウハウを網羅した300ページ以上ある大著で、価格も5千円以上する決定版だ。

もし昨年この本に出会って熟読していれば、製図も独学で合格できたのではないかと思われるくらいの充実ぶり。試験に落ちた原因のひとつとして、学習に必要な教科書や課題を十分手に入れられなかったという反省がある。

見た目からしてちょっとした予備校資料などより分厚く、中身も相当濃い。作図・エスキース・記述の3種目について漏れなく解説されており、過去問題の分析も8年分は含んでいる。しかも巻末に「特製ツールボックスのつくり方」という実践的な付録までついている。

製図板の横に置いて定規やテンプレートを整理する、あのファイルボックスみたいな入れ物のことだ。独自の仕切り付きケースを、スチレンボードで組み立てる設計図。製図を究めるには、道具入れから自作するという気合の入れようだ。

本書を見つけたのは9月も終盤にさしかかる頃。さすがにこれから読破する余裕はないと思い、値段も高いので購入は見送った。もし今年もダメだったら、この本を読んで一から勉強し直したいと思う。

著者は個人塾経営のプロだった

著者の略歴を拝見するとキャリアバリバリの建築士。学科や製図の講座を開設されているプロの方だとわかった。

製図の長期コースはテキスト込みで13万程度と結構するが、2月から24回も教えてもらえるので1セッション5千円程度の単価。大手予備校に比べれば激安なので、こういう個人指導でお世話になるのもありかもしれない。

ただし定員が12名しかいないので、人気講師なら紹介や口コミで毎年すぐに埋まってしまいそう。大手校で都心にある教室だと、講師1人で何十人も教えるのはざらだと聞くから、かえって良心的な人数制限に見える。少人数なら、初年度生でも手取り足取り丁寧に教えてもらえそうだ。

貴重なプール1階配置の解答例

製図の独学支援というコンセプトに共感を覚えたが、驚いたのはそれだけでなかった。ウェブサイトに今年の「スポーツ施設」解答例が公開されていて、しかもなんとプール1階配置!

大手予備校の答案例にはひたすら裏切られ、プール1階の仲間はもう製図試験.comさんだけかと思っていたところ、心強いサポーターを見つけることができた。プランにコメントも併記されていて大変わかりやすい。

以下、はばかりながら素人目線で答案例をレビューさせていただこう。

エントランスホールを広く取るため、プールは縦置きで東に寄せられている。利用者の出入口は北がメインで西はサービス用。よく見ると南の屋外テラス経由でアプローチできる動線もあるようなので、トータル3方向エントランスだ。

スパン割りは南北均等7mで隣地との距離は2mずつ。東西方向も7~8mスパンなので、このままいくと建蔽率オーバーする方向だが、南西を2コマ大胆に切り欠いて調整している。1階のここにカフェと連続した屋外テラスが広く設けられているので、課題で指定の「桜並木 or 公園眺望」はパーフェクトに満たせている。

サイトのコメントにある通り、機械室とプールの間に更衣室が挟まれているので、地下ピット経由で配管する方針だろう。断面図を見ると、プールのべた基礎はGLマイナス2.2mの地下水位ぎりぎりを狙って設計しているように見える。

自分は予備校課題でこのパターンを見なかったので、安全策で3m掘ってしまった。もしこの深さでプール配管が収まるなら、多少窮屈かもしれないがぜひとも真似したかった。少なくとも採点官に、地盤断面を見て地下水ケアしたことはアピールできる。

明るく開放的すぎるホールと吹抜け

プール1階なのに、なんでこんなに広いエントランスホールが取れるのか不思議に思う。コンセプトルームを3階に上げたのはいいとして、どうやら機械室がちょっと小さい。そしてプールの北側に、独立した空調機械室を持ってきている。

なるほどプールの長さが18mと短いから、7×4=28mあれば空調室も隙間に収まるという計算だ。しかもプールの短辺に1本8mスパンをかませて、2.5mずつ広めのプールサイドを確保しているのがにくい。2階トレーニング室の面積確保と、プール幅に余裕を持たせるため、東西2本、8mスパンを差し込んでいる位置が何とも絶妙だ。

ありえないくらいゆとりのあるエントランスホールに、これまた広すぎる吹抜けが計画されている。2・3階にはまるで去年のリゾートホテル、幻のツインコリドーを思い出させる回廊が設けられていて、天井知らずの開放感だ。

吹抜けの中で梁を省いているところもあるので、構造的にどうなのかはわからない。ただ、グリッドにとらわれず吹抜けを細く設けることによって、スポーツ施設としては破格の豊かさを持つホール空間が実現されている。TACの課題3答案例、プール縦型の3階で似たような吹抜け回廊が出ていたが、これにはかなわないと驚いたアイデアだ。

吹抜けに光庭を組み合わせる超絶技巧

断面図をよく見て気づいた衝撃の事実。なんとホール吹抜けの一部が2階で光庭となっている。課題条件の3層吹抜けを満たしつつ、一部は屋外化することによって、採光・通風をマックスレベルに高めようという工夫だ。

1階のここに更衣室がはみ出ているので、左の吹抜けをそのままの幅では拡張できない。中央部分に小さめのトップライトを入れて、2階より上はライトコートで屋外化してしまうという発想に、開いた口がふさがらない。

適用されている技術が高すぎて、一受験生としては真似するとか参考にできるというレベルでない。各要求室も指定の面積に収まっているし、各階にトイレも十分、管理用エレベーターもしっかりある。3階のコンセプトルーム内に什器の書き込みがあるが、ちょっと字が小さくて読めない。

2~3階は階段・EVホールから吹抜け回廊を通して各部屋が見渡せ、動線も最短でアクセス可能。プール右寄せして各部屋左に固めたおかげか、二方向避難の歩行距離も短く重複も問題なし。プールの上に部屋があるので、採光用のトップライトを計画できない以外は、非の打ちどころのない答案に思われる。

今年見た中ではベスト解答か

1階プールでもさすがにここまで作り込めば、有無を言わさず合格できそうだ。このプール下断面で地下水位もクリアしているとすれば、構造・設備的な懸念は地下ピット越しの配管くらい。プランニングの明快さに比べれば、痛くもかゆくもない微々たる減点だろう。

日建学院の4エントランス案と合わせて、今年見た中では三本の指に入るベストプラン。12月に公開予定の標準解答例なんかより、ずっとクオリティーが高いのではないかと思わせるくらいの説得力がある。

ここまで実力の差を見せつけられると、もう何も言えない。惜しげもなくノウハウを公開している独習合格テキストを見れば上達できるのだろうか。今度本屋に寄ったら、もっとしっかり立ち読みしてみたいと思う。