一級建築士製図試験後~総合資格の総評をレビュー、驚きの3面出入口

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10月に入ってから酒を断ち、脳に糖分補給するため甘酒しか飲んでいなかった。日曜の試験終了後から48時間酔っ払いどおし。一介の受験生が「総評」とかふざけたことをほざいているが、試験後の余興だと思って大目に見てやってください。

自分のプランは棚に上げて、日建やTACの答案例をこき下ろしているが、どちらかというとネガティブキャンペーンより宣伝に寄与していると思う。ブラックボックスな製図試験で、これだけ本試験に似た課題を打ち出してくる手腕は実際すごい。自分も両校の課題を見せてもらわなければ、今年はここまで善戦できなかった。

試験までは手元の課題でいっぱいいっぱい。総合資格にはとても手が回らなかった。ようやく同校の総評にも目を通せたので、恐縮ながらレビューさせていただこう。

総合資格の動画は日建より上出来

総合資格のウェブサイトに、日建学院とよく似た感じで製図試験の総評が出ている。日建は能書きだけだが、こちらは親切にも模範解答らしき全体構成図と立体構成図が公開されている。

どちらもネクタイ姿の講師がニュース番組風にポイント解説を行うあたりは、ライバル意識むき出し。スタジオのセットは総合資格の方がお金がかかっていそうだが、よく見るとCG合成だ。

日建の方は、屋外プールの老朽化を「ろうちくか」と誤読したまま公開してしまっているので、編集の予算もケチっていそう。このあたりが受講料の差に反映されているのだろう。

日建の動画は節目節目で唐突にフェードアウトするので、単にポイント説明会に呼び込むための撒き餌にすぎないようだ。9分視聴しても、具体的なプランのたぐいは出てこないのでがっかり。見る価値はない。

総合資格の動画に出てくる全体構成は、3層のアクソメで書かれていてわかりやすい。桜のイラストも、それっぽくていい雰囲気。時間も14分と長く、あらゆる面で日建より格上な印象を与えている。

驚異のトリプルアクセス

総合資格の答案例を見ると、プールは穏当に2階設置だが、エントランスは何と南北西に3方向開かれている。1階東側も共用部のロビーとなっているので、もしかすると実際の解答ではまさかの東西南北4面エントランスなのかもしれない。

課題の問われ方からすると、一体使用のために北と西のエントランスは欠かせない。北の全天候型スポーツ施設の出入口はよく見ると桜並木とカルチャーセンター側に向いているので、最優先は西側だ。北はどちらかというと、駐車場や駐輪場、バリアフリー用のアプローチと考えるべきだろう。

スクール課題の定石では、幅員が広い東側道路にメインアプローチを設けるべきだが、実は幅5mの南側歩行者専用道路の方が優先度は高い。旧小学校の正門が南側となっており、東は通用門に過ぎないからだ。

設けるべき利用者玄関の方向を優先順に整理すると、

  1. 西側:桜並木から各施設を一体使用
  2. 北側:駐車場・駐輪場へ
  3. 南側:旧正門側
  4. 東側:旧通用門

1は必須。2も必要。3~4はオプションだが、利便性を考えるとあればうれしい。総合資格は果敢にも第3の南側アプローチを追加している。

複数出入口のセキュリティー管理

出入口が3つあるので、必然的にエントランスホールはT字型になる。事務室は角に置かれているため、3つの風除室にそれなりに見通しが効く。

あまり話題になっていないが、今年の事前告知ではバリアフリー、省エネルギーに続いて、「セキュリティー」にも配慮すべしと書かれている。記述の防犯対策で、「受付から利用者の入退を管理できる」は常套句だ。

複数エントランスを設けるにあたっては、できるだけ廊下の通りよく、事務室受付から死角にならない位置がベターだろう。今年の記述でセキュリティーは不問だったので、「監視装置を設けた」など言い逃れることはできない。

総合資格の事務室コーナー配置はパーフェクトでないが、カウンターから首をひねれば、一応3方向とも見通せそうに見える。もし東のロビーに風除室を設けて4面エントランスなら、交差点中央にパノプティコン型の円形カウンターを設ければよいだろう。

4面入口と十字回廊中央に3層吹抜け

プールが2階なら、1階はここまで大胆にいじれる。もし2~3階に回廊を設けられるなら、交差点部分を3層吹き抜けにして、まわり階段で上下移動するのもありだ。もちろん併設のエレベーターは透け透けのシースルー。

総合資格の構成図を見ていると、そんなプランも可能だったのではないかと妄想が膨らむ。プールや多目的スポーツ室の面積を削ってでも、理想の十字廊下と吹抜けらせん階段を実現してみたい。

一方、このポンチ絵はあくまで概略図のようで、コンセプトルームやダンススタジオが100㎡のわりにはずいぶん小さく見える。実際には右側中央のロビーに、これらの要求室がはみ出てしまう。機械室も狭いので、とてもプール用の給湯・浄化設備が収まるとは思えない。

管理動線を分断してでも複数エントランス

構成図を見ていて興味深いのは、水色部分の管理ゾーン2つと青色のサービス階段が、共用部のエントランスホールで完全分離されている点だ。製図試験の一般常識で考えると、「動線交錯」のもっともいけないパターンに見える。

今回、管理諸室は機械室以外、事務室・救護室しか要求されているので、1階に集約してしまうことも可能。このプランだと、一見2~3階に管理階段は必要なさそうに思われるが、青い方の直通階段は2方向避難のためだろうか。

自分もプール2階配置なら、3~4方向エントランスを検討したかもしれない。ただし、総合資格のプランを見ると、どうしても利用者廊下で管理動線が分断されてしまいそうだ。

「ゾーニングと動線の常識を崩して、本課題の至上命題、一体使用と複数エントランスを優先させるか?」年に一度の製図試験においては相当シビアな決断だ。

プール用の空調室は、何も同一階に置いてDSを立ち上げるだけではない。こうして上階からDSを下すのもありなんだと知った。さすが大手校の解答例は手が込んでいる。

断面図は予想通り独立基礎

断面図は基礎底面GLマイナス2mの独立基礎で、地下水位と砂礫層の深さからすると模範的な解答に見える。自分もプール2階だったら基礎はこうしただろう。

プール1階設置の不利な点は、プールサイド下の配管ピットに接続するため、隣接機械室もベタ基礎・地下ピットが必要な点だ。今回、断面図の切断位置に機械室は含まなかったので、実はプール以外も独立基礎で表現することはできた。ただし、建物全体が独立基礎(機械室からの配管無視)と誤解される懸念をふまえ、あえてベタ基礎で表現した。

これは後付けの理由。昨年の標準解答例が複数基礎形式の合成案だったので、独立もベタ基礎も混ぜた方がいいと直感的に考えただけだ。ベタ基礎の方が一気に横線を引けるので、若干作図時間も短くできそうに思った。

総合資格の構成図・断面図は、ディティールの表現がないのでいまいち不明瞭だが、構想通りに収まっていれば文句なくランク1だろう。優等生的な模範解答なだけでなく、3方向エントランスというクリエイティブな一面まで含んでいる。

解答例の出し方にも各校の特徴が見える

さすが王者の総合資格。常勝校の貫録を見せつけられた感じだ。パンフに書いてある「合格者占有率No.1、実績日本一」の自負はハッタリでない。

日建学院の製図試験パンフレット

TACは試験当日に答案アップしてきた心意気は買いたいが、中身はそれなり。良心的な費用に見合った、妥当なサービス内容といえる。

日建はおそらく昨年同様、ウェブでは答案公開しないのだろう。電話番号入力必須のフォームから答案集のダウンロードを申し込むと、営業活動に対応するのが面倒くさい。相変わらず何を考えているのかわからない、サプライズ狙いの奇行種だ。