文具マニアが一級建築士の製図試験で選んだ究極のシャープペンシル


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あまりお金のかからない趣味として、筆記具を集めるのが好きだ。国内製品であれば装飾性の高い万年筆は別として、シャーペン・ボールペンなど千円以下で手に入る。愛読雑誌は建築専門誌よりも『趣味の文具箱』。

一級建築士の製図試験という一世一代の大勝負にそなえて、8月からひたすら文具の研究を続けてきた。字がきれいに書けるシャーペン線を濃く引けるシャーペン、記述で1時間書き続けても手が疲れないシャーペンなど。

もはや製図板に向かって練習するより、文具店を巡回して商品を物色している時間の方が長かったといえる。検討と熟考を重ねて2回目の製図試験で採用した、究極のシャープペンシルと替え芯を紹介しよう。まずは作図に適した芯の太さと濃さに関する考察から。

シャーペン芯の濃さと硬さについて

昨年は0.7mm、2B芯の製図用シャーペン1本で全作業をこなした。ぺんてるのグラフ1000 FOR PRO…長年愛用したステッドラー925とまったく違い、軽くてしっとりした書き心地の虜になった。

歳をとって筆記具の好みも変わったのだろう。若い頃は金属製で硬質なステッドラーの方が、筆圧にダイレクトに反応して気持ちよかったと思う。今は多少のクッション性があって疲れにくい、樹脂製グラフ1000の方が手になじむ。

今年もしばらくはグラフ1000の0.7mmで作図の練習をしていたが、他にも良質な消しゴム付きのモノグラフや、自動回転や芯折れ防止機能が付いた最新製品をいろいろ試してみた。

「図面はとにかく濃く書け」という先輩の助言にしたがい、芯の濃さ2Bまでしかない0.7mmでなく、4B芯のある0.5mmを使ってみたりした。確かに線は濃くなり、代わりに懸念された図面の汚れもさほど気にならない。

製図試験、図面のサンプル

4B芯

数枚作図してみて案外いけそうに思われたが、3B、2Bと少しずつ硬度を上げていくと、筆記中の快適さが不思議と改善されることに気づいた。

4B芯は柔らかいので、ちょっと筆圧をかけるとすぐに砕けて、マキビシのように危険なかけらが飛び散ってしまう。これを毎回ブラシで払いのけるが結構ストレスだった。

柔らか芯で筆圧をゆるめて書く感触は、シャープペンシルというより万年筆に近い。たいして圧力をかけずに自然と出てくるインクを、紙の上に丁寧に乗せていく感じだ。ペン先で紙に刻むというより、「芯をこすりつける」いう表現が近い。

4Bくらい柔らかいと、0.5mmでも筆圧によって線の太さやむらを表現できる。強度的に耐えられる筆圧に限界はあるが、慣れれば絵筆で描いているような感触すら楽しめる。

濃すぎる芯のデメリット

4B、3Bと試して、試験本番では結局2Bに落ち着いた。3とか4は製図試験のランクをイメージさせるのが不吉だ。2もギリギリアウトだが、B芯をランク1と呼ぶわけでもないので、そのあたりは妥協した。

硬い芯だとその分、安心して筆圧をかけられるので、黒鉛成分の不足を筆圧で補える。ペン先を紙にこするより刻み付ける方式になるので、エッジが立ったソリッドな線を引けて作図に向いている。

3B以上の芯でねっとり引いた濃い線にも見どころはある。一見コントラストが強くてインパクトはあるが、目を近づけて観察すると境界がぼやけて見えるところがある。また、B~2Bで描いた図面に比べて極端に濃いため、インパクトはあるがぶっきら棒でがさつな印象を受ける。

製図試験、図面のサンプル

4B芯

建築図面としては、視認性の良いほどほどの濃さで、精密に書き込まれたものの方が、知的でテクニカルな印象を与える。飛び切り目立つ特濃図面のつかみはOKだが、細かく見ているとギトギトして目が疲れる。

製図試験、図面のサンプル

2B芯

仮説としては、主張の激しい脂ぎった3B~4B芯より、物静かにスキルをアピールできるB~2B芯の方が試験向きでないかと思う。図面は濃ければ濃いほどよいのではなく、適度な濃さで見やすいのがベストだ。

芯の太さは開口部の両端薄線をシャープに表現するため、0.7より0.5mmが推奨。当人の筆圧にもよるが、硬度はB~2Bで十分だと思う。

本体と芯のメーカーを揃える意味

シャーペン芯の製品としては、外側が柔らかいクルトガ専用芯がよさそうに思われたが、使ってみてたいした変化は感じられなかった。ステッドラーの芯は使い慣れていて、売り場やパッケージから「製図用」というニュアンスが漂う。

各社の0.5mm、2B芯を使い比べてみて、ぺんてるのシュタイン芯がほんの少し濃く書ける気がした。平均的な硬度基準で表現すると、2.5Bくらいな気がする。たまたま本番用に採用したシャーペンもぺんてるのグラフギアだったので、同メーカーでそろえるという意味で昨年同様アインシュタインを選んだ。

国内製品であれば、同規格のシャーペンにどのメーカーの芯を入れても、さほど使用感に違いは出ないと思う。設計思想の異なるクルトガ芯をグラフ1000に入れても、がたつきや芯が詰まるたぐいのトラブルは出なかった。

ただし一般的には、メーカーの開発段階で自社製の芯が使われているので、本体も芯も同じブランドでそろえた方が相性はいいといわれる。気分的なものだと思うが、芯の品質と価格はどこも似たようなもの。結局「どれでもよいなら」ということで、ぺんてる同士を選んだ。

作図用はグラフ1000 FOR PROに回帰

大き目の消しゴムが便利な0.5mmのモノグラフで2週間ほど作図していたが、腕が上がるにつれて消しゴムを使う頻度が減ると気づいた。作図中、いかに消しゴムを使わずに済ませるかというのが、スピード短縮の秘訣ともいわれる。

たまに以前のグラフ1000、0.7mmに持ち替えてみると、芯の太さだけではない不思議な安定感を感じた。ぺんてるの公式サイトで紹介されているfor Proの特徴を読むと、やはり製図専用として事務用シャーペンより丁寧につくりこまれているのだろう。

トンボのモノグラフもペン先まわりがセットバックした製図仕様で、値段のわりには十分実用に耐えうる良製品だと思っていた。ただし、お尻の消しゴムを頻繁に使う必要がなくなれば、使い慣れた細めの製図用シャーペンの方が手になじむ。

製図に使える太軸シャーペンというのも貴重なので、最終的にモノグラフの方が気に入る人もいると思う。ローレット仕様のモノグラフは、消しゴムが細い精密タイプでない方が、かえって実用的だろう。

モノグラフは用途に応じて太さの違う消しゴムをアタッチできるプロ用バージョンなどラインナップに加えれば、さらに人気が高まると思う。オレンズネロみたいに3千円しても、背に腹かえられない製図受験生には飛ぶように売れるだろう。

グラフ1000のリミテッドカラー

グラフ1000の0.5mmも買い足したいと思ったら、運良く限定カラー、シルバーの在庫品を入手することができた。中身が無印1000なのかfor Proなのか不明だったが、届いてみると後者の色違いで間違いなかったようだ。

若干プレミアムな価格だったが、既存の黒い0.7mmとは色違いで見分けやすいのがよい。リミテッドカラーの製品群は0.5mmでしか展開されていないので、追加で買うのにちょうど都合がよかった。

製図用シャーペン

胴軸には通常版より太い角張った書体で、FOR PROの代わりにLIMITEDと印刷されている。型番はPG1005。

GRAPH 1000 LIMITED

塗装は光沢の少ない控えめなサテン仕上げのマットシルバー。材質はプラスチックだが、なかなか渋くて高級感のある塗装だ。MacBookなんかと並べて一体的に使用すると、統一感が出てよさそうなカラーリングに見える。

一方、消しゴムキャップの部分はちょっと明るく、安っぽいグレーに塗られてしまっているのが残念。スティーブ・ジョブズなら多少販売価格を上げてでも、こんな目立つパーツで妥協はしなかっただろう。

GRAPH 1000 LIMITED

グラフ1000はほかにもロフトやハンズ限定、金銀よりどりみどりのリミテッドカラーが出回っている。これまでブラック~シルバーが主流だった製図シャーペンとしては、なかなか挑戦的なカラーリングだ。特にゴールデンフリーザみたいな金色に紺色の組み合わせは強烈すぎる。

艶消しブラックでプロ用品ぽかったグラフ1000のカラバリが、いつの間にか10種類くらい増えていて感慨深い。中にはステッドラーのアバンギャルドみたいな、パステルカラーの海外限定品まで出回っている。

ゴム製グリップのメリット

グラフ1000は総じてグリップ部分がゴム製で柔らかく、指の皮を厚くしたくない女子にも向いている。ステッドラーのヤスリのようなローレット加工もは滑り止め効果抜群だが、中指の関節が硬化して皮膚癌になりそうだ。さらに数年分の手あかが擦りこまれていて、雑菌がうようよいそうに見える。

GRAPH 1000 LIMITED

ぺんてるのグラフシリーズから1本選ぶとしたら、デザイン的にはやはりFOR PRO一択。低重心にこだわるなら金属パーツの多い無印1000やCSもありだが、金属ローレットに丸い突起がついている見た目がナメック星人の四肢を連想させて、生理的に受け入れられない。

また、限定版でも相変わらず芯硬度の表示窓がB~3Hしかないのは不便だ。製図用シャーペンに3Bとか4Bを入れる自分がマイナーなのかもしれないが、仕方なくHの部分をBと読み替えて使っている。あれこれ芯を入れ替えながらテストしていると、表示窓のありがたみがよくわかってきた。

エスキースと記述は非製図ペン推奨

エスキース中は消しゴムを多用するので、予定通りモノグラフの方で臨んだ。チビコマ段階から無駄にプランのバリエーションを量産せず、消しながら考える方式に切り替えたので、回転繰り出し消しゴムが大活躍だった。

記述は「字がきれいに書ける」と噂のクルトガ0.5mmに専用2B芯で挑戦。結局今年も手が震えたので、練習は全然役に立たなかったが、回転機構のおかげで線の太さは均一になったと思う。

クルトガは原理的にペン先がぐらぐらする宿命なので、いったん製図シャーペンに持ち替えてみたが線のぶれは改善されなかった。著しい手の痙攣は、小手先の道具でカバーできるものではなさそうだ。製図試験に打ち込み過ぎて、いろんな意味で病気かもしれない。

一方、作図の中盤にさしかかって「今年は時間が余る」とわかってくると、自然と手先の震えも収まってきた。思い切って記述を作図の後に持ってくれば、落ち着いてきれいな字を書けたかもしれない。ただ、万が一作図時間が予定より延びてしまうと、もっと焦って記述に取り組む羽目になるので、これも得策とも思えない。

植栽を鉛筆で塗る

シャーペンとは別に、最後に時間が余れば植栽を薄塗りしようと、2Hくらいの硬めの鉛筆も用意していた。たっぷり練習したが、全体を均一にまんべんなく塗るには、さすがに数分かかる。

鉛筆で植栽を塗る

今年の本番で使う暇がなかったのは残念だ。外構タイルに点々を打つよりは短時間で済み、飛躍的に見栄えを向上できるテクニックだと思う。

そして3本が残った

以上をまとめると、2年目の製図試験本番で採用したのは次のシャーペンと芯の組み合わせ。

製図試験用のシャーペン

  • エスキース:モノグラフ・グリップモデル+モノグラフMG芯0.5mm硬度B
  • 記述:クルトガ・アドバンス+クルトガ専用芯0.5mm硬度2B
  • 作図:グラフ1000 FOR PRO(限定色)+シュタイン芯0.5mm硬度2B

筆記具の好みは個人差が大きいと思うので、ご参考までに。みなさんも自分なりのベストなセッティングを探して、しあわせな製図ライフをお送りください。