クロスコリドーで挑む、一級製図「スポーツ施設」プール1階縦置き案

デザインパターン2「クロスコリドー」を用いた平成30年度製図試験「スポーツ施設」の解答案を提案したい。今となってはもうプールは3階でも4階でもよいが、いちおう難易度が高そうな1階プール、今度は縦置きで挑戦してみる。

前回のシングルコア適用案に比べると、サンプルとして「廊下の通り」を最優先したため、いくつかの部屋の面積が要求値を下回ってしまった。建築面積は同程度なので、単純にコアが2つに増えたのと、過剰な廊下で圧迫されたのが原因と思う。

もちろんクロスコリドーとシングルコアを併用して、1コマ分の面積を浮かせることも可能だ。今回は提案手法の有効性を確認するため、通常の利用者/管理者2コアで計画してみた。

クロスコリドーによるスポーツ施設の解答例

1階平面図

クロスコリドーによるスポーツ施設の解答例

2階平面図

クロスコリドーによるスポーツ施設の解答例

3階平面図

スパン割りと外構

いつもどおり7×7mの均等グリッドを設定したが、2階の多目的スポーツ室やダンススタジオが狭くなりすぎると気づいた。すでに建蔽率いっぱいなので、これ以上スパンは増やせない。妥協策として、北西の切欠き面積を増やして、その分中央の1スパンだけ8mに延ばした。

西と北の避難通路は幅2m確保。ただ、機械室が北向きになってしまったので、煙突が図面上、通路をふさいでいるように見えるのが気になる。実際は壁の上の方から出てくるので、支障ないだろうか。

今回はカフェを南西のベストビュースポットに配置して、桜並木と南の公園の眺望を両方楽しめるようにした。厨房が直接外部から出入りできなくなってしまったので、食材の搬入経路が気になるところだ。

面積チェック

スパン割りが決まったら、とにかく先に面積をチェックしよう。

建築面積

43×28-49(切り欠き)=1,155㎡(建蔽率70%、1,164.8㎡以下でOK)

床面積

  • 1階:43×28-49(切り欠き)=1,155
  • 2階:43×28-49(切り欠き)-16(吹抜け)-392(プール上部)=747
  • 3階:43×28-49(切り欠き)-16(吹抜け)-392(プール上部)-189(多目的上部)=558
    合計:2,450㎡(2,300~2,800㎡でOK)

今回の2~3階は東側2スパンがプールで埋まっている分、西側に各部屋が寄ったので避難距離は大丈夫だと思う。屋外階段は設けず切欠きも大きくしたので、東西スパン1m増やしても建蔽率はぎりぎり70%を下回った。

3方向エントランスを実現

1階プール縦置きのため、十字廊下の東側がふさがれてエントランスを設けることができなかった。それ以外は西北南の3方向に利用者用の出入口を確保している。

廊下幅を3mに統一し、風除室のサイズも3×3mにそろえたため、エントランスが若干窮屈に感じる。見た目はガタガタするが、風除室だけ幅4mに拡大してもよかったかもしれない。

参考事例として、谷口吉生設計の法隆寺宝物館にあるエントランスが、だいたい3×3mくらいの風除室だった。水が張られた広い池を、わざわざ時間たっぷり迂回させて来館者をいざなうアプローチ。天井が高く開放的なエントランスホールと対照的に、なぜか風除室は2方向から横入りの極小空間。

法隆寺宝物館のエントランス風除室

茶室の躙り口みたいな仕掛けを、バリアフリー寸法ぎりぎりで表現した感じなのだろうか。日本建築学会賞の風除室が3×3mなのだから、このサイズで減点されることはないと思う。

管理ゾーンは主に第2象限に計画して、グリッドの切欠き部分にサービス用のエントランスを設けた。西側の桜通りに面しているが、ちょうど凹んだ部分にあるので利用者エントランスからは見えにくく、動線もかぶりにくいだろう。北の駐車場と桜並木への出入りを考え、2方向に外部通路を設けた。

1階プールなので、念のためプールサイドから直接外に出られる非常口を設けてある。実はこの扉が東向きなので、日建学院のファンタスティック・フォーにはかなわないが、3.5個くらい出入口が存在するといえるかもしれない。実はここが常に水着で過ごすプールファースト会員専用の特設エントランスになっていて、「玄関開けたら2秒でプール」の設立理念を順守している。

3つのエントランスそれぞれに上下履き替えゾーンを設けるのは煩雑に思われたので、今回は利用者階段・EV前に下足入れを設けてある。さすがに1階は手狭なので、ホールと呼べる広さの空間を確保できなかった。

代わりに廊下の中央部分に面して上部吹抜けの履き替えゾーンを設け、さらに券売機の設置場所も若干セットバックさせた。何とかして少しでも交差点に開放感をもたらせるよう、努力した。

階構成はほぼ前回と同じ

本来は1階配置が望ましいコンセプトルームを3階に退避したのは、前回のシングルコア案と同じ。面積的に、キッズ用プレイルームやダンススタジオの階を入れ替えたりした。

基本的には2~3階をプール以外の健康増進部門に割り当てて、更衣室Bから各利用室への動線短縮を図っている。やはり今年の課題はプールと更衣室Aを1階にまとめた方が、階別ゾーニングを明快に説明できると思う。

吹抜けのサイズは前回と同じ4×4mで、またもやグリッドの隅に寄ってしまったので構造上の不安が残る。プールを縦にした以外はほぼシングルコアプランと同じなので、階高も4+4+4+αの最小で済む。切欠きをきっちりグリッド1コマにしたため、前回の中途半端なカフェ切欠きより構造的にはましだろう。

1階の面積が厳しいため、またもや管理用エレベーターを計画できなかったのが心残りだ。サービス用ならせいぜい2×2.5mのサイズで済むはずなので、事務室やトイレを削って追加することは可能だと思う。

1階は動線分断より廊下を優先

東側はプールが突き当りになってしまうが、クロスコリドーに従って縦横の廊下を優先的に確保している。事務室も角地に置いて、可能な限り各エントランスの出入りを見張れるようにした。利用者階段とエレベーターの入口も事務室側に向けている。

相変わらず利用者のトイレが狭いのは気になるが、極力スタッフ用のトイレも男女それぞれ各階に設けた。要求室のひとつである器具庫の置き場がなかったので、立場が曖昧だがプールサイドに隣接させて、廊下からも出入りできるようにした。

プールの見学コーナーは正直味気ない。機械室と便所に囲まれた薄暗いタコ壺みたいになってしまった。本来は見学コーナーを南に拡大する方が見た目はいいが、廊下の通りを最優先してプールに直接出入り(プール側からも避難)できるようにした。

クロスコリドーの問題は、管理ゾーンが2象限にまたがる場合、廊下でサービス動線が分断されてしまう点だ。事務室から従業員用の便所、救護室や機械室に行くには、廊下を通らないといけない。

この動線分断による減点が大きいなら、北側エントランスを潰して廊下を途中で閉じてしまうことも考えられる。普通の課題なら3つも出入口を設ける必要はないだろうから、1階は素直に2ブロック連結して管理部門にまとめてしまうのがスムーズだ。

今回はあくまで廊下の見栄えを優先して、動線の方を妥協した。北の駐車場・駐輪場は、西の桜並木に次いで優先度も高い。

一方、共用廊下を経由することにはなるが、監視員室にはプールを介さずに裏口から出入りできる。管理ゾーンから厨房への動線も比較的短い。

巨大すぎるプールを敷地の隅に追いやることで、ほかの部分が整形でコンパクトにまとまるのが、プール縦置きの売りだ。今年の試験で多くの受験生が、縦横どちらも可能ならまずは縦型で考える作戦だっただろう。

2階は廊下を潰して面積調整可能

クロスコリドーのコンセプトどおり、1階で計画した十字廊下をそのまま2・3階に持ち上げた。廊下のXY座標は、プールに次ぐ面積でかつ2層吹抜けになる多目的スポーツ室をもとに決定した。

2・3階とも、階段とエレベーターの出入口に吹抜けを隣接させて、少しだけホールっぽい空間を演出している。クロスコリドーで吹抜けを設けるなら、中央の交差点に近い部分が採光上も有利だと思う。階段裏のダンススタジオはややいびつな形になってしまったので、鏡は2面に配置した。

廊下で面積を圧迫された分、スタジオと多目的室の面積が規定より狭くなってしまった。対策として、これらの壁を廊下側に張り出して部屋を拡張すればクリアできる。凸部分が使いにくければ、収納や倉庫にしてごまかすこともできる。今回のスポーツ室なら併設の空調機械室を廊下側に追い出すのが正しいだろう。

1階はエントランスの問題があるが、2~3階の廊下を外壁まで通して得られるメリットは自然採光と通風だけ。部屋の面積をそろえる方が重要なら、適宜廊下を潰して調整できる。

逆にスペースが余れば、廊下の端部を膨らまして、眺望がよい方向へ休憩ラウンジのようなコーナーをつくるのもありだろう。死角になるので保安上の不安は残るが、空間の豊かさはアピールできる。

廊下の端部をバッファーとして、適宜面積調整に使えるのもクロスコリドーの特徴といえる。結果的に十字廊下の2~3本しか残らなかったとしても、常に廊下はまっすぐ通っているので、見た目の整合性は損なわれないはずだ。

3階のコンセプトはブートキャンプ

トレーニングルームをインストラクター更衣室で切り欠いて面積調整したため、こちらもいびつなL字型になってしまった。辺長比指定のある多目的室と違って、こちらはルームランナーや各種マシンを置く想定なので、多少形状が不整形でも構わないだろう。

コンセプトルームの趣旨は、老若男女で懐かしのビリーズブートキャンプを楽しめる部屋とした。今でも人気があるかどうか不明なので、3階の隅に追いやって正解だ。もし定期開催のレッスンに参加者が少ない場合は、ブートキャンプをやめてダンスやヨガのスタジオに転用できる。

企画が不発の場合は、第2ダンススタジオにリノベーションできるという、運営上の撤退計画まで配慮したコンセプトだ。そのため、位置とサイズは2階のスタジオとまったく同じにそろえた。逆に人気が出すぎたら、プール屋上の庭園を解放して、野外で開放的に汗を流すこともできる。

インストラクターのため、3階の管理ゾーンにも従業員用トイレを設けておいた。北西ブロックは2階と同配置なので、スムーズに作図できるはずだ。

総括

2番目のデザインパターンを実践してみると、クロスコリドーはあくまで理想形であって、崩した方がスマートに見える場面もあると気づいた。プールで廊下が一方向ふさがれるのは仕方ないとして、他の大部屋や管理動線でもう1本廊下を潰しても、たいした悪影響は出ない。

クロスコリドーは解法パターンが明快なおかげで、エスキース時間はシングルコアより短く済む。「常に廊下が通っている」という強力なポリシーのため、多少廊下をアレンジしても利点が損なわれないのが、このパターンのロバストでいいところだ。

もしプールを2階に上げて1階を広くとれるなら、4エントランスで廊下の交差点をラウンドアバウトにしてみたい。独立した受付カウンターを中央に設け、パノプティコン方式で不審者の入館を見張る。これもベンサムが発明した古典的デザインパターンの1つといえる。