一級製図試験に関連する『建築設計資料』スポーツ施設3冊レビュー

平成30年の一級建築士設計製図課題「スポーツ施設」に関連して、『建築設計資料』の関連書籍、No.2、25、41の3冊を調べてみた。

それぞれKindle版が出ているので、品切れを気にせずプレミア価格の古本を探す必要もなくなった。ただし3冊買いそろえると1万円を超える価格なので、余裕がなければ冒頭部分だけAmazonで立ち読みしても構わないだろう。

アマゾンの商品サイトで、上記の3冊は冒頭20ページくらいを無料で読める。後半の実例は規模が大きすぎたりしていまいち試験の参考にならない。前半の概論部分だけ、タダで見られればOKといえる。ただしプレビュー版は解像度が低く文字が読みにくい。

『建築設計資料』の要点と、概論を読んで思いついた点をメモしておこう。

体育館 No.2

タイトルが同じ「体育館」のNo.2と41は続き物で、重複個所もあるが意図的に内容が書き分けられている。

1983年出版のNo.2は、あまり建築と関係のない市民スポーツの文化を論じていて、下足/上足のゾーニング分類が詳しい。一方1993年出版のNo.41の方は、利用者・観客・管理動線の解説が詳しく、特にプールはドライゾーンとウェットゾーンのチャート図が参考になる。

No.2はわりとくだけた文体で、昨今の市民スポーツについて論じている。「見るスポーツからするスポーツへ」「スポーツもカラオケからオペラまで」「見る人、する人、見せる人、教える人」というキーワードは、記述の作文に役立つかもしれない。

ただし今回の3階建てスポーツ施設としては、体育館といっても観客用のアリーナ席までは要求されないだろう。

コミュニティづくりの観点から「ロッカー室での裸の付き合い、ふれあい、語り合い」という提案があり、なるほどと思った。古代ローマの公衆浴場と同じで、スポーツ施設の風呂やサウナは公共の社交場であるべきだろう。スポーツクラブのサウナ室でも、たいてい毎日同じ時間に来て談話している仲良しグループがいる。

そのほか試験に役立ちそうな解説としては、「器具庫の面積はアリーナの15±3%程度」くらいで。屋内プールの詳しい説明があるのは続編No.41の方なので、どちらか一冊購入するとしたら後者でいいだろう。No.2はさすがに出版年が古すぎる。

体育館 No.41

1993年のNo.41体育館はすでに25年前の資料だが、3冊の中では一番新しく、買うとしたらこの1冊だ。

No.2と同じく冒頭は民間スポーツクラブ/フィットネスクラブの流行について軽く触れ、「プール、エアロビスタジオ、トレーニングジム」が3種の神器であると説明されている。プールは事前に告知があったので確実として、残りの2つも要求される可能性は高いだろう。

今どきはエアロビというよりヨガやピラティスに使われると思うが、一面鏡張りの広い部屋はジムと別にあった方が便利だ。狭い市民体育館では、マシンスペースの余白でレッスンが行われることもある。エアロビのBGMは騒々しいので、部屋を分けるかガラスで仕切った方がいいと思う。

80~90年代に公共の温水プールが増えた理由として、「ゴミ焼却場建設に際して近隣住民を懐柔するため」という理由があったそうだ。隣地がゴミ処理場に設定されて、景観に配慮する必要があったり、コージェネレーションの設備を要求されたりする可能性はある。

もっとも隣の処理場から電力と温水が供給されるなら、施設側の機械室は逆に小規模で済むだろう。コージェネを受け入れるための必要設備は何か、念のため調べておきたい。

スポーツクラブ No.25

『建築設計資料』No.25の「スポーツクラブ」。冒頭部分はバブル期にできたらしい「スポーティングソサエティNo.1」という施設の解説だった。紹介されているプランや内観写真がゴージャスで、なかなか興味深い。

ロビー・ラウンジを起点として、ロッカー・浴室からプール・アスレチックルームにつながる一般利用者動線と別に、ミーティングルーム・レストラン・宿泊室と会員向けのプライベート動線が設けられている。

豪華なテーブルセットが用意されたミーティングルームに、マージャンルームが併設されている。暖炉とバーカウンター付きのメンバーズルームは、さながら高級クラブのようだ。当時は入会金や月会費で100万くらいしたのでなかろうか。

スカッシュコート

今年の課題であえて要求されるかわからないが、スカッシュコートの平面と断面図が載っている。「スカッシュ」という競技のイメージがわかないが、1987年の映画『ウォール街』に出てくるあれだろう。

映画史に残る悪のカリスマ、ゴードン・ゲッコーが主人公とのスカッシュ対決でも無敵ぶりをアピールする。振り返ってみると、この場面はバドが上手で、上司のゲッコーにわざと負けたのではないかと思う。『社長 島耕作』でも、接待ゴルフであえてミスして相手を立てるというシーンが出てくる。

映画の印象からすると、スカッシュはコミュニケーションが目的の、ゴルフに近い富裕層向け趣味という感じだ。国内の公営スポーツ施設でコートが設置されているところは見たことがない。

VIPより庶民向けの傾向

コナミの経営するスポーツクラブには、グランサイズという高級版がある。大手町と青山、どちらもビジネス街の一等地にあり、仕事帰りのワークアウトと上流階級の社交場を兼ねている。

グランサイズはロッカーが広くインテリアに高級感はあったが、さすがにスポーティングソサエティNo.1ほどの特殊設備は見かけなかった。最近はむしろ、パーソナルトレーニングなどソフト面のサービスで差別化を図っているのだろう。月会費もせいぜい2~3万なので、一般会員と桁が違うわけではない。

昨年のリゾートホテルがケチな極小客室だった傾向からすると、スポーツ施設もVIPより庶民向けの簡素でコンパクトな機能を求められそうに思う。きっとプールやジムだけでなく、3層分に複合機能を盛り込みまくった、ぎちぎちの要件で出題されることだろう。ゆとりのあるラウンジやレストランは実現できそうにない。

バレーボールに必要な天井高

No.41は体育館やプールの寸法、ディティールの解説が詳しい。バレーボールをするには12.5mの天井高が必要と、確か学科の計画でも覚えた気がする。プールに必要な階高はスラブの厚みも含めて6mで済みそうだが、バレーボール用の体育館には3層吹き抜けが必要に見える。

両者の組み合わせで出題されると、水平方向にはPC梁の大空間、垂直方向には3階分のバレーボールコートというダイナミックな空間構成になりそうだ。各部屋の配置が自動的に決まって来るので、大部屋が多い方がプランニングとしては楽かもしれない。

プールの採光は西面厳禁

プールに関しては「東西、特に西面からの採光を避ける」という説明があり、これが採点項目になる可能性がある。プールを設計するなら採光方向は重視したいポイントだ。

朝・夕方に水平な日差しが差し込んでくると、まぶしくて泳ぎにくいことがある。プールの底や天井に水面が反射してキラキラ光るのはきれいだが、エクササイズという本来の目的からすれば避けた方がよい。

むしろプールは無窓の地下にでもある方が、泳ぐのに適しているといえる。窓を設けるなら、少なくともルーバーや偏向ガラスブロックで直射光の侵入を防ぎたい。

プールサイドの形式は5種類

まさかそこまで課題で問われるとは思わないが、『建築設計資料』No.41に出ているプールサイドの断面ディティールが興味深い。

  1. スタンダード方式
  2. フィンランド方式
  3. 変形フィンランド方式
  4. ビーズバーデン方式
  5. ビーズバーデン高水面方式

の5種類が紹介されている。

昔からあってなじみ深いのは、プールの縁から一段下がったところに側溝があるスタンダード方式だろう。プールの中から唾や痰を吐くのに都合がよい。

フィンランド方式は消波効果があるということで、最近のプールではこれが主流な気がする。ほかの形式より凹凸も少なく、バリアフリーで転倒事故や足の突き指も防止できそうだ。

近所にあるプールを観察してみると、四方ともフィンランド方式で、短手方向は側溝との間に仮設のステップを設けた変形方式だった。ここが一段高くなって飛び込み台も兼ねている。

プールの断面構造

プールの底から壁が立ち上がる部分には、縦横100mm程度の面取りがあった。1/200図面で表現するとわずか0.5mmのディティールだが、プールの断面図で隅をちょっと丸めておけば、「よく勉強している」と評価されるかもしれない。

特殊訓練用のプール

『建築設計資料』ではプールの用途として、

  1. 競泳
  2. 飛び込み
  3. シンクロ
  4. 水球
  5. スキューバダイビング

という5種類が想定されている。

もし訓練系の用途を拡大するなら、Navy SEALsの基礎水中爆破訓練(BUD/S)にも対応できる、NASAの無重量環境訓練施設並み大規模プールがあってもよさそうだ。

海上保安庁で全国36人しかいないエリート特殊救難隊。横浜にある海上防災基地の訓練用プールでは、4km/hの速さの水流を発生できるという。ここで手を使わず、足だけで10分泳ぎ続けるという過酷な訓練が行われている。

近い未来に民間の宇宙旅行サービスが実現したら、市民プールで無重力体験というニーズが出てくるかもしれない。あるいはプールに浮かびながらVR体験という娯楽用途もすでに出てきている。コンセプトプールが問われたら、こういう訓練系やエンタメ方向に振るのもありだろう。東京の足立区にあるTOKYO POOL LABOはネタの宝庫だ。

LGBT対応の多目的更衣室

今年の課題予想について知人とディスカッションしていて、「流行りのテーマとしてはLGBTも狙われるのでは?」と話題になった。トイレは車椅子やオストメイト用の多目的トイレが使えるからいいとしても、個数を増やす必要があるだろう。

悩ましいのは更衣室で、ジェンダーフリーの更衣室というのは公共でも民間施設でも見たことがない。LGBTではなく、フェミニズムとか男女平等・共同参画の文脈で「男女同室着替え」が議論されることはあるが、学校でもスポーツ施設でも推奨されているとは聞いたことはない。

解決策としては、車椅子使用者用のバリアフリー更衣室のような感じで、多目的更衣室のブースを増やせばよいのだろうか。余力があれば海外も含めて実例が存在するかチェックしておきたい。