製図試験に向けて面積区画と竪穴区画を整理したので、「延焼のおそれのある部分」もおさらいしてみる。
平成30年の課題発表では(注3)の冒頭に明記されている延焼ライン。先日の二級試験でも出たとのことなので、10月の一級試験でも出る可能性大。ほかの防火区画に比べれば覚えることは少ないが、対策は必須だ。
延焼ラインの計測基点と距離
延焼ラインの建築基準法における該当部分は第2条六号。試験に関係ありそうな部分を要約すると、
隣地境界線(公園などは除く)または道路中心線から、1階は3m以下、2階以上は5m以下
延焼ラインの距離は「以下」なので、ぴったりの線上にある開口部は防火設備が必要だ。
計測の起点である隣地境界線は、相手側が防火上有効な公園・広場・川などだと免除される。課題が市街地の敷地だと公園に面している場合が多いので、そこからの延焼ライン計測は必要ない。また、境界に耐火構造の壁がある場合も除外される。
また、道路中心線は10m超の幅員道路ならどの階も影響はない。過去問を調べたところ、敷地が二方向で道路に面している場合も、狭い方で幅8m程度。
万が一、幅8m道路から1mぴったりの距離に壁をつくったら、2~3階は道路中心線から5mの延焼ラインに触れることになる。ただ、通常は敷地内の避難経路を確保するため、境界から2~3mの空きを取ると思う。
余白2m未満というのは避難の面で減点されるか、建蔽率・容積率オーバーのおそれもあるので、基本的にやらない方がいい。仮に幅8mの道路でヘリ空き2m以上設けたら、道路中心線からの距離を計算してどの階にも延焼対策の防火設備は不要になる。
過去問の遊歩道は道路か?
悩ましいのは敷地が狭い遊歩道に接する場合だ。例えば平成22年「小都市に建つ美術館」では幅4m、平成16年「ものつくり体験施設」にいたっては3mしかない遊歩道に接している。
法42条の定義によれば、幅員4mに満たない道は道路でない。ただ、ものつくりの3m遊歩道が、法適用以前から存在する2項道路に該当するかどうかは、課題文に明記されていない。町家が立ち並ぶ旧街道沿いの敷地なので、みなし道路である可能性も高そうだ。
一方、平成26年「道の駅」も含めて、どの課題でも狭い道路や遊歩道の先は河川敷・川・渓流になっている。これらは隣地境界から除外されるはずだが、間に道路を含む場合は道路中心線から計算する必要があるのだろうか。
試験での引っ掛けポイント
試験で妙に狭い道路が出てきたら要注意だ。あるいは隣地に建物があっても、耐火構造の擁壁など存在ないかは要チェック。隣地が駐車場だと迷うところだが、燃えやすい車が置いてある場所が防火上有効とは思えないので、延焼ラインからの除外はありえないだろう。
また、一般的に延焼ラインを考慮する必要があるのは、
- 準防火地域か防火地域
- 準耐火建築物か耐火建築物
のどちらかに当てはまる場合に限られるとわかった。試験ではまずRC造の耐火建築物なので該当するが、あえて敷地が(準)防火地域でないと出題して、揺さぶりをかけてくるおそれもある。
隣地境界に「うだつ」はありなのか?
試験で求められる延焼ラインの表記方法として、今のところ以下の2パターンが想定される。
- 隣地境界/道路中心線から3m or 5mの位置に点線を書く
- 延焼ゾーン内の外壁開口部の前に点線を書く
後者のケースだと、2~3階で延焼ラインに深く踏み込んでいる場合、隣地に接する面以外のコーナー部分に表記を忘れやすい。プール室やトレーニング室でガラス窓が連続する場合、延焼部分にかかるコーナーだけRC壁にしておくのもありだ。延焼ラインを意識している感じで試験官への印象はよさそうだが、図面の書き分けは面倒くさい。
もし試験終了間際に延焼ラインの書き漏れに気づいたら、隣地境界に極太の線を引いて、「防火壁」とか「うだつ」と書いておくのはどうだろう。施行令109条2項の免除要件により、開口部との間を遮る防火設備とみなしてもらえる可能性がある。
むしろこれがOKなら、延焼ラインの表記はすべて省略できるといえる。ただ、3階の高さまである防火壁というのも変だし、構造的には控え壁も必要だろう。しかも通風・採光の面ではアンチパッシブなデザインなので、大幅減点されるおそれがある。
防火設備の詳しい記述解答例
噂によると、9月9日に行われた二級建築士の製図試験で、一足先に延焼ラインと防火区画の表記が求められたらしい。TACのブログで公開されている答案例を見ると、玄関ホールや階段室・エレベーターの扉に例のマル防マークが書いてある。延焼ラインは1階3m、2~3階5m位置の点線表記だ。
二級の試験で出題されたくらいだから、今年の一級製図は課題の注意書き通り、何かしらのかたちで防火区画と延焼ラインの記載が求められると思う。特定防火設備の区別だけでなく、素材や作り方まで突っ込んで問われるかもしれない。
(記述の想定問題と解答例)
Q 採用した防火設備の種類及び構造について
A 延焼のおそれのある部分にある外壁開口部については、建築基準法第2条9号二ロの防火設備として網入りガラスを採用した。プール室の開口部に関しては。建築基準法施行令第112条1項の特定防火設備として、厚さ1.5mmの鉄板を用いた防火シャッターを配置した。
このくらいはすらすら書けるように暗記しておけば安心だ。延焼ラインの開口部にすべてシャッターというのも大げさだから、現実的には網入りガラスで済ませるのだろう。
鉄製の防火設備なら、厚さはマル防で0,8mm以上、マル特防で1.5mm以上が境になる。年配の建築家に聞くと、甲種・乙種という昔の区分においても、この厚さは暗記事項だったらしい。防火区画・設備の知識は実務で必須なようなので、この機会に覚えておいて損はない。
いまどきのプールは足洗槽でなくシャワー
昔のプールには、たいてい足か腰までつかる深さの消毒用水槽があった。最近の市民プールではまったく見ないのだが、何十年か経って日本人の下半身がきれいになったということだろうか。
興味を持って調べてみたところ、例の腰洗い槽は消毒液の濃度が高いわりに、たいした除菌効果がないと明らかになったらしい。むしろ傷口にしみるし、股間に住み着く善玉菌まで除菌されてしまうおそれがある。技術の進化でプール自体の殺菌効率が高まった結果、消毒の儀式は徐々にすたれて、シャワーで洗い流すだけの運用に切り替わりつつあるようだ。
日建の答案例には足洗槽が書いてあるが、もし車椅子使用者用の更衣室を男女別に分けて通常用のと兼ねる場合、段差の処理は気になるところだ。塩素で車椅子が錆びないかも気になる。もし要求室の特記事項に書かれていなければ、足洗槽ではなくシャワーと書いておいた方が適切に思われる。
プールのシャワーとドレンチャーを兼ねる案
更衣室とプールの間にシャワーを設けてみて気づいたのだが、これはまさに防火設備でなかろうか。プール室を竪穴区画するという意味なら、令109条の「防火戸、ドレンチャーその他火炎を遮る設備」で足りる。シャワースペースの手前に防火戸やマル防マークを書くと、線が重なって図面がごちゃごちゃするのも気になる。
ドレンチャーという聞きなれない用語を画像検索してみると、まさに気持ちよさそうなシャワーそのものだ。下から水を吹き上げるタイプのドレンチャーをシャワーと併用すれば、足回りの汚れも効果的に落とせる。
もしプールの防火区画について記述で問われたら、「プール室の出入口は防火設備のドレンチャーで竪穴区画するとともに、利用者用のシャワーを兼ねて経済性に配慮した」というのはどうだろう。公園の水遊び場みたいに、下から出てくるドレンチャーシャワーというのも子どもたちに人気が出そうだ。