一級建築士製図試験向け平行定規の比較。あえてコクヨを選んだ理由

今年の製図試験課題が発表されたので、ようやく勉強する気が出てきた。7月末に出ていたTACの無料動画をネットで見て、スポーツ施設やプールの勘所はなんとなくわかった。階高の違いによる階段の扱いなど、ややこしそうな点はいくつかあるが、パターン化して暗記すればなんとか対応できそうだ。

座学の部分はいったん一区切りとして、作図の道具類を点検しようと思う。製図試験の基本は、まず自分なりに最適なセッティングを確立することだ。

新品の平行定規を買うべき理由

まずは大物の平行定規。昨年は知り合いから借りたドラパスの中古品で済ませたが、あちこちに不具合が出て落ち着かなかった。

ロック機構が壊れているのは承知していたが、「本番でネジが外れるのではないか」「天板に傷があってペンが引っかかる」など、常に不安を抱えていた。作図中5%くらいは製図板のトラブルが頭に引っかかって、余計なストレスを感じていた。

平行定規は試験以外に使い道がないので、レンタルやシェアして済ませるのは賢い方法だ。しかし新品で買っても2万円で済む買物。予備校に通うことを考えれば、講義1回分で軽く飛んでいく金額だ。おそるおそる中古品を使う不安を考えると、新品を買った方がいい。

念のためネットオークションに出ている中古品もチェックしてみたが、価格は定価の半額以下、1万円くらいが相場だ。5千円台のあまりに安いのは、見るからに汚れや付属品の欠落が多い。

製図板をケチったがために来年再受験。カド番のプレッシャーを感じながら、また19,700円の受験料を納めるくらいなら、やはり新品を買った方が気分もいい。落ちたのは道具のせいでなく、実力だったとあきらめもつく。

重さと価格以外は各社横並び

A2サイズの平行定規など、今では製図試験以外にニーズがなさそうだが、何社も取り扱いがあるのは不思議だ。ネットのレビューでも、さすがに何台も試して比較している記事は見つからない。ロードバイクのホイールのように、店頭在庫がなく試乗も難しいアイテムをレビュー頼りに買うような感覚だ。

各社製品を一通り調べたが、土台がカーボンでできていて超軽いとか、天板がガラスでトレース台のように下からライトで照らせるとか、ユニークな機能や差別化要素は見当たらなかった。そもそも新機能を盛り込んでも、試験元から禁止されたらアウトだ。

各社横並びの基本性能、あとは「重さと安定感を求めるか」「軽さと可搬性を重視するか」、そのくらいしか選択の余地がない。そのわりにはメーカーによって価格にばらつきがあるようだ。

ムトーの平行定規は高すぎる

平行定規の高級ラインはムトーのライナーボード。最高峰のUM-06N7は定価41,000円で、重量3.2kgにハードケース付きという豪華仕様。耐久性と精度にすぐれたシンクロベルト、スムーズなダブルヒンジ機構など、基本機能もすごそうだ。

※2020年にはUM-06N8という後継製品が発売された。木製になって400グラムも軽量化されたようだ。

UT-06は2.5kgの計量モデルで、装備もだいぶ簡略化されているが、定価は38,000円とたいして変わらない。平行定規は製図試験までせいぜい数か月持てばいいので、オーバースペックなのは好ましくない。地盤が良好ならベタ基礎でなく独立基礎。製図板も「経済性に配慮」だ。

正直ムトーはほかに比べて高すぎると敬遠していたが、8月に入るとアマゾン価格はどちらも2万円台後半だった。レモン画翠のオンラインショップでは30%オフのセールをやっていたりするので、ちょっと遅れて買うならムトーもありかもしれない。

試験会場でもパーツが黒光りするムトーは目立つので、ほかの人を威圧できるだろう。最重量モデルなら持ち運びの過程で筋トレ効果も期待できる。製図試験は体力勝負。製図板は電車で小指で持てるくらい、フィジカルも鍛えておこう。

無難なステッドラー

製図用品といえば、とりあえず選んでおいて間違いないステッドラー。マルスライナー960 A2は3.2kgでアマゾン実売26,520円、ムトーよりはちょっと安いが競合製品の中では高価格帯だ。

さすがに人気でレビューも多く、製図試験以外に仕事で使っている人もいるようだ。A2サイズなら取り回しも楽で、ちょっとしたイラストや設計図を書くのに便利なのかもしれない。

ムトーと同じく、メーカーの公式サイトに解説があり説明書のPDFを落とせるのも親切だ。「傾斜防止ネジを外すと、建築士試験で失格になる」とわざわざ書いてある。

PS/DSのバッテンとか、断面図で勾配屋根を書く以外に傾斜機能の使い道を思い浮かばないが、逆手にとればそういう裏技もあるということだ。製図板の改造は自己責任でどうぞ。

廃番のロットリング

ステッドラーがあるならロットリングはどうなのだろうと検索してみたところ、アマゾンにプレミア価格で出品されていた。しかも日本正規品。

調べたところすでに廃番なのだが、いろいろユニークな特徴があるとわかってきた。カラーリングがホワイト基調でさわやか。ケースはムトーの高級版と同じハードケース。そして、スケールの後縁にアルミが付いていて、カッターも当てられるというすごい機能を搭載している。

金属素材で補強された定規は製図試験でまったく不要だが、模型材料を切るのに便利そうだ。。ロットリングの希少な廃番モデルとして、将来高く転売できるかもしれない。スクールや試験会場でも目立つこと請け合いのレア製品。セレブな受験生にはぜひ人柱となってレビューしてもらいたい。

縁起の悪いドラパス

昨年お世話になったドラパスのDXM-601。重量3.0kgでアマゾンでは24,500円と、価格はムトーやステッドラーより若干安め。ソフトケースで持ち手にクッションが付いているとかは、正直どうでもいい。図面を貼るにはドラフティングテープを使うので、マグネット機能もいらない。

型番末尾にPNと付く方は若干高く、収納ケースがポートフォリオバッグという丈夫な素材に変わるようだ。製図板以外にA2図面を収納するケースとしても兼用できそうなので、自宅の収納スペースに余裕があればハードケースもありだろう。

アマゾンのレビューにある、「元から歪んでいる」というネガティブなコメントが気になる。真偽のほどは不明だが、昨年ドラパスで落ちたので縁起が悪い。パソコンショップの「ドスパラ」とアナグラムになっているのは、何か意味があるのだろうか。

マックスは謎のスケールグリップ付き

マックスから出ているのはMP-400FL2の一種類。重量は2.5kgでムトーUT-06と同じ。アマゾン価格も22,000円とリーズナブルだ。

詳細不明だが、「三角スケールを装着できるスケールグリップ」という独自機能が気になる。道具類を整理するツールボックスの持ち込みはありだから、試験元もその程度のおまけ機能は気にしないのだろう。

レビューはおおむね好意的だが、「図面固定の道具で手を切った」というコメントが気にかかる。確かに鋭利なスチールプレートは凶器になりそうだ。さすがマッドマックスな製図板、使い方を誤ると流血するらしい。

レモン画翠はマックスのOEM

レモン画翠は東京の御茶ノ水にある画材店で、建築用の模型材料も多く扱っている。オンラインショップに平行定規もあり、なんと同店のオリジナルモデルが存在する。

「製造はマックス株式会社、MP-400FL IIと同機能」と書いてあり、写真もほとんど同じなので単なるOEM版のようだ。アマゾンだとマックスの製図板は2.5kgなのだが、レモン画翠のサイトではなぜかどちらも2.8kgと記載されている。

価格も同じなら、名の知られたマックス版を選んだ方が、将来転売するときに有利な気がする。レモン画翠は一体なにがやりたいのだろう。せっかく自社製品を出すなら、高価格帯のステッドラーやムトーは比較用に並べるにしても、マックス製品は扱わなければいいのに…

コクヨのトレイザーを選んだ理由

ムトーやドラパスに比べると、使っている人はぐっと少数派なコクヨ。トレイザーというシリーズで、TR-HHEB11とそのマグネット版TR-HHEF11の2種類販売されている。

国内メーカーで安心のコクヨだが、マグネットを省いた「ビニール製図板」といういかにも安っぽい前者は、実売価格が2万を切る。さらに磁石がない分、重量も2.4kgと調べたなかでは最軽量だ。

定規のフローティング機構に反転装置、ブレーキ・角度調整ツマミと基本の4機能は押さえられている。傾斜も3段階調整できて問題ない。ナイロン製のキャリングバッグはしょぼそうだが、製図試験に求める機能としては必要十分だろう。

各社製品を中古も含めて調べたが、結局選んだのはコクヨのトレイザーTR-HHEB11。新品で最安という理由が大半だが、個人的には「マグネットなし=最軽量」という独自仕様にも魅かれた。

マグネットなしで軽い

どのみち図面はドラフティングテープで留めるのだから、スチールプレートは必要ない。しかも製図板にマグネット仕込みだと、愛用の機械式時計が磁気帯びしそうで心配だ。特殊な高耐磁性モデルでもないので、日常生活の見えない磁気には水濡れより神経を使う。

製図板から磁場が発生していると、肩こりや腰痛にはいいかもしれない。しかし電磁波過敏症の人なら、念のため他社のマグネットモデルは避けて、コクヨのビニール製を選ぶといいだろう。木製製図板にT定規で挑むのでなければ、TR-HHEB11しか選択肢はない。

KOKUYOの製図板TRAZER

天板に金属を仕込んでないビニール製のおかげか、トレイザーの軽さは秀逸。持ち運びが楽なのは言うまでもなく、90度回転させて寸法や天井高を縦書きする際にも重宝する。

製図板は軽い方が好み

自分の作図スタイルでは平面図と断面図で各1回、避難経路の歩行距離も縦書きするなら3回は製図板を回転する場面が出てくる。文字を90度回転させて書くような特殊技術は訓練していないので、大げさだが土台ごと回した方が早い。

さらに試験会場の大学講義室にはたいてい奥行きの狭い簡易テーブルしかないので、その上に重量のある製図板を置くとかえって不安定だ。脚がデスクに乗り切らず、前側は浮かせて腹で押さえながら図面を書く感じになる。

平行定規の重量に関しては、持ち運びと試験会場での取り回しを考え、軽さを重視した方がいいと思う。製図用シャーペンと同じく「重さが正義」というわけではない。

新品を買ってよかった

受験申し込みを済ませた4月に平行定規を購入したが、検品を済ませたら段ボール箱に戻して押し入れにしまいっぱなしだった。製図受験2年目でも、7月の課題発表まではやる気が出ないものだ。

コクヨのトレイザー平行定規

7月に入ってからやっと使い始めたコクヨの製図板。昨年お世話になったドラパスより、一回り軽くていい感じだ。新品に期待したとおり、ガタツキや故障もなく精度に不安がない。

コクヨ・トレイザーのレビューはこちら