一級建築士の僕が教える、受験ブログを書いてはいけない5つの理由

※試験とは関係のない、ブログの運営に関するメタ記事です。特に当てはまらない人は時間の無駄なので、読まないでください。

受験中にブログを書く過ち

晴れてペーパー建築士になれた自分だが、製図試験の勝因については、いまだによくわからない。ただ振り返ってみると、「受験勉強しながらブログを書く」という行為に関しては人一倍経験を積めた気がする。受験ブログを書くことの愚かさについて、僭越ながら上から目線で釘を刺しておこうと思う。

わざわざ人の失敗を繰り返し、ネガティブな車輪を再発明することはない。宿業の輪廻を断ち切るために、あえて自分のことは棚に上げて体験談を語ってみたい。以下の5つの理由により、建築士受験生がブログを書くことは激しくおすすめしない。

1. 時間をとられる

人に読んでもらえる文章を書くというのは、なかなか難しいものだ。建築学生で物書きや編集の訓練を受けている人はまれだろう。

思いつきで書いてみた文章をひねくりまわしていると、あっという間に時間が過ぎてしまう。たかだか2千字のテキストでさえ、真剣に推敲すれば図面1枚仕上げるくらいの労力がかかる。

なぜなら誤字脱字のチェックは当然として、「読みやすさ」や「わかりやすさ」の改善は無限に続けられるからだ。『共同幻想論』の文庫版序文で、吉本隆明はこう言っている。

著者の理解がふかければふかいほど、わかりやすい表現でどんな高度な内容も語れるはずである。これには限度があるとはおもえない。

課題発表から製図試験までの時間は短い。他の受験生の役に立つ記事を書くのと、自分が勉強するのではどちらが大切だろう。ブログの代わりに記述のひとつでも作文してみた方が、確実に合格は近づく。

2. たいしたことは書けない

一問一答形式の学科試験とは異なり、製図のスキルというのは一朝一夕で身につくものではない。勉強を始めたばかりの受験生に、たいした内容の記事を書けないのは当然だ。著者の理解があさければあさいほど、わかりにくい表現になる。

受験中に書けるとすれば、せいぜい製図用品の紹介や精神論のたぐいくらい。今日食べた物、勉強したこと…この程度の日記的内容なら、ブログでなくSNSでも十分だろう。有名人でもない受験生の生活に興味を持ってくれる人など、そう多くはいない。

学習が進んでようやく知識が体系化してくるのは、10月に入った試験直前だ。その頃には試験前の追い込みで忙しく、ブログどころではなくなる。

3. 悪影響を及ぼす

世の中には「アウトプットすることで学習効率が増す」という考え方もある。情報を調べながら記事にまとめることで、知識を整理する効果は確かにあるだろう。学科試験や製図関連の法規を覚える際に、このテクニックは使えると思う。

その一方で、「間違ったアウトプット」により不完全な知識を覚えてしまう弊害もある。たとえば予備校課題のエスキース案をトレースしたら、「模範解答より自分の下手な答案が記憶に残ってしまった」という苦い経験がある。あれはさすがに悪ノリが過ぎた。

本試験でランク判定された図面を検証するのは、他の人の参考になるかもしれない。しかし、勉強中の受験生が考えた中途半端なプランなど、誰の役にも立たないばかりか自分の脳を害することにつながる。

4. 儲からない

実際のところ、ブログを始めたい理由の大半はお金儲けだろう。大事な点なので本音を語ろう。

記事の合間に広告を貼れば、予備校の受講料くらい稼げるかもしれない。建築士の収入は不安なので、今のうちから副収入のチャンネルを増やしておくのも悪くはない。ひょっとすると受験ブログの売上だけで、働かずにソシャゲで遊びながら暮らせるかもしれない…

ハリードSS

「叶わぬ夢は見るな」

他のサイトのことは知らないが、経験からすると「建築士の受験ブログは儲からない」と断言できる。適当に紹介した平行定規が飛ぶように売れるなんてことはない。もともとアクセス数が少ないのは仕方ないとして、ユーザー様はめったに広告などクリックしてくれないインテリ層なのだ。

ごくまれに、酒に酔った勢いでシャーペン1本くらいお買い上げいただけることもあるだろう。100記事書いて1年経てば、消しゴム1個買えるくらいの収入は見込める。ただし費用対効果はおそろしく悪い。道に落ちているお金を探してうろついた方が、まだましだと思う。

製図試験の受験者数と平均的なコンバージョン率を掛け算すれば、アフィリエイトの市場規模は推測できる。学科試験の受験者は製図の倍以上いるので、そちらをターゲットにした方が当たる可能性は高い。さらに言えば宅建の受験者は学科の10倍も存在する。

マーケットが大きければ当然ながら競合も増える。学科はすでに市販テキストや無料サイトが充実している。そして製図も母集団が少ないわりには、予備校以外の通信教育や添削サービスが続々と増えている。建築士の受験者総数は年々減りつつあるにもかかわらず。

どちらも今さら、ぽっと出の受験生ブロガーが目立てる余地などないように思う。悪いことは言わない。建築士受験のアフィリエイトはやめておけ。

5. おもしろくない

いかがでしただろうか。あえて虫唾が走るような記事タイトルを付けてみたことには理由がある。露骨に集客を狙った押しつけがましい語り口は、見るからに中身が薄そうな感じがしないだろうか。

そもそもブログを書くという行為が時代遅れなのか、(自分も含め)受験生の書いた記事を読んでおもしろいと感じることは少ない。中には神がかったセンスとクオリティーでリスペクトするサイトも存在する。しかし残念ながら(本ブログも含め)その他多くは微妙な立ち位置だ。

結果的に淘汰されて、検索上位に表示されることなどめったにない。おそらく世の中には、まだ一度も人に読まれたことのない傑作がごまんとあるのだろう。毎年数千枚の不合格図面が日の目を見ず処分されていくように。その中には世界を変えるほど傑出したコンセプトルームの発明が埋もれていたかもしれない。

典型的な受験ブログといえば、試験中は無益な内容ばかりで、合格後は急に偉そうに勉強法など語り始めるのがよくあるパターン。記事の劣化と読者離れが重なって、負のスパイラルに陥っている。ウザい、キモい、イタいと3点そろったネットの中の下々…

2000年代に始まったWeb2.0カルチャーも、世代交代が進んで年寄りの老害メディアと化してしまったようだ。老後の暇つぶしにはよいが、それに付き合うほど現役受験生は暇でない。動画やマンガならまだしも、長ったらしい文章を読む余裕などない。

もし受験勉強しながら記事を書くなら、下手なノウハウや学習法には触れない方が無難。ともに苦労を分かち合う受験生に対して、笑いや癒しを提供することに徹した方がよろこばれるだろう。その際の表現方法として、テキストベースのブログは分が悪い気がする。

受験「後」の記事は有益

受験ブログを書くことに意味があるとすれば、それは試験が終わった後のタイミングだ。12月の合格発表までのやきもきする期間、自分のプランを公開したりコメントすることは、他の受験生の気晴らしになる。

本当はユープラというすばらしいプロジェクトがオープンソースになってくれるとありがたい。自分の落ちた試験で、各ランクと紐づけられた他人の図面はぜひとも覗いてみたいものだ。

製図試験の悲哀というのは、その年の受験生でないとわからない部分がある。「試験前はこう言われていたが、本番ではこう裏をかかれた」というニュアンスは、過去問題を見ただけではイメージできない。

別にここ2年の課題だけがサプライズだったはずはないと思う。過去にも受験業界の片隅では、語られることのないドラマがあったのだろう。製図の優等生だった人なら、試験直後は並みの予備校教師より勘が冴えている可能性もある。そういうエリート受験生が講評を書いてくれたら、後輩にとっては大いに参考になると思う。

受験後ブログが難しいのは、合格した途端にモチベーションが下がってしまう点にある。予備校にさんざん貢いだ経験は、自分でも思い出したくない黒歴史。それは健全な反応だ。

半年も経つと、製図で覚えたことなどすっかり忘れてしまう。課題が変わるとパターン化したテクニックが役に立たないという事情もある。試験終了後から合格発表前後にかけてが、受験ブロガーとして最も脂が乗る期間。正月休みにでもランクIやII判定の答案を再現してもらえたら、未来の受験生から歓迎されると思う。

ブログはもう古い

やめた方がいい理由は山ほどあるが、受験ブログを書く人は毎年必ず出てくる。建築士の遺伝的多様性を維持するという意味では、そういうニッチな人たちを応援したい気持ちもある。

自分のITリテラシーは10年前で止まったままだが、今ならブログよりもっとましな表現手段を思いつく。

炎上のおそれのある企画

  • 大義名分を掲げ、受験費用をクラウドファンディングで集める
  • まだ受かってもいないのに、教材をつくってnoteで売る
  • 予備校課題を無許可で転載するオンラインサロンのウラ教祖(通報されます)
  • プライザーの人物たちに語らせる模型チューバー(よくわからん)
  • 軍艦島に密航してアスベスト被害を騙る(勝手にどうぞ)
  • 投入堂にクライミングしてウェーイ(やめてください)

そろそろ建築士のWebメディアも、ブログに代わる破壊的イノベーションが登場していい頃合いだ。本質的にブラックボックスである製図試験においては、クレイトン・クリステンセンが提案する不可知論的マーケティングこそが有効なのではないかと思う。

これから建築士として荒波を渡っていくなら、ちょっとしたバッシングに耐えられるくらいの遮炎性能をそなえておきたい。平凡な一級建築士がひとり増えるよりも、業界を盛り上げてくれる革命的パフォーマーが現れてくれた方が、きっとおもしろい。