一級製図試験~真似してはいけないランク3のリゾートホテル図面を再現

昨年不合格になった一級建築士の製図試験。当日持ち帰った下書き用紙から1/400エスキースを解読できたので、おおまかに図面を再現してみた。各部の見どころを解説するとともに、試験元が公開している標準解答例と比べてダメだった点を検証してみたいと思う。

見よ!これが見事にランク3を獲得した、ミシュラン3つ星リゾートホテルの設計図だ。

1階

2階

地下1階

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広々とした外構計画

建蔽率60%のわりには、東西54mと幅広の敷地であった。いつもは7mで6スパン、合計42mとするところ、1コマ増やして7スパン49mに設定した人も多いはずだ。東西片方はぎりぎり2m植栽などで埋めるとして、片方に3m開ければ地下機械室への搬出入用ドライエリアを確保できる。

南北は7m×4スパンだと12mの車回しが入らない。L字とまではいかないが、1列削って3スパンに圧縮したのは、我ながらよいアイデアだった。ここまでは標準解答例と一致している。

面積調整のためか、1階の北東には愉快なピロティーまで設けている。雨にぬれずにウィンドウショッピングを楽しめる、素敵な縁側だ。きっと休日には地域住民が屋台を広げて、たこ焼きとかみかんを売るのだろう。

南北の空きは迷ったが、地下1階リラクセーションスペースに用に南を5m確保し、残りの16mを北側に振り分けた。こんなに巨大な駐車場は練習したことがなかったので、歩行者用の通路だけ確保してあとは車道とした。

車歩分離もできているし、西側への共用駐車場へもつながっている。12m車回しもギリギリ入り、エントランス前の車寄せもあるので、要求条件は完全に満たしている。1/200で12mの円を書けるコンパスを持っていなかったので、縦横に12mと寸法を書いておいた。

西側に歩道は接続不要だった

標準解答例を見ると、広い北側空き地を生かして彫刻ギャラリーを設置したり、サービス用の駐車場をわざわざ区切ったりしている。曲線を駆使してこんなにしゃれた外構をデザインするのは、それだけで30分くらいかかってしまいそうだ。車の進行方向を示す矢印もたくさん書いた方がよかったようだ。

解答例を見て気づいたのは、西側共用駐車場まで歩道は接続しなくてよかったという点だ。確かに課題文には「車回しからアプローチ」としか書いていない。解答②は、歩道が植栽でふさがれて、そのまま西側隣地に行けないようになっている。①は一応つながっているように見えるが、車道のように矢印を書いて「出入口」とは強調していない。

普通に考えると、外に車をとめてから歩いてアプローチする動線が必要と考えたのだが、外の歩道を経由してよかったのだろうか。それとも高級ホテルなので、車寄しで下りれば、スタッフにキーを預けて駐車場にとめてきてくれるのかもしれない。そもそも従業員は車道に立って送迎、誘導したりするだろうから、歩車分離に留意しなくてよいという解釈なのだろう。

明るく開放的な2mの吹抜け

当ホテルでは、メインエントランスの風除室を抜けるとすぐ脇にフロントがあり、最短動線でチェックインできる。反対側には魅惑のコンセプトルームが控えており、宿泊客と交流したくてたまらない地域住民のボランティアスタッフが待ち構えている。

ブランドショップでお買い物してもらう前に、まずコンセプトを紹介すべきと判断して、エントランスホール脇に特設コーナーを割り当てた。代わりにショップが奥まってしまったので、売り上げに響きそうだ。アプローチのピロティーには面しているので、地域のお土産品を陳列してガラス越しに売り込みはできる。

続いてエントランスホールに目を向けると、地階から2階まで3層にわたって貫通する短辺2mの吹抜けが歓迎してくれる。とても明るく開放的で、通風・自然採光、パッシブデザインにも配慮された豊かな空間だ。

日建学院の法令集には、「ホテルの2階客室はツインコリドーとし、その中央には吹抜けを設ける」という告示があった。両側に有効2mくらいの廊下幅を確保しつつ、なんとか順守することができた。

企画倒れのコンセプトルーム

平成29年最大のサプライズは、「自分で用途を考える」コンセプトルームの出現だろう。「既存の観光資源等を任意に想定し…」なぜか本番では、田舎の観光施設というと秘宝館のような部屋しかイメージできず、発想が貧困で困った。

熱海の温泉に通い過ぎたせいかもしれない。せいぜいがんばっても思いつくのは、奄美大島のハブセンターくらいだ。うじゃうじゃいる捕獲ハブの飼育箱やグロい写真に見とれて、思わず長居してしまったものだ。

コンセプトルームでは、池田湖から名峰、開聞岳を望むという想定で、「湖に棲むという未確認生物イッシーの目撃情報を展示する」ということにした。ついでに湖畔では、指宿市が世界に誇る名物、砂蒸し温泉まで楽しめるという観光資源盛りだくさん…こんなコンセプトなら一発合格間違いなかったはずだ。

あいにく初受験で日和ってしまい、「地域の観光スポットを紹介する(什器はモニターのみ)」という中身のないコンセプトにしてしまった。せめてデジタルサイネージとか機材だけでも奮発すればよかったと思う。当時は「目立つとかえって落とされる」という不安があった。

充実しすぎの解答例コンセプト

予想に反して解答例では、彫塑工芸に陶芸窯室、刃物研ぎ機にガス窯、屋外作業エリアまで設定しているという充実具合。「新登場の要素は誰も対応できないので採点対象にならない」といわれているが、この什器の書き込み具合を見ると、コンセプトの本気度が明暗を分けたかもしれない。

試験元にはぜひ、9,000人の答案からえりすぐったおもしろアイデアを白書にまとめて出版してほしい。全国の受験生が必死に考えた地域振興のネタは、きっと観光関連の企画に役立つはずだ。

今年の製図試験でも、コンセプトプールやコンセプトスタジオの対策は必須だろう。日建学院のテキストにも、100㎡の要求面積でコンセプトルームが登場している。「プールを利用した健康づくりのためのエクササイズ等について、総合的に学習するスペースを自由に企画する」…プール版はまじめに考えるとなかなか記述が難しい。

バイアフリー優先で客室Bを1階へ

レストランとラウンジは景観のよい南側を向けている。主入口から明るい吹抜けを通して、ラウンジの広い開口部越しに望める湖の風景が目に浮かぶようだ。厨房を管理ゾーンに寄せて、管理用廊下からアクセスできるようにするのも練習通り。宴会準備で応援が必要になれば、いつでも事務室から駆けつけられる。

東西49mで北側配置しても収まらなかった客室Bには、1階南東の眺望特等席を用意した。記述のバリアフリーについては、「客室Bの室内計画において…」とあるにも関わらず、「車椅子でも駐車場から段差がなく客室までアプローチできる」と室外の話ばかりしつこく書いてしまった。

このホテルはバリアフリー最優先なので、1階で宿泊客と一般利用者の動線が交錯していても構わない。人目を気にするより、部屋とトイレは近い方がいい。

談話スペースから名峰が見える

2階では10個も要求された客室Aを南北にバランスよく配置し、VIP向けの広い客室Cは南東の眺望を優先的に押さえてある。客室Aの間口は「心々4m以上」と指定があるが、7mもあるので貧客も大満足だろう。

バルコニーを含めると少々面積が大きすぎるので、その分廊下を広く取って3つ星ホテルにふさわしいラグジュアリー感を演出した。共用廊下には便利な自動販売機まで用意されている。

特に指定はなかったが、日建法令集に従い、廊下の端には眺望のよい談話スペースを用意しておいた。料金の安い北側A客室に泊まる客も、ここに来ればC客室のセレブと変わらないポジションから名峰を眺められる。

「あれが噂の名峰らしいですね~」「ははは、北の樹林もなかなかいい眺めですよ」…滞在型の観光拠点として、宿泊客同士の交流もうながす仕組みだ。

すべての客室にDSを用意

客室にやたら多いバッテン印は、すべての部屋に専用のPSとDSが備わっているという意味だ。あまりでかいと不格好なので、0.5m×1mの細いシャフトをこまめに配置した。これのせいで作図時間が15分は余計にかかったと思う。

地下機械室からどうやって空気が送られてくるのか、当時はノーアイデアだった。もしかすると、断面図で2階のスラブを80cmくらい厚くしたかもしれない。天井裏でなく、RC製の床の中にダクトルートを仕込むという超耐火仕様だ。

北側客室から名峰は拝めないが、空調機械室で最適調整されたフレッシュなエアーを専用ダクトから吸えるように配慮した。山間の宿場町は堆肥の臭いに満ちていると思うので、3流ホテルらしい気の利いたサービスだ。

露天風呂の目隠しは必須

地下1階には要求通り湖に出られる通路とともに、南側に向けた開放的な大浴場とトレーニングルームを確保している。景色を楽しめるリラクセーションスペースも忘れていない。機械室と電気室もドライエリアがある西側に面して配置してあり、この階だけ見れば合格図面でないかと思う。

吹抜けを望む、明るく開放的なEVホールに面して大浴場特記の休憩コーナーも設けている。露天風呂は書く暇がなかったので室内に設け、目隠しの植栽を大々的に配置している。浴室の眺望とプライバシーを両立させるという難題は、この年すべての受験生が悩んだことだろう。

上階からの露天風呂覗きなど気にする余裕もなかったが、答案例ではどちらも「目隠しパーゴラ」を設けて視線をさえぎっている。うっかり湖畔にストリップ露天風呂を設計してしまうと、建築士法第2条の4「建築士の品位を害するような行為をしてはならない」に違反して免許取り消しだ。

8mスパンでないと解けない

あらためてプランを見直すと、少なくとも利用者と管理側のゾーニングはよくまとまっている。大浴場とトレーニングルームが「宿泊客専用」という動線計画は実現できなかったが、答案例も「ルームキーによるセキュリティ管理」でお茶を濁しているので、さほど重要でなかったのだろう。

面積も収まっているし、北側客室さえなければ合格できたようにも思う。しかし、「間口4m」と「床面積約35㎡」いう客室A特記のヒントから、8mスパン2分割を思いつけた受験生はどのくらいいるのだろう。TACの答案例は6mスパンだが、A室が1つだけ収まらず西を向いてしまっている。

そもそも日建課題しか解いたことのない自分は、7m以外のスパンだと階段の段数計算すらできない。標準解答例は2案とも東西8mピッチになっているので、平成29年は8mでなければクリアできない無理ゲーだったといえる。

部屋の階数指定はなく、かなりの程度、受験生の裁量に任されるプランニングだが、絶対に外してはいけないポイントが存在する。それが昨年は8mスパンと目隠しパーゴラだった。これを思いつけるかどうかで勝敗が決まる。

製図試験はカンニングOK

たとえエスキースに4時間かかっても、名峰級の「特に配慮する」条件を満たせていない場合は粘って考えた方がいい。その頃にはできる受験生があらかた図面を書き上げている頃なので、試験中トイレに行く振りして図面をチラ見するのもありだ

一級建築士の製図試験はトイレに行き来する際、どうしても他の人の製図板が見えてしまう。公然とカンニングが許されているのも特徴だ

どの受験生ができそうか外見から判断し、合格図面を0.2秒で見きわめ脳内インプットするスキルが求められる。あるいは製図板にうつむいたまま、顔を動かさずに180度目玉を回して左右を見渡す訓練も有効だ。

風説を流布すると建築士の品位を害してしまいそうなので、このくらいにとどめておこう。試験中ときどきトイレに行ったり、甘いお菓子を食べるのは心身のリフレッシュに役立つ。しかし、あまりにトイレに行く受験生が増えすぎると、そのうち製図試験はおむつ着用か尿瓶制になってしまうだろう。

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