プール用空調機械室の不在~解答例に見え隠れする「不都合な真実」

一級建築士製図試験、標準解答例の分析はまだ続く。今回は第3のサプライズ要素、「プール用空調機械室の怪」について考察してみよう。

あらかたの予想に反して、10月の試験本番ではプールに空調機械室が要求されなかった。それに対して「任意に追加すべきだった」という風潮が試験後に生じた。しかし12月に発表された解答例では、2案ともプール用空調室は不問とされた。

受験生としては二転三転、どう解釈していいのかわからない難事件だ。もしかするとその背景には、試験業界に巣くう闇の勢力。利権がらみの陰謀が隠されているのかもしれない。

解答例に表現された空調システムの分析。そして、なぜ試験元がこれほど巧妙に設備機器の裏をかけるのかという点を推理してみたい。

サプライズ1~課題文にプール空調室なし

解答例を見て、目立たない部分だが驚いたのは、「プールに空調機械室がない」という点だ。上の階には多目的スポーツ室用の空調室がついているが、だいぶ位置が離れている。ここからプールにダクトを通して給排気するとは考えにくい。

予備校の事前指導では、今年のプール室空調は「単一ダクト方式(変風量)」が定番だった。

  1. 年間を通じて30度前後の室温に保つ必要がある
  2. 湿気や塩素が充満するので頻繁に換気する必要がある

条件からすれば、温湿度調整された新鮮外気を効率的に供給できる「中央管理の単一ダクト一択」という見解だ。

しかし、試験本番では機械室の特記事項に空調設備の指定がなく、面積も「約80㎡」とやけに狭かった。代わりにもうひとつの吹抜け大空間、「多目的スポーツ室専用の空調室」が要求された。

サプライズ2~プール空調室は任意に追加

本来、空調機械室とは、小体育館程度よりプールに優先して併設すべき部屋ではないかと思う。そして今年のプール用機械室は、「ろ過機とボイラー、ポンプと空調設備を含めて7×7グリッドで3~4コマ(147~198㎡)は必要」というのが受験生の「常識」だった。

さんざん作図してきた馬鹿でかい機械室は、試験本番で予備校の「常識」に過ぎなかったと判明した。このちぐはぐな課題文は、まじめにスクール課題を解いてきた人ほど悩まされたはずだ。

プールに空調室は必要だと思うが、要求室にないのに勝手に増やしてよいのか?

そして試験後に大手校から出た解答例は、軒並み「プールに隣接した空調室を任意に増やす」という方針だった。要求室リストにない部屋まで忖度して追加するとは、製図試験がまた一段とハイレベルなゲームになったと感じた瞬間だった。

サプライズ3~プールに空調室は不要

自分は臆病なので、「何かやらかして落ちるよりは、何もしないで落ちた方が後悔が少ない」と割り切り、プールに空調室は増やさなかった。昨年リゾートホテルの反省から、「課題文に書かれたことが絶対」と信じていたので、勝手に部屋を増やすのは北客の二の舞になる気がした。

試験後、もはやプールに任意の空調室を設けるのが常識。「今年の試験は去年と逆にめちゃくちゃ自由(プールもエントランスも)。提案力のない受験生が落とされる」と聞いて、合格発表まで落ち込んで過ごしたものだ。

しかし結果は合格した。そして標準解答例は2案ともプール専用空調機械室を増設していなかった。機械室の面積も、76.6~88.4㎡と課題条件のプラスマイナス10%に収まる範囲。

文字通り一喜一憂。試験課題と解答、予備校の見解に翻弄された数か月だった。平成30年「今年の漢字」は「災」だったが、製図試験の受験生にとっては「空」でもしっくりきたと思う。

答案②のプール空調は単一ダクト

解答例が、プール空調の問題をどのように処理しているか分析してみよう。

まず②の答案は88.4㎡と指定よりやや大きい機械室の中に、4×2㎡の巨大な「上部DS」と書いてある。そして2階のプール室にダイレクト給気するのは、予備校課題で見慣れた形式だ。

機械室の中の点線枠が何を意味するのかは明記されていない。おそらく特記事項に書かれた「循環ろ過設備、加熱設備等」「水槽、ポンプ等」のいずれかを指すものと思われる。そしてこれら以外に、単一ダクト用のエアハンドリングユニットも加えて空調機能を持たせたものと推測される。

だから②の機械室面積は、指定よりちょっと増やしているのだろう。「空調室を新たに設けるまでもなく、機械室をちょっと大きめに確保すればよかった」という見解だ。

採暖室経由の機械室アクセス

そして①の答案は解釈が難しい。建物北東に、いびつな形状でねじ込まれた機械室は、いかにも「合格基準すれすれです」とアピールするための、仕組まれた下手くそ図面に見える。さらに更衣室A・倉庫・採暖室が間に挟まって、プールへの配管を邪魔している。

まさか施設の担当者がボイラーの湯加減を調整するには、事務室から更衣室を経由して足洗槽を通過し、サウナで汗をかいてから機械室にたどりつくというシナリオなのだろうか。あるいは雨の日に傘をさして外から機械室に向かう、安藤忠雄の「住吉の長屋」方式。

たっぷりウォーキングできて職員の「健康づくり」には貢献しそうだ。コース上には例の「プールサイド柱」という障害物まである。毎回足を消毒できて、水虫の治療にもいいだろう。

さすがに「ご冗談でしょう、JAEICさん」と言いたくなるが、この「演出された不自然さ」には裏がありそうだ。ほかに存在する、もっと「知られたくない」不都合な真実から目をそらさせるための、おとりにすぎない気がする。

答案①のプール空調はパッケージ?

もしこの狭い機械室に単一ダクトのAHUがあるとしたら、採暖室の天井裏か、地下から配管してプールに引き延ばすのだろうか。機械室内の点線枠は②が3個なのに①は4個ある。何か別の設備が1個増えていると考えてもおかしくない。

そして①の断面図を見て築いたのは、②にない「室外機スペース」が屋上に設けられている点だ。しかも幅6mくらいにわたって並置されており、かなりボリュームがある。

ひょっとすると解答例①は、プール空調が単一ダクトでなく、おなじみ空冷ヒートポンプのパッケージユニット、マルチ方式という想定なのだろうか。

ほかのトレーニング室やダンススタジオの空調も兼ねているとすると、この規模の室外機でも間に合わない気はする。しかし、狭い機械室に空調機があって、プールまで無理やり配管している状況をイメージするよりは、個別分散熱源方式でダイレクトに空調していると考える方が素直だ。

2年続けて裏をかかれた空調設備

ここまで推理したところで、「今年も空調でやられた!」と思った。

昨年の「小規模な」リゾートホテルで、オーバースペックといえる中央制御の客室ファンコイルユニットが指定されたのはサプライズだった。日建学院の市販テキストでは、すべて経済性にすぐれた「空冷ヒートポンプパッケージ」となっていたからだ。

そして今年のプール空調も、日建・TAC課題はほぼ「単一ダクト方式」で統一されていた。受験生の中には、外構や屋上に「室外機」を書くやり方すら知らなかった人もいると思う。

昨年のホテルにFCUが適切なのかは今でもわからない。そして今年のプール空調がパッケージ方式で間に合うのかもわからない。

標準的な25mプールよりはずっと狭い18×10mサイズだから、ビルマルチエアコンでもぎりぎり間に合うのかもしれない。予備校の先生に聞いても、明快な回答は出てこないと思う。

予備校の指導方針が似てくる理由

なぜここまで巧妙に、試験元は空調設備の裏をかけるのだろう。

まず資格学校の講師は「空調機器の専門家」でない。たいていは自分の設計事務所を掛け持ちして教えている、アルバイトの建築家講師だ。そして7月に課題が発表されると、関連書籍や参考書を調べて、「今年のプール空調はこれだ」と推測してテキストや課題に落とし込む。

おそらく大手3校は互いが出している課題を逐一チェックしているだろうから、他校の方針が主流になれば従わざるを得ない。独自方式を教えて、試験に出なかったときのダメージが大きいからだ。

「○○学院は□□と言っていたのに、見事に外した」

当然合格率も下がり、翌年の営業活動に支障が出る。それよりは「多数派」の意見を取り入れて、「みんなで渡ればこわくない」方式で共倒れする方がましだ。そのため、9月も後半になると、大手予備校の課題はだいたい似通ってくる。

防火・延焼もキナ臭い

特に今年、新出要素の防火設備・延焼ラインの表現方法については、マル防・マル特と各校まったく同じだった。本番もまさにそうだったので、「指針がないと教えにくい」と予備校からクレームが出て、試験元からこっそりリークされたのかもしれない。

9月9日に行われた二級建築士の製図試験では、一級に先行して防火区画の記載が要求された。二級の課題文で防火設備の表現方法が告知されたと考える向きもあるが、予備校がその情報を把握したのは、試験日より少し早かったような気もする。

採点方法と同じく、建築技術教育普及センターと大手予備校の関係もブラックボックスである。試験元がさんざん解答例を細工して、はぐらかそうとしている理由はこれかもしれない。予備校も共謀して、試験後の見解をかく乱しているように見える。

しかし一介の受験生としては、たとえ不正が行われていようが、うまくやってくれそうな予備校にお布施して受からせてもらうしかない。それが製図試験における、もうひとつの「不都合な真実」だ。