一級建築士製図試験~ランク4激増の理由は「防火区画」と推測

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平成30年製図課題「スポーツ施設」。試験後に議論の的だったプールの設置階とエントランス方向は、ほとんど採点に関係なかったと推測される。少なくとも、ランク3や4へ直行の足切りではなかった線が濃厚だ。

それでは今年、全体の合格率は増えたのに、ランク4の割合が25.9%と異様に高い原因はなんなのだろう。「なぜか受かった」という人もいれば、「落ちた理由がさっぱりわからない」という人もいるはずだ。

7月の課題発表から10月の試験、12月の標準解答例まで一連の流れを振り返ってみると、ある特徴的なパターンが見えてきた。そして考えられるのは、「今年のランク4激増の理由は、防火区画の不備」という仮説だ。

しつこく強調されていた防火区画

標準解答例を見てすぐ気づくのは、防火区画と延焼ラインが執拗に強調されている点だ。解答例①にいたっては、色付きの赤線で「面積区画ライン」と記載。例年からすれば、これはきわめて異例の事態といえる。

面積区画ライン

製図試験で新登場の要素は、誰も対応できないので差が出ない(採点も甘めになる)という俗説がある。しかし解答例におけるこの力の入れ具合からすると、今年は防火関連のミスが他より厳しくジャッジされた可能性がある。

振り返れば「防火区画」と「延焼ライン」は、7月の課題発表で(注3)に書かれていた重要事項だった。そもそも課題発表の時点で、ここまで細かく注意点や留意事項が通達されたのは、初めてのケースといえる。

そして本番の課題文でも、相当なスペースを割いて図面表現に関する「凡例」が記載されていた。建築物で防災・避難関連が重要なのは言うまでもない。しかし今年の課題における執拗なアピールは、最初から最後までやけに極端だった。

事前告知が重要だった可能性

ひょっとすると、「課題発表時に事前告知した注意点に違反すると足切り or 大減点」という新たなルールが設定されたのかもしれない。

昨年から敷地図が下書き用紙にワープしたり、課題文が大きくなるという新傾向がみられる。採点基準も徐々に変化しつつあると考えて不思議はない。そもそも採点がブラックボックスである製図試験。ここで議論していることも、すべて的外れかもしれないのだ。

防火関連以外にも、事前に予告されたパッシブデザインとバリアフリーは、解答例①②の両方にしっかり表現されている。これらに比べれば相対的にプールやエントランスの減点幅が低く、上記に対応できていれば十分合格できたと考えることもできる。

自分の答案は防火設備の記入ミスが比較的少なくかった。延焼ラインも南が無視され、西側だけの書き漏れで済んだ。パッシブ/バリアフリーの注釈も高密度に書き込めたので、ほかの失敗を帳消しにできた可能性もある。

ランク4失格事由は防火区画?

事前告知された注記の中でも、課題文と解答例を照らし合わせて重要度が高そうなのは、やはり防災関連だ。

防火設備は数か所書き忘れたが、少なくとも階段とEVの特防、3層吹き抜けのSSは表現できた。プールも2階吹抜け部分の防火設備は書いたので、1,500㎡の面積区画はクリアできたと思う。

防火設備は「書き方がわかれば簡単」といえる部類だが、試験中のプレッシャーで書き漏らした人もいるだろう。建築設計の基本ともいえる竪穴・面積区画をミスしたために、「重大な不適合」と診断されたとしてもおかしくない。

それに対して「延焼ライン」は西側だけ見逃したが、これは失格の理由にならなかったようだ。もしかすると、本来必要ない南や東側に延焼ラインを設定しまった人の方が、アウトだったのかもしれない。

試験中、「余計な延焼ラインや防火設備を書くと、かえって減点では?」と気になったふしもある。時間もないので南と西は「あえて書かない」という賭けに出たが、半分は当たって半分は外れた。

今年の漢字は「災」

毎年12月に発表される「今年の漢字」。昨年の「北」は、北客ドボンを予言していたのではと話題になった。今年は「」と決まり、製図試験で対応するのはどこだろう?と考えていた。

平成30年の夏は台風の被害が多く、スポーツ施設にも「備蓄倉庫」や防災系の機能が要求されそうな予感がした。各校の練習問題でも、「停電時の対策」は記述の定番だった。プールの水を飲用水やトイレ排水に使えないかなど、真剣に下調べしたものだ。

しかし本番では防災関連の要求室が一切なく、うたわれているのは「健康増進」や「世代間交流」といったお気楽なスローガンばかり。想像される災難といえば、せいぜい地下水がプールのピットに浸水する程度だ。

そして解答例を見て気づいたのは、今年の「災」とは「防災関連の足切り」ではないかということだ。防火区画も延焼ラインも、建物内外での火災に対する基本的な防災対策といえる。

奇しくも合格発表4日前に、札幌でスプレー缶のガス抜きを原因とする、大規模な爆発事故が発生した。もしガス漏れを検知して瞬時に自動閉鎖するシャッターが備えられていたら、ここまで大参事にならなかったのかもしれない。

国内屈指の頭脳集団と噂される製図課題作成チームは、「今年の漢字」だけでなく試験後の事故まで予言していた。きっとこうした受験生の驚きや反応まで、すべてお見通しなのだろう。