沈黙の製図試験…解答図面のパラドックスと、プールサイド柱の真相

製図試験の合格者と一緒に発表される、標準解答例の見どころは多い。例年との違い・新傾向など網羅して紹介しようとすると、それだけで本が一冊書けそうなくらいだ。詳しい分析は学会の研究者に譲るとして、ほかにも気づいた点をメモしておこう。

まずは避けて通れない今年の解答例に見られる特異な現象、「プールサイドにある変な柱」について考えてみたい。

「この図面はウソである」

周知のように、標準解答例はあくまで合格の最低水準であって、100点満点の模範解答ではない。そう考えると、「この図面は少し嘘をついています」という自己言及パラドックスのような観点も想定せざるをえない。

なお、標準解答例は、合格水準の標準的な解答例を示すことを意図したものです。

「標準解答例の公表について」 建築技術教育普及センター

このようにうたわれている以上、すべてが嘘であるとか、まったくランダムに合否が決まっているとは考えにくい(もちろんこれも仮説だが)。

試験元がよほどクレイジーでなければ、「図面に書いてあることはだいたい本当だが、何割かはウソが紛れ込んでいる(減点要素を含んでいる)」とみなすのが妥当だ。でないと明らかにエラーとしか思えない、①案1階の利用者階段、狭すぎる出入口などは説明がつかない。

そしてこの推論の手がかりとなるのが、「一見書き間違いとおぼしき、プールサイドの柱」だ。

プールサイドに残された柱

標準解答例①の1階プールサイド北側に、約80cm四方の不思議な四角形が存在する。最初は廃プールの呪いで、自分のダウンロードしたPDFにだけ出現した怪奇現象かと思った。

しかし、ほかにも四角を発見した受験生はいるようだ。一見したところ、隣にあるプールの柱(大スパンのPC梁を支えるため他より少し太い)とまったく同じなため、「これは柱の消し間違い…うぷぷ(笑)」と考えてしまう。

配管ピットの点検口かとも思ったが、それにしては線が太すぎる。プールの西側には上階の持ち出し部分を支える丸柱が2本あり、それとも異なる表現だ。隣接した機械室から地中を通して配管された、DSの給気・排気口かもしれない。

あるいは採暖室を利用するのに、プールサイドを遠回りしないといけない「健康づくり」に配慮された障害物だろうか。解答例②に出てくる更衣室Bの奥まった配置といい、今年の答案はやたらと利用者の動線を伸ばして、ウォーキング・エクササイズさせる傾向がある。

しかし、これまで解答例をじっくりチェックしてきた経験からすると、こんな凡ミスを図面に残したまま、試験元が答案を発表するはずがない。数日考えてたどり着いた結論は、やはりこれも「意図的に紛れ込ませたエラー」という解釈だ。

ファイル名の末尾に「-r2」

それを裏付ける証拠がある。

JAEICのウェブサイトに公開されている過去3年分の標準解答例のうち、この平成30年版だけファイル名が「1k-h30-hyojyunkaito-r2.pdf」となっていて、末尾に「-r2」が付いている。

普通に考えるとこれは、リビジョンかリリースを示すr。そしてこのファイルは「バージョン2」という意味だ。

合格発表前に何かが起こった

以下はすべて仮説だが、おそらく今年の合格発表前に「何か不測の事態が起こった」。たとえば一部の採点者に採点基準のポリシーが正しく伝わらず、致命的な採点ミスが発生した。例年であれば受かるはずのない受験生が合格し、受かるはずだった受験生が不運にも落ちている状況。

すでに12/10に行われた国交省の「第2回中央建築士審査会」で、合格基準や合格者リスト、各ランクの割合も決定してしまっている。今から採点をやり直して、合格者をシャッフルすることはできない。

そして考案された苦肉の策が、「図面に明らかなケアレスミスを紛れ込ませることにより、採点基準をうやむやにする」という作戦だった。「こんなアホみたいな失敗をしても許される試験だから、誰が受かっても不思議でない」と思わせるための…

答案①のプールサイド柱、2階の利用者トイレ前袖壁は、こうして後付け挿入された異物でないかと思う。ほかにも①で「機械室への採暖室経由アクセス」など、設計ミス以前の嫌がらせとしか思えない表現も同様に。

すでに解答例のPDFファイルは関係者に配ってしまっている。混同を避けるため、ファイル名に-r2とつけた。そして訂正しないまま、JAEICのウェブサイトでリンクを貼ってしまった。

慎重に審議されたダミー柱

もちろん、少なからぬ業界関係者がファイル名の変化に気づくことは想定内だ。あえてそのままリリースしたのは、試験元、特に採点チームの「こっちも苦労してるんだぜ」という愚痴っぽいメッセージでないかと思う。

おそらく12/20の発表前に、徹夜で対策を討論したのだろう。「プールサイドの消し忘れ柱」も、様々な位置やサイズを検討したうえで、慎重に選んだ表現でないかと思われる。

プールの中に柱を立てたら、さすがにやりすぎでクレームが殺到する。プールサイドの余白、もっと邪魔にならないところに立てたら、日建学院の課題に出てきたような「モニュメント」でないかと誤解される懸念がある。

2つの柱の間に60cmくらい隙間はあるので、人や車椅子もぎりぎり通れる。倉庫の扉も塞いでいない。しかし更衣室と採暖室を行き来する動線上にあり、明らかに邪魔だ。

見れば見るほど、よく考えられた位置に置かれた障害物に思われる。この絶妙な「さりげなさ」が、かえってわざとらしい。

採点官の苦労を察する

建築士の受験業界において、某学院の営業担当者と同じくらい憎まれ続けている製図試験の採点者。今年の解答例を見る限り、彼らにも少しは人間らしいところがあるように感じた。

もしかするとたった数名の課題作成者が、2か月間不眠不休で数千枚の答案をみずから採点しているかもしれないのだ。「足切り答案はアルバイトが仕分けしている」というのも憶測にすぎない。

これだけ不透明な試験なのだから、受験者に対して不公平にならないよう、採点側もすごく気をつかってくれていると考えられなくもない。真相はやぶの中だが、ふと「試験元=性善説」をとなえてみるのも一興かと思った。

この標準解答例に対する質問・問合せについては、一切お答えいたしません。

「標準解答例の公表について」 建築技術教育普及センター

「答えられない」のではなく「答えるつもりはない」。あくまで試験元は沈黙を保ったままだ。