平成最後の製図試験「スポーツ施設」。試験後の感想として「今年は簡単だった」というコメントが多かったが、そのわりにランク4の失格率が25.9%と異常に高いのが気になる。
製図試験に落ちても採点済みの答案は返却されない。不合格通知に書かれたランク2~4の区分が、答案に対する唯一のフィードバックといえる。このランクと標準解答例を見比べて敗因を推測するのが、翌年の再受験に向けて最初に行う作業だ。
標準解答例の強調され具合を見て、今年の足切り項目は防火区画でないかと仮説を立てた。しかしそもそも「ランクIV」とはなんなのだろう。俗にいう「足切り、ドボン」というのは、本当に存在するのだろうか。
試験元から発表された資料を読み込むと、「防火も延焼も失格理由でない」という逆の説も思いついた。あえてそう考えた理由を説明してみよう。
ランク4の意味するもの
「合格基準等」の資料に書かれている「採点のポイント」と「採点結果の区分(成績)」を見比べると、「ランクIV:設計条件及び要求図書に対する重大な不適合に該当するもの」の説明が、「(5)設計条件・要求図面等に対する重大な不適合」とよく似た表現になっている。
「及び」が「・(中黒)」になっているのと、「要求図書」が「要求図面等」に言い換えられている違いはある。しかし常識的には、同じ内容を意味していると考えて間違いないだろう。するとランク4とは、この「採点のポイント(5)に該当する人」と考えるのが自然である。
(5)に挙げられた7つの項目のうち、今年4人に1人も引っかかった落とし穴、通称「ドボン」とはなんだったのだろう。文脈からして、このうち1つでも引っかかったら終わりと考えられる。
⑦設計条件からの著しい逸脱
①~⑥までは論拠が明確だが、「⑦その他設計条件を著しく逸脱しているもの」という条件だけ妙に曖昧だ。
法令集の条文によく出てくる「その他これに類するもの」という逃げ口上に、よく似ている。少なくとも「設計条件からの逸脱」なので、「図面に食べかすをこぼして汚した」とか、しょうもない理由は含まないと推測される。
法規であれば、用語の定義が前の条文に書かれているはずだ。そして問題用紙を見直すと、設計課題として「I. 設計条件」「II. 要求図書」という2つの見出しがある。すると⑦の逸脱規定には、「II. 要求図書」に書かれた内容は含まれないと考えられる。
たとえば、「直通階段に至る歩行距離」は重要そうだが、①~⑥では言及されていない。「II. 要求図書」の方に記載されている条件なので、⑦の逸脱にも当てはまらない。すると、うっかり避難経路を書き忘れても、それを理由にランク4失格とはならない(大減点はあるかもしれない)。
逆に「I. 設計条件」に書かれたことであれば、「コンセプトルームがいまいちおもしろくない」という理由で不適合になるかもしれない。「著しく逸脱」の程度が読めないので、採点官がなにを重視しているかによって「著しく」状況が変わってくる。
たとえば今年は、「世代間交流がいまいち感じられない図面はすべてランク4」という採点基準すら想定できるのだ。
防災関連は重大な不適合にならない
この論法でいくと、防火区画や延焼ラインに関する指定はすべて「II. 要求図書」もしくは欄外「防火設備等の凡例」で行われている。そして採点のポイント(5)①~⑥にも明記されていない。
すると、あれだけ警告されていたにもかかわらず、これらは「重大な不適合」に該当しない可能性がある。たとえマル防・マル特マークをひとつも書かなかったとしても、それを理由に失格とする根拠が見当たらない。
仮に(5)の内容が①~⑦の和集合でなかったとしても、あくまで対象は「I. 設計条件」であって「II. 要求図書」には言及していない。(5)の文章が「要求図面等」であって、ランク4の「要求図書」と完全に一致させていない理由はそこかもしれない。
問題用紙を見直すと、「II. 要求図書」のサブカテゴリ―として「1. 要求図面」「2. 面積表」「3. 計画の要点等」の3つがあるとわかった。すなわち「要求図面等=要求図書」である可能性も否めない。
きっと試験元は、こんな細かい言葉の使い方にまでいちいち神経をとがらせている。標準解答例の図面上に、微妙な袖壁があったりなかったりする些細なディティールも、何か意味があるに違いない。
ランク4=失格でない説
もし防災関連が失格事由には該当しなかったとしても、さすがに減点対象にはなりそうな気がする。そして減点が増えた結果、自動的にランク4になったと考えることもできる。
区分表記は「ランクI~IV」と連続していて、「ランクI~III、それ以外(失格)」とはなっていない。するとランク4だけ別枠でなく、「減点が積み重なるにつれて徐々にランクが下がっていく」という採点方式も想像できる。
今年ランク4の割合が多いのは、「一発アウトのドボンにはまった人」が続出したわけでなく、単に評価項目が例年より多く、採点してみたら得点の低い人が多かったというだけでなかろうか。あるいは採点者の気が変わって、得点分布の最下層カテゴリーを広げただけかもしれない。
すべて仮説にすぎない
製図試験の受験業界では、「合格基準等」の通達をもとに「ランクIV=重大な不適合=(5)の該当者」と当然のように考えられている。しかし、合格ラインとみなせる標準解答例は発表されるものの、「これをやったらランクIV」という図面は永遠に出てこない。過去の合格図面をかき集めて、該当理由を帰納的に推しはかることしかできない。
やはり製図試験はブラックボックスだ。昨年リゾートホテルの北側客室配置も、業界では即ランクIIIの落とし穴だとみなされているが、それすら仮説にすぎない。検証したくても、サンプル数が全然足りない。
もしかすると予備校の指導方針をかく乱するために、無作為に不合格者を抽出して合格させる小細工まで行われているかもしれない。そうすれば毎年、再現図面の出来が悪いのに「なぜか受かった」という人が出てくる理由も説明がつく。