一級製図試験の標準解答例によると、今後はトイレに窓が必須らしい

平成30年製図試験スポーツ施設の標準解答例を見て、1階にやたらと非常口らしき扉が多いのは気になった。2案に共通して現れる特徴は、試験元からの「ぜひこう解釈・表現してほしかった」というメッセージに受けとめられる。

もうひとつ、今年の図面2枚に共通して見られる、あからさまな特徴を取り上げてみよう。「トイレに設けられた窓」だ。便所は地味だが毎年必ず出てくるパーツ。今年の解答例でどのように表現されているか、じっくり観察してみたい。

窓のあるトイレ

標準解答例を見ていて不思議に思うのが、①②とも「全階・ほとんどの便所に窓がある」という現象だ。

外壁に面している利用者用便所には、男性用・女性用とも内部に幅1mくらいの開口部が設けられている。しかも、わざわざ北の延焼ラインにかかって防火設備が必要になる壁にまで開けられている。

予備校課題において、トイレは階段室・EVと同じくバリエーションの少ない「捨てパーツ」。各階設置は欠かせないが、利用者・管理者用で適当な広さ、便器の数を調整すれば、中身について考える必要はない。

そして、これらコアパーツはRCのメクラ壁として、開口部を設けないのが一般的だ。いちいちトイレや階段の途中に窓を設けて、わざわざ作図の手間を増やすのはナンセンス。防火対策の懸念も増える。

製図試験における便所とは、「単に用を足せればいいデッドスペースの暗がり」だと考えていた。しかし解答例では男女とも共用部に窓が設けられ、ホールのように明るく開放的な空間が実現されている。

今年の解答図面に見られる共通点からすると、今後は「便所に窓を設けると好印象」と考えて間違いない。来年の受験生は作図の手間が増えて大変だと思うが、ぜひ細かい部分で気配りをアピールしてほしい。

便所のレイアウトは「問」型推奨

毎年確実に書かされる、コアパーツの推奨仕様変更はかなり重要だ。トイレのディティールをさらに追及してみよう。

階ごとの便所設置場所に関しては、②の3階がダンススタジオに場所を明け渡している以外、ほぼ上下一致している。PSの通りが良くなるうえ、図面を相似形にして作図中に記憶しやすく、そして縦横線を一気に引けるメリットがある。

そして男女・多機能トイレのレイアウトは典型的な「問」型だ。図面①の1階トイレのみ、廊下を挟んで多機能トイレが分離するが、なんと男女ロッカー室の出入口間に挟むという超絶技巧が見られる。

今年の課題で、男女更衣室の入口に銭湯の番台のような受付カウンターを設けるというアイデアはあった。しかしそこにあえて正方形の多機能トイレを押し込み、線対称の「問」パターンを維持するというテクニックがすごい。

基本的に製図試験では、「要求された機能が収まっていれば、プランの美観は問われない」と考えていた。しかし、廊下を挟んでもシンメトリーなトイレにこだわっているところを見ると、局所的な整合性というのは案外ポイントが高いようだ。

職員用のトイレは必要なし

今年の標準解答例は当然のように全階、利用者用の便所が設置されている。しかしスタッフ用のミニトイレは②の1階にしか表現されていない。

自分は職員の利便性を考えて、「サービスゾーンも全階トイレを置くべきだ」と考えていた。本番でも倉庫・収納のたぐいは減らして、しっかりスタッフ用の便所を設けたが、これは不要なポリシーだったようだ。

今年のスポーツ施設では、職員もインストラクターも「利用者用便所を共同利用 or 1階まで下りて使う」という簡易方式で問題なかったらしい。「自分が頻尿だから」とか、勝手な都合を試験に持ち込むべきではなかった。

多機能トイレのサイズ

今年の課題では、多機能トイレに「オストメイト」が明記されていた。車椅子用の便座と、ストーマを洗えるシャワー付きの洗浄台を設けると、2×2mでは狭いのではないかと考えていた。複数人で同時に使うことはないと思うが、最低2×3m。床面積は「適宜」だが、できればもっと広い方が利用者に親切な気がした。

図面を見ると、2案ともすべての階に多機能トイレは完備されている。ということは1つでも設置を省いたフロアがあれば、減点は免れなかっただろう。

しかし①の1階、②の全階にある正方形の多機能トイレは、一辺2~2.5mしかないようだ。予想したよりだいぶ狭い印象だが、「多機能トイレはとにかく各階に設けてあればOK。むしろ無駄にスペースを割く必要はない」というメッセージに見える。

トイレ内のSKブース

解答例②のトイレには、男女どちらかに「SK」と書かれたブースがある。位置的に掃除用の流し台(Sink)の略かと推測するが、SS(スチールシャッター)のように自分が知らない専門用語なのかもしれない。

解答例①の方にも同様の四角が全階トイレに書かれているが、こちらは無表記だ。要するに、「SKの文字はあってもなくてもよいが、便所ブース1つは潰して流し台にすべし」という御達しだろう。

①はすべて男子便所だが、②の3階は女子便所に流しがついている。とにかく全階バランスよく、男女どちらかにシンクを設置しておけばいいと思う。

トイレ前に謎の袖壁

トイレまわりで一点気になるのが、解答例①の2階。利用者トイレの入口に、奇妙な袖壁らしきものが見えることだ。最初は入口を目隠しのためかと思ったが、他のフロアや図面②にはそのような表現がみられない。

そして利用者視点で考えると、トイレ前の通路にこんな出っ張りがあると邪魔で仕方ないと思う。きっと激突者やクレームが殺到して、「衝突注意」とWordで出力した、みっともない張り紙が掲示される。端部はゴムの緩衝材で補強されるだろう。デザイナーとして敗北を実感させられる瞬間。よくある運営側による「やっつけ改修」だ。

トイレの入口にいたる動線をわざと迂回させて、スッキリ感への期待を膨らませるという演出だろうか。膀胱が膨らんで苦しくなるだけだろう。車椅子使用者は多機能トイレの方を使うからよいとしても、なぜ廊下と便所をダイレクトに接続しないのか気になる。

あるいは「こんな意味不明な壁をつくっても許す」「間仕切り壁を消し忘れても大目に見る」というメッセージだろうか。減点はするかもしれないが、やらかしても十分合格できるという意味だ。

些細なディティールでも、あえて1フロアにだけ表現してあるところを見ると、必ずなにか意味があるに違いない。

空間的に豊かなトイレ

便所ひとつとっても、標準解答例を読み込むと様々な発見があった。自分は過去2年分しか受験していないが、もっと長く関わっている人ならさらにいろいろ気づくのだろう。まるで謎解きのようだ。

特にイレギュラーなトイレ窓がプッシュされている点からすると、今年は「健康づくり」のため、気持ちよい排泄空間が重視されたと考えられる。確かに食事と同じく人間に欠かせない行為なので、空間的に豊かなトイレを設計しても悪いことはない。むしろカフェと同列に扱って、桜並木や公園に向けてもいいくらいだ。

今年の記述、「隣地他施設との一体的使用」に対して自分は「便所の共通利用」と説明してみた。トイレに着目したことは、案外的を得ていたのかもしれない。全然いいアイデアが思いつかず、苦し紛れでひねり出した下ネタだったが、なぜか試験元とウマが合ったようだ。