製図試験テクニック~プールと更衣室の配置は結局3パターンしかない

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プールと機械室の階構成に続いて、宿題だったプールの平面的レイアウトを整理してみよう。さらなる深層学習を続けた結果、どうやら今年のスポーツ施設、プールと更衣室の接続パターンはわずか3種類にまとめられるようだ。

屋外テラスのように「一体的に利用」特記がなくても、ウェットゾーンの動線制約からプールと更衣室は不可分といえる。どちらもそれなりの面積をとる要求室である以上、プールの配置が先に決まればその後のエスキースに安心して取り組める。逆に言えば、プールの位置を決めずに他の大部屋や階段・廊下をもてあそんでも、永遠にエスキースは終わらない。

日建学院の後半課題は異質すぎて、定型パターンからやや逸脱する更衣室配置も現れる。ただし、プールが標準的な長さ20~25m&幅8~10mであれば、以下のいずれかに必ず当てはまるはずだ。

①プール縦型

「自由度が少ない=エスキースが簡単」な順に説明しよう。簡単のため敷地は整形で、グリッドも日建課題のように切り欠きがない矩形と仮定する。

まず敷地の短辺側にプールを縦型で押し込める場合。この規模のプールなら更衣室は男女それぞれ50~100㎡は必要なので、縦型プールの唯一開かれた間口をほかの動線と奪い合うことになる。

スポーツ施設のプール縦型配置案

プール縦型

プールが縦なら更衣室は横長にして、短辺側でプールに接続するのが基本形だ。短辺4スパンとすれば、男女更衣室で各1~1.5スパン使用。残りは避難経路を兼ねて、管理用廊下をつなぐとすっきりする。

もしTAC課題7のように、同一階からプールを見渡す変なカフェみたいな利用者部門が出てきたら、管理ゾーンとの接続を省いて更衣室~プール動線を共用するとベター。特に縛りがなければ、縦型配置の場合「プールを見渡す」的コーナーは上階に上げた方がいい。

プール縦型で可能なシンメトリー平面図

うまくいくと、更衣室を中央に挟んで利用者・管理廊下をシンメトリーにプールに連絡する美しいプランができる。プールサイドから直通階段にいたる避難経路が2方向確保され、重複距離も少ない理想のレイアウトだ。

プール縦型、日建2Aと3Bの答案例を合成すれば、見事に線対称な美しい平面図を書ける。さらに右のユニバーサルスペースにTACの課題3、三層吹抜けを囲む回廊まで追加できればパーフェクト。

利用者階段を吹抜けに設ければ、更衣室へのアプローチをまるでオペラ劇場のようにゴージャスに演出できる。これが公共施設なら、「無駄な吹抜けを潰して卓球台のひとつでも増やせ」と納税者からクレームが寄せられそうだ。

試験本番でこんな大技を決めることができたら、エスキーサー冥利に尽きる。

②プール横型・更衣室短辺接続

もしプール縦横どちらを選んでも解けそうな楽勝問題だった場合、基本的にプールは縦置きした方が余白が正方形に近く、残りの部屋をさばきやすい。横置きだと余白が細くなるので、プールのほかに大空間があると、廊下を通すのに苦労する。

横型プールが推奨されるケースは、プール室に採光でなく日照指定があって南に寄せる必要があるとか、TAC課題8のようにプールの長さも幅も大きすぎる場合だ。プールが横置きになると、更衣室はその長辺・短辺どちらにも接続できる。

プール横置きの場合、短辺側に更衣室を押し込めて上半分を共用~管理ゾーンと考えれば解きやすい。特にプールが1階の場合は、この方法でエントランスホールを確保しないと苦労するはずだ。

更衣室~プールL字動線のつくり方

「プール横型・更衣室短辺接続」の場合、必然的に更衣室からプールに抜ける動線がL字になる。プール縦型でも、男女更衣室をプールと平行に並べると同じ問題が生じる。

スポーツ施設のプール横型配置案

プール横型・更衣室ずらし

L字動線を実現する方法は、プール側の更衣室をセットバックして奥側更衣室に通路を開けるか、共用の通路を設ける2パターンしかない。

個人的な好みとしては、できれば共用廊下をつくって更衣室は男女対称形にしたいところ。通路に余計な面積を取られるが、作図に手間のかかる更衣室内のロッカーやトイレを相似形にして、少しでも時間短縮する工夫だ。

スポーツ施設のプール横型配置案

プール横型・ドライ通路

共用廊下は更衣室の入り口と出口、ドライ側とウェット側のどちらに設けてもよい。ここもできればウェットな方に設けた方が、更衣室を出てからプールにいたるまでのドラマチックな空間体験を演出できる。

足洗い槽やシャワースペースを通路内で男女共有して、竪穴区画の防火戸もプール出口の一か所で済む。さらに水着姿の男女の出会いまで計画することができ、ウェット廊下はいいことづくめだ。

スポーツ施設のプール横型配置案

プール横型・ウェット通路

共用廊下の奥にデッドスペースが生じるが、ここはダクトや倉庫がふさわしい。もしプールサイドが手狭になったら、特記スペースのうち器具庫程度は押し込められるだろう。

監視員室は言うまでもなく、採暖室が廊下の突き当りにあるのはちょっと変だ。間口も2m程度しかない。それよりは採光・通風のため、行き止まりを開口部として残しておく方がいい。

③プール横型・更衣室長辺接続

3つ目はプール横置きで、その長辺側に更衣室がつながるタイプ。課題的には一番自由度が大きいので、おそらく試験本番はこのパターンに誘導されそうな気がする。

スポーツ施設のプール横型配置案

プール横型・更衣室長辺接続

プールと同一階に整形で4~6コマ必要なホールやテラスを要求された場合、横置きだと短辺側の余白(②パターンの更衣室位置)に押し込めるしか術がない。そうでもしないと、階段コアや廊下を通すことが難しくなる。

すると更衣室は、プールの長辺側にのっぺり貼りつくことになる。更衣室がプールに間口広く接するので、採暖室や器具庫をめり込ませてプールサイドを空けることもできる。ただし男女合わせて2~3スパンは食うので、下階からの吹抜け要求があると、管理廊下の接続とどちらを優先するか悩むだろう。

この場合もやはり、プール観覧系の眺望指定ラウンジは上階に持って行くのが上策だ。吹抜けはできれば通風採光のため建物中央部に設けたいが、プール際が手狭なら妥協して外壁に寄せるしかない。

短辺方向はプールで2スパン、更衣室で1スパン、あまった桁行1スパンが階段コアと廊下、便所や小部屋に割り当ててられる。この配置パターンでは、階段とエレベーターを隅に固めるのでなければ、2コマ使って分散させないと廊下を通せない。

2コマ使ったエレベーター横の空きスペースは、任意のラウンジや受付、喫煙所など多目的に使えるおいしいスペースだ。どのスクールの解答例を見ても、2~3階の開放的なEVホールが重視されているようで、「エレベーターを下りたら吹抜け」というパターンが多い。

なるべく避けたい更衣室分離

なお、プール横型の場合に、特殊な条件設定で男女更衣室を離すパターンも想定される。間に吹抜けを挟む程度で済むならよいが、極端になると「片方はプール長辺、もう一方は短辺側に接続」というケースもありえる。

スポーツ施設のプール横型配置案

更衣室分離

セミナー室やスタジオABを分離するのと同じで、プランの整合性が損なわれ、利用者もわかりにくくなるだろう。特にそうする理由がなければ、更衣室の分離はできるだけ避けた方がいい。

バリアフリーな小更衣室が単独要求された場合、基本的には男女更衣室の間に挟むのが、出入り口を集約できてスマートだ。唯一例外として、エレベーターから更衣室が遠い場合に、動線短縮のため車椅子利用者用更衣室のみ切り離してEVホールに近づけるのはありだと思う。

それ以外のパターン

日建・TACの基本課題は上記3パターンのいずれかに必ず当てはまる。たとえ広場や駐車場でグリッドを切り欠いても、プールと更衣室の接続パターンはこれ以外選びようがない。

ただし一級建築士の製図試験は、事前に何十種類も提案された予想問題のどれにも当てはまらず、常に予測を裏切るという稀有な特徴を有している。サプライズは予測できないのがサプライズたるゆえんだ。

上記3パターンに収まらないプール配置を要求される可能性は、大いにあり得る。それ以外のイレギュラーなパターンを、思いつく限り挙げてみよう。

  • 下階の更衣室から縦動線で利用者をプールにぶち上げる
  • プールサイズが1コマで済むほど極小なため、いかようにでも更衣室を配置できる
  • 屋上のヘリポートから訪れるVIP会員専用のラウンジ、プール、更衣室を設ける
  • 別棟の既存部に更衣室を設ける指定があり、Exp.J付きの渡り廊下をプールにつなぐ
  • 総合運動公園のどこかで着替えた水着星人が、ペデストリアンデッキとエスカレーターを伝って敷地外からやってくる
  • プールはウナギの養殖や庭園からの観賞用で、そもそも人が泳ぐものではない

もしこれ以外の方法でプールと更衣室がつながるとしたら、課題作成者の想像力に脱帽だ。そんなエンターテイメントを楽しませてくれるのなら、今年の製図試験に落ちても悔いはない。