一級建築士製図試験史上、最も濃い線を書く方法

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一級建築士の製図試験に合格した先輩方に話を伺うと、「とにかく線を濃く書け」というアドバイスをよく受ける。

ランク1・2を分ける最後の決め手は図面の印象。いかにも自信がありそうなメリハリのある線で、濃く書いてある図面はプラス評価といわれる。噂では「その年で一番図面が濃かった人が合格できる特別枠」まで用意されているという(冗談)。

線が濃いと受かる理由

試験後に発表される「採点のポイント」には、「線が濃いこと」なんて基準は書かれていない。しかし人間が良否を判断する試験である以上、「見た目が9割」で判断されていても不思議はない。

  1. おっ、この図面の濃さは十分だな。ゾーニングと動線だけチェックして…よしOK、問題なさそう。はい合格!
  2. う~ん、こちらの図面はちょっと薄いなあ。どれどれゾーニングは問題ないけど…ちょっと便器の数が少ないかも。植栽もいまいちセンスがないなあ…減点、減点、はい残念。

線の濃さが直接の採点項目でなくても、見た目の印象がよくないとあら探しされやすいというのが大方の見方だ。基本部分で同点だった場合、どちらの図面を落とすか…そういう局面で表現力が影響するという説には、一抹の説得力がある。

昨年は0.7mmのシャーペンに2Bの芯で試験に臨んだが、ただ太くて濃い芯を使えばよいという問題でもない気がしてきた。副作用として図面が汚れやすく、線が太くてぼやけてしまうというデメリットもある。

製図用紙の紙質と自分の筆圧・握り方・書き方など、多くのパラメーターが絡んでくる問題。シャーペンと芯をいくつも組み合わせて、ベストなセッティングを追求してみたい。もしかすると、ロットリングや烏口で清書する濃さNo.1のスーパー受験生が存在するかもしれないが、現実的にはシャーペンで書くほかない。

物事には形から入るタイプなので、作図やエスキースより文房具が気になって仕方ない。いいペンに巡り合うと、それだけで実力アップしたような錯覚にひたれるのがやばい。

0.7~0.9mmの2B芯でも不合格

製図用のシャーペンは長年ステッドラーを使っていたが、ぺんてるのグラフ1000 for PROを試してみたところ非常に感触が良かった。0.7mmで2Bの芯を入れると、壁や開口部にねっとりした濃い線が書ける。

特にこだわりがなければ、製図ペンは「グラフ1000の一番高いやつ」を買っておけば間違いない。

テンプレートで柱を書くときだけ筆圧が弱まるので、製図用ではないプレスマン0.9mmの2Bを使うというのが現在の基本装備。それ以外は記述も下書きもグラフ1000、1本で通している。作図時間を短縮するには、シャーペンを持ち替える手間すら惜しい。

力が入りすぎて「普通の製図用シャーペンでは芯が折れまくる」という人は、プレスマンを試してみたらどうだろう。どんなに雑に扱っても、まだ一度も芯が折れるのを見たことがない。

図面の濃さでは誰にも負けない自信があった。しかし、日建学院の模試でほかの受験生の図面を見ると、自分よりも濃い人がざらにいる。0.7mmと2Bの組み合わせはかなり攻めている方だと思うが、それよりも筆圧が物を言うのだろうか。図面を並べて比べてみると、確かに濃い図面の方が見た目はいい。

太芯の欠点は字が潰れる

0.7mmの欠点としては、家具や什器を書く際に筆圧をゆるめると、妙に薄くて太い野暮ったい線になってしまうことだ。さらに室名や注釈を書き込もうとすると、太すぎて漢字が潰れてしまう。作図で書くのは線だけではないのだ。

医務室(28)

こまめにシャーペンを回しながら、紙に芯の当たる角度を変えれば線のメリハリを回復できる。ただし、芯の角を当てるので粉が散って図面が汚れるし、2スパンも壁を書けばまたすぐ芯が丸まってしまう。

太芯で書く線が安定しないのは、芯の片減りによって、むらができやすいためと思われる。また、紙が汚れるというデメリットも、手でこするからというより砕けた芯の微粉末が散らばるのがそもそもの原因と推測される。1ストロークごとにシャーペンを回転させればソリッドな線を書き続けられるが、角が当たる以上、どうしても粉が散りやすくなる。

シャーペン芯の剛性と衝撃吸収性

芯が2Bで柔らかすぎるのも問題かもしれない。試しに0.7mmのまま芯だけBに替えると、図面の濃さはさほど変わらないが、線が細くて引き締まって見える。芯はある程度固い方が、筆圧をかけても折れる心配がなく、その分ダイレクトに荷重を乗せて濃い線がかけるという仮説も立てられる。

ちょうど自転車のフレームやホイールを評価するように、製図用シャーペンにおいても「剛性=パワーの伝達性能」と「振動/衝撃吸収性=疲れにくさ」というのはトレードオフの関係にあるのだろう。

6時間半の製図試験、握力が弱くて腕が痺れるというなら、ロングライド向けの柔らか芯にドクターグリップのようなゲル入りシャーペンもありかと思う。ただし、印象度アップに向けて濃い図面を目指すなら、スプリント志向の高剛性な装備で固めて、筋肉の方を強化するしかない。

線の濃さと太さは違う

実験して気づいたのは、0.7~0.9mmの太線は一見印象良く見えるが、よく見ると細かい部分が潰れて雑にも感じてしまう。もし0.5mmで同じ濃さを達成できるなら、線は細い方が図面全体ぐっと引き締まって見えるはずだ。

特にガラスの断面線は、中心の太線と両端の細線にメリハリを効かせた方が見た目に美しい。0.7mmでうっかり油断すると、両者が合体して1本のぼやけた極太線に見えてしまうこともしばしばある。

窓ガラスの線が太すぎる失敗例

メリハリという観点で考えれば、壁の実線は思い切り濃くする代わりに、什器やタイル目地を意図的に薄く書いてコントラストを強めるという作戦もある。ただ、すべての線が濃くて押しの強い図面と、さりげなくメリハリを効かせて洗練された図面、どちらが好印象かは採点する人によりそうだ。多少汚れていても、全体が濃い図面の方が「勢いがあってよい」と評価されそうな気もする。

とにかく「線を不用意に膨らませないで、なるべく濃く書く」方針で追及してみると、芯の太さは0.5mmという結論に落ち着く。普及サイズなので、芯の種類を多く選べるというメリットもある。

クルトガの回転力で筆圧倍化

記述用に「字がきれいに書けるシャーペン」を探しているうち、ふとこれらは作図にも使えるのではないかと思いついた。特にMONO消しゴム一体型のモノグラフは、ペン先も製図仕様で完璧にフィットする。

一方、芯の自動回転機能が売りのクルトガも、安定して細線を書けるなら作図もありな気がする。「シャーペンを回しながら書いて芯の片減りを減らす」という発想は、まさにグラフ1000を使いながら考えていたことだ。

さいわいKURU TOGAシリーズにもモノグラフと同じく、金属軸で製図ペンライクなローレットモデルが用意されている。

手動で軸を回そうとすると、1タッチごとにコンマ数秒のロスタイムが生じる。握り替えの手間とストレスも気になる。ある意味クルトガの芯回転は、製図用シャーペンにこそ必要な機能ではなかろうか。

また、筆記中に芯が回転するということは、筆圧プラス回転力でペン先を紙にこすりつける力がアップする。明日のジョーを廃人に追いやったホセ・メンドーサのコークスクリューパンチのように、製図用紙を灰にしてしまうほど威力がありそうな予感だ。

オレンズは定規が使えない

実は以前にも、極細線の書けるオレンズで作図できないか試してみたことがある。製図用シャーペン以外で図面を書くというのは奥の手だが、試験としては禁止されていない。

オレンズのペン先

しかしオレンズはパイプで補助して芯の細さをカバーするという特殊機構のせいか、定規に当てるとポキポキ折れまくる致命的な欠点を抱えていた。先端パイプは軸方向の圧縮力には強いが、横から加わるせん断力には歯が立たないようだ。

クルトガの先端沈み込みが気になる

クルトガの場合、パイプ自体にギミックはないので定規を当ててても問題ない。ただし機構上、筆記時に先端部が沈み込むアクションにものすごい違和感を覚える。

クルトガのペン先、定規

プレスマンも芯折れ防止に一定圧力で引っ込む仕組みはあるが、元が0.9mmの極太芯なので滅多なタイミングでは起こらない。デルガードは逆にガード用のパイプがせり出してくる不気味なアクションだ。クルトガの押し込みは筆圧によらず、書き出し時に必ず発生するため、防ぎようがない。

字を書く際は許容できる程度だが、作図となるとペンの先端が動くのは非常に気味が悪い。書いていうちにだんだん慣れてくるが、普通の製図シャーペンに持ち替えると安定感が全然違う。

また、誤解していたのは「クルトガは線を書いている最中は芯が回らない」という事実だ。線を書きつつペン先が回転して濃厚な線を引けると想像していたが、コークスクリュー効果は幻だった。

それでも1スパンごとに用紙からペン先を離せば、回転リフレッシュした芯を当てられるので一瞬線が濃く引ける。回転力2倍のクルトガアドバンスを使うと、線の引き始めは手持ちのどのシャーペンよりも色が濃い。

クルトガ0.5mm+4B芯

試しにクルトガアドバンス0.5mmに市販の最も柔らかい4B芯を入れてみると、とてつもなく濃い線が引けた。長い線を書くのは序盤の寸法線や、外構のフェンス・植栽、プール吹抜けのバッテンくらいだろう。それ以外は長くても1スパンごとの線になるから、クルトガの自動回転が生きてくる。

記述の文章も色が濃い方がインパクトあると思うので、クルトガを使うなら2Bまでしかない専用芯でなく、シュタインやナノダイヤ、ネオックスグラファイトにラインナップされている最高濃度4B芯を装着してみたい。

AIN STEINシャーペン芯のバリエーション

図面は汚れが気になるが、記述は左上から埋めていけば手先でこすれる心配もない。作図の方も、試行錯誤の末、エスキース用の下書き用紙か問題用紙を折って手の下に敷けば、手袋装着より図面が汚れにくいとわかってきた。

0.7mmだと手に入る芯の強度は2Bどまりだが、0.5mmなら4Bまで手に入る。作図の本番で使うシャーペンはクルトガかモノグラフで迷うところだが、あくまで濃さを重視するなら「クルトガ0.5mm+4B芯」が最強という予感。実験では0.7mm+2B、0.9mm+2Bよりはるかにシャープな線が引けた。

製図用シャーペンの筆跡比較

芯が濃くて柔らかいと、消しゴムで消す際に苦労しそうだ。しかし、固い芯で筆圧を上げて書くと、消しても紙に跡が残るという欠点がある。試験本番までに作図に熟達して、消しゴムで消す回数も減っていくと想定すれば、柔らか特濃芯を使うのをためらう理由も減ってくる。

鉛筆なら10Bまである

試験元から出ている「試験当日の注意事項」を読むと、携行品の中で黒鉛筆・シャープペンシルの芯は「HB又はB程度」と指示されている。「程度」という曖昧な表現なので、一段上の2BくらいならOKな気がする。試験中、明らかに他の人より図面の線が濃すぎると、試験官に芯の硬度をチェックされたりするのだろうか。

シャーペン芯なら4Bがマックスだが、鉛筆ならもっと濃い芯が存在する。市販されているのは6Bくらいが限度だと思っていたが、三菱鉛筆のハイユニなら8…9…10Bまで存在するとわかった。

桁違いの10Bなんて一体どんな書き心地だろう。一瞬で先端が丸まって線が太くなりそうなので、出番があるとすれば注釈の書き込みくらいだろうか。

試験本番で配られる作図用紙は、左に2つパンチ穴が開いている。おそらくファイル上に重ねて運搬・採点するのだろう。10B芯まで使うと、他の図面をこすって汚してしまう懸念もある。最後にフィキサチフをスプレーすれば粉も定着しそうだが、ガスも臭いし試験会場で使うのが許されるとは思えない。