天板にマグネットが仕込まれていない代わりに、軽くて安いトレイザーTR-HHEB11。各社製品を比較して選んだコクヨの平行定規について、レビューしてみようと思う。
持ち運び用のナイロンバッグ
新品で購入すると、大きめの段ボールに入った状態で届いた。空き箱は特に使う用事がないが、転売する可能性もあるので梱包用にとっておこうと思う。面積は大きいが、押し入れに収まるサイズだ。
付属のナイロン袋は廉価品とあって簡素なつくり。バリスティックやコーデュラ素材ではない。強度的にハードケースには及ばないが、そこそこ厚みのある生地で、派手にぶつけなければ十分間に合うと思う。
前面に小さいポケットがあり、持ち手をまとめるパーツが付いてくる。
製図用具一式をポケットに入れて、この袋だけですべての道具を持ち運ぶことも可能だ。ただ、上着やペットボトルまで入れるとさすがにかさ張るので、小物は別途バックパックにでも入れた方がいいだろう。
飲み終えたコンビニのコーヒーカップを入れていたら、中身が漏れて図面がべとべとになってしまった。飲食物を平行定規のバッグに入れるのは避けた方がいい。
固定機能は必要なかった
操作系はスケールの右側に集中していて扱いやすい。右手奥側がブレーキつまみで、これを回すとスケール全体が固定される。昨年、知り合いから借りたドラパスの製図版はここが壊れて固定できなかったので、新品を買うのに最も期待していた機能だ。
4mm角で柱を書くときなど、左右にテンプレートを動かして一気に書くときに、安定感が増すのではと思った。試しにやってみたところ、確かに平行移動の際、定規が上下にぶれず楽になった。
しかし、ネジを締めて緩める動作に思ったより時間がかかる。ボタン一つでワンタッチならよかったのだが、柱を1行書き終えるごとにブレーキ固定/解除を繰り返すのは時間の無駄だとわかった。
仮に左右6スパンで2フロア分平面図を書くとして、プロットする柱の四角は1行あたり最高12個。途中にプールや吹き抜け、屋上があれば、数も減る。せいぜい一行30秒もかからない作業なので、そのためにブレーキ動作に3秒ずつかけるのはタイムロスだ。
昨年も別にブレーキなしで作業できていたので、実際使ってみて必須の機能ではないとわかった。柱を書くとき以外に、長時間スケールを固定する場面が思い浮かばないので、ブレーキつまみの操作は不要だろう。こういう改善が積もり積もって、作図スピードアップにつながると思う。
固定機能が唯一役立つのは、製図版運搬時にネジを締めて、スケールが暴れないようにするくらいだ。フリーな状態だと、定規が勝手に最下段まで下がって反転・開閉したりして落ち着かない。
なるべくツマミで角度調整しない
右側ブレーキツマミの手前にあるのが、角度調整ツマミ。とりあえず目測で図面を製図板に張り付け、微妙に平行がずれているようなら、ここを緩めて微調整できる。可動域はかなり広いので、思い切りずれていたとしてもツマミで直せる余地がある。
しかし、スケールが大きく傾いた状態で作業するのは、ロードバイクのチェーンをたすき掛けしているような感じで、機構に負担がかからないか心配になる。数時間の作図中、体がずっとねじれた状態で、姿勢や骨盤が歪まないか不安も感じる。
できればメインのスケールはニュートラルな並行状態に保ち、できるだけ用紙のマス目を合わせて貼り付けた方がいいだろう。一発で決まれば、角度調整する手間自体を省ける。作図中にずれてきたら微調整すればよいが、さすが新品だけあって今のところその必要は出ていない。
もしかすると、右利きなら定規を右上がりにセッティングして、姿勢を楽にするテクニックもあるかもしれない。筆記体を書くのに用紙を傾けるような感じで、視界が広くなる気もする。製図板に対して用紙が傾く気持ち悪さに対して、書きやすさのメリットが勝るようなら実験してみる価値はある。
フローティング量は5段階調整
スケールの左側にはフローティング機構を調整できるパーツが付いている。側面に5つ開いた穴に針金の先端を差すと、それに応じて定規の浮き具合を調整できる。特に工具は必要なく、指でつまんでちょっと浮かせば、簡単に穴をずらせる。
角度を無段階に調整できないのがネックだが、その分、簡単な機構で軽量化・低価格化を実現しているように思われる。故障リスクの面からも、機構はシンプルな方が好ましい。
初期状態では真ん中にセットされており、スケールが結構浮いた状態になっている。薄い定規やテンプレートをそのまま当てると、定規と用紙の隙間に入り込んでしまう。左手で上からスケールを抑え込めば解決するのだが、縦線を引く際、余計にワンアクション必要になる。さらに一か所で長時間押さえていると、左手が疲れて痺れてくる。
試しに下から2番目の穴に設定を変えてみたら、昨年使っていたドラパス平行定規と同じくらいの感覚でストレスなく使えた。建築士.comさんの厚手用紙を使っても、特に隙間が狭くて紙が引っかかる懸念はない。
本番用の製図用紙は結構厚みがあり、鉛筆ののりも良かった気がする。日建学院のテキストに同封されている折りたたまれた粗悪品を使うよりは、アマゾンで専用用紙を買った方が練習にになるだろう。1枚100円と値は張るが、用紙が切れたら今年もリピート購入すると思う。
ドラフティングテープのめくれ問題
スケールの浮き具合を狭くすると、定規は挟まりにくくなる。ただしその代り、図面を貼り付けているドラフティングテープがめくれて、スケールの裏側に貼りつきやすくなる。
特に右下のテープが貼りつきやすいようで、左下プランの一番下の方を書く際、めくれたテープのせいでスケールが上下に動かなくなる。そうなると、いったん押さえつける圧力を弱めて、完全に浮かせてから上下移動させる手間が生じる。
試しに右下のテープだけ外してみたが、今度は紙がめくれて引っかかるようになった。さすがに製図用紙が折れたり汚れると印象が悪くなりそうなので、多少定規に貼りつくのは我慢してテープで固定した方がよさそうだ。
製図用のドラフティングテープがよい
これまではホームセンターで売っている廉価なマスキングテープを使っていた。3Mのちゃんとしたドラフティングテープに替えたら、テープが厚手で少しめくれにくくなった。
YouTubeに出ていた作図方法の動画によると、図面を固定する際は、左上から右下へと対角線上で順番に留めるとずれにくいらしい。いろいろやり方を試してみたが、たいした違いはなかった。製図板に図面をとめるのは儀式みたいなものなので、ジンクスとかあるかもしれない。
ちなみに紙をテープで留める際は、対角線に沿って貼るとテンションが効いて安定する。学生時代、構造力学の先生に教えてもらったテクニックで、建築学科で習った知識の中では実生活で一番役に立っている。
ムトーは無段階調整可能?
初期位置の3番目の穴だと、この現象は起こりにくい。希望としては下から2.5くらいの位置に穴があるとよかったと思う。
ウェブに出ているムトーのライナーボード説明書を読むと、フローティング量をつまみで無段階調整できるようだ。さらに手前側からも浮かせられるセミダブルヒンジらしい。さすが評判のよいムトーの製図板。細かい点で差別化が図られている。
いくつも試して使い比べる類の製品ではないので、迷ったら高い方を買えば間違いなかった。最安のコクヨとそれほど価格差はない。今さらムトーが気になってきたが、平行定規2台も使い分けるほど予算もないので、今年はコクヨでがんばろうと思う。
傾斜は一段階の6度が好み
背面の脚は2段階に開き、6度と9度の傾斜にできる。ここはどの製図板も同じ仕様だろう。普段は1段階だけオープンした6度傾斜で作業している。9度だと脚の接地面積が狭く不安定に感じるのと、傾斜がきつすぎて製図板の上に置いたシャーペンや消しゴムが転がりやすくなる。
図面の上の方を書く際、手前側の脚を机から浮かせて腹で押さえながら作業する癖がある。これだと若干不安定になるので、力を入れて柱や外壁を濃く書きたいときは、椅子から立って屈んで作業している。
エスキースから6時間半も座りっぱなしだと、あちこち体がこわばってくる。作図中は、意図的に立ったり座ったり運動した方がいい。製図試験でエコノミー症候群になったと聞いたことはないが、この姿勢や作業が身体にいいとは思えない。
作図以外の時間はスケール反転
スケールを持ち上げれば90度開くが、一番下まで持って行くと180度反転できる。定規の縁がお腹に刺さる状態になるが、序盤のエスキースや記述の間はスケールが必要ないので、このポジションをキープしている。
特に反転させないとか、一番上で固定しておく人もいるかもしれない。自分の場合は作図以外の時間、製図板を単なる作業スペースとしてストレスなく使いたい。余計な出っ張りが生じないよう、反転させておくと腕周りの動作が楽に感じる。
トレイザーをしばらく使っていると、スケールの裏側が消しゴムのカスや貼りついたテープで汚れてくる。ウェットティッシュで湿り気を与えてから、メガネ拭きやハンカチでこするときれいになる。
ほかは特に注油したり、メンテナンスする個所を思いつかない。製図道具の中では2万円近くする大物。大事に使って本番まで性能を維持しておきたい。
→その後、ワイヤーが外れて壊れるトラブルがあったが、メーカーで無償修理してもらえて1週間で戻って来た。