建築思潮研究所の『建築設計資料』を何冊か読んで気づいたのは、「スポーツ施設」というくくりでは大型複合施設の事例が多いということだ。
製図試験で問われるのはせいぜい2,000㎡程度の敷地に三層構造。温水プールだけでなくトレーニングルームにレッスン用のスタジオまで、典型的なスポーツクラブの構成要素を詰め込むと、それだけでいっぱいになってしまう。
バスケやバレーボールがプレイできる本格用途の体育館までは、25m競泳用プールと同じで出題されない可能性が高い。もし構成要素が絞られるなら、要求諸室をうまく並べてゾーニングするだけの簡単な問題になってしまう。
例年、本番では想定外の設問が出る傾向からすると、あえて「普通の」スポーツ施設は問われない可能性も十分考えられる。試験当日のサプライズ対策として、ちょっと変わったタイプのスポーツ施設を検討してみよう。
「プール以外は出ない」仮説
『建築設計資料』によると、公共のスポーツ施設が郊外に大型で建設される傾向があるのに対し、民間施設は集客のため駅近立地で立体重層化する傾向がある。平成20年は3階以上がビジネスホテル併設だったが、今年も3階平面図が基準階で、実は高層ビルという可能性はないだろうか。
その場合の1~2階も「要求機能は温水プールだけ」というひっかけで、みながこぞって練習するであろう、スタジオやジムが出てこないケースもあり得る。まさにウラ指導シリーズ『合格者たちの勉強法』で警告されている「イメージ誘導」の罠で、市民体育館やスポーツクラブに期待するステレオタイプな諸機能は出てこないかもしれない。
想定外の複合機能にそなえる
昨年のリゾートホテルでトレーニングルームが出題されたので、今年は高齢者向けのリハビリルーム付きデイケアセンターなど、変化球もありえる。課題名に「健康づくりのための~」とあるとおり、スポーツ施設とは名ばかりで、シニアの軽い運動とコミュニティー機能にかたよったゆるい公共建築かもしれない。
さらに「健康増進のためのエクササイズ等を行う温水プール」という説明を素直に受け取れば、50mのインターバルで激しく往復するようなイメージは思い浮かばない。一概にスポーツといっても、教義志向からフィットネス、リラクゼーション、レクリエーション目的の娯楽志向まで、ジャンルは多彩だ。
プール以外の余白を使って、商業施設や貸事務所との複合施設が出題される可能性もある。それこそ街中の公共施設なら、地域図書館に子育て・介護施設、美術館から「ものつくり」体験、防災学習施設まで、無数の組み合わせを想定できる。
そのあたりは各種のテキストやスクール課題で、様々なバリエーションが提案されると思う。どんなぶっ飛んだ設問が出てくるのか、今から楽しみだ。昨年コンセプトルームという自由提案が解禁された今、プールの用途・サイズすら自由に設定させる課題が出てもおかしくない。
プール併設の日帰り温泉事例
昨年の課題でも、事前に発表された「リゾート」というイメージに誘導されて、広めの客室ばかり練習してしまった。一般的なイメージからあえてずらした設定で、揺さぶりをかけてくる手口はわかった。典型的な公共温水プール以外の、変わり種も調べておいた方がよさそうだ。
思いあたる事例として、岐阜の揖斐川町にある谷汲温泉を紹介したい。公式サイトに出ている平面図を見ればわかるとおり、いわゆる露天風呂付きの日帰り温泉と見せかけて、エントランスホールの反対側はプールになっている。
しかも長さ25mに満たない小規模プールで、歩行用・子供用と別れている。施設の規模からしても、今年の発表課題からイメージされる建物に近い。
さらに同町のおおの温泉では、温泉・プールだけでなく2階にスポーツジムまで併設されている。本格的に卓球を楽しむなら、天井高3mくらいは確保した方がよいだろう。
揖斐川町の日帰り温泉は、どちらもたった500円で露天風呂からプールまで楽しめる複合施設。近隣の人は、名物の梁(やな)で鮎料理を食べるついでに見学をおすすめしたい。
プール付き健康ランド
プールはおまけで運動するのは卓球程度、むしろ温泉と飲食、仮眠・休憩スペースがメインの娯楽スポーツ施設かもしれない。地域のコミュニティー形成に貢献するなら、むしろバリアフリーで遊べる設備を増やした方が老若男女で楽しめる。屋外広場はゲートボール場だろう。
「がっつり鍛えるスポーツクラブ」というより、「プール付きの健康ランド」と仮定してみよう。ヒーローショーやビンゴ大会ができるステージ付きの宴会場はマストだ。整体・足つぼマッサージにゲームコーナー、カラオケルームと喫煙所も設けた方がベターだ。
神奈川県にある相模健康センターでは、夜になると宴会場を仮眠室にコンバージョンしている。
大規模な健康ランドなら、リクライニングソファーの休憩室だけでなく、雑魚寝できる畳部屋も期待したいところだ。食事用の大広間を別途設けられるなら、グループ貸し切り利用の小宴会場はフレキシブルに活用できる。
eスポーツかもしれない
あるいは課題のスポーツ施設とは、時代の最先端を狙った「eスポーツ施設」かもしれない。プールで浮かびながら、VRでオンライン対戦を楽しめたらもっとすごい。
仮にeスポーツの国際大会も誘致できそうな本格施設を考えてみよう。ゲームのプレイ画面を投影できる大型のスクリーンを設置し、吹き抜けで観客席も設ける。インフラ面としては、大容量の電力を供給する高圧受電型のキュービクルと非常用電源、サーバールームを水冷式で効率よく冷やすため、屋上に冷却塔も設置したい。
eスポーツについて日本は後進国といわれる状況。にわかに信じがたいが、IOCが本気でオリンピック種目に加えることを検討しているという。オリンピックもいまや商業イベントだから、スポンサーがついて儲かるなら、なんでもありなのだろう。