先日発売された日建学院の設計製図試験課題対策集を眺めていると、答案例に不思議な記号が印刷されていることに気づいた。階段やエレベーターの出入り口、吹き抜けのシャッターなどに、マル特、マル防マークが印刷されている。
日建特有の隠語かと思いきや、図面の片隅に凡例が載っていた。マル特は特定防火設備、マル防は防火設備の略。念のため過去10年の標準解答例を見直してみたが、このような記載を求められた前例はない。
今年の試験では、このような防火設備に関する詳しい注釈が必要になるのだろうか。それとも単なる日建学院の流儀にすぎないのだろうか。気になるのでちょっと調べてみた。
あらためて読み直す課題発表文
7月の課題発表で事前公開された盛りだくさんの情報。4つの見出しのうち、1つ目は課題名、2つ目は要求図書、3つ目は建築物の計画に当たっての留意事項、4つ目は注意事項だった。
4つ目で「上記に違反すると重大な不適合(=ランク3足切?)」と念を押す、恐ろしげな通告あり。さらに「十分に読んで臨むように」という文言から推測されるのは、これらが例年のように試験用紙には記載されない可能性だ。空いた紙面スペースで、名峰やコンセプトルームを上回るサプライズな制約条件が出てくるのが怖い。
あるいは昨年課題リゾートホテルの反省から、当日の設問が超シンプルになり、エスキース用紙もA4サイズに縮小というミニマル化の兆候かもしれない。
昨年はエスキース用紙が敷地図で占有されるという、前代未聞の妨害行為があったばかり。今度は図面に5mmグリッドが印刷されていないとか、資源節約のためにエスキース用紙自体省略とか、姑息な揺さぶりをかけてくる可能性は大いに考えられる。
要求図書に注3つ
情報としての重要度は、3番目の留意事項より、2番目の要求図書注意書きの方が高いだろう。3番目は例年の「計画に当たっての留意事項」が簡略転記されただけだが、2番目のような文章は、これまで書かれた試しがなかった。
どう見ても要求図書リスト以下の注3つが鬼門に思われる。
- (注1)は温水プールの出現を予告している。「健康増進のためのエクササイズ等を行う」という形容詞から、レアな50mの本格競技用プールである可能性はなさそう。
- (注2)パッシブデザインは例年のことだが、今年はさらに重要視されるようだ。間違ってソーラーパネルとか太陽集熱器とかアクティブな方を書いてしまうと、プラスどころか減点の恐れがある。
- (注3)さらに3つのサブ項目に分かれ、延焼の恐れのある部分・防火設備・防火区画・避難施設の、それぞれ「適切な計画」が指示されている。
ここで注目すべきは、上記の注意が3の留意事項にあるバリアフリーや周辺環境より目立つ上段に記載されているということだ。さらには製図試験の最重要項目と言われる「ゾーニングと動線計画」よりも強調されている。
今年は「客室からの眺望」のようなソフトな条件でなく、防火区画の書き漏れや歩行距離・重複距離の超過で、一発ランク3決定してもおかしくない。試験元からすれば、足切採点しやすい落とし穴といえる。
吹き抜けにシャッターだけではダメ?
日建学院のマル特、マル防記号は単なる趣味の問題でなく、今年のスポーツ施設で押さえておくべき超重要項目な気がしてきた。
昨年の学科試験で法規は一通り勉強したはずだが、製図試験で求められる防火設備や区画についてはよくわかっていない。日建の市販テキストでホールの吹き抜けには「シャッター」と点線が書いてあったので、真似して作図するようにした。
製図試験本番でも採光・通風パッシブ狙いでしっかり吹き抜けを計画したが、防火区画をしっかり書けたかどうか記憶が定かでない。
平成30年度版の日建テキスト答案例を見ると、1階の吹き抜けシャッターには脱出用の扉が設けられている。
昨年はこんな細かい表現をした覚えがないが、防火シャッターに閉じ込められて焼死とはむごすぎる。現実でもシャッターの横には必ず防火戸があるように思う。
異種用途は出ない?
まず防火区画の基本からおさらいすると、面積区間・竪穴区画・異種用途の3種類が存在する。面積区間と竪穴区画は複雑なので、別途整理してみた。そのうち3つ目の異種用途は、課題文から除かれていることから察すると、試験では問われない可能性が高い。
これが「異種用途区画しなくていい」という特例なのか、「異種用途は試験に出ない」という符丁なのかは定かでない。もし後者だとすると、建築基準法施行令第112条の第12・13項で言及される、法24条の3種、法27条から飛んで別表1記載の特殊建築物は出てこない可能性が高い。
学科勉強時代のノートを見直すと、異種用途に該当する法24条の方は防火設備でよいが、法27条なら「特定」防火設備と強調してある。法令集は捨ててしまったのでウェブで読むしかないが、マーキングしていない条文は読みにくい。製図も受かるまで取っておいたが方がよかった。
50㎡超の駐車場に区画は必要か
スポーツ施設に併設されるものとして、学校や劇場・映画館のたぐいは考えにくいとしても、公衆浴場との組み合わせは「高井戸温泉 美しの湯」のような実例が存在する。
都心から近い格好の参考事例。温水プールからリラクゼーションスペース、レストランまで、いかにも試験に出そうな要求諸室がそろっている施設だ。
今年はプール利用者と別に、共用部に外部利用できる風呂は出ないということだろうか。そういえば昨年のリゾートホテル課題も大浴場は宿泊者専用だった。
法24条第3項から200㎡超の倉庫もないとして、第2項の自動車車庫50㎡超えはありえる。日建課題のように10台もの利用者用駐車場を要求されたら、L字プランかピロティー駐車場を設けるしかないだろう。車2台で7×7グリッド49㎡の1コマは軽く超えるので、ピロティー駐車場からのエントランスには異種用途の防火区画と必要に思われる。
カフェとカフェーは違うのか
法27条で言及される別表1をあらためて見直すと、(い)欄(四)のキャバレーやナイトクラブは健全なスポーツ施設にそぐわないとしても、カフェーはどうなのだろう。「カフェー」と発音を伸ばしたものは、普通のカフェやレストランと違うのだろうか。
検索すると、いくつかの自治体の消防関連の政令で、カフェーの定義らしき慣用表現が見つかった。
カフェーとは、主として洋式の設備を設けて客を接待して客に遊興又は飲食をさせる施設をいう。
洋式でない和カフェや飲茶カフェは除外されるようだ。昨年の練習課題、和室付きスイートルームに出ていたような畳でも書いておこう。健康ランドやスーパー銭湯のレストランといえば、宴会もできる畳敷きの大広間と決まっている。
3階以上で供されない場合
また、法27条1項一号によれば(ろ)欄が3階以上となっているので、1階共用部にあるカフェは区画不要だろうか。このように施行令→基準法→別表と3段跳びになる場合、どこまで後ろ側の限定条件が効いてくるのかわからない。元の令112条を読めば、別表(い)欄の用途は階数・面積に関わらず該当と思えなくもない。
トレーニングルーム内にあるドリンクコーナーはグレーな気もする。ダンススタジオは(四)のダンスホールと違うのだろうか。多目的室も内容によっては特殊建築物に該当しそうだ。
細かいところを気にし始めると、答案例にもいろんな疑問が湧いてくる。枝葉末節にこだわりすぎて、肝心の名峰を見落とすのが製図試験にありがちな罠だ。曖昧な部分は自分なりのルールを決めて、多少の減点覚悟で完成を目指すしかない。
安全側を見てシャッター追加作戦
今年の試験では、念のためカフェや巨大な駐車場に区画の点線を書いておこうと思う。細かい条件を詰めていくと必要ないかもしれないが、製図対策では「安全側を見越して」という表現がよく使われる。
あまりにとんちんかんでなければ、長スパンのPC梁断面を太めに書いたり、区画のシャッターを増やしたくらいでたいした減点にはならないだろう。
「経済性に配慮」という意味では、支持地盤を深く根切りするのはNGに思うが、植栽が豪華すぎて減点というのも聞いたことがない。怪しげな境界や開口には、すべて区画の点線を書いておけば安心だ。
強いて言えば、ランク1か2の境目で微妙な巧拙の印象が勝敗を決するかもしれない。それでも足切になるよりかは、不経済なシャッターで減点された方がまだましだ。作図に時間はかかるが、余裕があれば避難用の屋外階段も東西南北そなえておきたい。