一級建築士製図試験における、エントランス設置方向の新たな常識

平成30年の一級建築士製図課題「スポーツ施設」に関して、今さらながら標準解答例に書かれている大事な矢印に気づいた。西側エントランスのアプローチ注釈だ。

ここから玄関→(下足入れ)→券売機→受付→階段・エレベーターと利用者目線で動線をイメージすると、今年の課題は「西向きエントランスが推奨」という方針を確認できる。日建学院の統計を見て「どのエントランスからも合格者は出た」とわかったが、試験元の解釈としては、やはり西側が最重要なようだ。

メインエントランスの方向と利用者の動線について、もう少し掘り下げて考えてみたい。

エントランスは西側推奨だった

テキストが横向きで文字も小さいためか、今まで見落としていた解答例の注釈。2案とも西側の利用者出入口に対して、

  • 出入口(旧正門)からのアプローチ
  • カルチャーセンター、全天候型スポーツ施設、駐車・駐輪場からのアプローチ

という矢印がついている。これだけ仰々しく書いてあるところからすると、今回の課題は「西側の桜並木をメインエントランスとすべし」という御達しなのだろう。ほかの出入口に比べて風除室のサイズも大きいが、目印はそれだけでなかった。

一級建築士、標準解答例のアプローチ注釈

しかもアプローチの注釈に「駐車・駐輪場」が含まれるのには驚いた。敷地の北側に車や自転車をとめた利用者を、わざわざ並木の方から迂回してアプローチさせるというのだ。建物の北側にも利用者ゾーンにつながった出入口があるので、今回は2方向からのアクセスと思い込んでいた。

利用者階段・EVも西寄り

利用者の立場で考えると、来館してまず用事があるのは券売機か受付カウンターだ。それらが西側エントランスに近接している以上、遠回りでも並木側から入館した方が、靴脱ぎ場も広くて便利だろう。

そして、両案とも利用者階段が並木側に寄せられているので、上階を利用するには結局建物の西側を経由しないといけない。てっきり北のサブエントランスから入って、中央~東の階段から直接上に上がることもできると勘違いしていた。

中央階段は職員専用

今年の解答例は、階段コアが2つともバリアフリー対応の大型サイズなのがまぎらわしい。敷地東寄りの階段をよく見ると、1階のエントランスホールとは扉で仕切られている。非常用・防火設備でない普通の常設戸だ。

するとこの階段は管理ゾーンに位置するため、普段は職員専用で避難用の二方向通路。利用者は基本的に西側の階段・エレベーターを利用することになる。メインの縦動線が西側エントランスに近接している以上、北の出入口は非常口。あるいはせいぜい通用口と考えるのが自然だ。

出入口は西側ひとつでよかった

他施設・駐車駐輪場との連絡という外部要因だけでなく、館内の人の流れも考えると、利用者エントランスは西側ひとつで十分だった。課題文にある「一体的に使用」という条件は、「複数の出入口」でなく「西の並木道=メインストリートに接続」という解釈でよかったようだ。

まさに「敷地長辺に接する、幅員の広い道路がメインアプローチ」という予備校の指導方針を潰すためのトリックだったように思う。昨年ホテルの客室配置のように、定石パターンを頭に叩き込んで来た受験生ほど、エントランスで悩まされたことだろう。「西や北が重要なのはわかる。しかし東の道路に設けなくてもよいのか」と。

試験後に発表された大手予備校の答案例で、3方向や4方向という複雑なアプローチ案も提案されたが、そこまで高度なテクニックは要求されなかったようだ(もちろんそれでも受かっただろう)。

人通りが多い=主要出入口

結局今年の課題で、エントランスに関するスクールの見解は最初から最後まで裏をかかれまくりだった。

強いて言えば、「人の流れの多い方向に主要な出入口を設ける」という法則は変わらない。ただ今年はそれが道路でなく、あえて敷地内の並木道として出題されたということだ。敷地の短辺側で接するのも想定外だった。

「道路でない。長辺でない。それでも一体利用のため西側がメイン」と発展的に考えられたかどうかが、命運を分けたといえる。やはりリゾートホテルの時と同じく、予備校の指導方針より課題文に書かれた条件が正しかった

予備校の常識は試験の非常識

受験生としては、「予備校で常識として教えられていることは、あえて本番で外されるおそれがある」と覚悟した方がいい。昨年のホテルは客室の配置や空調設備が該当したが、今年もエントランスやプールの地下ピットなど、イレギュラーなかたちで出題された。

ただ、7月の課題発表から3か月程度の準備期間で、スクールのテキスト以外に自分でプールの断面構造を調べたりするのは、現実的に難しいと思う。自分は解答例①のプール下「マット基礎」を知らず、「地下水無視のべた~独立基礎」という減点必至の断面図を書いたが、それでも合格はできた。

おそらく来年以降は、予備校も外構条件を増やしたり複数エントランスを指定したりして、試験の実情に課題を合わせてくれると思う。学校のテキストに書かれた以上のソリューションを調べるというのは、よほど余裕がある過年度生向けの受験対策といえる。