試験本番で失敗したことリストを整理してみると、意気消沈。せっかく用意した見直し時間に、自分はいったい何をやっていたのかと思う。
本番、残り5分でできたこと
17:25に最低限の図面は完成。残された時間内で、以下の作業ができそうな気がした。
- 延焼ラインの書き込み(南と西は遊歩道なので必要なさそう。無駄に書くと減点?)
- 問題用紙に書かれた未知の要素を探す(要求室関連はチェック済み。徒労かも)
- 図面全体の見直し(下足入れとか吹抜け手すりの未記入に気づけたかも)
- 足洗い槽スロープや更衣室内に車椅子用ブース追加(時間かかりすぎで無理)
- 屋外階段を追加して、2~3階の避難距離重複をなくす(これも時間かかりそう)
- 間仕切り壁をずらして、部屋の面積調整(やり始めると他部分に影響が出て泥沼化)
- 記述の追記(地味にプラス。やればよかった)
- 「○○が見渡せる」系の注釈追記(これ以上は不要)
- 植栽やタイルをさらに書き込む(暇つぶし)
試験本番の激闘により、17時を回った時点でWill Powerは残量ゼロ。すでにミジンコ並みの判断力しか残っていなかった。選択できそうな行動オプションの中で、一番頭を使わず楽そうな「植栽・タイルの書き込み」が自動的に選ばれた。
採点に響きそうな延焼ラインは、「南も並木も遊歩道」という楽観的思い込みでクリア。屋外階段も効果は大きいが、雑に書いて図面が汚くなりそうなので却下。記述の用紙は字が汚すぎるので、自分でも見たくない。
安易な判断ではあったが、試験本番の心理状態はあなどれない。朦朧とした頭で余計なヘマを仕出かすよりは、ディティール追加の単調作業を選んでよかったと思う。おかげで植栽やパッシブデザインの通風・採光矢印は、平面図も断面図も山盛り書き込めた。
パッシブデザインは加点式か?
階構成や延焼・防火に比べて、全然話題に上がってこないパッシブ関連。今年はみなどのくらい対応できたのだろうか。
特に頭を使わず、テンプレート化したトップライトやルーバーを書けばOKという、単細胞受験生にはうれしいボーナス得点。複雑なゾーニングや動線を考えるより、「Low-E複層ガラス」とひとこと書くだけで済むなんて、楽ちんすぎる。
年齢や実務経験にハンデのある自分が差を付けられる部分は、もうここしかないと思っていた。作図時間に余裕があれば、最後に書き込みまくるつもり。「自然採光・通風・日射遮蔽」、この3つを実現する小道具の数々を、5mm方眼でひそかに練習していた。
7月の課題告知で、パッシブデザインは要求図書の(注2)に書かれている。その下の(注3)、延焼・防火・避難よりも、実は格上の扱いだ。延焼ラインの書き漏れなどより、ルーバーのひとつでも書かなかった方が、まずいのではないかと思う。
省エネ設備の記入プラス得点を予測
パッシブツールは問題文に具体的要求のない、任意追加形式。他のような減点式ではなく、書けば書くほど点数アップする加点式ではないかと予想している。省エネ効果や作図の労力に応じて、パッシブデザインの採点方式も細分化されていそうだ。
- トップライト=1個あたりプラス2点、開閉式、日射遮蔽ルーバー付きなら各1点追加
- 吹抜けが端でなく建物中央にある=採光メリット絶大でプラス5点
- 中庭やライトコート=吹抜けより効果が高くプラス10点
- 水平ルーバー=1個あたり2点
- 縦型ルーバー=ちょんちょん書くのが大変なので3点、可動式なら1点追加
- 屋上緑化=3点、平面図にも書かれているなら1点追加
- アースチューブ=1本あたり2点
- Low-E複層ガラス=書き込み1個あたり1点
- 南側の高木=1点、落葉樹なら1点追加
- 井水の屋上散布=2点
- 採光通風矢印=1本1点
もしこんな採点方式なら、自分は1階プールで2階吹抜けと3階屋上合わせて16個ものトップライトを書いた(トップライトは実際の数ではなく、手間ひまかけて作図した四角形の数で評価されると仮定)。もちろん開閉・日射遮蔽ルーバー付きなので、それだけで64点もの加点。建蔽率オーバーくらいはなかったことにできるだろう。
万が一、今年の試験で3層吹抜け以外に中庭まで設けられた人がいたとしたら、別枠で特級ランクを授けてもいいくらいだ。パッシブ効果は最強だが、1階エントランスホールを分断するのでプランニングが飛躍的に難しくなる。
採光的にベストなのは、実は1階プール
しつこいようだが、今年の試験でプール1階配置がポジティブな理由をもうひとつ思いついた。
要求室の最上段に掲げられた、スポーツ施設のメイン機能である温水プール室。その特記事項には、「自然採光を十分に確保する」と書いてある。一般的には、1階のプールは採光上不利とする説が有力なようだが、実はこの配置はプールの自然採光を最大化できる可能性を秘めている。
「1階プール室上部の2~3階部分をすべて吹抜けにし、屋上にもトップライトを設ける」
プールが3層分の巨大な吹抜けと化し、2階だけでなく3階周囲の開口部からも自然光を取り入れられる。屋内側もできるだけガラス窓にすれば、建物内部への自然採光導入効果は計り知れない。これこそが、もっとも出題者の期待にこたえたプール室の構成ではないかと思う。
明るく開放的な天井高は、各階4mで12mまで取れる。天井板も省いて梁むき出しにすれば、プールといいつつ大会開催時にはバレーボールコートにも転用できる広さと天井高だ。バレーが可能なら、スカッシュでもラケットでもあらゆるスポーツに対応できる、第二の多目的スポーツ室と化す。
エスキース中に、プールの3階を屋上にするか吹抜けにするか迷ったのだが、スクールの解答例で3層吹抜けプールというのは見たことがない。上層階に余計なコンクリートを打つ分、経済的には明らかにマイナスになるはずだから、デメリットはともなう。
床面積的には、吹抜けでも屋上利用でも計算不参入で変わらないはず。トップライトも屋上緑化も1階分上に上げるだけだから、スペック的には何ら劣るところがない。構造的には、ラーメン架構を構成すべき3階床レベルの梁が減るわけだから、多少は不利になりそうだ。
課題の答案例で見たことのない三層吹抜けプールを計画するのは、ほかにも未知のリスクを秘めている気がした。製図試験で突飛なアイデアを提案しても、特に加点される気配はないので、大人しく3階は屋上庭園にとどめておいた。
9千人くらいいる製図試験受験者のうち、1階配置&3層プールを構想したパッシーバーがいるかもしれない。たとえ不合格だったとしても、その勇気はほめたたえたい。
アースチューブに注目する理由
ほかの省エネ設備に比べて、アースチューブは断面図の地下ピット左右しかチェックするところがない。探すのが楽なので、アルバイトの臨時採点官がパッシブ有無で足切ジャッジするには最適だ。
平成28年の「子ども・子育て支援センター」の標準解答例を見ると、なんと2案とも断面図にアースチューブが盛り込まれている。この年、いったいどんな事前告知があったのかわからないが、アースチューブを書かないと一発アウトだったのだろうか。
リゾートホテルの東西8mスパンのように、2案で共通して出ている要素を見逃すと、合格はほぼ不可能。パッシブはチューブでなければ解けないというわけでもないが、支援センターの子供が潜り込んで遊べる遊具だったのだろうか。あるいは猫専用の出入口とか。
枝張り2mの落葉高木は無理がある
正直に言うと、地下水位や根堀経済性のうんぬんより、アースチューブを設置したいがためにべた基礎を採用したといえる。
チューブの配管は基本メンテフリーに見えるから、独立基礎で地中に埋め込んでしまうのもありかもしれない。しかし、子育て支援センターの解答例は2案ともべた基礎だったから、地下ピットにつなげておく方が無難だ。
横置きプールを含んで南北に断面を切ったのだが、南のヘリアキ2mは落葉高木ですでに占拠されてしまっている。2m幅に高さ10mくらいある高木を植えたのだが、シェイプアップされすぎて常緑の針葉樹にしか見えない。
調べたところ、ごくまれに落葉する針葉樹も存在するようだ。スギやヒノキが紅葉するイメージはないが、カラマツは紅葉して落葉するらしい。断面図に書くなら、もう少し手を加えて松の木っぽい枝張りにしておけばよかった。
日射遮蔽しすぎて採光不足?
あらためて考えると、日射遮蔽の設備を書き込みすぎて、採光上マイナスになる懸念はないのだろうか。Low-Eはまだいいとして、プールの南側窓に水平ルーバーと高木植樹はやり過ぎな気もする。かえって日当たりが悪いとかクレームがつきそうだが、採点方式は非公開なので何とも言えない。
今のところ、パッシブデザインに特化しすぎたからといって、経済性が悪いとか減点になるという話は聞いたことがない。現実的には、東西南北すべての窓をLow-E複層ガラスにするとか、お金がかかりすぎるだろう。
チューブが避難通路をふさぐ事態に
結果的に3m幅で余裕がある北側隣地空きにアースチューブを生やした。結果的に、高さ1mくらい地面から突き出した太い配管が、貴重な北側避難経路をふさいでしまった。しかもメインエントランス風除室前の、めちゃくちゃ邪魔なところに突き出ているように見える。
このときは課題文II.要求図書の「避難通路の幅明記」に気づいていなかったので、「幅3m取れていれば十分」と軽視していた。あとから考えると、段抜き警告に堂々と書かれていた通路なので、アースチューブを突き出すのはまずかったかもしれない。機械室の搬入出扉が通路をふさいでもNGという噂まである。
あるいは歩行者専用道を地下でパスして、南の広い公園に吸込口を突出させるべきだった。隣地またぎは独立基礎のフーチングですらアウトといわれるが、いかにも公有地らしい歩道や公園はどうなのだろう。なんなら公園地下にくまなく張り巡らせて、全長1kmのアースチューブとか計画すれば、地熱利用の効果も上がりそうだ。
Low-E複層ガラスの凡例化はありか
事前の作図練習では、断面図の左右に必ずアースチューブを2本書くようにしておいた。パッシブ設備は書き込み1個あたりで加点されると踏んでいたので、とにかく数を増やしたい。
Low-E複層ガラスは文字を書くだけだが、画数が多くて意外と時間を取られる。今回は効果の高そうな、南に面したプールの1~2階にびっしり記入しておいた。防火よりパッシブが重要採点項目なので、南向きの開口部に書くならマル防よりはロウイーだ。
あとから調べたところ、耐熱強化のLow-Eガラスを使った防火・パッシブ兼用の製品が出ていることを知った。目障りな格子状の網目もなく、これ1枚で延焼ラインにも省エネにも貢献できる理想のアイテムだ。
もし自分で凡例を追加することが可能なら、「マル防L」とか「特E」みたいな記号を考え、すべての窓にメモしておけばよかった。開口部にひとつずつLow-E複層ガラス(マル防)と書き込むよりは、劇的に作図時間を短縮できる。
プランとパッシブは構造設備より大事
こうしてみると、パッシブデザインに関しては満点に近い図面をつくれたと思う。1階プールは採光に不利といわれるが、横置き南面でトップライト8個もあれば文句はないだろう。
記述もあやふやだが、温水プール・3層吹抜けについては自然採光・空調エネルギー抑制をばっちり書けた。記述の最初に内容かぶって2問出ていることからも、本試験におけるパッシブデザインの重要性がうかがえる。延焼ラインや地下水位の些細な減点は、パッシブ加点で帳消しになりそうな予感だ。
そもそもこれだけの規模のスポーツ施設を、建築士たったひとりで設計するわけではない。ゾーニングや吹抜けの位置はデザインの根幹に関わるので責任重大だが、構造や設備の落ち度はそっちのプロの人がフォローしてくれるだろう。地下水位の問題も、きっと優秀な構造設計家が解決してくれる。
延焼ラインについて指摘されれば、防火ガラスに差し替えればいいだけの話。避難通路が屋外テラスでふさがれていても、ウッドデッキを必要幅カットすれば済む。それでも規定の40㎡以上は確保できるはず。
どう考えてもこれは構造・設備のテストではなく、一級建築士の試験である。明快なプランニングで、時流にのったパッシブ採光通風が考慮されていれば、文句なく合格。地下水位は受験生を惑わせるための、いくつかあるトラップのひとつに過ぎない。採点項目ですらないと思われる。