平成30年一級建築士製図課題はスポーツ施設と温水プールでルンルン気分

7月20日、予定通り今年度の製図試験課題が発表された。朝から試験元のウェブサイトをカチカチクリックして更新するのは、昨年12月の合格発表以来だ。

エスキースの練習が佳境に入ると、夢にまで出てくる製図試験。リゾートホテルはまだよかったが、今年はどうせプールでおぼれる夢ばかり見るのだろう。昨年は試験が終わっても、12月の合格発表まで名峰の悪夢が続いた。そして今年もまたうんざりする季節がやってきた。

スポンサードリンク

過去にも出ていた屋内プール

平成29年のリゾートホテルに続いてスポーツ施設とは、楽しげな課題が続いてラッキーだ。きっと来年は刑務所とか葬儀場とか、陰気なテーマになるに違いない。昨年学科を受かったので、今年落ちてもまだあと1年パスできるが、何としても今年中に合格してけりをつけたい。

スポーツ施設といえば、平成20年の「ビジネスホテルとフィットネスクラブ」は過去問を見たことがある。去年買ったウラ指導の本についていた。製図試験まで独学で取り組む人は少数派だと思うが、貴重な情報源だ。

資格学校のウェブサイトによると、平成14年と昭和59年にプール付きの運動施設が出題されたらしい。さすがに古すぎて過去問を入手できそうにないが、スクールに通えば見せてもらえるのだろうか。

温水プール以外の「何か」が気になる

昨年の反省からすると、課題の文章は徹底的に読み込まないといけない。プランが収まらないからといって、「名峰」という最重要事項を無視した解答は軒並み落とされたふしがある。今年の名峰は「温水プール」だろうか。去年はあまりに縛りが多すぎて紛糾したので、最初からネタばらししている感がある。

課題名にある「健康づくりのための」という形容詞がキナ臭い。プールだけで3階建ての建物は埋まらないと思うので、筋トレや有酸素運動用のジムスペース、ヨガやエアロビ用のスタジオは当然要求されるだろう。民間施設ならシャワールームだけでなく大浴場もありえる。

それだけではシンプルすぎるので、昨年の感覚からすると、もうひとひねりサプライズがある気がする。最近はやりのボルダリングウォールとか、ゴルフの練習コーナーとか、今どきのスポーツクラブならそのくらいは併設されている。あまり特殊なスポーツ種目を出題すると不公平になるから、昨年同様「コンセプトルーム」的な自由提案になるかもしれない。

20mプールはスポーツ用といえない

まずは確実に要求される温水プールの基本機能を掘り下げてみたい。たまたま自分は趣味で水泳をやっているので、1年中プールに通っている。週に1回、3~4キロは泳ぐので、近所のジムでは常連だ。昨年から手術後のリハビリで筋トレルームも利用するようになったので、ますますスポーツ施設に出入りするようになった。

出張先にも水着を持って行って、ホテルのプールで泳いだり近隣の温水プールを探すくらい熱心にトレーニングしていた時期もある。利用者として真っ先に気にするのは、プールの長さとレーン数だ。

公営も民営も含めてプールの構造は熟知しているが、過去2回の類似課題では20mの長さ指定だったらしい。正直25mにも満たないプールなど、子どもの遊び場か老人のウォーキング専用としか思えない。そこそこ泳ぐアスリートなら、50mのプールを求めて遠くの町まで練習に行く世界。そんな狭いプールで「スポーツ施設」を名乗るべきではない。

もしかすると試験元が考える温水プールとは、運動用でなくレジャー用のイメージが強いのだろうか。たしかに高級ホテルやリゾートマンションなら、フルサイズのプールを持つ施設は少数派だろう。

昨年は「全ての客室は、名峰や湖の眺望に配慮する」という難問だったから、「眺望に配慮した温水プール」くらいは普通に出題されそうな気がする。泳いでいる最中は風景など気にしないが、プールサイドで過ごすとすれば目的が違ってくる。屋上やテラス、半屋外にプールを設置するケースも練習しておいた方がよさそうだ。

マリーナベイ・サンズの屋上プール

さすがにホテルが2年連続はないと思うが、大型のスポーツ施設なら合宿用の宿泊機能は考えられる。仮にリゾート系のラグジュアリー機能が求められるとしたら、世界一の参考事例はシンガポールのマリーナベイ・サンズだろう。

6年前に出張した際、隣の展望スペースから身を乗り出して隠し撮りした写真だ。さすがに泊まれる予算はなかった。シンガポールの夕暮れを背景にした、公式ウェブサイトの写真の方がドラマチックだ。

眺めのいいロケーションで、外の風景に連続するようにプールや温泉の水を落とすというのは建築的な常套テクニックといえる。それにしてもシンガポールのインフィニティプールは巨大すぎる。屋上やテラスの眺めがいい場所にプールを持ってくるという事例の中では、他に例を見ないスケールだ。

今年合格できたら、ぜひマリーナベイ・サンズのプールで泳いてみたい。もし不合格だったら下のカジノで全財産賭けてみて、それでもダメだったら屋上プールからマーライオンの海までダイブしよう。

バルセロナ・プラザの屋上プール

また、スペインのバルセロナでは、プラセスパニャ広場に面したカタロニア バルセロナ プラザのプールがおもしろかった。街の中心部から少し離れたミドルクラスの宿だが、大広場に面した絶好のロケーションに屋上プールがある。

まるで渋谷のハチ公口や、新宿アルタ前の広場を半裸の水着姿で見下ろしているような気分になれる。リゾートではないが、ヨーロッパの上流階級は、こんな感じで下界を見下ろしているのだろう。

ここからは見えないが、プールの背景に写っているカタルーニャ美術館のすぐそばに、ミースのバルセロナパビリオンがある。サグラダ・ファミリアを起点にガウディのグエル公園や集合住宅を見学して、ホテルの屋上プールで汗を流したあとは、路上に出ているレストランのテラス席でパエリアを楽しみたい。

パークハイアットの最上階プール

国内のホテルにある標高の高いプールといえば、新宿のパークハイアットを思いつく。都庁の横にある3連続タワーの一部が、実はプールになっている。この面積なので当然25mはないが、用途からすればもっぱらセレブがくつろぐレジャー用だろう。

郷ひろみも通う高級スポーツクラブも併設されていて、マリーナベイほどではないが47階から見下ろす新宿の風景が見ものだ。窓際に設置されているルームランナーで走っていると、まるで空を飛んでいるような気分になれる。

さすがに会費は高くて、プールが狭いのもいまいちだが、お金持ちになったら入会してみたいエクスクルーシブなスポーツクラブだ。浴室のアメニティーもイソップの高級品で、ゼラニウムの香りが心地よい。

映像で見るだけなら『ロスト・イン・トランスレーション 』で十分ともいえる。ただ映画の中でプールが出てきたかどうかは、記憶が定かでない。安い部屋なら1泊5万で泊まれるパークハイアット。都会的センスの高級温水プールを調べるなら、一度は見学しておきたい。

コンセプトプールへようこそ

昨年の「コンセプトルーム」で寄せられた珍奇な回答に笑い転げた採点者が、味をしめてまた出題してくる可能性もある。今年はプールの拡張機能を追求した「コンセプトプール」かもしれない。

温水プールにプラスアルファのレジャー要素といえば、滑り台や流れるプールくらいは普通に思いつく。ウォータースライダーの発展系では、建物外壁を貫通して外に出てしまう変わり種も存在する。こちらはマリンスパ熱海の滑り台だが、プールからはみ出たスライダーはまるで後楽園ラクーアのジェットコースターのようである。

シニア向けでいうと温浴施設の併設要求も十分に考えられる。スポーツ施設の松竹梅でいうと、温泉>大浴場>シャワーのみ、というランク分けが存在する。マリンスパ熱海には巨大な温泉ジャグジーまで付いていて、シダックスが管理する公営施設なのに豪華すぎる特A級だ。

リゾートマンションのプール

あまりに気に入ったのでマリンスパの年間パスを買おうと思ったら、さすがに7万円もして高かった。熱海の温泉付きリゾートホテルの中にはプール併設の物件もあるが、どちらも庶民には高根の花だ。

一部、築年数が古く立地の厳しい物件は中古で値崩れしているが、それはそれで耐震や修繕費用がかさみそうなので手を出すのはこわい。蛇口をひねれば温泉が出てくるお風呂にあこがれるが、毎日温泉に入っていても飽きそうだ。熱海のお湯はマイルドな方だが、霧島あたりの硫黄泉や鉄泉だと刺激が強すぎて、湯治で逆に体を壊す。

熱海にあるリゾートホテルの中でも大型のサニーハイツは、屋外と屋内に2つのプールが設置されている。屋内側はちょっと短く20mもなかった。リゾートマンションのプールを視察したいなら、サニーハイツ内にオープンした「洋食屋みのる亭」でランチしてみるといいだろう。入居者以外も利用できて、ちょうど海やプールを望めるロケーションにある。

夏休みの熱海旅行は、隈研吾の海峯楼に泊まりつつ、隣にあるブルーノ・タウトの旧日向邸を見学して、タクシーで上多賀のアカオハーブ&ローズガーデンを訪ねれば完璧。さらに隣の湯河原駅にも、隈研吾デザインの手湯がある駅前施設がオープンしている。

メテオプラザの温海水プール

国内屈指のおもしろプールといえば、真っ先に思いつくのが島根県美保関町にあるメテオプラザだ。高松伸が設計した1995年の作品で、この中にあるのが世にもめずらしい温海水プールなのだ。しかもタラソテラピーなんて生半可な施設ではなく、しっかり泳げる25mの長さもある。

実際泳いでみたら、海水が口に入るとしょっぱいうえに、肌もベタベタしてあまり気持ちよくなかった。オープンウォーターの練習にはいいが、普段使いするにはちょっと水質がしつこすぎる。

ただ海水は浮力があるので、子どもの水泳練習にはもってこいだと聞く。平日昼間に見学に行ったが、意外とにぎわっていて町民に愛されている施設だと知った。

プールとフェリーターミナル

メテオプラザの特徴は、単なるプールだけでなく、かつてこの町に落ちた隕石が展示されているミュージアムがある。もし人に当たっていれば惨事になったはずだが、運良く直撃をまぬがれたので、観光資源として飾られている。

惨劇の状況を説明するため、貫通した畳や、家の模型なども置かれているのが、なんだかB級の秘宝館めいていておもしろい。外観からして特徴的な卵型のシアタースペースも独特だ。

さらにメテオプラザは第3の機能として、フェリーターミナルや町民ホールまで兼ねている超複合施設である。これだけ複雑な実例を研究しておけば、製図試験でどんな課題が出てきても恐れることはない。

製図の極意は「知りて而も用いざる」

温水プールという課題を聞いて、今日は一日盛り上がってしまった。しかし、ウラ指導の勉強法によると、常識に反して「学科試験では創造力が求められ、製図試験では事務処理能力が求められる」らしい。

課題を拡大解釈して想像を膨らませすぎると、勝手に設計条件を増やしてプランが破綻する傾向がある。たしかに昨年のリゾートホテルでも、コンセプトルームを考えるのにワクワクしすぎて、肝心の名峰を見落としてしまった反省がある。

製図試験の対策としては、できる限り多くの練習問題を入試して、ありえる出題パターンを網羅しておくべきだろう。リゾートホテルでは、8mスパンとL字型プランがレパートリーにない時点で敗北が決定したようなものだ。

ただし、持ち技を増やすと同時に、課題文を熟読しつつ深読みしすぎない訓練というのも重要だ。なまじ多くの事例を知っていると、設問を拡大解釈してトリッキーな提案に走りやすい。初心に戻って素直な解答を心がけることが、ウラ指導の言う「事務処理能力」なのだろう。

智械機巧は、知らざるものを高しとなす。これを知りて而も用いざるものをもっとも高しとなす。

菜根譚 』 洪自誠 著 徳間書店

これこそが製図試験の極意。

スポンサードリンク