一級製図試験の上下足履き替えにおける絶対的正義「入・即・脱」

平成30年製図試験、スポーツ施設の特徴的な要素「下足入れ」について、標準解答例で示された見解を分析してみよう。

解答例2案の対照的な解決法

結論からいうと、

  1. 解答例①…廊下・共用部は下足、差しさわりある部屋だけ上足に履き替え
  2. 解答例②…玄関で履き替え、館内はすべて上足

という対照的な2パターンだった。

利用者目線で動線を追ってみたが、近所にできるスポーツセンターとしては、まあどちらもありかなという印象だ。管理側や掃除の手間を考えると、②の集約型の方が使い勝手は上と思う。

上記2案の間をとって、「1階のカフェは土足利用可、階段・EV前で履き替えさせる」というようなハイブリッド案も考えられる。解答例の振り幅が極端に広いことを考えると、その中間、折衷案いずれもOKということだろう。

ちなみに自分は図面に下足入れ・履き替えゾーンを「ひとつも」書かなかったが、それでも受かった。記述の方で更衣室内での履き替えと、階別の上下足ゾーニングについて補足説明したからだろうか。

今年のスポーツ施設で気になる要素だったわりには、下足入れの採点は甘めだったのかもしれない。そもそも課題文や特記事項に「下足入れを設ける」とは明記されていなかった。せいぜい記述で言及されたくらいなので、地下水位と同じくらいのゆるい扱いだったと推測される。

①全室に下足入れ設置

12月20日に初めて標準解答例①を見たとき、部屋の中の下足入れの多さに驚いた。各部屋内の数を数えてみると、

  • 多目的スポーツ室…3個
  • キッズ用プレイルーム…2個
  • 更衣室B…2個(男女分)
  • ダンススタジオ…2個
  • トレーニングルーム…1個

大きさはまちまちだが、館内に合計10個も下足入れがある。

ただし解答例②のように、1階メインエントランスにはひとつも設けられていない。北側の職員用通用口2つにはどちらも下足入れがあるが、スタッフは常に上履きで過ごすという前提だろう。

これは日建学院・TACの事前課題解答例でひとつも見なかったパターンだ。たとえ知っていたとしても、10個も下足入れを書き込むのは作図時間がもったいない。採点者としてはOKらしいが、受験テックニックとしてはあまりおすすめできる方法でない。

カフェ利用には便利だが…

ユーザー目線で履き替えプロセスをたどってみると、まず入館して1階はすべて土足のまま利用できる。カフェやトイレもそのまま外履きで利用できるのは便利だ。敷地内、他施設の利用者が、「ちょっとお茶だけ」という感じで立ち寄るのにも適している。

そして2~3階の健康増進部門を利用する人は、土足のまま目的の部屋または更衣室Bに行って、そこで直接上履きに履き替える。多目的スポーツ室やトレーニングルームを利用する人は、当然バッグの中に館内用のスニーカーや競技用シューズを持ってきていることだろう。

更衣室Bで着替えてから目的の部屋に向かう場合は、おそらくもう一度下足に履き替えて共用廊下を歩くと思われる。更衣室B内にある下足入れは、着替えのためのテンポラリーな用途と考えるのが妥当。

なぜなら、さすがに不特定多数が出入りする離れた位置の更衣室に、靴を入れておくのは不安だからだ。自分も被害にあったことがあるが、この手の公共施設ではシューズの取り間違いがよく発生する。

おそらく悪意あってのことでなく、間違って他人の靴を履いて出て行ってしまう人がいるのだろう。特にクロックスやサンダルなど、似たような色・デザインのものが並んでいると、まぎらわしいときがある。

②玄関先に下足入れ集約

解答例②の下足入れを検証してみよう。これは日建学院の課題で多く見られた玄関先ですぐ履き替える、通称「スーパー銭湯方式」だ。全館の下足入れを西側メインエントランスに集約させているので、便所より広い履き替えコーナーが確保されている。

断面図を見ると段差やスロープはなさそうなので、上がり框でなく見切り材を置くだけの簡易的な仕上げだろう。車椅子でもそのまま乗り越えられる。

外からほこりが入るのを防ぐのと、シューズの着脱には段差があった方が便利という考え方もできる。また段差はむしろ目立つ方が、うっかり蹴ってつまずきにくい。しかしバリアフリーの観点からすると、外構の水勾配に加えて玄関内にもさらにスロープを設けるのは面倒だ。

管理側の利点は大きい

ここでも上記の「シューズ取り間違え問題」が懸念されるが、②の場合はきっと100円返却式の鍵付きシューズロッカーになるだろう。

①で部屋ごとの下足入れに鍵を付けるのは面倒だが、②で靴が野ざらしだとさすがに物騒だ。受付カウンターから見える位置とはいえ、ひょっこり外から入って来た不埒者が、靴だけ盗んで去ってしまうかもしれない。

館内はすべて上足利用になるので、部屋ごとに履き替える手間もなく、相互利用が楽になる。外から泥やほこりが持ち込まれないので、こっちの方が掃除も楽だろう。

唯一のデメリットは、館外からカフェやトイレだけ利用する際にも、いちいち上履きに履き替えないといけない点だ。

一時的な利用者のために、おそらく玄関にはスリッパも常備してあると思う。備品として、スリッパの購入及び維持費が必要になる。あるいは割り切って素足・靴下で館内をうろつかせるかだ。

入・即・脱

日建学院の課題を見ていて、「入ってすぐ靴を脱がせる」という強制ストリップ方式は邪道でないかと考えていた。1階共用部にショップや研修室がある場合、そこだけ利用したい人もいちいち履き替えないといけないからだ。売店や喫茶店の売上もきっと下がる。

まともな建築設計としては、安易にスーパー銭湯方式で逃げるのではなく、階ごともしくは部屋ごとの履き替えシナリオを想定すべきでないかと思っていた。「履き替えは更衣室内、上階の廊下は上下足交じり」というTACスタイルの方がスマートに見えた。作図も若干早い。

しかし試験後に公開された答案例では、TACも早々に入館直後の総履き替えを決め込んでいた。この移り身のはやさはさすがだ。自分はTAC式に下足入れをひとつも書かない戦略をとったので、もっとも雑な解決法(下足について一切配慮なし)と誤解されてもおかしくなかった。

試験前後はアンチ・スーパー銭湯派だったが、こうして標準解答例を見比べると、案外悪くないように感じる。作図の時間節約、また館内清掃・利用者私物の預かり方法としても、受付前の集中管理が合理的に思われる。

前言撤回。「入・即・脱」…これは上下足履き替えのある製図試験ビルディングタイプにおいて、絶対的な正義といっても過言でない。