前編に引き続き、3時間で無難に図面を完成させるテクニックを紹介しよう。階段・エレベーターの主要構造部まで記入が済んだら、次は2方向避難の距離計算に移る。
避難距離の記入
ここはいったん線引きから頭を切り替えて、2・3階の避難距離を計算するコーナー。直通階段から一番遠い居室のスタート地点をどこにするかも、1/400エスキース段階で決めておくといい。作図中に「重複距離が長い」と気づいて、屋外階段を後から書き足すのは危険だ。
今年のスポーツ施設課題では、不用意な庇や屋外階段の追加で建蔽率超過するトラップが仕掛けられていた。屋外階段を追加すると、面積計算もやり直す必要が出てくる。万が一この時点で避難距離のミスに気づいても、減点覚悟で押し通す方が安全だ。
スタート位置から各階段まで一点鎖線を引いたら、距離の計測はバンコで行う。バンコの1/200スケールは20cmごとの適当な刻みになっているが、歩行距離の計算にはこの精度で充分だ。ウチダのヘキサスケール15cmだと、たまに長さが足りないことがある。バンコの斜辺は50mまで一気に測れるので、避難距離を計算するには最適だ。
直線経路ごとに距離を測り、エスキース用紙にメモする。重複距離、歩行距離①、歩行距離②と3つに分けて計算式も残しておくが無難だ。試験で使った下書き用紙は持ち帰りOKなので、家に帰ってから検算できる。
防火区画、延焼ラインの記入
今年のスポーツ施設で必須になった防火区画。竪穴・面積によるマル防とマル特の使い分けは、以前書いた記事で整理したので、そちらをご参照いただきたい。
延焼ラインも事前告知があったので予習していたが、試験本番では歩行者専用道路や桜並木という非常にまぎらわしいかたちで出題された。敷地図に書かれた謎の踏み跡を見て、「これは道路か否か」と判断させるのが、製図試験のトレンドになりそうだ。
便所は極力「問型」レイアウトで
トイレの中身まではエスキース時点で1/400記入せず、ぶっつけ本番で答案用紙に書き込んだ方が早い。7×7m~7×4mくらいのエリアがあれば、多機能便所を中央に方形に設け、その両脇に男女別のトイレを設ける問型レイアウトが適用できる。
小ネタだが、便所のレイアウトもデザインパターンを導入しやすい部分だ。問型のレイアウトはTACや日建学院の解答例でも頻繁に見られたので、全国的に普及したソリューションだと思う。トイレの出入口が長辺いっぱいに確保できない場合、隅を切り欠いてそこからアプローチさせる方法も代表的だ。
不整形便所のバリエーションはいくつがあるが、余計な頭を使わず作図できるよう、基本の問型で、しかもなるべく上下階で位置を揃えられるようエスキースするのが上級テクニックといえる。トイレ内のPSも各階同位置ですっきり通せる利点がある。
PC梁とトップライトの記入
階段や便所の記入が終われば、図面としての密度も高まって、だいぶ安心感が出てくる。
次のプロセス、家具記入に移る前に、吹抜けまわりのPC梁やトップライトを書いておくのがおすすめだ。図面上の要素としては優先度が低いが、ほかに比べてイレギュラーなパーツなので見落としやすい。先に埋めておくことによって「あとは室内だけ」と安心して作業できる。
部屋の上部に設けたトップライトは点線で書くのが常識らしいが、3mm厚のバンコを使っても四角い点線を書くのは骨が折れる。何度練習してもきれいに書けず、またプール上に8個もトップライトがあると記入に相当時間を取られるので、点線表記はあきらめた。代わりにガラス両端の見えがかりのような薄い実線でトップライトを表現した。
PC梁も点線がスタンダードだが、2スパンに及ぶ長い直線なので何とか安定してかける。縦に点線を書くのは、やはり普通の三角定規より厚みのあるバンコをあてるのがおすすめだ。
練習すれば点線も均一なピッチで、かつPC梁の両側で対称形になるように正確に引ける。「点線や鎖線を美しく書けるか」というのは、作図師としての技量を推し量るポイントのひとつである。
家具と室名はどちらが先か?
これは製図試験にのぞむ受験生の誰もがぶつかる壁だと思う。減点の大きそうな要求室の欠落を回避するには、実線記入した直後に室名だけ先に書いてしまうのもありだ。1年目の試験中はあまりに時間が押していたので、この作戦を選んだ。
一方、カフェやレストラン、セミナー室や研修室で特記事項に人数指定がある場合、その数の机と椅子を書き込むのがルールと言われる。事務室はまだスペースに余裕があるので、適当に机を書いても余白に室名を書き込める。悩ましいのはレストランやセミナー室で、40人くらいの座席を書くと、それだけで部屋の中が埋まってしまうことがある。
優先度の高い室名・面積を先に真ん中に書くと、文字が邪魔して家具を書けない。無理やり上から書くと読みにくいし、あえて文字を避けたテーブル配置にするのも何か不自然だ。
長年悩んだ解決策として、残り時間に余裕があれば室名より先に家具を書いてしまう。そして、あとで室名を入れられる余白だけ確保しておく。
もし作図の時間が押している場合は、見た目は微妙になるが先に室名を書いた方が安全だ。ただし座席の多いレストランなどの場合は、「余白になりそうな部分」を計算してそこに文字を書いておくと潰しが効く。
「あとで追記するパーツのために余白を空ける」というのは、受験生に求められるスキルの中でも高度な部類だ。簡単に身につけられるテクニックでもないので、試験本番までじっくり練習してもらいたい。
断面の切り方について
エスキース段階で、平面図のどこを切れば見栄えのいい断面図を書けるかシミュレーションしておく。課題によってプールの切断指定などあれば当然そこを含むし、吹抜けや屋上テラスの特徴的な要素も断面に含んでおくと採点者にアピールできる。
もし何らかのトラブルで残り時間が少なくなってしまった場合、切断位置を変更して断面図の作図時間を短縮する苦肉の策がある。敷地の長辺・短辺どちらで切るかによって、時間が30%くらい変わってくるだろう。
もし残り時間が少なければ、課題にある切断個所の指示も無視して、もっとも断面図を簡単に仕上げられる位置(長い廊下など)で切る方法もある。減点は必至だが、断面図が未完成で終わる(ランク4)よりましだと思う。
断面図の作成手順
断面図の作図プロセスも、基本的に平面図と変わらない。先にスパン割りと寸法を書いて間違いないか確認。
もし敷地長辺で切るなら、上にある3階平面図の東西スパンをそのまま下ろしてこられる。短辺切断なら新たに断面スパンを書く必要があり、この時点でかなりの体力・精神力を消耗しているので、間違わないよう細心の注意を払うこと。
階高さの仮線を引いて、高さ方向の寸法と隣地境界線の鎖線も記入しておく。次に間仕切り壁や梁の輪郭を仮線で描き、水平・垂直方向にまとめて実線でなぞる。
梁の断面出っ張りはなかなか細かくて嫌らしいパーツだが、そこまで丁寧に表現しなくても許されるようだ。縦横分割して実線を入れるので、どうしてもズレが生じる。線が足りないよりは、心持ちはみ出るくらいの勢いで書いておいた方が、印象がよさそうに見える。
断面図に室名や天井高を書き終えたら、屋上の緑化や設備機器、通風・採光のパッシブデザインも一気に書き込んでしまう。今年は天井等落下防止のV字ブレースも必須だった。
ここで「断面図は100%完成」という状態にもっていければ、残り時間は安心して平面図の書き込みや確認に専念できる。
特記事項対応の注釈記入
断面図が終わったら平面図に戻る。室名記入まで最低レベルはクリアしているはずだが、次に植栽より先に取り組むべきは注釈の書き込みだ。
今年のスポーツ施設課題であれば、プールに面した見学コーナーから矢印を引いて「温水プール室内の様子を見ることができる」、カフェからは「客席から桜並木又は公園が眺められる」、屋外テラス「桜並木又は公園の景観に配慮」とか。念のため、問題文の表現と一字一句そろえておくのが無難だ。
別に図面を見ればわかることだが、念のため矢印を引いて見どころをアピールしておくと、採点官への印象がいいらしい。断面図でも、基礎の底面を「地下水位2.2m以上」とかコメントしておけば、しっかり配慮したことをアピールできただろう。
外構の植栽記入は最後に
いかにも建築の図面っぽく盛り上げられる外構の植栽とタイル目地だが、実際に着手すべきは作図の最後である。これらはなくても減点にならないが、ランク1・2の瀬戸際で出来の良さを主張できる貴重なオプションと考えられている。
今年のスポーツ施設のように、多くの人が「わりと簡単だった」と試験後にコメントしている年は、おそらく植栽の書き込みが採点の重要ファクターになる。逆に昨年リゾートホテルのように、難易度が高く未完や勘違いの北客さんが続出した年は、植物など1本も生えない不毛の敷地でも合格できる。
植栽の表現方法はいくつかバリエーションがあるが、下草の茂みをギザギザしたフリーハンドで書いて、円形テンプレートを2個ずらして枝張りにチョンチョン入れるのが定番のスタイルだ。
余力があれば、植栽の下草に極薄の鉛筆で着色するのも上級テクニックといえる。ただし、色鉛筆で緑に塗ったりするのは試験ルール的にNGだ。受験票の注意事項にそう書いてある。
タイル目地の密度でメリハリをつける
タイル目地は、ピッチの密度によってメリハリを付けられる。利用者エントランスの前は5mm方眼を2分割するくらいの高密度で目地を表現するとほかより目立つ。テラスの部分は横線だけ細かく書くと、いかにもウッドデッキっぽく見える。
昨年の標準解答例では、屋外リラクセーションスペースに斜めに目地を書く上級テクニックが披露されている。さすがに本番で試みる余裕はなかったが、「斜めの目地」は試験元に好評らしいので、練習する価値はある。見た目だけは、ほかの受験生と違う力量の差と精神的余裕のようなものをアピールできるだろう。