一級製図試験の解答例・断面図に見る、基礎構造の多様性と対立性

平成30年の標準解答例分析も、めぼしいところはだいたい済んだ。最後にどうしても避けては通れない本課題の暗部、地下の基礎構造についてコメントしておこう。

基礎は自信がない

自分は地中3mに堂々とプールのピットを掘り、地下水位も経済性も無視して頑丈な基礎を設けた。解答例を見ると、まったく的外れな書き方だったが、なんとか合格はできた。ほかと同じく、地下水位も足切り条件ではなかったようだ。

基礎や構造について、正しい解説はほかで調べてもらえればと思う。コンクリートすらこねたことのない素人なので、技術的に詳しいことはわからない。特に地底の基礎世界については、本でしか読んだことがない。

恥ずかしながら、今年の課題は基礎で大失敗した方の人間。あくまで受験テクニックという側面から、気づいた点をまとめてみようと思う。

地下水は絶対回避

気になる地下水については、2案ともGLマイナス2.2mの水位より上に基盤面を設定していた。基礎の種類はべた基礎だったり布基礎だったりするが、底面がGL下2,000というのは共通している。

もし採点側としてプール1階設置を許容するなら、地中に配管ピットを設けて3mくらい根堀した断面図もありえたと思う。プールの設備を優先して、地下水位については妥協したかたちだ。

しかし、解答例①では「マット基礎」という荒業を使って基礎底面を上げてきた。素直に察すると、地下水については「妥協してはいけない」部分と考えるべきだ。断面図左側の地下寸法が、1.5m、1.8m、2.2mとやたら細かい数値で明記されているのもその証左。

今思えば、地下水位が2.2mという中途半端な深さだったのは「砕石や捨てコンクリートを20cmくらい盛る」というヒントだったのかもしれない。そして解答の基礎底面は、2案とも地下2mという切りのいい数字になっている。

地盤条件の対策方針

そうとわかれば試験対策として方針は立てやすい。平成29年のリゾートホテル課題と合わせて、地盤条件のトラップと回避方法をまとめておこう。昨年は「軟弱な表土」という罠で、対策は地下水の逆だった。

  1. 地盤に地下水位が出てきたら、それより上に基礎を設ける
    (地下水とかマグマとか、ヤバそうな流動体には触れない)
  2. 軟弱地盤や埋戻し土が出てきたら、それより下に基礎を設けるか地盤改良する
    (N値の低い土はあてにせず、その下までしっかり掘り込む)

「地盤改良」の図面表現は、H29標準解答例②の断面図を参照してもらえればと思う。「N値5以下」のゾーンに基礎がかかって浮いている部分に、地盤改良というブロックを差し込んで支持している。

地盤が年々複雑になる傾向

この2年で、製図試験の地盤条件が複雑になる傾向がみられた。軟弱土や地下水に応じて適切な基礎を作図しないと、減点されている可能性が高い。少なくとも標準解答例が2案とも地盤トラップを回避している以上、よほどやむを得ない場合を除いて上記の方針に従うのが無難だ。

来年は「液状化のおそれがある」とか「ダイヤモンドの鉱脈が見つかりドリルの歯が立たない」とか、さらに高度にアレンジされる可能性もある。海の上、崖の上の懸造りみたいに極端な敷地なら、課題発表時に示唆されるだろう。そしていよいよ杭基礎が登場するかもしれない。

内装や設備の設計ミスはあとからやり直しできそうだが、基礎構造の失敗は取り返しがつかない。建築士としての常識を推し量る意味で、今年の地下水無視はかなり厳しく減点されたようにも思う。作図が必要なのは断面図の一部だが、しっかり対策してのぞんだ方がいいだろう。

基礎構造の「経済性」配慮

平成30年は課題文で基礎構造の「経済性」について言及された。前年のホテル傾斜地では「斜面の掘り込み(地下1階の面積)を抑えた方が経済的」という指針だったが、解答例ではそれほど重視されなかったのと対照的だ。

標準解答を見て、「経済性」に対応する部分があるのかチェックしてみよう。「根切りが少なく済む」という面では独立基礎がもっとも有利だが、2案とも採用されなかったようだ。①の1階プールサイドは東西南北すべて布基礎だろう。

予想に反して答案①②とも基本的にもっとも不経済、べたな「べた基礎」という表現だった。

基礎構造のバリエーション

今回は3階建てで、プールや機械室、トレーニングルームのマシンやウェイトという重量物が積載される。偏心荷重による地盤沈下を避けるため、荷重を分散して接地圧を抑えるべた基礎が有利というのは記述の常識だった。

これはスクールによっても見解が分かれて、練習課題では

  1. すべて独立基礎(経済性重視)
  2. すべてべた基礎(安全性重視)
  3. 基本的にべた基礎だが、平屋部分だけ独立基礎(ハイブリッド型)

という3つの表現が見受けられた。3つ目は「プール1階で上階に部屋がない」など、荷重が少ない部分は独立基礎で十分という考え方だ。

べた基礎の一部省略という新技術

②の解答例を見ると、プール室直下以外の基礎が、一部「土間コンクリート」と表現されている。厚みもないので、実質的には支持体として用をなさない捨てパーツだろう。

ただ、キッズルームという運動量の大きそう部屋の下に、基礎がないのは不安だ。ヘビー級のキッズが飛び跳ねたら危ない気もする。

おそらくここが、試験元としての「経済性」に配慮したアピールなのだろう。べた基礎でも部分的に省略して土間コンを打てばOKという新たな指針だ。

マット基礎=べた基礎

解答例①の1階プール下に現れた謎の「マット基礎(t=500)」。上部に敷いたt=300の単粒度砕石をクッション材として、ステンレス製のプール槽を支えている。

プールの内壁素材がRCでなくステンレスという可能性は把握していた。しかし予備校課題ではもっぱらスラブと一体化したコンクリートで、その下に配管用のピットを設けるのが定番だった。

「マット基礎」の意味を調べてみると、単にべた基礎を言い換えたものであるらしい。すると解答例①の意外性とは、「プール下ピットを省略して地下水位上に根堀を抑えた」という点にに尽きる。

温水を循環させるため、プール下には複雑な配管が必要と思われていた。実際には、プールサイドの下から回り込ませれば十分という見解にみえる。

普通にスクールに通っていた受験生なら、こんなトリッキーな解法は思いつけなかっただろう。渡されたテキスト以外に、自分でプールの構造を調べるのも大変だ。せいぜい『建築設計資料』の市販書籍に目を通しておくくらいが関の山といえる。

複雑な基礎のデメリット

毎年、標準解答例の断面図を見ていて、どうしてこんなに複雑で複合的な基礎ばかり出てくるのだろうと不思議に思っていた。図面を素直に解釈すれば、「状況に応じて基礎は数種類使い分けた方が高得点」と考えてもおかしくない。

今年の解答例も、べた基礎、布基礎、マット基礎に捨てコンと、多様な基礎表現が見受けられた。わざわざ複数の工法を組み合わせて混構造にするのは、強度計算・施工の手間を考えるとかえって不利な気もする。

図面表現の多様性と対立性

毎年解答例が2案公開されること。そして2案とも「意図的に異なった」図面表現になっていること…

突き詰めると、基礎構造を代表として見受けられる「多様性」とは、単に試験元が「こういう表現でもOK」というメッセージを詰め込んだ結果に過ぎないのかもしれない。答案どおり「複雑な基礎」がプラス評価なのではなく、「表現の自由度を伝えようとして複雑になってしまった」という事情なのではなかろうか。

この観点からすると、プール設置階・エントランス方向・下足入れなどの各要素に対しても、「多様性の中の共通点を探す」という意識が重要と思われる。たとえば今年の基礎は布でもべたでも何でもいいが、最低限「地下水位」だけ避けているのは共通している。

試験元はたった2枚の図面をとおして、「こう表現してもよい」しかし「こう解釈してほしい」という、2つの対立するメッセージを伝えようとしている。このパラドックスが製図試験を難しく見せている根本的な原因と思われる。