一級建築士製図試験~無難に3時間で図面完成を目指す作図の心構え

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今年の製図試験を終えて、忘れないうちに作図の手順もメモしておこうと思う。

こんなやり方で試験に通用するのかどうかは、12月の結果発表を待ってみないとわからない。エスキース能力はいまだに自信がないが、作図のスキルだけは目標タイム3時間をクリアできるくらい上達できた。きっとほかの人の参考にもなる部分もあると思う。

図面を書かないとやり方を忘れる

昨年の製図試験から今年の課題発表まで9か月、1枚も図面を書かなかった。とりあえずスポーツ施設関連の過去問標準解答例でもトレースしようと思ったが、図面の書き方をまったく思い出せない。

地道に1階平面図の隅から順番に書いていこうと思ったが、あまりに効率が悪すぎて30分で諦めてしまった。体系化されたシステムがなければ、標準的な密度でA2サイズの図面を仕上げるのに半日くらいかかると思う。実体験として、10か月もブランクがあると作図のスキルはゼロまで落ちる。

作図に必要な3つの基本技術

製図試験で図面を書き上げるのに必要な技術は、以下の3つに分解できる。

  1. 図面上で「何をどこまで表現するか」というノウハウ
  2. 頭を使わず、流れ作業で機械的に線を書くプロセス
  3. 長時間ぶっ続けで図面を書き続ける集中力と体力

1は標準解答例やスクールの答案例を見て学ぶことができる。慣用表現なので、つべこべ言わず見たまま覚えるしかない。

2は王道的といわれる作図パターンを元に、各人の好みや特性に合わせてベストなプロセスを開発していく流れだ。

3はもう根性とか言いようがない。今どき記述で手書きの文字を1時間書き続けるというのも、最初は苦痛で仕方ないだろう。初年度生は図面が手書きというだけでうんざりすると思う。

こればかりは試験元のご意向なので、製図試験がCAD化されるまで耐え忍ぶしかない。建築士の先輩方は誰もが通ってきた道だ。

1/200図面の慣用表現を学ぶ

まず、製図試験で求められる図面の慣用表現と、標準的な書き込み密度を理解する必要がある。ここ2年の傾向でいえば、フロアごとの平面図3枚と断面図1枚というのがデフォルトだが、1/200のスケールでそれぞれどこまで書くのか把握しないといけない。

階段は33cmとか25cmの踏面間隔で、省略せず1段ずつ書く必要がある。扉は通用口や機械室は開き戸で、風除室やカフェは自動ドア、それ以外の部屋や便所の出入口は、縦線一本引けばOKらしい。

上部が吹抜けになる部分は点線でバッテン、その上の中空部分は実線でバッテン。庇や煙突、駐車場・駐輪場、DS・PS・EPSなど細かいパーツの表現方法は、過去の標準解答例から学ぶとよいだろう。

開口部のガラス部分は、真ん中に1本太い断面線を引いて、その両端に壁の厚み分、細めの見えがかり線でサンドイッチすればいいらしい。引き違いとか、細かい方式までは気にせず、1.5mくらいの間隔で縦線を入れると、窓とみなしてくれるようだ。

こういう書き方が実務でも普通なのかわからないが、とりあえず製図試験では通用する。

わずらわしい階段の書き方

図面の中のパーツとしては、特に階段がややこしくて時間を取られる部分だ。テクニックとして、利用者階段は5mm方眼紙3マス(1.5m)ごとに区切って、それぞれ5等分すれば踏面33.333cm、両端に1段ずつ書き足せば13段。一回り26段になるので、階高4mなら蹴上約15.4cmでバリアフリー寸法をクリアできる。

製図試験における階段の作図法

段数を増やして蹴上寸法を下げるのもありだが、その代り踊り場の有効幅が圧迫される。7×4m、階高4mの試験標準寸法で利用者階段を作図するなら、この書き方が間違いない。マス目3個の5等分というのが、目分量で測れるようになったら一流の作図師だ。それまでは定規をあてたり、補助の点を打ってから線を引いた方が無難。

サービス用階段は踏面25cmでOKなので、5mmマスを4等分すればよく書きやすい。段数は片側10段、1回り20段とすると4m階高で蹴上20cmなので、ちょうどいいくらいになる。利用者階段より計算も作図も簡単だ。

今年のスポーツ施設は上階にプールを設ける場合、配管ピット用に2m階高を増やすというローカルルールがあった。階高1.5倍なので、初期の頃は階段1.5回転させて対応させるテクニックもあったが、上下階で出入口が反転するのでプランニングしにくい。

結局最後の方は、どの予備校も階段2回転させて階高増分を吸収させるソリューションに落ち着いたようだ。スクールの図面表現も、試験本番まで徐々に改良されていくのが興味深い。

図面完成の目標は無理せず3時間

図面を仕上げる目標時間は、平面図3枚と断面図合わせて3時間。資格学校の目標タイムはこれより早いかもしれないが、凡人が2か月練習して達成できるのは、せいぜいこのくらいだと思う。

今年は多めにトータル20枚以上図面を書いたが、試験直前の週に入ってようやく、3時間5分くらいで注釈書き込みまで終えられるようになった。今年のスポーツ施設は、プールやトレーニングルームの吹抜け大空間が多かったので、去年のリゾートホテルより平均して早く書けたと思う。勾配屋根もなく、細かい客室の線も必要ない。

作図が3時間で済むなら、エスキース2時間、記述1時間で合計6時間。試験時間の6時間半に対して、30分のバッファーを見込むことができる。その分、エスキースの時間を延ばしてじっくり考えてもいいし、最後の見直しや植栽・タイルの書き込みにあててもいい。

とにかく時間ぴったりでなく、「予定通りにいけば少し早めに終わる」くらいの目標タイムを設定すれば、心の余裕ができる。試験本番の緊張感を2回経験したが、いずれもエスキースは予定時間をオーバーした。

特に2年目は過去の反省から、一発アウトの特記見落としや、部屋漏れ確認がどうしても念入りになってしまう。そのため、経験値に反比例して「過年度生ほど本番でエスキースが慎重になり、作図時間が足りなくなる」と考えた方がいい。

それ以上、作図を練習するのは非効率

エスキースはやろうと思えば4時間でも6時間でも無限に続く。とにかく2時間で片づけて、その範囲で思いつけた最良の案を書き上げようと覚悟を決めるしかない。

記述はだいたい書くボリュームが決まっているので、それほど時間は変動しない。今年は補足図のエリアが広かったので、練習より早く、50分くらいで書き終えることができた。このまま記述のお絵かき欄が増えるとすれば、問題用紙がA2に拡大されたように、答案用紙もでかくなりそうな気がする。

作図は現実的に、3時間でコンプリートするレベルの技術獲得を目指そう。もし9月早々に目標を達成できたら、浮いた時間をエスキースの訓練に回した方が効率的だ。そこから作図をさらに10分縮めるには、莫大な努力を要するだろう。

それ以上、作図をスピードアップさせるには、実際のところ「フリーハンドで書ける部分」を増やすしかない。そして、定規なしでまっすぐ線を引けるかというのは「きれいな字を書く」と同じで、一朝一夕で身につくスキルではない。

フリーハンドの考え方

人によっては、定規を使わずフリーハンドで書いた方が早いという意見もある。自分の場合、縦線はそこそこまっすぐ引けるが、横線はどうしても定規なしだと曲がってしまう。ためしにフリーハンドで図面を書いてみたら、とても見られたクオリティーでなく、向いていないとあきらめた。

理想的にはすべての線を定規で引き、家具や便器もテンプレートを当てれば、最もきれいな図面に仕上がるはず。作図をスピードアップする秘訣は、目標タイムに合わせて、「自分はどこまでフリーハンドでいけるか」と見きわめることである。

自分の場合は試行錯誤して、便所の便器、カフェの椅子や洗面台の直径2mm円まではフリーで行けると判断した。これらは数も多いので、さすがに1個1個テンプレートを当てると時間がかかりすぎる。

フリーハンドで描いたテーブルと椅子

今年の本番はなぜか時間が余ったので、最後にカフェの椅子だけはテンプレートを当てた。残り時間を計算して、「今ならここまでテンプレートを使える」と臨機応変に判断するのが得策だ。

便器はフリーの方がそれらしく書ける

便器は通常楕円のテンプレートを当てるものだが、あえて手書きで壁側の端部を米粒みたいに平たくすると、なんか見た目がそれっぽくなることに気づいた。

フリーハンドで描いたトイレの便器

便器に関しては、テンプレートよりむしろフリーハンドを優先して、「便器っぽいかたち」を書けるよう練習する価値があると思う。試験に出るのはたいていフラッシュ式の想定なので、後ろのタンクは書く必要がない。

あとはガラスやルーバーのチョンチョン、1m四方のPSバッテンくらいなら、フリーでもそれなりに見られるとわかった。図面上で5mmを超える長さの線は、定規なしでは真っ直ぐ書けないと割り切ることにした。

エスキースで決める部分と決めない部分

作図のベースとして、エスキース中に書き上げた1/400図面はあるとする。作図の効率化についてよく言われるのは、「図面を書きながらエスキースしない」という教訓だ。

1/200を起こしながら、部屋の配置やスパン割りをいじるなどもってのほか。更衣室内のレイアウトや、各階PSの位置まで1/400図面の段階で決めておきたい。

唯一曖昧にしておいて許されるのは、便所内のレイアウトと、テーブル・椅子など家具類の配置だけだ。これらは1/400に書き込むには細かすぎるので、1/200図面上でぶっつけ本番アドリブで書いた方が効率的だ。

図面を数枚仕上げる頃には、トイレの中のブースや便器を勘で書けるようになるだろう。確保した面積に対して、1,500×1,000の便所ブースを何個置けるか、男性用なら小便器をどの壁に付けるか、洗面台の位置と個数など、無意識にパターンを当てはめられるようになる。

また、家具の配置も1/400では細かすぎて表現しにくい。什器の記入は1/200でも最後の方なので、余裕があれば室名記入より先に済ませるときれいにレイアウトできる。

作図中は頭を使わず短期記憶を活用

基本的に、作図中は線を書くこと以外に頭を使わない方がいい。今行っている作業、次に行う作業、全体の時間配分の中での進捗具合、それだけ念頭において、あとは指先に注意を集中させるべきである。

「なんかこの部屋とこの部屋を入れ替えた方がすっきりするな~」とか、余計なアイデアを思いつく隙を脳に与えない。2時間のエスキースで決めたプランが今の自分の限界と割り切って、別の作図担当者になった気分で清書に徹しよう。

エスキース中に自作プランの特徴を脳内にインプットする。作図中はこの短期記憶を頼りに、なるべく1/400図を見ないで書けるとスムーズだ。一瞬たりとも手を止めて中身をレビューすることなく、よどみなく書き続けることが作図スピードアップの秘訣といえる。