一級建築士は毎年4月の受験申込の際に、いくつかある候補から会場を選べるようになっている。倍率によっては希望通りにいかない場合もあるが、さいわいここ2年は第一希望のキャンパスを選べた。
候補といっても、大き目の近隣大学がいくつかある程度。地方の試験場なら選択の余地などないかもしれない。今年はなぜか昨年受けた場所が候補から消えていたので、別のところで受けてみた。
場所は変わっても、大学の講義室なので設備に大差はない。狭い机に製図板を乗せて書く苦労も一緒だった。今年はさらに跳ね上がり式の一人用固定椅子だったので、さらに作図は困難を極めた。
事前に対策できることは少ないが、試験会場でいろいろ驚かされることがある。忘れないうちに試験当日の感想をメモしておこう。下世話な話だが、試験中の食事とトイレ事情についてこちらにまとめた。
会場には10時にならないと入れない
受験票によると、当日のスケジュールは10:45から注意事項等説明、11:00スタート。さらに右側の注意事項に、「試験開始時刻の1時間前迄は試験室への入室はできません」と書いてある。
電車の乗り換えを計算すると、早めに9:30頃到着するか、10:30頃着くかの2択。少しでも睡眠時間を確保してゆっくり向かいたいと思ったが、道中何が起こるかわからないので、早めに出発した。
会場への入室時間は厳密で、10時ちょうどになるまで門番がいて建物に入れない。仕方なく大学キャンパス内のベンチに座って、記述の暗記ノートを見直したりする。試験前の暇つぶしには、先ほどもらった製図学校のパンフ類が役に立った。
駅前でもらえるスクール資料
会場の最寄り駅を出ると、今年も各スクールの手先の方々が手ぐすね引いてお待ちかねだ。直前対策のパンフや、得体のしれない三角形の段ボールを配っている。学科を独学で受験したときは試験前にもらった資料に大いに役立ったので、迷惑だがありがたいサービスといえる。
うやうやしく全員巡回してもらえるものはすべて回収したが、総合資格と日建学院の資料は2部ずつあってダブってしまった。渡し損ねがないよう、工作員は複数配置されているらしい。
総合資格のパンフは表紙に艶のある光沢紙だが、日建学院の方は2色刷りで粗末な紙質。このあたりにも微妙な受講料の差が反映されている。
三角形段ボールの使い道
段ボールの三角形は製図板の下に挟んで傾斜を付ける道具のようだが、こんな急角度で傾けたらシャーペンや何から転げ落ちてしまう。まわりで使っている人も皆無だったので、粗大ごみ直行。もらう必要はない。
この三角形、やけに立体的で試験中も邪魔でしょうがなかったが、記載されている「当学院回収所」というのが見当たらない。もしや、総合資格の支店まで届けに来いという意味だろうか。受験生9千人もいれば、1人くらいそんな振り込め詐欺に引っかかって営業の餌食になってしまう人もいそうだ。
大学構内のゴミ箱に突っ込むのもはばかられたので、分解して製図板と一緒に持ち帰って来た。試験後3日経っても、なぜか戦利品としてまだ部屋にある。よく見るとなかなかレアなアイテムに思えてきたので、メルカリあたりで売れないだろうか。
ちょっと太いがハリセンの代わりに使えそうだ。背中に敷いて寝そべると、背骨のストレッチにもちょうどよい。模型の材料にもなる。
最終チェックのパンフは見ごたえあり
総合資格の資料で目を見張ったのは、断面構成がパターン化されて載っているところ。自分もプールと機械室の階構成はシミュレーションしたが、利用者の縦動線までは分類していなかった。
見れば更衣室・プール間のウェット専用縦移動など、高度なテクニックがてんこ盛り。総合資格では、こんな特殊ケースまで普通に課題でこなしているのかと思ってビビった。
一方、日建学院の方は太っ腹にも、直前対策課題の2問が公開されていた。当年度の課題など、試験が終わってしまえば紙くずと化す運命。まるで期限直前の青春18きっぷみたいに賞味期限はあと1時間だから、金券ショップのたたき売り状態。無料で配った方がまだ宣伝になる。
さすがに直前過ぎてエスキースする暇はなかったが、南西の既存木造家屋から斜めの延焼ラインを書かせる課題1は手が込んでいる。本番では延焼ラインが数方向から出題されたので、ニアピン賞を授与したい。
課題2も敷地は地味だが、無柱空間の大部屋運動場がAB2つあったり盛りだくさんだ。答案例も、プール上部に迷うことなく二重床の長スパン大空間を重ねるあたり、日建の無節操さがよく表れている。
会場内で事前告知の最後通牒
今年の試験会場で異様だったのは、建物入口から教室内まで、いたるところに事前告知の留意事項が貼り出されていた点だ。
バリアフリー、省エネルギー、セキュリティ等…「問題用紙に載っていなくても、配慮しないとアウトだよ」とあらためて言っているようなもの。肝に銘じておいた。
時計は必ず持参すること
今年割り当てられた講義室は昨年より広く、ざっとみて50人くらいは収容できそうだ。壁に大きな時計もかかっているので、席によっては見えないということもないだろう。
去年はなぜか教室の横の壁に時計がかかっていて、後ろの受験生が見えないので試験官が一定時間ごとに黒板に時刻を書くという手間が生じていた。念のため会場の時計はあてにせず、時計は自分で用意した方がいい。
今年は腕時計だけなく、やたらでかい目覚まし時計やタイマーみたいなものを持ち込んでいる人も多数見かけた。さすがにアラームを鳴らすのは迷惑だが、多少電子音がするとか、かさばる時計でも問題ないようだ。(※試験会場によっては、卓上時計やストップウォッチ禁止のところもある模様)
ガムテープの座席固定は禁止?
教室の黒板には、昨年同様、試験中の注意事項が列記されている。特に驚かされる内容ではないが、
- 養生・ガムテープ等での座席・平行定規の過剰な固定はお止め下さい
- 耳栓は使用不可です
- ペットボトル等フタ有るドリンクのみ持ち込み可
この3点は念のため気を付けておこう。
平行定規はともかく、ガムテープで座席を固定するとは何事だ?と不思議に思ったが、席に着いてみて理由が分かった。
バネ仕込みの椅子がやばい
天童木工みたいな積層曲げ木のひとり掛けチェアーはおしゃれなのだが、強力なバネの力で自動的に跳ね上がる仕組みになっている。そのため、図面の上の方に書き込むため立ち上がると、後ろからバチンとお尻を叩かれる。特に縦書きの数字を入れようと製図板の右側に立ってい移動すると、すばらしい反発力で製図板に激突してくる。
跳ね上がりを押さえるには、中腰状態で大腿四頭筋を駆使して、椅子を中空に押さえ続けていないといけない。
試験中何度も、椅子が平行定規を弾き飛ばす派手なクラッシュ音が聞こえた。ついでに道具類を収めたツールボックスまで吹っ飛んだのだろう。
一定時間ごとに「ガッシャーン!」…しかし誰もが必死すぎて、謝ったりリアクションする人はいない。神妙な雰囲気の中、ときどき不気味な衝撃音が鳴り響く恐怖。
来年またこの会場になったら、ガムテープで後ろのテーブルに椅子を固定したいと思った。黒板の注意書きは、それをやっちゃダメだと言っているのだろう。
正直、会場によってこの椅子のハンデはでかい。昨年の教室も跳ね上げ式のベンチだったが、勝手には持ち上がらない手動式だったので、まだましだった。
今年も狭かった机の奥行き
そして次に驚くのはテーブルの奥行きの狭さ。バンコで実測したらたったの37cmしかなかった。当然、製図板のゴム脚は収まりきらない。昨年も同じだったが、手前の脚は中に浮かせて板の途中を机の角に当て、お腹でずれるのを押さえながら作図するしかなかった。
今年の製図試験から公認された「滑り止めマット」はどこに使うのか謎だったが、机の手前に敷いてずれるのを防げばよかったのだろう。100均の網ゴムでよいから、用意しておけばよかった。
さらに机が水平でなく、線を引くたび製図板が不快にカタカタ鳴る現象も見られた。これについては事前に体験済みだったので、手洗い用と別に用意しておいたハンカチを足に噛ませて解消できた。
エスキースと記述に製図板は必要ない
試験中トイレに行こうとすると、通路に製図板を投げ出して妨害している迷惑な受験生がいる。一人だけではないのでなぜだろうと観察してみたら、エスキースと記述中は製図板を脇にのけて、安定したテーブル上で作業しようという作戦のようだ。
なるほどその手があったか!と感心したが、すでに製図板はハンドタオルを挟んでベストな位置にセッティングしてあったので、真似はしなかった。平行定規を脇にどけるなら、せめて机の脚に立てかけるなりして、邪魔にならないようにしてほしい。うっかり踏まれて壊れても知らないよ。
ドラフティングテープは長めに4本、試験前にちぎって製図板上部に貼り付けスタンバイしてある。エスキースと記述中、3時間空気に触れて粘着力が落ちる懸念はあるが、試験中にカットするより15秒くらい時間短縮を図れる小技だ。
椅子を左右にずらせない不便さ
バネ入り椅子の脅威はもう一点あった。机に対してポジションが固定されているので、製図板が体の中心線より左に寄ってしまう。右端の座席だったので、普段は右利き=右側に置いている道具類を左にセットするという、クロスコネクションを余儀なくされた。
6時間半、ずっと体を左にひねりながら作業する状態だったので、身体的な苦痛が半端でない。しかも強力スプリングが仕込まれた椅子の台座が、ちょうど左足を置く位置にあり、立って作業しようとすると足の踏み場がなくなる。
テンプレートのチェックはゆるい
会場や担当者によるかもしれないが、今回のテンプレートチェックはザルだった。いつかBANされるのではと噂のバンコは今年も問題なし。その他のテンプレートもチラ見するだけで、素通り状態。
試験開始後はまわりを見る余裕がなかったが、製図板の傾斜角度を厳密に測るとか、ちまたで言われる厳しいチェックを受けている受験生は見当たらなかった。
なんとなく今年の会場は、人数が多いわりに紳士的な受験生ばかりで、不快な独り言とか全然聞こえてこなかった。むしろ椅子の反発力でさかんに製図板をふっ飛ばしていた、自分が一番騒々しかったかもしれない。年寄りの粗相、かたじけない。
試験対策は筋トレから
来年また受けることになっても、この大学だけは選ばないようにしておこう。中には段床形式の講義室で、さらに机が狭い会場もあると聞く。唯一よかったのは、アルバイトのかわいい女子学生が教壇で見張りながら居眠りしていて、試験中ほっこり癒されたことくらいだ。
会場のハンデは馬鹿にならないので、どんな劣悪環境に当たっても動じないよう、体を慣らしておきたい。奥行き30cmくらいのベンチに平行定規を乗せて、あえて不安定な環境で作図練習するとか。体幹と下肢の筋トレも重要だ。