せんだいメディアテークに引き続き、自宅の外でも建築士の受験勉強がはかどる穴場を紹介しよう。出店エリアが限られるので万人向けではないが、もし近くにイケアがあれば、上階にあるレストランがたいへん役に立つ。
イケアのレストラン
JR仙台駅から一駅南の長町駅前にあるIKEA仙台。2014年にオープンした東北初イケアで、家具売り場の規模はそれなりだが、レストランを単独利用できる。
関東圏をはじめ、全国にあるイケア共通のファシリティーとしてレストランの利用価値はあなどれない。特に飲み放題のドリンクバーが激安であることは、ノマドワーカーに広く知られている。1階に売り場がある80円ホットドックや50円ソフトクリームは目立つが、イケアで安いメニューはそれだけでない。
最近割引サービスが廃止されてしまったが、以前はイケアファミリーに無料で入会すれば、平日60円でドリンク飲み放題だった。現在は「11時までに入店すればドリンク無料」。それ以外の時間帯は、メンバーカードの有無を問わず100円に設定されている。
料理はまずい
早朝は99円の無添加(=具がない)カレーなど、特別メニューも出ている。
それ以外の料理は、たいして安くないうえに、はっきり言ってまずい。しょっぱすぎるサーモンに、水色のスウェーデン国旗色ケーキ、夏にはザリガニなんてゲテモノまで出てくる。
むしろ今の日本で、ここまでまずい物を食べさせてくれるスポットとして貴重。罰ゲームや眠気覚ましには使える。
ドリンクも当たり外れあり
ドリンクバーのコーヒーのクオリティーは、コンビニ店頭にあるマシンと同程度。専門店にはかなわないが、ガストのドリンクバーよりましだろう。お客さんの回転が速いので、注意しないとネタ切れでお湯しか出てこないこともある。
ソフトドリンクのコーナーにある「ノルディックウォーター」は、激マズなので注いではいけない。日によって当たり外れが多く、味が薄すぎるのは調合を間違っていると思う。コーヒー以外なら、炭酸水やコーラ、なっちゃんあたりが無難だ。
とことん長居してもOK
イケアのレストランが勉強向きなのは、やたら広くて席が多いうえに、何時間粘っても何もいわれないからだ。
慣れてくれば、朝から無料ドリンクバーだけ頼んで夜まで過ごせる。疲れたら寝室コーナーのベッドで仮眠を取ったり、ポエングのロッキングチェアでびょんびょん跳ねてリフレッシュできる。
売り場のオープンなスペースは目立つが、ところどころ死角になった家具展示スペースが穴場だ。奥まった位置にある子ども部屋の2段ベッドなど、めったにお客さんも来ないので寝ていてもばれない。
イケアに住む
あまりに快適すぎて、一時は「イケアに住んでいる」といえるくらい毎日過ごしていた。家にいるより快適だし、早朝無料のドリンクバーと99円カレー、ホットドックだけ食べれば、1日の食費は300円くらいで済む。
しかし上には上がいて、毎朝窓際の特等席を確保して、オフィスとして使っている先輩もいる。イケアに電源はないがWiFiは完備されており、1時間おきに再接続が必要になるスタバのネット環境より安定している。
イケアの予備校化
そして興味深いのが、放課後に高校生がレストランに押し寄せ、「イケアが予備校化している」という社会現象だ。ちょうど今頃、正月明けから春先に向けてがピークだが、平日の夕方過ぎはレストランの半分以上、100人くらいの高校生で占拠されるときがある。
ファミリー会員でなくても100円でドリンク飲み放題。そしてWiFi・冷暖房完備で長居しても文句を言われないとなれば、安めのマクドナルドやモールのフードコートより快適。味を占めた高校生たちが、制服姿のままイケアに大挙して押し寄せる風景が日常化している。
なかには無料のネット環境を生かして、スマホでゲームにいそしんでいるグループもいる。そしてたいていの高校生は大人しく、運営サイドや他のお客さんと共存できている。修学旅行のように、パイ投げして騒ぐ子どもたちはいない。
シェアオフィスをやればいい
土日は家族連れでレストランが混雑するため、「長時間利用禁止」の札が置かれていることもある。それでも奥の方のテーブルはフリーなので、早めに入店すれば曜日を問わず陣取れる。
平日の空いている時間帯なら、ひとりで4人掛けテーブルを確保して、各教科のテキストや法令集を広げても迷惑にならない。さすがに製図の練習で平行定規を持ち込む度胸はなかったが、スペース的には許されそうな範囲だ。
ある意味、空き家占拠のスクウォッティング活動とも似た、受験生のIKEAハック。そのうちイケアが開き直って、レストランで教育サービスとか、シェアオフィス事業を始めるのではないかと思う。
有料で電源付きブースとか、プリンターやコピー機を貸してもらえるだけでもありがたい。ついでにチェアやデスクなどオフィス家具の宣伝も兼ねられる。
高校生を野放しにしているのも、今のうちに餌付けしておいて北欧センスに洗脳する、広報活動の一環かもしれない。
地熱利用の空調設備
イケアの内装は基本的に天井がなく、丈夫の設備機器がむき出し。照明・空調機器の設置状況や、PS/DSダクトルートを直接観察できる。
表からは見えないが、福岡店などでは地中熱利用や外気冷房が積極的に導入されている。店内を見渡してもパッケージ型のエアコンしか見えないが、裏では空冷式と、地中熱利用の水冷ヒートポンプを組み合わせて温度調整しているらしい。
公開されている資料を読む限り、雨水利用・太陽光発電・全熱交換器など、製図試験の記述で使えるアイデアが満載だ。むしろ、これだけ天井の高い大空間を効率よく空調するために、工夫せざるを得なかったのだろう。環境への配慮というより、ランニングコスト削減の目的が大きそうに見える。
イケアの店内をくまなく観察してみれば、ほかにもユニークな設備機器が見つかるかもしれない。勉強に疲れたら、一通り売り場を歩くだけでも1kmくらいウォーキングできる。
食事・休憩・エクササイズの要素をバランスよく兼ね備えたイケアのレストラン。もし近所にあれば、毎日通いたいくらいおすすめの自習スポットだ。