昨年は友人からのレンタルで済ませた平行定規。今年は心機一転、新品購入して気に入っていたコクヨのトレイザー(型番TR-HHEB11ビニール天板タイプ)だが、9月半ばに突然壊れてしまった。製図板がクラッシュするというハプニングの対応について、まとめてみようと思う。
突然スケールが上がらなくなった
特にどこかにぶつけたとか、イライラして乱暴に扱ったとか、思い当たる原因はない。東西面の縦型ルーバーまで定規を当てて書いたりしていたので、ワイヤー部分に疲労が蓄積したのかもしれない。
ある日、作図を始めようと思ったら、スケールが上まで上がらないことに気づいた。上端1/4くらいまできたところでスムーズに動かなくなり、残り5cmくらい残して完全に停止してしまう。何かが引っかかっている感じで、それより上には力を入れてもスケールが上がらない。まるで四十肩みたいだ。
前からこんなものだったっけ?と思いつつ、敷地上端の外構を書いたりスケールを入れたりする作業ができないので違和感がある。途中から上下移動に妙な抵抗感を感じるのもストレスだ。とりあえず製図板側面の溝やワイヤー部分を点検したが、特にホコリが絡まっているとか異変は見当たらない。
注油はやめておいた
半分より下側の移動は問題ないので、ひとまずそのまま3時間くらいかけて平面図を書き上げた。翌日にもう一度点検してみたが、休ませれば直るという感じでもない。むしろ五十肩くらいまで悪化している。
可動部に油を差せば改善されそうな気もするが、ワイヤーが接する滑車部分は白いプラスチック製でメンテナンスが必要そうには見えない。むしろ溶剤によってはパーツが傷んでしまいそうだ。
なんとなく用紙や筆記具に油が飛んでベタベタになりそうな予感もするので、注油するのはやめておいた。とりあえず簡単な解決策がないか、故障なら修理してもらえないか、製造元のコクヨに問い合わせてみることにした。
平行定規なしで図面を書く練習
もし製図試験本番で同じ状況に陥った場合、用紙の5mm方眼を参考に定規を当てれば書き続けられるだろう。平面図の上の方は、それで何とか間に合った。
製図板のトラブル対策として、試しにスケールなしで三角定規だけ使って断面図を書き上げてみたが、1.2倍くらいの延長時間で済んだ。ただし毎回線を引く前に、定規が目盛りにちゃんと沿っているか、目視で確認するのに疲れる。平行定規があれば、水平か垂直かどちらかだけで済む確認作業が、両方必要になるので負担も2倍だ。
さらに作図中ずっと定規を押さえていないといけないので、左手がものすごく疲れる。平行定規があれば、少なくとも水平方向のぶれは気にする必要がない。縦線を引く時だけ三角定規が横にずれないようにすれば、そうそう線が歪むことはない。
作業時間的にはそれほど変わらないとしても、左手・肩と目が異様に疲れる。製図板に慣れてしまうと、せめてT定規くらいはないと長時間の作図はつらい。
とうとうワイヤーまで外れた
メーカーへ問い合わせる前に、もう少し詳しく症状を観察してみた。少し力を入れてスケールを上げてみたら、何か引っかかっていたものが外れて、急に最上段まで動くようになった。
自己解決できたと思ってよろこんだが、ふと見ると製図板の横からワイヤーがべろっと飛び出している。スケールの動きは元通り滑らかだが、ぐらぐらして水平が決まらない。ワイヤーが外れてしまうと、平行定規はまったく役に立たないようだ。
外れたワイヤーを確認してみると、左右の白いプーリーからずれてしまっている。ひとまず右側のたるんでいる部分を素手で滑車に引っ掛け直し、左側も掛け直せば元通りになるかと思ったがうまくいかない。
直せそうで直せないワイヤー
細いペンチやピンセットを駆使して挑戦してみるが、30分くらい格闘してもしっくりこなかった。ワイヤーのテンションを調整する部分がどこにもなく、ループ状に溶接固定されているので、寸法的な遊びがまったくない。もっともこのワイヤーがたるんでいたら、平行定規として用をなさないと思われる。
問題のプーリーを軸から外してみようと思ったが、ナットとワッシャーを取るだけではパーツが外れない仕組みになっている。軸を多少動かせるようにはなるが、この程度ではワイヤーをかけ直すのに十分な可動域は得られない。
手が4本くらいあれば、各所に細いキリを差し込んでワイヤーをガイドしながらスケールを動かし、はめなおせるように思う。一人で製図板を足で挟み、口とかあごを使って試行錯誤してみたが、全然だめだった。これは自転車のチェーンをかけ直すよりも、ずっと難しい。
コクヨに修理発送、代替機は不可
こうなるともう修理に出すしか思いつかない。さいわい3月末に通販で購入したので、6か月の保証期間終了まであと1週間残っていた。取扱説明書にハンコが押された保証書がついており、楽天市場の購入記録もあるので資料としては十分だろう。
コクヨのウェブサイトにある問い合わせフォームで相談してみたところ、数時間後に担当の方からお電話いただいた。症状は詳しく報告したが、引き取っても修理に1か月はかかるという。しかも状況次第では有償になる可能性もあるとのこと。自力で直そうと分解してしまったので、保証が効くかどうかわからない。
製図試験まで1か月は切っており、その間の練習を考えると預けっぱなしというわけにはいかない。念のため代替機を貸してもらえないか聞いてみたが、残念ながらコクヨは対応していないとのことだった。
とりあえず壊れたトレイザーを持っていてもしょうがないので、メールで返送方法を案内してもらうようお願いした。数時間後に届いたエクセルファイルに原因などを詳しく記入し、翌日、保証書のコピーと楽天の購入明細を添えて、着払いの宅急便でコクヨに発送した。
ドラパス平行定規を借りられた
ヤフオクで中古の平行定規を探すと、最安で5千円台から出ている。落札相場はまちまちだが、平均すると8千円くらいだろう。せっかく2万近く払って新品を調達したのに、もう1台買うのは痛い出費だ。
たまたま当日、昨年製図板を借りた友人に会う予定があったので、相談したら快く貸してもらえることになった。壊れたその日のうちに代替機を借りられたのはラッキーだ。昨年のリゾートホテルで玉砕した縁起の悪いドラパスだが、長年使い込まれて汚れているわりにはスケールの動きもスムーズである。
コクヨの製図板を使いこなして、いろいろ便利な機構があると知ったが、ドラパスのこれはネジを回しても何も起こらない。
スケールの固定機能は言うに及ばず、水平角度の微調整とかフローティング量の調整とか、トレイザーについていた機能がどれも効かない。ネジはいくつかあるのだが、うまく噛み合っていないか内部のパーツが破損しているのか、あらゆる調整機構が封じられている。
その代り、スケールの浮き具合は絶妙な加減で固定されているので、特にいじらなくてもベストなセッティングになっている。製図用紙をスケールに合わせて正確に貼りさえすれば、がたつきもなく安定して使用できる。
もしかすると以前の持ち主が、雑念を消すためあえて製図板の各機構をふさいだのかもしれない。それともどこかにロック解除のボタンがあるのだろうか。今回のコクヨのように、試験中に突然固まったり緩んだりする不安はあるが、昨年は数か月安定して使えていたので、あと1か月無事に持ってくれればいい。
本番で壊れても何とかなる
トレイザーの発送前に、製図板を2枚並べて見比べてみた。
ドラパスはAmazonでも2万円台後半と、平行定規の中では高価格帯だ。トレイザーよりスケールまわりについているネジが多いので、使いこなせばセッティングの自由度も高そうだ。
「製図板からワイヤーが外れる」という現象をググってみると、自分で器用に直している人もいる。症状としてはよくあるトラブルのようなので、毎年9千人くらいの製図試験受験者のうち、数名くらいは試験中にクラッシュしているのではなかろうか。
前向きに考えれば「これが試験本番でなくてよかった」とはいえる。仮に壊れても動揺せず、方眼に定規を当てて書き続けられることはわかった。余裕があるなら平行定規なしで図面を仕上げる練習というのも、一度体験してみるといい。
いまどき建築士の製図試験くらいしか使い道がなさそうなA2サイズの平行定規。国内メーカーでも1シーズン持てばいいくらいの気持ちで、そこまで品質管理を徹底していないのだろうか。コクヨからの修理見積りに戦々恐々としているが、もはや製図板は消耗品だと割り切る気持ちが出てきた。
製図試験に製図板を2枚持って行く
もしトレイザーが無償修理可能で、試験前に戻ってきたら、会場に2枚製図板を持ち込もうかと考えている。見た目は変態的だが、両肩に担げば運べないこともない。A2サイズなら電車の網棚にもぎりぎり載るサイズ。万が一、本番で壊れることを考えると、安全側をみて2枚平行定規をそなえておくべきだ。
パソコンは論文の締め切り前とか仕事の納品前に壊れやすいとよく言われる。酷使すれば壊れる可能性が高まるのは当然だが、壊れたときのダメージも大きいので、余計に記憶に残りやすいのだろう。
その後、1週間で修理から戻って来た
平行定規を修理に出して数日後、ひょっこりコクヨからメールが来て、翌週には戻ってきた。連休を挟んだので、ドアツードア5営業日くらいのスピード対応で驚いた。
自前の工具では修理不可能に見えたのだが、本体部分は無傷。ワイヤーを引っ掛け直すくらい、メーカーの工場では訳なかったのかもしれない。
さらに驚いたのは、製図板の裏側両端にくっついている、ネオプレーンゴムの滑り止めまで貼り換えてもらえた点だ。消耗品なので保証対象にならないと思ったのだが、ワイヤーと一緒に気前よく無償でリフレッシュしてもらえた。発送費用は着払いで送料無料だった。
試験本番、会場の奥行き狭いテーブルを想定して、わざと製図板を机の角に当てながら不安定な姿勢で書く練習をしていた。そのため裏側の滑り止めゴムがぼろぼろになってしまったのだが、新品に戻ったおかげでグリップ力が回復した。
壊れやすいが修理は早いトレイザー
コクヨの製図板は安くて信頼性に欠けるが、サポート体制が素晴らしいという二面性をそなえている。
- 設計料は安くて愛嬌もあるが、仕事が雑で欠陥ばかり。ただしクレーム対応は万全で、24時間電話で修理に駆けつけてくれるコクヨ工務店
- 設計料は高くて不愛想だが、仕事は完璧で一部の隙もない。安心してノーメンテで暮らせるムトー設計事務所
住宅の設計を依頼するとしたら、どっち?
修理後のトレイザーは、なんとか10月中盤まで壊れずに動き続けた。オーバーホールしてもらったおかげで、心なしか購入直後よりスケールのがたつきも減ったように思う。試験本番中も安心して作図に集中することができた。
雑な修理を試みたため、側面の溝に多少ペンチでこすった跡が残っている。それ以外はまったく問題ない新品同様の完動美品。万が一合格していたら年明けにでも中古市場に出回ると思うので、安心してお買い求めください。