一級建築士の学科試験、会場の様子や平成29年の問題について、感想をまとめたみた。
試験前の状況としては、過去問を満足に解く時間がなく、直前課題の自己採点もボーダーぎりぎり。本番が近づくにつれ緊張して眠れない日が続き、学科試験当日の睡眠時間も3時間くらいだった。
準備も体調も万端でなかったが、ベストは尽そうと思って会場に向かった。申し込みの際に、わざわざ自宅から遠い試験会場を選んでしまったので、電車で1時間くらいかかった。さいわい試験日は休日なので、朝の通勤ラッシュはなかった。
試験中の飲食物
試験場に持って行くものは、受験票と法令集、筆記具と時計があれば十分だ。教室に時計がないか、あっても自分の席から見にくい場合がある。腕時計は予備も含めて2本持って行くのが安心だ。
昼食はコンビニでおにぎり2つ、菓子パンのランチパック、どら焼きや大福など、糖質中心で消化がよさそうなものを選んだ。さらに補給食として、ナッツとレーズンをミックスしたおやつと、氷砂糖も用意しておいた。
飲み物はペットボトルのカフェオレ2本とミネラルウォーター。眠気覚ましにカフェインは欠かせない。甘いものばかりでなく、口の中をリフレッシュできるよう水も持ち込んだ。
上着とクッションがあると便利
7月末の暑い季節だが、試験会場の空調が読めないので、長ズボンと羽織物を用意した。暑ければどんどん脱げばいいが、冷房が効きすぎてこごえるのは耐え難い。
大学の講義室は座面が固いので、自前のクッションを持って行くのもいいと思う。通気性のよいクッションを敷けば、お尻の蒸れ防止にもなる。試験中、木製のベンチに座布団を敷いていても、特に注意はされなかった。
無料でもらえる直前チェック集
会場には試験開始1時間前に着いたが、早すぎたのかまだ教室が開いていない。すでに外の広場やベンチに座って、テキストを見直している人が大勢いた。
早めに到着して向かってよかったことがひとつある。駅前に待機している予備校のスタッフさんからもらえる直前対策の資料が、すばらしいクオリティーだった。
日建学院・総合資格ともかなり密度が濃く、頻出項目を厳選して紹介している。試験の開始前や休憩時間に2冊とも目を通したら、全部で5題くらい的中していた。
もらえるのが試験当日の朝なので、十分に目を通せないのがもったいないくらいの貴重な資料だ。予備校に通うと、こんなに内容の濃い講義を受けられるのかと驚いた。独学の人はかなり参考になると思うので、ぜひ早めに会場に向かっていただいておこう。
受験票忘れとスマホ対策
試験会場に受験票を忘れたら、「事故係」というところに行くと助けてもらえるようだ。なにかしら身分を証明するものを見せれば再発行してもらえそうなので、万が一のときは相談してみよう。
スマホや携帯電話によるカンニングには、試験元が相当神経をとがらせているようだ。少しでも疑われれば、即退場のおそれがある。最悪の場合、今後3年受験禁止のペナルティーまである。
試験開始前に、「無線通信機器入封筒」という茶封筒にスマホを入れて糊付けするよう指示される。Apple Watchやスマートウォッチも怪しまれるので、当日は普通のアナログ時計を着けて行く方が無難だ。
試験中、後ろの方でブツブツ独り言をしゃべる人がいて気になった。それ以外は特にトラブルもなく、落ち着いて集中できた。緊張するとトイレが近くなるので、1時間おきくらいに挙手して行かせてもらった。
自己採点の結果と各科目の感想
平成29年の学科試験について、自己採点の結果は以下の通り。(※カッコ内は各科目の合格基準点)
- 計画:16/20(11)
- 環境・設備:11/20(11)
- 法規:25/30(16)
- 構造:24/30(16)
- 施工:18/25(13)
合計:94/125(87)
受験者全体の学科合格率は18.4%だった。
①計画実例はサービス問題
計画は2問目でまさかの「カステルヴェッキオ美術館」が再出題された。設計者のカルロ・スカルパは好きなので、テンションが上がった。他の実例問題も、知っている作品ばかりで完答できた。東京計画1960は明らかに「放射状」でないし、前川自邸も「極小住宅」ではない。
集合住宅の問題はピンとこなかったが、求道學舎が「テラスハウス」でない時点でここが誤りと察しがついた。ベルリン自由大学図書館もどんなものか思い出せなかったが、ノーマン・フォスターが「外壁に文字を彫る」なんてダサいことはしないだろうと仮説を立てたら、見事に当たった。
著作問題は最近のレム・コールハースが出たので、意匠系の受験生には有利だったと思う。平成26年の「出雲大社は平入」みたいな、間違いやすい引っ掛け問題も出なかった。
一方で、立体駐車場の車路の傾斜や、特区街区制度はわからず失点してしまった。それ以外の計画問題はうまくできたように感じたので、幸先の良いスタートを切れた。
②環境・設備はボーダーライン
計画がうまくできて調子に乗ったのか、環境・設備はボーダーぎりぎりで一番成績が悪かった。
夏至・冬至の日射量大小関係はグラフ形状をおぼろげに思い出せたものの、東西/南面の大小関係があやふやで間違えた。この「何となく覚えている」という状態は本番で役に立たず危険だ。頻出のグラフは、細部を的確に再現できるまで脳に覚え込ませないといけない。
給排水は「キャビテーション」という用語がわからず、接地極も「水気が少ない」という罠にまんまと引っかかってしまった。CASBEEも似たような英略語と混同して間違えた。後から考えれば、いかにも狙われそうな部分だったといえる。
実務経験がない分、設備は施工と同じくらい不得意な分野。それでも構造・法規よりは理解しやすい気がして、勉強の優先度を下げてしまった。配点が20点と他より低かったので油断した節もある。
科目ごとの足切り点はあなどれないので、もっとバランスよく勉強すべきだったと思う。法規や構造は14点まで落として大丈夫だが、計画と環境・設備は9点までしか落とせないとシビアに考えた方がいい。
③法規は計算間違っても絶好調
自信のなかった法規は、なぜか一番よくできた。案の定、時間が足りず、すべての選択肢を法令集で検証できなかった。怪しげな選択肢に勘でバツを付けただけの回答も多い。それでも不思議と当たっていたのは幸運だった。
残念だったのは、あれほど練習した「高さ制限」の計算問題を落としたことだ。想定通り「2以上前面道路」のパターンで出題されたが、南側道路の幅員2倍&35m範囲にないのを早とちりして、北側道路の境界線距離を見落とした。
「こんなに簡単に計算できるのはおかしい」とミスに気づくべきだったのに、本番では検算してもわからなかった。第1・2種低層住居専用地域で「絶対高さ制限=即決定」みたいな流れだったら、さすがに疑ってかかったと思う。
適当に間違って計算しても、選択肢にそれらしき数値が用意されているのがいやらしい。まんまと試験元の罠にはまった。
④構造はヤマ勘当たりまくり
苦手な構造も意外とよくできた。計算問題では解法が間違っていたのに、なぜか答えが合っているものもあった。「解けない問題は捨てる」と割り切ったのが功を奏したといえる。2度目の受験では、不思議とヤマ勘にも磨きがかかるようだ。
失点したのは、鉄筋の径が同じなら強度を上げても許容曲げモーメントが変わらないとか、学校屋上の積載荷重くらい。解答に「自信がない」とマークした問題も、なぜか正解率が高かった。
集成材のCLTは、TACブログに「予想オリジナル問題」として出ていたのがまさに的中していた。「木裏の方が反る」という間違いの選択肢は見分けやすかったが、CLTの用語を知らなければ悩まされたと思う。
⑤施工はたいてい勘が外れる
不安な施工もまずまずの成績。やはり勉強時間を増やした科目で如実に成果が上がった。構造も施工も「基礎知識が足りない」と自覚していたので、参考書も読んで念入りにケアしたのがよかったと思う。
「硬質ポリ塩化ビニル管は井げた積みだと潰れるだろう」と考えた選択肢は間違っていた。直感的に「これだ」と思う回答はたいてい間違っているのが、学科試験によくある傾向だ。
「トルシア形高力ボルトのピンテールが折れていたので不良品」なんて言われても、初心者にはYesとしか思えない(実は折れているのが正常)。高力ボルトを自分で締める機会なんて、今後も一生ないかもしれない。そういう実経験が足りない部分を、施工科目は執拗に突いてくる。
カーペットのグリッパー工法、設備工事のロックウールフェルト密度、折板けらば包みなど、過去問で見たことのない専門用語が続出した。4択だがヤマ勘でチェックしても正答率25%に達しないのが恐ろしい試験だ。直感的に違和感がなくても、間違った選択肢を選ぶよう巧妙に仕掛けられているのだろう。
足切り点で受かる気まずさ
トータル94/125点。正解率75.2%だが、2017年の合格基準87点と、各教科の足切り点はぎりぎりクリアできた。試験当日、帰宅してからネットの解答速報を見て答え合わせするのは緊張する。特に足切りに達した科目で残りの解答をチェックするのは、胃が痛い思いをした。
振り返ってみると、各科目の得点率はほぼ勉強時間に比例していた。「苦労した分だけ報われる」という、素直なテストなのだろう。今年は総得点の下方修正があったが、毎年狙ったボーダーラインに落とし込んで、一定の合格者を出す難易度コントロールは絶妙だ。
半分くらいは運に助けられたが、やはり最低でも3か月はみっちり勉強しないと、通らない試験だと思った。できれば正月明けくらいからぼちぼち準備できると、試験前も焦ることなく、落ち着いて過去問に取り組めるだろう。