建築士の学科試験で覚える範囲はかなり広い。しかしそのほとんどは暗記物といえる。理解できなくても、根性で覚えればなんとかなるのが救いだ。
環境や構造の計算問題ですら、大半は解法パターンを当てはめれば解くことができる。非静定梁の反力・モーメントはそもそも計算困難なので、片持ち・両端支持の場合に分けて反力を暗記するのが王道だ。
無味乾燥な数値は覚えた先から忘れていくので、試験本番まで繰り返し脳にインプットする必要がある。効率的に見直すには、自作のノートに要点をまとめるのが早い。「書くことで覚える」という副次的な効果も期待できる。
まったくの自己流だが、学科試験に向けて用意した学習ノートの例を紹介しよう。各科目ごとに暗記のポイントもまとめてみようと思う。
エピソード記憶と手指の筋トレ
学科試験の学習内容には、数式や図表が多く含まれる。ビジュアル的な情報は、紙に書いて写してみると覚えやすい。ノートの中のどの部分に書いたとか、空間的な配置も記憶を思い出す手がかりになる。テキストにマーキングするだけでは、そういうエピソード的な記憶は残りにくい。
ペンを持つのは宅急便の受け取りサインするときくらい…日ごろなまった腕を筆記具に慣らすにも、ノート作成が役に立つ。その後の製図試験では、記述パートで大量の文章を手書きする必要がある。学科試験のうちから、シャーペンで文字を書き慣れておくのが得策だ。
見直すごとに追記する
3か月の勉強期間で作成したノートは、B5サイズで5冊くらい。ちょっと高級なLIFEの活版ノートでそろえようと思ったが、消費量が激しいので安いツバメノートに切り替えた。お気に入りの製品があれば、別にノートは何でもいいと思う。
縦横に図表を整列させるには5mm方眼が役に立つ。強粘着の付箋で適当に見出しをつけ、シャーペンと赤青鉛筆・蛍光マーカーでまとめた。書き込んだ履歴がわかるように、追記する際は赤ペン、青ペンなど色を変えるようにした。
ノート作成のポイント
- 最初にテキストや参考書の重要ポイントをざっくりまとめる。すべて写すのは不可能なので、重要そうと思われた個所を中心に、余白を広めにとりつつまとめる。
- 次に問題で出てきたところを頻出ポイントとして強調マーキング。漏れがあれば追記する。過去問で何度も出る個所は、その都度色を分けてゴリゴリ囲む。
- 結果的に参照回数の多いところほど派手な色がついて、後から目に入りやすくなる仕組みだ。試験直前は、よく間違える個所だけ見直せば確認が済むようになる。
ノートにはきれいに情報を整理するというより、勉強した過程を記録する日誌のように考えている。どうせ自分しか読まないので、「暗記のためのツール」と割り切って、ひたすら書きなぐるようにした。
レポートパッドを壁に貼る
勉強も後半になってくると、化学の元素周期表のように丸暗記すべき項目が見えてくる。それらをノートから別のレポートパッドに書き写して、机の前に貼っておくようにした。転記するのは手間だが、その過程も反復学習に役立つ。
食事中でも寝る前でも、壁を見れば情報が目に入ってくる。インテリアとして見た目は微妙だが、わざわざテキストやノートを開く手間なく重要事項を確認できるメリットがある。
壁に貼った暗記用紙も、過去問で間違えるたびにどんどん蛍光ペンでマークする。
後から注意点を書き込みできるように、余白は多めに取っておいた方がいい。見直すというよりも、追記するプロセスの方が記憶に役立つ。「いつ書き込んだか」「壁のどこに貼ったか」という時間・空間的な文脈が、後で思い出すきっかけになる。
各教科の学習ポイントと暗記法
学科試験の科目ごとに、暗記のポイントとノートのまとめ方を紹介しよう。
①計画
階段やトイレ、バリアフリー関係の寸法関係が暗記ポイントだ。家具やキッチンをメジャーで測ってみるとスケール感を体感できて納得がいく。
建築史の事例では、「インナートリップ神山町=コレクティブ」「東浦町緒川小学校=公営初のオープンスクール」というように、作品名と特徴を対にして覚える。このあたりはTACブログの比較暗記法が参考になる。
著作の問題に関して、ケヴィン・リンチやクリストファー・アレグザンダーなどの有名な本はWikipediaで確認する程度で十分だ。概要程度しか問われないので、わざわざ原著を読む必要はない。
2017年はレム・コールハースの『錯乱のニューヨーク』まで出題されたので、都市計画の古典から現役建築家の著作まで出題範囲はかなり広い。新出の選択肢は誰も答えられない可能性が高いので、捨てて構わないと思う。他にわかる選択肢があれば、消去法で回答できる。
②環境・設備
換気や日照は計算問題が出るので、数式の暗記も欠かせない。室内気候のDI/OT/ETなどは、比較表を書いてみると覚えやすい。熱貫流率の分子・分母も間違えやすいので注意。
空調やヒートポンプの概略図はよく出るので、図にまとめるのが早い。小規模な建物ならパッケージエアコンが主流だと思うが、試験では単一ダクトやファンコイルユニットもよく出題される。
空調・給排水・ボイラーの知識は二次の製図試験でも要求される。図面上に機械室やダクトを表現して、採用理由を記述で書く必要がある。各方式のメリット・デメリットなど、学科のうちにマスターしておくと後が楽だ。
③法規
試験本番で法令集を参照できるが、基本的に要点は暗記しないと時間が足りなくなる。規模や高さによる分類が多いので、図に落とし込んだ方が理解もはかどる。特に道路高さ制限と隣地斜線の計算はまぎらわしいので、解法をチャート化しておいた方がいい。
耐火・準耐火・防火構造、不燃・準不燃・難燃材料など、微妙にスペックの違う仕様は表にすると覚えやすい。法令集も下線と囲いは書き込みOKなので、自作ノートと同じく参照するたびマーキングしていけば重要個所が目立つと思う。
④構造
構造力学の計算問題について、静定ラーメンまでは解けるようになったが、「たわみ角法の弾性条件式」くらいから理解不能になった。それ以降は「原理を知らなくても解法だけ暗記」「応用問題が出たら捨てる」という覚悟で、割り切って進めた。
不静定梁の反力で覚えるべき数値は、せいぜい10パターン×3種類くらいだ。「たわみ」と「たわみ角」も同じくらいの暗記量で済む。数値の暗記には語呂合わせが役に立つ。
難しい計算問題は捨てる代わりに、単純な静定構造は絶対得点できるよう反復練習を重ねた。トラスは支点反力を求めてから徐々に追い込んでいく節点法が基本だが、慣れれば切断法一発で解ける場合もある。
構造の後半は各種工法と材料の暗記科目に変わる。鉄筋の定着長さ、コンクリートのかぶり厚さなど、まぎらわしい数値をひたすらノートに図解して覚えるしかない。むしろ「構造は計算問題だけでなく、暗記パートもあるのがせめてもの救い」と感謝しながら取り組んだ。
⑤施工
施工はビジュアルで理解するのが早い。参考書を見ながら、ひたすらポンチ絵を描いて要点をまとめた。
杭打ちの各工法は、断面図を書いてみないと違いがわからない。鉄筋の継手長さや角度、木造の金物など、現物を見たこともないものは想像図で覚えるしかない。マニアックな仕口の形状も意外と試験に出るので要注意だ。