一級建築士学科~独学の参考になった構造・施工・設備の本 etc.

独学だと勉強中にわからないところが出てきても人に質問できない。特に構造のS造やRC造、施工科目は呪文のような専門用語だらけだ。建築関連の職場でなければ、有資格者の先輩や同僚に教えてもらうことも難しい。

勉強時間は限られているが、理解を深めるため問題集以外の参考書にも手を伸ばしてみることにした。「急がば回れ」という感じで、原理を知っておいた方が暗記もはかどる。

苦手科目の学習に役立った参考書をいくつか紹介したい。

構造力学の参考書

学習のメインに使っているテキストは、建築知識の『スピード学習帳』。解説は充実しているが、さすがに計算問題で公式の説明までは詳しく書かれてはいない。

定理の証明方法までは理解できなくても、用法が分かれば試験問題は解ける。しかし型にはまらない応用問題が出ると暗記では太刀打ちできないので、可能な範囲で原理も理解しておきたい。

せめて学生時代の知識くらいは思い出そうと思って、図書館で参考書を借りてきた。

施工の参考書

構造力学の参考書は、「マンガでわかる…」「5日でわかる…」といった読みやすい本も何冊か出ている。もし勉強時間が少なければ、こういう本から公式と解法だけ暗記して済ませ、ほかの科目の勉強を優先した方がいいと思う。

公式暗記の定番『スーパー記憶術』

学生の頃お世話になったのが、原口秀昭先生の『1級建築士受験スーパー記憶術』。「球の表面積=心配ある事情(4πr^2)」みたいな感じで、(あまり語呂のよくない)語呂合わせがたくさん紹介されている。

いくつか参考書を見比べながら、1週間くらいノートにまとめながら構力を復習。静定梁やトラスの計算問題は解けるようになった。

ここまではわかりやすいので、訓練すれば機械的に解けるようになる。あとは試験本番まで数日に1回解き直すくらいで、記憶をキープすればいけそうな感じだ。

しかし、たわみ角や不静定梁は計算式が急に難しくなり、途中で学習を断念。不静定構造の反力と、たわみ/たわみ角の公式だけ丸暗記することにした。おぼろげながら「曲げ応力度は断面二次モーメントに反比例する」くらいの感覚だけはつかめた。

『ゼロからわかる…』シリーズ

現場経験がないと、施工の科目はさっぱりイメージがつかめない。「足場の組み方」くらいは常識的になんとかなりそうだ。しかし鉄筋コンクリートの打設や養生になると、専門用語が多すぎて意味不明になる。

わらにもすがる思いで図書館に向かい、手に取ったのは同じく原口先生の『ゼロからはじめる建築の「施工」入門』。

コンパクトな入門書だが、施工科目の出題範囲はほぼ網羅されている。地業・杭打ちから屋根の防水処理まで、1ページ1ネタのマンガで読みやすい。「ジャンカじゃんか!」みたいなダジャレも多くて楽しめる。

「ゼロからはじめる」シリーズは、ほかにも設備や法規のバージョンが出ている。苦手な分野の概要をざっくりつかむには、うってつけの本だと思う。

『これだけ!○○設備』シリーズ

「環境・設備」科目の後半部分も、実務経験がないとイメージがわきにくい。住宅向けの解説本なので中央制御方式や冷却塔は出てこないが、菊池至さんの『これだけ!』シリーズが役に立った。

プロ1年目でも大丈夫!」というキャッチコピーのとおり、資格試験にも十分通用する。電気、空調、給排水などメジャーな分野については、似たような図解本が多く出ている。

『エアコンのいらない家』

こちらは合格後に読んだ本だが、初心者に役立つ参考書を一冊紹介したい。『エアコンのいらない家』というピンポイントな切り口で空調の基本を解説している。

装丁デザインやイラストが秀逸で、擬人化された温熱環境6要素がものすごくわかりやすい。「放射さん=KY(空気関係ない)」など、建築士受験生なら思わず「うぷぷ…」となるツボが満載。

今さらながら内/外断熱の違いや、Low-Eガラスの方位別使い分けも理解できた。環境が苦手分野なら、学習前にざっと目を通しておくとイメージがわいて助けになると思う。

『建築知識』2019年6月号

雑誌のなかでは『建築知識』が有益だ。

学生時代はまったく興味を持てなかったが、資格の勉強をするようになってからその価値がわかった。最近は表紙から中身までイラストやマンガを多用して、とっつきにくい法規や施工の用語を解説してくれる。

特に施工が苦手な受験生におすすめなのが、2019年6月号「ぜんぶ絵で見て分かる建築現場」木造・鉄骨造・RC造から地盤・基礎、サッシやタイル工事にいたるまで、基礎知識をかいつまんで説明してくれている。

建築知識

さらに電気・空調・給排水の解説もあり、環境分野までカバーしている。ヒートポンプやグリーストラップの図解はきわめて実践的。この雑誌1冊に「絵で見てわかる」系の参考書、数冊分のエッセンスが詰め込まれている。

掲載されているマンガや挿絵のうち、半分くらいは単なる飾りで意味がない。しかし無味乾燥なテキストよりは、「あのキャラのページに載ってたような…」と記憶を思い出しやすい。

別に一級建築士の受験用をうたっているわけでもなく、中には配管の名称や記号など詳しすぎる部分もある。しかし実務で関わるならいずれ必須になりそうな知識ばかり。

電気ガス給湯器「エネファーム・エコウィル・エコキュート・エコジョーズ・エコワン」5種類の違いが図解されているページを見たときは、涙が出そうになった。誰もが悩むこんなピンポイント情報は、ウェブで検索してもなかなか見つからない。

『建築知識』の法規・施工系バックナンバーを取り寄せれば、学科の独学は数倍はかどると思う。

『合格者たちの勉強法』

本屋の資格コーナーでまず気になったのが、受験業界で有名なウラ指導さんの『一級建築士受験 合格者たちの勉強法』。試験の傾向や勉強法について解説している貴重な読み物だ。

前半は学科試験、後半は製図試験の対策について網羅されている。勉強をはじめる前に、試験の全体像をつかむのに役立った。独学でもスクールに通う人でも、まず目を通しておいて損はないと思う。半日もあれば読める分量だ。

基本的には「とにかく過去問を解け」という、受験勉強の王道といえる内容。「出題はほとんど過去問のアレンジ」「分野が広いので、広く浅く取り組む」「法規は時間との勝負」など、実践的なアドバイスが散りばめられている。

安藤忠雄『私の履歴書』

試験とは直接関係ないが、図書館の建築コーナーでついでに借りてみた本。日経新聞「私の履歴書」に連載された、安藤忠雄のコラムをまとめた本だ。数多い著作の中でも、建築作品の説明より自伝的エピソードが中心となった、ユニークな内容といえる。

仕事をつくる
日経BP 日本経済新聞出版本部
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本の中で一級建築士を受験したときの逸話が紹介されている。大学に行かなかったので、受験資格を得るにも相当な年数の実務経験が必要だったらしい。

高校で建築を専攻していなければ、まず二級を受けるのに実務経験が7年以上必要だという。その時には絶対に一発で合格しようと覚悟を決めた。3年後には一級建築士の試験が待っていた。数学や物理の知識が必要な問題が出る。大学教育を受けていない私は苦戦を予想したが、とにかく「石の上にも三年」の気迫で頑張り通した。こちらも一発合格だった。

『安藤忠雄 仕事をつくる―私の履歴書』

事務所に勤めながら勉強して、2級も1級も一発合格というのはすごい。「安藤さんが一発合格できたなら、それより余裕のある自分は受かって当然」…そんな感じで尻を叩いてくれる本だ。勉強中の息抜きにおすすめ。

そういえば有名な建築家の本で、「苦労して建築士の資格を取った」という話は他に読んだことがない。大御所クラスの建築家に「○○学院にお世話になった」と書いてもらえば、予備校にとっておおいに宣伝になると思うのに…

そこは触れてはいけない黒歴史なのだろう。「野暮なことは聞くな」と怒られそうだ。安藤さんの「独学で通した」くらいのストーリーでないと、どうせたいしたネタにもならない気がする。