時計ブランドの格付け考察~雲上>雲中>雲下というランク分け

人生で2本目の高級機械式時計を買うにあたり、世界中のブランドと製品をあらためて調べてみた。専門書を紐解くと、まだ知らなかったチェコスロバキアの老舗や、スイス・フルリエ地方の小規模メーカーが続々と出てくる。

今まで縁がないと思っていた雲上ブランドも、中古のマイナーモデルだと一桁安く流通していたりする。あまりに種類が多すぎて悩ましく、自分なりに時計ブランドのランクを想定してみた。

時計好きが迷い込む雲の上から下まで、独断と偏見にもとづくメーカーの格付けを紹介してみよう。

乱立する時計ブランド

機械式時計というニッチなジャンルに、なぜこれほど多くのブランドが存在するのだろう。もっと市場が広いバッグや革製品、結婚指輪などの宝飾品、あるいは女性用化粧品などの方が多様化していてもよさそうだ。

しかし、世界中の時計メーカーを合わせたら、デパートの1階にはとても収まらないだろう。伊勢丹新宿店、本館4階のジュエリー&ウォッチコーナーは比較的取り扱いが多い方だ。それでも本に出てくるブランドの1/10くらいしか網羅できていない。

大手グループと職人工房の両立

もちろん裏ではスウォッチ、リシュモン、LVMHという三大グループが各ブランドを束ねている。互いにムーブメントを融通していたりして、それ以外のマニュファクチュールといえども、どこまでオリジナルなのかは判別しがたい。

消費の多様化に合わせて買い替え需要を喚起するため、あえて複数のブランドやヒストリーを維持しているように思う。適当にガワだけいじってバリエーションを増やすのは、車や家電より手がけやすいのだろう。パソコンやスマホより製品寿命も長い。

機械の中身は、せいぜいパーツが余計に研磨されているとか、精度良く調整されている程度の違いかもしれない。それでもダイヤル・ケースのデザインとブランド名を変えることで、「ステップアップする」あるいは「場面に合わせて使い分ける」という購入意欲に訴えることができる。

なぜランクが生じるのか

時計好きの人と話をしていると、たいていブランド格付けの話になるのは興味深い現象だ。単価が高いので、自分で何本も買って違いを確認できない。雑誌やウェブのレビューを読んで性能を想像したり、会社の上司や同僚、「まわりの人とかぶらない」観点で選ぶしかない。

なので、話を簡単にして評価・判断する負担を減らすため、自然と「ランク付け」というカテゴリー化が行われるようになる。「この程度の予算・身分だったら、このくらいのブランド」という風に。

人は時計で判断される

たとえば会社の採用担当者として、新入社員の面接を行う場面をイメージしてみよう。

大学出たての新卒が、ロレックスやオメガを着けていたら、まず常識やセンスを疑う。大目に見ても、若気の至りでミーハーなのは仕方ない、野心は認めてあげようと思う。20代でパテックやAPを着けていたら正気を疑う。すさまじく狂っているか、とてつもなく冴えているかのどちらかだ。

G-SHOCKやダイバーズウォッチのような時計は、スーツに合わせるならTPO的に厳しい。悪目立ちはしないが、業種によってはセンスがない(子どもっぽい)と思われそうだ。

面接で無難に万人受けする時計をひとつ選ぶなら、おじさん世代に受けがいい国内ブランドのセイコー。シンプルな3針ドレスウォッチで、時計通にもうけるドルチェのSACM171あたりがおすすめな気がする。

逆に士業や会社経営者など、それなりにステータスのある職業なら高級時計を身につけるべき、というのもセールストークにすぎない。もし取引先の担当者が高級時計を着けていたら、お取引は願い下げしたい。「信頼できる」というより、時計代が見積り料金に上乗せされているとか、自分の給料から引かれているというネガティブな印象を受けてしまう。

知り合いで数十万する時計を持っているが、「気をつかって会社には着けて行かない」という人がいる。ネジを巻くのはオフの日か、飲み屋で自慢するときくらいだそうだ。なるほど、その気持ちはわかる。

ピアジェ=ホストの時計

上記ブランドの所有者には失礼千万。人によって見解の分かれる部分だが、世間的な評価はもっと単純だと思う。

『夜王』というホストの生き様をテーマにしたマンガで、冒頭にピアジェの時計が出てくる。ライバル役の上条聖也が酔っ払いに絡まれて時計をネタにされるシーンだが、それまで日本で「ピアジェ=ホスト」のイメージがあることは知らなかった。

一般的にPIAGETといえば、薄型正統派のドレスウォッチメーカーというイメージだ。しかしスーツやフォーマルなスタイルに似合うという意味では、ホスト御用達とされてもおかしくない。価格帯もステータスに見合う。

ピアジェの購入を検討しているなら、予備知識としてまず『夜王』の1巻は読んでおこう。ちなみに聖也様の愛車はポルシェだ。

時計はロードバイクと似ている

この状況は、同じく趣味の道具としてスポーツ用の自転車、ロードバイクのフレームメーカーとよく似ている。たいてい中身は台湾製のカーボン素材だが、時計と同じくらい多種多様なブランドが出てきてしのぎを削っている。

年に一回、バーゼルワールドのようなサイクルモードという見本市が行われ、販売店で試し乗りもできる。しかしカーボン製だと完成車の単価は20万以上が相場なので、時計と同じくいくつも買って比べるのが難しい。

ただし、さすがに貴金属や宝石類を散りばめたフレームというのは見たことがない。せいぜいチタン素材で希少モデル(カーボンより高性能なわけでもない)といわれる世界だ。時計よりはまだ実用性が重視され、「雲上」というランクは出てこない。

せいぜいTIMEやTREKのMadoneがちょっと高いかなという程度。ホイールというパーツに限れば、Lightweightという雲上っぽいイメージのブランドは存在する。それでも価格は普及品の2倍程度だ。

素材自体に価値はないため、ロードバイクはあくまで「乗り物」として評価される。事故の際に賠償額を査定する方法も、車と同じ年式による減価償却だったりする。

雲上>雲中>雲下

世界三大~五大くらいの「雲上ブランド」とは、まさに時計業界ピラミッド構造の頂点に祭り上げられた存在だ。4位と5位は異論があるが、

  1. パテック・フィリップ
  2. オーデマ・ピゲ
  3. ヴァシュロン・コンスタンタン

が御三家であることは間違いないだろう。

これらは新品で100万以上かかるのが普通。もちろんケースの素材は金かプラチナだ。実用品というより、貴金属・ジュエリーのような資産価値という性格も帯びてくる。

誰もが認める雲上ブランド以外は似たり寄ったりな状況だが、あえて中間~下層のランクも定義してみよう。いうなれば雲上の下に雲中ブランド、さらにその下に雲下ブランドを想定することができる。

雲中ブランド

雲中ブランドとは、御三家以外でデフォルト10万以上する、その他多くの機械式時計メーカーという感じだ。ロレックスやオメガをはじめ、IWCやブライトリングなど、一定のブランドイメージを構築し、ステータスとして認知されているブランドはすべてここに属する。

ユーザーとしては、まだ霧の中で迷っているような決心のつかない状態。いくつかブランドや製品を乗り換えてみて、「バカバカしい」と雲下に下るか、さらなる高みを目指して雲上を目指すか。時計愛好家の煉獄と呼べる中間段階だ。

雲下ブランド

雲下ブランドは、雲上・雲中以外のすべての時計メーカー。下は100均クオーツから、ファッションブランドの時計も含む。フォッシル傘下のアルマーニや、カルバンクラインなど10万未満で買える機械式も、残念ながらここに含まれる。

「雲下=ウンゲ」と読むと、雲上付近のランゲ&ゾーネとまぎらわしい。「ウンカ」と読めばイネの害虫、羽虫みたいなイメージでよりふさわしい。「大量に発生する」というだけで、別に「質が悪い」という意味ではない。

9割は広告代

以上は時計のブランドに関する想像上のつくり話だ。オーナーの人は気にしないでほしい。

ダイソーで買える100円クオーツの方が、雲上の100万する時計より100倍丈夫で時間も正確かもしれない。ブランドの格を決めているのは、9割がた広告とイメージ戦略に思われる。

国内時計ブランドのケンテックスも、売り方と宣伝を工夫すれば10倍くらい売れるかもしれない。モンベルのシャイデックという新興自転車ブランドも、有名人に乗らせて広告を打てば、これから流行る可能性がある。

グランドセイコーのてこ入れ

遅まきながら、国内のグランドセイコーが独立・高級化路線を歩み始めたようだ。ここ数年で、雑誌広告やイベントレポートをメディアで見る機会が増えた。

グランドセイコーはどんどん値上がりして、手の届かない高級品になりつつある。しかしこれが海外でヒットすれば、SEIKO全体のブランド格上げにもつながる。GS以外のメカニカルセイコー(68系キャリバー)愛好家にとっても、今後の動向は興味深い。