あえて今この映画を観る理由としては、「若い頃のトム・クルーズを見たい」というのが大半だろう。そして新たに2020年公開予定のトップガン2予習というニーズも出てきた。
前作の歴史的評価からして、2作目もそこそこヒットするのは間違いない。話題に乗り遅れないよう、今のうちに旧作もチェックしておこう。来年の今ごろ、東京オリンピックイヤーには、『マッドマック 怒りのデスロード』のような社会現象になっているかもしれない。
1986年制作、監督はトニー・スコット。当時は興行成績1位と大ヒットした作品だが、映画としては平凡なストーリーだ。強いて言えば期待通りの青春映画。女の子とデートで観に行って、まず外すことはない。
ひとことで戦争映画といっても、腕がもぎ取れたり内臓が飛び出すリアルな表現だけが見せ場ではない。世の中にはこういう「平和な戦争映画」というのも必要なのだ。
今さらながら始めてみた『トップガン』についてレビューしよう。まずは戦闘機や空中戦というディティールの話から。
(以下ネタバレ)
米軍のプロパガンダ映画
最近Amazonで戦争映画ばかり鑑賞していたせいか、レコメンドされてついつい見てしまった。同じ1986年公開の戦争映画として『プラトーン』のような名作かと期待していた。
敵も味方も何人か死ぬが、凄惨な流血シーンや「戦争そのものに対する疑問」というテーマは出てこない。戦場といっても、インド洋上での戦闘機同士の小競り合い。ソ連製ミグは出てくるが、敵の国籍はぼかされている。
その代り、米海軍のF-14トムキャットについては「戦闘機の宣伝か」と思うほど、あらゆる角度で登場する。空母の艦橋で夕日を背景に整備しているけだるいシーンなど、映画の内容とはほとんど関係ないコマーシャルだ。
それもそのはず、『トップガン』はアメリカ海軍が撮影に全面協力した、プロパガンダ映画なのだ。当時の興行成績だけでなく、公開後に米軍パイロットの志願者が激増したというのも有名なエピソードとして知られている。
トップガン2も宣伝要素大
そして『トップガン2』も事前の話題作りからして、米軍の勧誘キャンペーンという様相を呈してきている。おそらく作中、F/A-18Fスーパーホーネットという戦闘機の描写が、うざいほど出てくるだろう。
こういう戦争映画を予備知識なしに、兵器にも詳しくない一般人が見ると、かったるくて仕方ない。『シン・ゴジラ』に出てくる自衛隊兵器も、あからさまに字幕付きで紹介されていた。
そこはマニア向けの演出、あるいはコマーシャルだと割り引いて考える必要がある。そして解説が詳しいからといって、技術的・歴史的に100%考証されているわけではない。
敵より怖いジェット後流
『トップガン』におけるストーリー上の重要要素、
- ジェット後流によるエンジン停止・操作不能(作中2回発生)
- 緊急脱出時に、上方に分離したキャノピーと空中衝突して死亡
は、専門家からすると眉唾だという説もある。
素人目に見ても、ジェット後流がそれほど頻繁に発生する致命的なトラブルなら、何か対策がされているはずだ。ましてや天才パイロットのマーベリックなら、難なく避けることができただろう。
そのため、1回目はライバルのアイスマンが故意に引き起こした事故でないかと思った。同僚のグースが死んで「3,000万ドル」という機体を失ったのに、「不慮の事故」と片づけられたのが不思議である。
キャノピー激突死の謎
また、グースの死因であるキャノピー衝突も、描写が速すぎて最初に見たときはなんなのかわからなかった。海上に降りてから出血・失神しているのは、パラシュートのトラブルではないかと思って見ていた。
あとから映像を巻き戻してじっくり確認すると、確かにシートの射出後に風防に激突して、首が折れたように見せているカットがあった。そこからどうやってパラシュートを開いて無事着地できたのかは不明だ。
コックピットから脱出しようとして、天井に頭をぶつけて死亡というのはむごい。ネット上の言説をまとめると、「現実にはほぼ起こりえない状況、しかし確率はゼロでない」という印象だ。そのあたりは米軍協力とはいえ、映画として多少脚色してあるのだろう。
空中戦という密室劇
事故のエピソードは怪しいが、それ以外の空中バトルは迫真の演技だ。軍事専門家でないので細かい見どころはコメントできないとしても、ラストの決戦は手に汗握る展開。映画の編集も練り込まれていて、無駄なカットは1つもない。
戦闘機の空中戦を映画で表現する場合、
- 戦況を俯瞰した第三者視点の空撮映像
- コックピット内のパイロットの顔アップ
- 計器類、ミサイル発射ボタンのアップ
この3つが主要な構成要素となる。あとはときどき、空母の司令官やレーダー要員が戦況をコメントして盛り上げるくらいだ。
限定された映像素材だけで、ひたすら緊張感を高めていく演出。つなぎ方がまずいと、観客としては「どうしてこうなったの」と訳がわからないまま戦闘が終わってしまうことがある。
最後にマーベリックが急減速して敵機の追撃をかわし、後ろを取ってミサイルでとどめを刺すシーン。ここだけ他より多く、手元のトリガー操作をアップで撮ったカットが短く連続する。「いよいよ殺るのか」と緊張感を高め、観客にカタルシスをもたらすための編集テクニックといえる。
ヘルメット越しの演出
また、日本のロボットアニメと違い、まともな戦争映画のパイロットはみなヘルメットをかぶっている。『ダンケルク』でバットマンの敵役ベイン=トム・ハーディが出ていたとは、エンドロールを見るまで気づかなかった(ベインも顔の半分はマスクで覆われていたが)。
『トップガン』の戦闘シーンも誰が誰だか見分けがつかない。MARVERICKとかGOOSEとか、ヘルメットの上にペイントされているコールサイン(あだ名)を見て俳優に気づく。
その点では、敵パイロットの顔をスモークのかかったバイザーで薄暗く見せるのは、うまい演出だった。本作の敵はロシア語を一言も発しない。淡々と主人交たちを追い詰め、レーダーロックオン、ミサイル発射…やるべき仕事はそれだけ。
圧倒的多数という有利な状況で待ちかまえつつも、エリート養成校で訓練されたBest of Bestなトップガンたちに蹴散らされるミグたち。覆面の敵兵は、死に際にうめき声ひとつ漏らさず海に散っていく。
冷酷なターミネーターやエイリアンのように彼らを描くことで、戦闘の緊張感をアップさせている。それと同時に、忌まわしい敵戦闘機を撃墜しても、味方や観客には悲壮感や罪悪感を覚えさせない仕掛けになっている。
以上、米国海軍の宣伝映画としては、どうしてもガジェット面ばかり考察してしまう。『トップガン』の本筋、俳優やストーリー展開については、引き続きこちらで紹介。