改良と工夫を重ねて、3年ほどスタンディングスタイルで仕事してきた。既存デスクにミニテーブルを載せて、手軽にスタンディングテーブルをつくる方法としては、ユニフレームの焚き火テーブルがおすすめである。
会社をリタイアしてからも自宅で立って作業していたが、最近膝を痛めて久々に椅子に座るようになった。最初は「座ってばかりいると体に悪い」と気が気でなかったが、やがて座って作業していても効率は変わらず、むしろ一つのことにじっくり取り組めるメリットがあると気づいた。
結局、机の上のミニデスクは取り払ってしまい、3年続けた「立ち仕事」もあっさりやめてしまった。改めて気づいたスタンディングスタイルの利点と欠点をまとめてみようと思う。
スタンディングスタイルのメリット
とりあえず実験のつもりで始めたスタンディングスタイルだが、結局3年も続いた。オフィスで常に「上から目線」になってしまうので、他のスタッフからは嫌がられたが、徐々に真似する人も出てきた。
①活動的になれる
立って作業するメリットの一つは「動きやすい」ことである。ちょっと本棚に行ってものを取るとか、会議に出かけるとか、椅子から立ち上がるのが億劫でなくなる。サッカーでいうと、常にかかとを上げて機敏に動けるようスタンバイしている状態だ。
座っているとトイレに行くのもついつい面倒になってしまうが、そんな心配もない。何だか自分が急にアクティブな人間に変わったようで、仕事のテンションも上がる。
ちょっと資料を取ったりスタッフと打合せしたり、あらゆる活動がスムーズになる。仕事の生産性と職場のコミュニケーションも向上して、いいことづくめだ。
②消費カロリーが増える
健康面の効果については、すぐに体調が良くなるということはなかったが、「消費カロリーが1時間に100kcalくらい増える」というのは実感した。8時間立って働けば800kcalも余計に消費することになるので、お腹が空いてたまらない。
その分、多めに食べるようになってしまったので、ダイエット効果はいまいちわからなかったが、立って働くのがいい運動になることは確実といえる。
③椅子がいらなくなる
すでに高級チェアを一式揃えてしまったので関係ないが、椅子に関する執着を捨てられるのもメリットだ。やれアーロンチェアがいいとか、エルゴヒューマンの方がちょっと安いとか、仕事中についついオフィス家具を検索してしまう雑念から解放される。
さすがに食事は座ってとりたいと思って、イケアのFRANKLIN(フランクリン)という安いバースツールを購入したが、すぐにいらなくなって手放した。
座って落ち着きたければ、もともとテーブルセットが置いてある共用スペースに行けばよい。ましてや椅子など、適当な高さの腰掛けがあれば十分だ。
メッシュ素材やランバーサポートなど無用の長物、「空気椅子こそ究極の椅子」と考えるまでになった。
④机の上下を有効活用できる
椅子に座らなくなると、テーブルの下がフリースペースになる。さらにミニテーブルを乗せて入れば、その下の空間も自由に使える。書類を並べたり、PCやスキャナーを置いたりできて、意外と便利だ。
スタンディングスタイルのデメリット
消費カロリーが増えるのはうれしいが、スタンディングスタイルには少なからずデメリットもあると実感した。体によいと思って始めた習慣だが、本当かどうか今は正直わからない。
①肩と背中がこわばる
1日8時間かそれ以上、立った状態でPC作業をしていると、背中ががちがちに固くなる。そのまま前屈でもしようものなら、背骨がバキバキいって折れそうなくらい痛い。整骨院に行ったら、肩がこりまくっていると言われた。
リクライニング機能のある椅子に座っていると、ときどき背もたれによりかかったりして、こまめに姿勢を変えているようだ。そうすることによって、無意識に背中や肩がこわばるのを防いでいるのかもしない。
立って働いている間は、意識して肩を回したり前屈しないと、ずっと同じ姿勢でキーボードを打ち続けることになる。あまりに疲れ過ぎて、椅子にもたれてぐったり休んでいることもあった。肩こりはスタンディングで悪化する危険性がある。
②足がむくむ
立って働くというと真っ先に足が痛くなりそうだが、慣れてしまえば意外と耐えられるものだ。肩と背中の疲労感に比べれば、足の疲れはたいしたものではない。むしろ、ふくらはぎのポンプ効果が増して、全身の血流が促進される感じがする。スタンディングスタイルはエコノミークラス症候群とは無縁だ。
ただ、家に帰って靴下を脱ぐと、座って働いていたときよりふくらはぎの段差が目立つようになった。年齢的なものもあるかもしれないが、靴下で締め付けられていた部分以外がぶよぶよ膨らんで不気味である。
夏場、靴下を履かずに裸足で作業していたら、今度は足全体がぶくぶくに膨らんでしまった。立って働くと全身の血行は促進されそうだが、あまり長時間に及ぶと足がむくんでくるのは避けられないようだ。
③足の裏が痛い
冬場は室内でスリッパを履いているのでましだが、夏に裸足で作業していると、足の裏が耐えられないくらい痛くなってくる。全身の体重が常時足裏にかかってくるわけだから、当然ともいえるが、最初はなかなかつらかった。
少しでも荷重をずらそうと、今度は片足立ちで作業している時間が長くなった。それはそれで、姿勢が悪くなったり骨盤が歪んだりする弊害がありそうだ。
足裏の痛みはサンダルで解決できる
試しにビルケンシュトックのサンダルを室内で履くようにしたら、足裏の痛みはたちまち解決した。立って働くなら、アーチサポートのついたサンダルかスリッパを履くのがおすすめだ。土踏まずの部分で体重を支えられるようになると、ぐっと楽になる。
ビルケンの室内履きならEVAの安いモデルもありだが、履き比べてアーチの盛り上がりが弱いと感じた。やはり昔ながらのコルクのフットベットがおすすめだ。
甲のベルトが一本で見た目シンプルなマドリッドを愛用していたが、実は階段で突っかかりやすい。次に買い替えるなら定番のアリゾナにしようと思っている。
健康サンダルの刺激も倍増
その後、さらなる健康増進を狙ってイボイボ付きの健康サンダルも試してみた。
全体重をかけて何時間も足裏のツボを刺激されるので、強烈な爽快感がある。夏場、靴下を脱いで健康サンダルを履くと、あまりの痛気持ちよさで仕事に身が入らないくらいだ。
健康サンダルはダサいと思われそうだが、レユールの製品は黒一色でわりとシンプルなのでおすすめだ。28.5cmまで対応可能な3Lサイズまで揃っている。
アーチ部分もご覧の通り、かなり盛り上がっているので立ち仕事には最適だ。
何度か洗濯機に突っ込んで丸洗いしても壊れず、さすが日本製のスリッパはしっかりしていると思った。
座りながらこまめに立つという妥協案
オカムラのウェブサイトを見ると、完全なスタンディングスタイルより「座り時々立ち姿勢」の方が健康にいいというデータが紹介されている。
もっとも、座ることを完全に否定してしまうと椅子が売れなくなるので、作為的なものを感じないでもない。電動昇降など付加価値をつけた新製品を売り込もうという魂胆も見え隠れする。
しかし、上述のデメリットのように「立ちっぱなし」が必ずしも最適解でないのは本当だ。「仕事姿勢による疲労度比較」の図は自分の実体験とも一致する。
労働科学研究所の実験結果に少なからず信憑性があるとすれば、当面は「座りながらこまめに立つ」という習慣がベターかもしれない。今は基本座って作業しながら、30分や1時間ごとになるべく立ち上がってお茶を淹れたり体操するようにしている。
スタンディングを否定する医者もいる
先日、病院のリハビリで理学療法士にスタンディングスタイルの是非を聞いてみたら、「立ちっぱなしで仕事?へえ~」という感じで一笑に付された。どうも医学界では、近年の「立って働く」風潮は冷ややかに見られているようだ。
糖質制限のダイエットも医者からすれば賛否両論だったりするので、スタンディングブームも世間にはびこるエセ科学の一つにすぎない可能性がある。数年後には、家具メーカーと広告屋が仕掛けた一大キャンペーンに過ぎなかったと顧みられるかもしれない。
ポケモンGOや水素水など、ブームに踊らされるのは嫌いでない。試行錯誤したミニテーブルへの投資も後悔はしてはいない。
ただ、電動昇降の高いデスクを買おうか迷っている人は、とりあえずその辺に転がっている段ボール箱を積んで試してみてからでも遅くないだろう。