仙台メディアテークで毎年行われる建築学生の卒業設計日本一決定戦

せんだいメディアテークの図書館を見学していたら、「卒業設計日本一決定戦」というおもしろい冊子を見つけた。建築学科には卒業論文と並んで卒業設計という分野があり、各大学内の採点と別に、全国統一で評価しようという学生の自主的な試みらしい。

日本一を決める会場が東京でなく、あえて仙台のメディアテークというのも、この建築がリスペクトされている証拠だろう。全国各地、遠方からも学生が自腹で模型を持って参加しにくるようだ。

建築学生が卒業設計にかける熱意

図書館に置いてあった、過去数年分の入賞作品をざっと見てみた。2003年からもう15年も毎年開催されていて、建築学生の間では伝統行事になりつつある印象だ。

上位に選ばれれば、二次審査で有名建築家を前にプレゼンできる特典付き。ある意味、アトリエ設計事務所の就職面接といえるので、ちょっとしたデザインコンペより学生のモチベーションは高いだろう。

大学の4年生は就活や院試で忙しいと思うが、すさまじい労力をかけてドローイングや模型製作にいそしむカルチャーがある。若気の至りを通り越して、異常な執念で卒業設計に打ち込む人もいるから、それが全国一堂に会したらおもしろくないわけがない。手間ひま惜しまず応募してくる学生は、作品に自信もあるのだろう。

2018年の最優秀作品は、電子制御された壁が動くという模型だった。もはや建築設計というよりプログラミングと電子工作が売りの作品だが、これを1位に選んだ審査員は青木淳。

建築としての評価はよくわからないが、メディアテークのように新しい構造形式や様式美に挑戦した心意気が買われたのだろう。「こいつ、動くぞ!」のインパクトで勝負あった。

理論建築クライテリアという評価基準

審査員の講評によると、いわゆる実務における「応用建築クライテリア」と、卒業設計の「理論建築クライテリア」という判断基準が分けて議論されている。予算や実用性というものをまったく無視して、作品性や新規性という側面から評価される要素があるのが、建築のおもしろいところだ。

現実離れした理論科学の面をとことん追求できるのは、ベテラン建築家より学生の方だと思う。人が入れない隙間の壁しかない建築(タイトルは「壁の在る小景」)はダニエル・リベスキンドも顔負け。アルド・ロッシが無限増殖した迷路みたいな模型とか、30年くらい前でもうけたであろうオールドスクールな作風もあって興味深い。

参加している学生は、別に芸大生ばかりでない。お堅い工学部の中で、きっと変人扱いされている人たちなのだろう。普通の住宅みたいに地味なテーマは皆無で、基本的に狂ったようなコンセプトだらけだ。

もはや現代アートと呼べそうな作品群も選ばれていて、年ごとの審査員の好みが反映されている。「同じ出身大学、同じ指導教官」という共通項がないから、作品のテイストもまちまち。審査する側も、自分のわかる基準で評価するしかないのだと思う。

日建学院がスポンサー

建築学生が主体となって、異常な熱意で編集されている雑誌らしい。中には模型を輸送するケースを評した「梱包日本一決定戦」なんてコラムまである。

確かに大型模型を打ち合わせに持って行く手段は、確かに頭を悩ませるところだ。模型を分解可能にして、素早く現地で組み立てられるようにする工夫というのも、建築家に必要なスキルだろう。

広告を見ると、資格学校の日建学院がスポンサーになっていた。発行も運営元の建築資料研究社。建築学生がいずれお世話になる受験勉強に向けて、効果的なプロモーションだと思う。

興味深いアンケート結果

毎年、参加した学生が回答したアンケートの集計結果が掲載されている。その中に「影響を受けた建築家」という質問があり、近年は安藤忠雄と妹島和代・西沢立衛が一二を争う人気のようである。

海外勢だとミースやライトの大御所に混ざって、ピーター・ズントーやヘルツォーク&ド・ムーロンあたりのスイス人建築家が名を連ねている。世界にはもっとユニークな建築家もいると思うが、ミニマルな作風が日本人の共感を呼ぶのだろうか。

建築家の好みというのは、ここ20年くらい変わっていないように思う。平均寿命が延びた分、80歳近くの大御所もまだ健在だし、40歳くらいではまだ若手といわれる業界だ。ミーハーと思われたくないのか、最近話題の若手建築家も何人か載っているが、相対的に順位は低い。

「なんとなく」建築学科

もう一つ定番の質問で、「建築を志した動機」というのが興味深い。しかも回答の上位3つは毎年変わっていない。

  1. 両親・兄弟・知人から影響を受けて
  2. 本や雑誌、テレビなどから影響を受けて
  3. なんとなく

「建築作品を見て感動したから」なんて回答より上位に「たまたま受かったのが建築学科」みたいな理由が出ている。まあ大学受験の頃に考えることだから、よほど殊勝な高校生でもなければ「なんとなく」というのが正直なところだろう。

きっとここで選ばれた学生の中から、未来の有名建築家が出てくると思う。メディアテークで受験勉強していた仙台の高校生が、4年後に卒業設計日本一に選ばれるようなエピソードがあったらかっこいい。