映画『パーフェクト・ワールド』のロケ地に関する考察~高校編

昨日、封切られた『パーフェクト・ワールド 君といる奇跡』。建築業界に関わる人は必見の映画だ。

暇なので、映画のロケ地を訪ねてみることにした。とりあえず行ってみたのは、主人公カップルの出身高校。おぼろげな記憶を頼りにスケッチを描いて、『君の名は。』みたいに長野中を訪ねて回らなければならないかと思ったが、意外とあっさり見つかった。

長野の出身高校は本当にこれ?

はい、これです。

一応マジックアワーを狙ってみたのだが、ちょっと遅れて陰気な感じになってしまった。校門よりちょっと左寄りのアングルで、桜も咲いてないので風情が出ていない。映画で見た記憶をたどっても、本当にここなのかいまいち自信がない。入手した裏情報はガセネタだったのかもしれない…

念のためGoogle Earthで空から確認してみたが、全然映画の雰囲気と違うのでますます確信が持てない。

少なくとも映画に出てくる校庭はここまで広くなかった。カメラのレンズの具合だろうか。ここが元ネタなら、激しくCG処理されているはずだ。たしかに桜や青空が鮮やかすぎて、つくりものっぽかった。

きっと連休初日の今日あたりは、映画を見た全国のファンがどっと押し寄せて交通規制くらい行われていそうな予感がした。しかしお祭り騒ぎもなく、せいぜい地元のサッカー少年と近所の老人が散歩しているくらいだった。

特徴がないのが特徴

建築業界の人にとっては、「オープンスペースをメディアスペースと組み合わせた計画」が特徴の目黒区立宮前小学校とか、「クラスルーム内に畳コーナー、ベンチ等のあるアルコーブを設けた」宮代町立笠原小学校だったらもっとうけたと思う。一級建築士の学科試験にもよく出題される学校だ。

川原の土手から写真を撮っても、まったく長野のセレブな私立高校というイメージがしない。少なくとも、帝国ホテルで同窓会するようなレベルではなさそうだ。

多摩川沿いのサイクリングロードでも、このあたりはもっとも自然がワイルドなエリア。タヌキやハクビシンもよく見かける。この写真を見て、長野・岐阜県境の野麦峠あたりだと説明されても、まったく違和感がない。特徴がないのが特徴…そういう意味では、よくこんな場所見つけたなあと思う。

もし校庭シーンの背景に、象設計集団の瓦ぶき校舎とか映っていたら、気になってしょうがないだろう。何かしら主人公がデザインのうんちくを語るとか、伏線を回収しないと落ち着かないはずだ。もしかすると、背景にこっそり通好みの建築作品が映っていたりしたのかもしれない。

ロケ地に有名建築が選ばれなかった理由

登場人物や職場の設定、コンペやクライアントとの打合せシーンが出てくるあたりは、ばっちり建築映画だ。しかし、撮影場所に関しては全然こだわりを感じない。

むしろ、こうした小賢しい建築ピープルの指摘をかわすため、意図的に無名のロケ地を選んでいるように思われる。あるいは単純に予算がなかったか…

そこそこ有名な観光地で撮影するには、交渉や下準備が大変だろう。どうでもいいうらぶれた郊外の小学校で、野次馬が集まる前にちゃちゃっと済ましてしまう方が理に適っている。桜を咲かせたり見栄えよくレタッチするのは、今どきデジタル処理で何とでもなる。

横浜で撮影するならぜひ大桟橋を登場させてほしかったが、フェリーターミナルを1日運用停止して貸切るのは相当ハードルが高そうだ。それよりコスモワールドの休館日に観覧車だけ稼働させる方がリーズナブルだったのだろう。何となく大人の事情がわかってきた。