読み取り精度がいまいちで残念なロジクールMX Verticalマウス

ロジクールから発売されたエルゴノミックマウスの最高峰、MX Vertical。2か月ほど使ってみて、握り心地は文句なくよかった。

これに慣れてしまうと、普通のマウスが平べったすぎて気持ち悪くすら思われてくる。大きくて持ち運びにかさばるが、カフェでも職場でも手放せなくなるほど快適だ。

しかしセンサーの読み取り精度はいまいちで、PCと有線接続してもカーソルの飛びが目立った。この価格帯からすると不思議だが、同社のGシリーズで半額くらいのゲーミングマウスの方が、基本性能は高いと感じる。

結局精度の悪さに耐えきれず、いつものGシリーズ(PRO HERO G-PPD-001r)に買い替えてしまった。もう少し価格がアップしても、ゲーミングレベルのセンサーを搭載してくれれば最高だったと思う。

性能が中途半端で残念だったが、それ以外のポジティブな面も含めてMX Verticalをレビューしてみたい。

MSスカルプトとの比較

手元にあるマイクロソフトのスカルプト・エルゴノミック。これを体験して、人間工学的なマウスに興味を持ち始めた。

MSのマウスはさすがに安く、無線接続しかできないので読み取り精度は非常に荒い。ただし形状は普通のマウスに近く、コロンと丸みを帯びた外観が気に入っていた。

左からMX Vertical、スカルプト、PRO HERO

MX Verticalも設計思想は異なるが、他社から出ているエルゴマウスに比べてデザインのセンスは上等だ。グレーの塗装と上面のパネルはともにマットな塗装で、今どき風の控えめな高級感を演出している。

大胆な傾斜角度は違和感なし

MX Verticalはスカルプトに比べると高さが1.5倍くらいある。クリック面の傾斜角度は57度で、手で握った角度はMX Vertical>MSスカルプト>汎用マウスというかたちだ。

左からMX Vertical、スカルプト、PRO HERO

この「自然に近い」角度のおかげで、マウスを握った状態は非常にリラックスできる。このあたりはロジクールの宣伝どおりで、さまざまな研究により最適化されているのだろう。スカルプトでもエルゴノミック性能は十分体感できたが、MX Verticalはそれ以上の握り心地だ。

ボタンクリックは重めで音も大きい

ボタンクリックの「カチッ」という音はMSスカルプトより大きい。ホイール(中央ボタン)も含めて、全体的にボタンの押し心地は固め。これはむしろスカルプトの方が軽すぎるせいともいえる。手元にある他のマウスと比較しても、MX Verticalは標準的なレベルだ。

一方、親指の位置にある「戻る/進む」ボタンはかなり押しにくい。他のボタンと同じで、この2つも押し込む際の抵抗感が強く、気合を入れて押さないと反応してくれない。

そしてなぜか親指のホームポジションよりボタンが上についているため、わざわざ指を上下にずらす必要がある。さらにクリックする際に支える反対側の人差し指・中指で、左右誤クリックしてしまうエラーが頻発する。

握り方を工夫すれば、指先でなく手の平で支えて親指クリックすることができるのかもしれない。しかし2か月使っても押し間違いは減らなかった。他の方のレビューでも指摘されていて購入前に気になった点だが、実際のところやはり使いにくかった。

重心が低いため転がりにくい

背の高いエルゴノミックマウスは、キーボードからマウスへ右手を移動させる際によく引っかかる。特にMSスカルプトは丸っこい外形のおかげで、手に当たると机の上からよく転げ落ちた。

MX Verticalはさらに大型なので、気をつけないと頻繁に右手で吹っ飛ばしてしまう。しかしスカルプトより重心が低いおかげか、手が当たっても派手に転がることは少ない。せいぜいゴロンと横になって床までは落ちないので、この点は安心感を覚える(故障も少ないだろう)。

1週間も使い続けていれば、身体が慣れてきてマウスを迂回しながら手を動かせるようになった。エルゴマウスは総じて大きく形もいびつだが、慣れればキーボードとの間でスムーズに右手を行き来できるようになるようだ。

期待したほど高精度でないセンサー

MX Verticalの製品説明では、「クラス最高の4000DPI高精度センサー」とうたわれている読み取り性能。レーザーなのか光学式なのか明記されていないが、定価1万円以上するハイエンド機なのでスペックは最高級と期待していた。

トラッキング解像度は400~4,000dpiの広い範囲を50刻みで調整できる。専用ソフトLogiOptionsで設定できる「ポイント速度」は2種類。デフォルトでマウス上端の楕円形ボタンを押せば切り替えできる。

普段、読み取り精度を細かく切り替えて作業することはないので、自分にはいらない機能だ。せいぜい2種類あれば十分と思うが、間違って上面ボタンを押してしまうことも多く、無効化した方が便利だった。

中間程度のポインタ速度をセットしたが、有線でつないでいるわりには、いまいちカーソルの追従性が悪い。無線モードで使ってもたいして変わらなかった。それまで使っていたスカルプトに比べればまだましだが、使い慣れたゲーミングマウスには及ばない。

読み取り精度が悪くてイライラする

パソコンを使っている最中に、マウスカーソルが勝手にぶれると非常にストレスだ。ウィンドウを最小化しようとして閉じてしまったり、コンテキストメニューで狙い通りの選択肢を押せなかったり、イライラする場面が増える。

特に致命的だったのがAdobe イラストレーターでのトレース作業だった。ペンツールでアウトラインをなぞったり、アンカーポイントをつまんで微調整したりするのには、まったく向いていない。無駄に時間がかかるだけでなく、思った通りに操作できず精神的にもよろしくない。

昔はもっと粗雑なホイールマウスを使っていたはずだが、近年のハイエンドマウスに慣れて、並みの精度では満足できなくなってしまったのだろうか。あるいはモニターの解像度が上がって、マウスに求められる分解能も厳しくなったと推測される。

WordやExcelなど事務系のソフトを使っていても、テキストやセルの選択がずれたりした。FPSゲームで使うのはなおさら厳しい。エイムの精度は明らかにGシリーズに劣る。

マウスパッドの相性もあるかと思い、いろいろ変えてみたが、劇的な改善は見られなかった。

マウスが重くて疲れる

MX Verticalは見た目の大きさに反して、手で持った重量はMSスカルプトより軽い。

スカルプトは単3電池が2本も入っているが、Verticalはバッテリー内蔵方式。巻き貝のようにせり上がった上端部分も、中身はほとんど空洞でないかと思う。これが「低重心化=転がりにくさ」という面に寄与している。

ただし、普通の有線マウスに比べるとさすがに重量はかさむ(135g)。そのため、マウスを移動させる度に「腕が疲れる」というデメリットがある。手首の角度は楽なのだが、動かすたびに「よっこらせ」という重労働になり、上腕に負担がかかる。

特殊な形状による「握りやすさ」を実現した反面、重さが増して疲労するというのは何とも皮肉な現象だ。

「つまみ持ち」には向かない

他のマウスと交互に持ち替えてみて、自分のマウスの握り方は「かぶせ持ち」より「つまみ持ち」に近いとわかった。手のひらは使わず、親指と薬指の腹で左右からマウスを挟むスタイルだ。

そのため、マウス自体は軽くて小さい方がしっくりくる。新しく買い替えた有線タイプのPRO HEROはエルゴマウスより大幅に小型で軽く(83g)、左右対称で持ちやすかった。

このあたりは個人差があると思うので、「かぶせ持ち」スタイルの人はMXでも違和感なく使いこなせるかもしれない。

精度にこだわるプロにはおすすめできない

MX Veticalのエルゴノミックな使い心地は気に入ったが、肝心の基本性能がいまいちなのは残念だった。もしゲーミンググレードのマウスを使ったことのない人が握れば、満足できるクオリティーなのかもしれない。

ゲーマーでなくても、デザイナーやCADオペレーターなど細かいマウス操作が必要な人もいる。マクロ設定用にサイドボタンが10個も付いたマウスとかトラックボールとか、入力デバイスにこだわる人が多いと思う。

手首が疲れないのは良いことだが、狙った位置にカーソルを合わせられないのでは、そもそも仕事にならない。高い買い物だったので辛抱して使い続けたが、さすがに生産性が下がるので無理だと判断した。もし自分のようにロジクールのGシリーズから乗り換えるとしたら、読み取り精度に不満を覚えることだろう。

一方、製品のコンセプトである「エルゴノミック性能」は期待通りだった。見た目もカッコいいので、勉強のため試してみる価値はある。そもそもマウスの持ち方や要求スペックに個人差は多いので、「これこそ自分が求めていた最高のマウス」と感激する人も中には出てくると思われる。