森美術館「建築の日本展」レビュー。でかいのは待庵だけじゃない

数年ごとにコルビュジェとかメタボリズムとか、硬派な建築の企画展が行われる森美術館。15周年の節目に、メタボリズム続編とでもいうべき、日本建築を総括する一大展覧会が行われていた。

名作とマイナー作が半々くらい

建築史家、藤森照信の監修とあって、伊藤忠太やアントニン・レーモンドくらいから、明治~昭和の歴史的作品を押さえつつ、SANAA、石上純也の最新作まで幅広く取り上げている。木造、工芸、コミュニティーなどの複数のテーマに沿って作品をまとめているが、見たことがないものがたくさんあった。

通好みのマニアックな作品と、超メジャーな歴史的作品を半々くらい織り交ぜている感じだ。個々の建築作品だけでなく、伊藤ていじの民家の研究とかも紹介している。概して図面や映像より特大サイズの模型が多く、一般の人でも見て楽しめる内容になっていた。ただし語り口はカーサ・ブルータスほどゆるくなく、業界の人が見ても腑に落ちるちょうどいいバランス。

さすがにこれだけの広さの展示スペースに、400点も資料を並べられたらお腹いっぱいになった。途中の名作家具スペースで休憩しつつ、2時間くらい楽しめた。今回も7年前のメタボリズム展と同じく、歴史に語り継がれる展覧会だと思う。

写真撮影可だが公開は要注意

9月に入って会期終了間際だったので、新宿の金券ショップで招待券を安く買えた。在庫がある店舗が2つほどあり、安い方で1,100円と、通常の700円引きだった。

平日だが終了1週間前のせいか、思ったより来客が多い。都心の美術館とはいえ、安藤忠雄や隈研吾のような有名建築家の個展でなくても、これだけ人が集まるのは驚きだ。日本人にとっても渋めのだと思うが、1/3くらいは外国人だった。

会場内はいくつか写真撮影OKなところがある。ただしCCライセンス表示が必要なうえ、非営利指定になっているので、うかつにブログで紹介できない。実寸大待庵などの貴重な写真は、ほかのオフィシャルなサイトで見ていただくとしよう。

展覧会のチケットで六本木ヒルズのスカイデッキにも行けたのだが、今日は強風で閉鎖されていた。もう10回くらい訪れている気がするが、一度も屋上に上がれたことがない。屋内の展望スペースでも360度一周できるので、景色を眺めるのはそれでも十分といえる。

代々木公園を見て「皇居だ!」と騒いでいる外国人…「いや違うよ」と教えてあげようかと思ったら、日本人のお姉さんだった。その近くで着々と建設中の新国立競技場。思ったよりでかくて、遠目からは丹下健三の代々木競技場より3倍くらい巨大に見える。

さざえ堂の模型がわかりやすい

冒頭の木造古建築コーナーは、投入堂・さざえ堂・出雲大社(でかい方の復元)の三大インパクト作品を持ってきてがっちりつかんでいる。ちょっとミーハーであざといチョイスだが、さざえ堂の巨大模型で透け透けの裏側から内部構造を観察できるのはよかった。

会津のさざえ堂は実際に行ってみると、ひたすら廊下をぐるぐる回って上り下りするだけで空間体験というものがない。頂上部に橋みたいなものがあるが、特に眺望がいいとか展望台の機能は備えていない。こちらはもう20年くらい前の写真。

建築というよりも、スロープをテーマにした土木構造物、あるいはリハビリ施設という感じがする。近くで本場の喜多方ラーメンを食べて、食後にエクササイズするにはちょうどよい。

木材の継手模型を、半分アクリルで透明化して表現するのは、いいアイデアだと思った。古建築模型も1/50よりサイズが大きくなると、それ自体がオブジェというか工芸品のように見えてくる。

東大の木造超高層

また、東大生産研の腰原研究室から、霞が関ビルのプランを木造でシミュレーションした高層建築の模型が出ていた。当然、防火や耐震の面は十分に配慮されており、コア部の木組みが上部に向かって細かくなっていくのは、しならせて応力を吸収させるためと思われる。周辺部はスケルトン・インフィルを意識して交換可能らしい。

五重塔、スカイツリーとはまた別の構造だと思うが、再生可能な材料という意味では木造超高層に可能性を感じる。部材をプレカットすれば、RCより効率的に組み立てることもできそうだ。高層ビルも、木造の方が低コスト・短工期で維持費も安いとなれば、案外流行るのではなかろうか。

自分が生きているうちにぜひ実現してほしい。将来は木造のタワーマンションに住んでみたい。埼玉の西川材とか使って、飯能あたりに建てたら500万くらいで買えないかな…

待庵と丹下健三自邸の巨大模型

原寸大の待庵は展望スペースにぎりぎりの寸法で詰め込まれている。このシチュエーションがすでにシュールだが、中に入るには長蛇の列ができていて、名前の通り30分くらいの待ち時間が生じていた。

もう一つ控えているでかいブツは、1/3サイズで再現された丹下健三の自邸模型だ。得意のピロティー形式だが、上には切妻屋根の木造家屋が乗っている。前川國男や菊竹清訓の自邸に比べると、丹下健三のはあまり紹介されることがないというか、自分も初見だった。

これだけ巨大だと、中で横になって寝られそうな気がした。名作建築1/2~1/3スケールの小屋キットとか、売れるのではなかろうか。昔見た東京の巨大ジオラマとか、森ビルの展示は模型製作にかけるエネルギーが半端でない。

ライゾマより凸版VRがすごい

何やら会場に不穏な電子音が響いていると思ったら、ライゾマティクスのインスタレーションが展示されていた。3面スクリーンで囲った空間に、ワイヤフレーム状の光る紐?みたいなものが張り巡らされており、映像と同期して明滅するようになっている。

中銀カプセルタワーとか高過庵など、いくつかの小屋的なスペースが実寸展開図で表示されていく。BGMと同期したグリッチなエフェクトはもはや職人芸。見ていてかっこいいが、本質的には展示に不要なノイズといえる。

実は終盤で展示されている、凸版印刷の帝国ホテルCGと、竹中工務店の聴竹居VRのクオリティーが高い。ライゾマよりこちらを大画面で映してくれればよかったと思う。帝国ホテルの映像は、冒頭~ラストのエントランス部分が、明治村までドローンで撮影に行ったのかと見間違えるくらいリアルだった。

海軍本部みたいな第一国立銀行

展示の途中に壁が黒く暗転する部屋があり、どうやらここは日本建築史に咲く徒花、異形の作品をまとめたコーナーになっているようだ。何やら秘宝館めいた雰囲気で伊東忠太の祇園閣が紹介され、坂茂の富士山世界遺産センターが同列に並べられているのはちょっと気の毒だ。

第一国立銀行は、渋沢栄一が設立した日本で最初の銀行とある。写真を見ると、洋館の上に望楼型の天守閣が重なり、その上にミニ京都タワーみたいなものが乗った怪しげな外観だ。錦絵になると、さらに装飾がメルヘンチックに誇張表現されている。

とても貯金を預ける気になれないが、おそらく当時としては、こういうデザインにする必然性があったのだろう。どこかで見たことあると思ったら、ワンピースの海軍本部だった。マンガの元ネタはこれな気がする。

石上純也のRC洞窟が圧巻

最後の展示室でひときわ異彩を放っていたのは、石上純也のコンクリートの洞窟みたいな模型。施工中の映像を見ていると、莫大な予算で巨大な産業廃棄物をつくっているようにしか見えない。不整形な開口部に、レーザーカットしたガラスをはめ込む予定というのも楽しみだ。

ガウディのアーチで使われたカテナリー曲線でもなさそうだし、構造的な根拠はわからない。これだけ分厚いコンクリートなら地震なんてへっちゃらだし、プルトニウムの半減期くらい持ちそうだ。相当な重量もあると思うが、基礎や地盤はどうなっているのだろう。

もし未開の部族にコンクリートという材料だけが与えられたら、こうして地面に掘った穴に流し込んで家をつくるのかもしれない。藤森先生の解釈では縄文的な日本建築の文脈に位置づけられそうだ。

今日見たなかでは間違いなくインパクト最大の作品。挑戦した建築家もすごいが、クライアントに拍手を送りたい。無事完成して人の住める建築になることを祈りたい。