ヤドカリの本を読んで小屋について調べていたら、モノマガジンで何度か特集が組まれていたことを知った。2016年6/16号と11/16号を2冊取り寄せてみたが、いずれも古本なのに定価より値上がりしている。
商品としての小屋
タイトルはそれぞれ「憧れる小屋」「小屋再び」。表紙はタイニーハウスや農作業小屋で地味な感じだが、そこはモノマガジンなのでグランピングの特集から100万円以内で買える小屋キットなど、ひたすら読者の物欲をあおる内容になっている。ミニマリズムとは正反対の物質主義の経典。物好きのためにありとあらゆる新製品を紹介して散財を促してくれる魔性の雑誌が、小屋を特集するというのも興味深い。
取り上げられている小屋は多彩で、いわゆる物置のような簡単なキットから、車やバイクを改造できそうなアメリカ風のガレージ、部屋の中に置く小屋っぽいブースなどさまざまである。トレーラーハウスを自作している人や、海外の有名な小屋ビルダーも取材されているが、ヤドカリ関連の本とは内容がかぶらないよう、配慮されているらしい。
ヤドカリのミニマリズムに対して、モノマガジンにもマテリアリズムという思想がある。DIYで小屋を建てる行為すらも、レジャーとして売り込もうとするモノマガジンの商魂は見上げたものだ。ヤドカリ本のようなエリート級の小屋ビルダーに誰でもなれるわけではないので、キットを買って組み立てようという人には実際モノマガジンの方が役に立つ。また、首都圏で誰でも行けるツリーハウスカフェが紹介されていたりするので、ちょっと雰囲気だけでも味わってみたという人にはおすすめの内容だ。
風景としての小屋
雑誌の内容がわりとおもしろかったので、同じくワールドフォトプレスから出ている大型のムック本『小屋1』も購入してみた。わざわざ1とあるから続編も出るのだろう。1冊目にわざわざ1と名付けるのはThe Oneというオリジナリティーを主張しているのだろうか。日本語と数字の1だと違和感がある。
こちらは予想に反して、世界各地の美しい小屋の写真を集めたアート本のようである。50万の格安小屋キットとか、カントリー風のかわいいおうちとかは出てこない。むしろ長年の使用に耐え風雪にさらされた名もない漁師の小屋とか、ホンモノ感にとことんこだわったセレクションだ。
ヨーロッパの保養地で海岸に並ぶカラフルな小屋、田園の中にひっそりたたずむ農作業小屋、海辺に簡素に作られた船の倉庫など、目の保養には素晴らしい写真集である。世界中の特徴的な小屋を集めたリトルワールドのようなコンセプトだ。
モノマガジン風のもっと下世話な商品紹介を期待していたら肩透かしであった。表紙もきれいなので本棚に飾っても悪くない。キッチュな小屋商品からハイアートなヴァナキュラー建築までカバーするモノマガジンは、振れ幅が広くておもしろい。
小屋づくりにまつわる最小限主義と物質主義の相克
H・D・ソローのようにミニマリズムと小屋好きというのは同じ根を持つ人種と思っていたが、モノマガジンが読者として想定しているのは「趣味やセカンドハウスとして小屋を持ちたい」というある程度裕福な人たちだろう。例えばキャンプといっても、テント一式担いで僻地でソロキャンプする人もいれば、でかいSUVにダッチオーブンを積んで家族連れでオートキャンプに出かける人もいる。
持ち物を減らして、住む家も狭く(安く)して、掃除の手間や経済的負担を減らしたいというのは理解できる。その過程で、「ローンを組んで家を買うより、安い土地を手に入れて自分で小屋を建てたい」と思うのは自然なことだと思っていた。しかし実際に郊外の土地を探したり小屋の工法を調べたりしてみると、いろいろ手続きが面倒だし、配管工事にお金がかかるとわかってきた。その結果、20年くらいのスパンで考えると「小屋を建てるより集合住宅に住み続けた方が安い」と気づいた。
どうも自分が小屋をつくりたい理由には、「家賃を払わずに生活費を浮かせたい」という経済的な動機と、「誰にも気兼ねなく自邸を設計してみたい」というクリエイティブな欲求の2種類あるようだ。後者はミニマリズムとは反対の執着心とも思えるし、最小限主義と物質主義が同居して悩んでいるともいえる。
小屋づくりのために荒れ地を開墾したり、資源を無駄に消費したりするよりは、すでにある住宅をリノベーションした方が環境によいだろう。本格的な改修はかえってお金がかかりそうなので、多少不便でもそのまま空き家に住めれば一番いい。「自分の家を持ちたい」という欲を捨てれば、集合住宅でも快適で安く暮らせる方法はいくらでもある。
小屋より安い賃貸住宅で満足
この先、日本で空き家も空き地も増えるだろうから、安く譲ってもらえる土地があれば、趣味で小屋を建ててソローのように暮らしてみるのもいいかと思う。すでに地方では条件付きで移住者への土地の無償譲渡も行われはじめている。ただ、現実的には手入れなしでもそのまま住めるくらいの空き家もいずれ流通するだろうから、わざわざ更地を手に入れて自分で建てるまでもないだろう。
やはり小屋づくりというのは、自分にとってはサバイバルの手段というより趣味の範囲だ。高村友也や坂口恭平、村上慧のように、生業として小屋を建てたり放浪せずにはいられない芸術家もいるが、しょせん自分にそこまでのカルマはない気がしてきた。土地材や材料費、工事費に100万でもかけて小屋をつくるよりは、集合住宅で10年暮らす方がリーズナブルで快適だ。いずれそれより安い土地とか空き家が出回ってきたら、そのときは思う存分DIYを楽しむチャンスだろう。