宮城三大温泉、秋保・作並・鳴子レビュー。日帰り入浴から高級宿まで

ここ数年、仙台に来たらなるべく近場の温泉に行くようにしている。市街地から車で行きやすい秋保温泉に向かうことが多いが、山形県境に近い作並温泉も行く機会があった。さらに今年の冬は、少し足を伸ばして北の鳴子温泉まで行ってみた。

東北に温泉は多いが、秋保と鳴子に福島の飯坂温泉を入れて「奥州三名泉」と呼ばれるらしい。そのうち2つを擁する宮城県。作並も加えて仙台市内から気軽に行ける温泉3つをレビューしてみたい。

秋保温泉~上はG7開催の佐勘から下は300円の共同浴場まで

秋保温泉にゲストを連れて行くなら、旅館の格としては佐勘を選べば間違いないだろう。食事つきの日帰り利用で2,000円以上するが、欽明天皇や伊達政宗が愛したという奥州最古の湯を存分に堪能できる。1592年の湯守時代から続く家計で、現在の当主は34代目。開湯は1500年前の飛鳥期といわれ、もはやギネス級である。2016年伊勢志摩サミットの前のG7が行われたのもここ佐勘であった。

一方、正月の秋保はどこの宿も満室で、日帰り入浴できるところはなかった。一部空いているところも受付14:30までと、あくまで宿泊客優先のサービスである。

秋保・里センターの観光案内所で尋ねたところ、もらった日帰り温泉リストの一番下に、300円の共同浴場の記載があった。ここなら元日でも夜遅くまで空いている。案内所のスタッフさんには「湯温が45度もある」とさんざん脅され、観光客向けには決しておすすめではない雰囲気が伝わってきた。さすがに里センターの無料足湯だけで帰るのは寂しいので、興味津々で秋保温泉共同浴場に行ってみた。

共同浴場はコンパクトなつくりで浴槽も畳一枚分くらいの広さしかない。自分と同じく、他からあぶれてきた観光客と地元の人が半々くらいの割合で、大人4人も入ると湯船は満員の状況だった。洗い場に石鹸やシャンプーの類は置いていない。草津温泉で湯畑の近くにある一般客も入浴可能な無料浴場「白旗の湯」に近いイメージだ。ただし室内は普通の銭湯のようなタイル張りで、ヒノキの湯船があったりはしない。

案内所での警告通り、風呂の温度はかなりアツアツだった。上記の草津温泉共同浴場も信じられないくらい熱湯だったので、共同の浴場は回転を速くするために熱めの温度に調整されているのかもしれない。脱衣所は汚れていて変な臭いもしたが、300円ならまあこの程度という感じか。見てくれはともかく中身は秋保の湯なので、温泉の効能はばっちり享受できる。

秋保温泉の観光スポット~磊々峡と秋保ヴィレッジ

秋保で温泉以外の見どころとしては、名取川の上流に磊々峡(らいらいきょう)と呼ばれる渓谷がある。温泉街から歩いて行けて、滝や奇岩などなかなか壮大な風景を見られるので、ぜひ散歩してみるとよいだろう。

また、最近できた道の駅ライクな観光物産センター「秋保ヴィレッジ」もおすすめだ。「アグリエの森」という直売所は試食サービスが半端でない。

各コーナーを一周すれば、ほぼお腹いっぱいになってしまい、無料だとあまりに申し訳ないのでお土産をたくさん買わされてしまう仕組みだ。下記の写真など、カステラ食べ放題状態。

作並温泉~広瀬川源流を臨む露天風呂「一の坊」とビュッフェ

2014年に訪ねたときの記録だが、「一の坊」というホテルに宿泊した。源泉3つに風呂は8つと、そんなに回り切れないくらい盛りだくさんの温泉宿だ。中でも、仙台市内を流れる広瀬川の源流を臨む「河原の湯」「清流の湯」は素晴らしい眺望を味わえる。森の中で、川とつながっているような露天風呂を楽しめるのは、喧騒離れた作並温泉の売りかもしれない。

一の坊は朝夕バイキングで、その場で肉を焼いたり天ぷらを揚げてくれたり、超豪華な内容だった。メニューが豊富で、白米で腹を膨らませるのはもったいない感じだが、山形産のつや姫がうますぎてモリモリお代わりしてしまう危険がある。宮城の蔵元、一ノ蔵が一の坊という日本酒を提供していてまぎらわしい。囲炉裏を囲むロビーも風情があり、作並に来るなら泊まって損はない宿だった。

作並温泉の観光スポット~ニッカの宮城峡蒸留所見学ツアー

作並温泉の観光スポットといえば、まずおすすめしたいのがニッカウヰスキーの宮城峡蒸留所だ。ここでウイスキーの製造過程を見学するツアーに無料で参加できる。9名以下なら予約も必要ない。

見どころはどでかい単式蒸留器が並ぶ蒸留棟だろうか。イギリス式の蒸留器に神社の紙垂(しで)がぶら下がっているのが、日本の酒造りという感じでおもしろい。

貯蔵庫では樽の違いや熟成年数による色の違いを学習できる。年間で2%ずつ蒸発するので、熟成12年ともなると当初の半分近くまで量が減っている。年数の長いウイスキーが高い理由がよくわかる。

見学後のお楽しみはやはり試飲コーナーだ。作並温泉の中心部からは数キロ離れているので、ぜひ酒が飲めない相方を連れてきて車の運転を代わってもらおう。

試飲は3種各1杯までだが、その中に700mlボトルで軽く1万円は超える「鶴17年」と「宮城峡12年」が入っている。一口ごとに数100円はしそうな高価な酒を味わいながら、気分が良くなったところで魅惑のお土産コーナーが待ち構えている。ブランデー仕込みのチョコや甘納豆もいいが、やはりお目当てはここでしか買えない限定ウイスキーコーナーだろう。

今は禁酒しているが当時はのんべえだったので、加水していない原酒のシングルカスクで一番安い10年の180mlを購入した。アルコール度数が54%もあるので毎晩寝る前に香りを楽しみながらちびちびやって、ウイスキーの醍醐味を満喫することができた。

鳴子温泉~実は東鳴子の「旅館大沼」が温泉通に大人気

鳴子温泉はRETRIPのランキングで第1位だった「旅館大沼」に行ってみた。なかなか場所がわからず苦労したのだが、どうやら温泉街のメイン通りでなく、東に一駅戻った「東鳴子温泉」のエリアに位置するらしい。こちらの商店街はずっと寂れた感じで、「本当にここがNo.1なのか?」と不安になったが、どうやら通好みのチョイスであるらしい。地元の人には隠れた人気の宿であったようだ。

旅館大沼の売りは裏山の離れにある露天風呂「母里(もり)の湯」だが、今回は案内されなかった。日帰り入浴の場合は要予約で平日限定3組、1人2,000円で40分の時間制限というエクスクルーシブなサービスであったらしい。

内湯も7つあり楽しめるが、芳香浴の「ふかし風呂」がおもしろかった。3畳間の下に温泉のタンクがあるらしく、寝そべると畳の下から熱気が伝わってくる。「服を着たまま入れる岩盤浴」という感じで、気持ちよくついうとうとしてしまった。他にも洗い場の石鹸・シャンプー類がミヨシの無添加シリーズだったり、細かい気配りが人気の秘密かもしれない。内湯がたくさんあるのも、湯治客の連泊に対応したサービスなようだ。

鳴子温泉の観光スポット~凍み豆腐と一斗缶かりんとう

他と違って鳴子はJRの駅から歩いて温泉街にアクセスできる。ランチのおすすめは「ゑがほ食堂」の「山菜きのこそば1,080円」だ。

駅前の「ゆめぐり広場」の観光施設に、めずらしい手湯がある。手だけ温泉に浸してどれだけ効能があるのか不明だが、靴を脱がないで手軽に入れるので便利かもしれない。

温泉街を歩くと、奇怪な形の黄色い建物「早稲田桟敷湯」がある。戦後の掘削実習で早稲田の学生が掘り当てたのが由来で、平成10年にリニューアルしたらしい。昔、建築雑誌で見た記憶があるなと思ったら、案の定、石山修武の設計だった。530円で入れる日帰り温泉としては形も色もアバンギャルドだが、ちょっと奇抜なのが早稲田っぽい感じでいいのかもしれない。

車で来ていたら、東北道に戻る国道47号の途中に「あ・ら伊達な道の駅」がある。意味不明なネーミングだが、北海道のロイズが出店していて、かなり賑わっていた。道の駅でおすすめのお土産は、岩出山名物の「凍り豆腐」である。

東北の冬の保存食だが、乾燥させずに凍らせた「凍みっぱなし」というバリエーションも存在する。ほかにも大久保製菓の「一斗缶入り巨大かりんとう」はインパクトがあるが、2kg以上のボリュームなのでカロリー超過に要注意だ。

秋保・作並・鳴子とも癖のない泉質で気軽に入れるのが売り

秋保温泉と作並温泉「一の坊」の泉質はナトリウム・カルシウム系の中性、無色・無臭で、あまり特徴がない。東鳴子温泉「旅館大沼」の薬師仙人風呂はややアルカリ性なのか少しぬるぬるする感じがあった。やたら濁った硫黄臭漂う温泉ではなく、気軽に入れるのもリピーターが多い理由かもしれない。

秋保と作並なら、仙台中心部から車で1時間も走れば辿りつける。たいていの宿で日帰り入浴は受け付けているので、ぜひ通い詰めてお気に入りの露天風呂を見つけるのが楽しいと思う。