「究極の一本」といえる万年筆を手に入れても、いずれまた新しいのが欲しくなる。こればかりは人間の性と割りきって、散財しながら経験値を貯めていくと考えた方が健全だ。環境や趣味の変化による新しいニーズと、単に買物して気晴らししたいという2つの要因がある。
エルメスの手帳カバーを買ってから、財布と手帳の関係について考え直した。いったん究極のミニサイズまで縮小した財布と手帳を分離して、今度は実用的・美観的にどこまで拡大が許せるか実験してみようと考えている。
同じエルメスの財布は予算的に無理として、雰囲気の合う革製の財布を探してみた。最近出てきた薄型の新製品を検討して、今度はお札を折らずに収納できる二つ折り形状を選ぼうと思っている。
革製のミニ財布
財布に関しては、紙幣とカード類を輪ゴムで束ねてポケットに入れ、マネークリップすら不要という究極のスタイルが存在する。実用上は、小銭が散らばらないようコインケースやカード入れに畳んだお札もまとめて放り込むのがベターだ。断捨離ブームも手伝ってか、昔はアブラサスくらいしかなかったミニ財布のジャンルが確立されてきた。
今回は手帳に合うブラックの革製品ということで、アウトドア系メーカーの化繊素材は候補から除いた。ポーターのミニウォレットなど軽くて丈夫で実用性は問題ないが、ビジネス用途には少々そぐわない。仕事で使うなら、革靴と同じで財布も革製が無難だ。
ベルロイやエムピウの製品群は他サイトにレビューが充実しているので、あえて取り上げる必要はないかと思う。個人的にはsafujiのミニ財布が他社製品より一回り小さく興味を持った。折りたたむので厚みは出るが、面積的にはL字型ファスナーの財布より小さい。これを使いこなすには、中に入れるカード類も相当絞らないといけないだろう。
土屋鞄のベルコード
極小サイズの革財布の中では、もうひとつ土屋鞄のベルコード・カードコインケースも特筆に値する。名刺入れくらいのサイズでコードバン製のミニ財布というのは、なかなかない。新丸ビルのショップでガラスケースから出して触らせてもらったが、2万以上払う価値のある製品だと思った。
ベルコードは光沢のある馬革で艶があり、スーツにも合いそう質感。革細工・クラフト系メーカーの表情豊かなシボあり革より、端正でフォーマルなボックスカーフに近い印象。内側のカードポケットに厳選した2枚を入れ、外側のフリーポケットにカードサイズダイアリーを差せば、簡易手帳も兼ねられる。
お札はどうしても四つ折りになってしまうが、ミニ財布のグレードアップを目指すなら検討して間違いない商品だ。手元のキプリス製コードバンの名刺入れは相当長持ちしているので、見た目の繊細さに関わらずコードバンは耐久性が高いと思う。
お札を折らずに収納できること
極小財布はおもしろいのだが、今回は「お札に折り目をつけずに収納できる」という点を重視してみた。基本的に電子マネー決済と割り切れば、財布に入れておく紙幣は必要最低限の保険用で構わない。しかし、お札を折って収納することにまったく抵抗がないかといえば、そんなことはない。
昔使っていたグレンロイヤルの別注L型財布は紙幣を二つ折りする必要があったので、無意識にストレスを感じていた。ポーターのミニウォレットだと四つ折りになるので、お店で支払うときに広げて出すのが恥ずかしい。
別に折ったからといって、貨幣としての価値がそこなわれるわけでもない。スーパーやコンビニでまで、あえて新札で支払う必要もないだろう。多分に心理的なものだが、世の中には折り目のないお札の方がありがたがられるというのも真実だ。ミニマリストの稼ぎが少ないのは、ミニ財布の中でお札を折りたたんで、しいたげているからかもしれない。
根拠はあいまいだが、お札をたたむのに罪悪感を覚えるのは事実。可能なら紙幣をそのまま納められる長財布を使いたいと思っている。
長財布か二つ折りか
長財布の薄型も増えてきて、YUHAKUのALBERTEにはかなり魅かれた。小銭入れとカード収納部を外側に設けるという、割り切った設計がユニークだ。ブラック×グレーのツートンカラーでなければ、真剣に購入を検討したと思う。
また、ValextraやPelle Morbidaの海外ブランドで、長尺のカードケースにポケット付きのものもある。これひとつで財布としても使えるのではと考えたが、お札を入れるには微妙に長さが足りなかった。やはり日本円紙幣を念頭においてデザインされた製品の方が安心だ。
バッグやスーツの内ポケットに収めるなら、もっとも薄くできる長財布タイプが有利だろう。多少面積が広くても、厚みの少ない方が邪魔にならない。
一方、ズボンの後ろやコートのポケットに突っ込んで手ぶらで行動するなら、長財布のサイズは少々厳しい。以前、ジーパンのポケットに長財布を入れていたら、落としてなくしてしまった反省がある。多少厚みが出ても、まだポケットからはみ出ない二つ折りの方が安全だと思う。
今回は久々に、二つ折りのタイプでコンパクトな財布を探してみようと思った。多少お札に曲げ癖はつくが、きっちり折り目がつくことは避けられる。
FRUHの薄型財布は色味が惜しい
二つ折りの薄型財布というジャンルでは、FRUHのシリーズがずば抜けてすぐれている。東急ハンズの店頭で触らせてもらったが、小銭入れの縮小、ジッパースライダーの改良などによって、中身を入れない状態では信じられないくらい薄くたためる。
ここまで薄いと、せっかくの二つ折りなのに、お札にきっちり折り目が付いてしまいそうなくらいだ。それならL字型の財布の方が、パカパカ開かなくて便利ともいえる。
二つ折り財布は手帳のように留め具のベルトやボタンがついているものが少ない。名刺入れと同様に、音を立てずにそっと開けることを優先したためだろうか。ポーターのナイロン財布でマジックテープをべりっと剥がすと、コンビニ店内でも気になるくらいの音がする。
価格も安いのが売りだが、他社製品と比べると縫製やコバの処理がやや雑に感じた。高級なコードバンのバージョンもあるが、内側がナチュラルなヌメ革でツートーンなのが残念だ。オールブラックなら間違いなく第一候補になったと思う。
ジョエル・ウィリアムスという謎ブランド
実物を見たことがないが、ジョエル・ウィリアムスという得体のしれない商品も発見した。重なりのないカード入れが4枚。二つ折りして背面に小銭入れもついている。中央ポケットは商品画像にドル紙幣が入っているくらいだから、日本円は問題なく収まるだろう。むしろ長すぎるので、他にレシートやチケット類も難なく収まりそうだ。
画期的な構造の財布に思われるが、なぜかAmazonのレビューくらいしか情報がない。牛革・インド製で5千円ちょっとという低価格は逆に不安になる。人柱になる覚悟で購入するのもありだが、他のメジャーな国産品を試したあとでよいかと思った。
財布もデジタル化する過渡期
都会であれば、最低スマホ内の電子マネーだけで用事を済ませることもできる。今や財布や手帳より必須なのはスマホといえる。折りたたみ式のスマホカバーに、紙幣とカードを挟んで持ち歩くのは、定番のソリューションだ。
GalaxyのNoteシリーズなど駆使して、デジタルにメモをとったりスケジュール管理も可能だが、現時点ではまだ紙のメリットが上回る。それでもクラウドで一元管理できるのが便利と、手帳のスマホ・タブレット化を選ぶ人もいるだろう。ショットノートのように、手書きのメモをデジタル化するハイブリッドなアプローチもある。
おそらくもう10年くらいしたら、手帳やメモ帳は完全にスマホやタブレットに移行できるのではないかと思う。仮想通貨もじわじわ普及していくだろう。あるいはポメラの進化系や、音声入力のようなデジタルツールが普及するかもしれない。
現代のミニマリストが日ごろの持ち物についてこれほど悩むのは、ツールがデジタル化する過渡期にあるからだ。文書データはすでにクラウドで一元管理するのが主流になってきている。PC作業中のメモはEvernoteに取るし、手書きのメモもスキャンしてPDFで時系列に整理している。
ミニ財布は本当に流行っている?
ガジェット類に侵食されて、昔からある財布や手帳の存在意義が脅かされてきている。時計業界を参考にすると、クオーツショックの後は機械式時計の高級化が進んだ。アクセサリーとしてブランドイメージやステータスを訴求する戦略が功を奏して、機械式も生き残れたといえる。
文具や革小物も腕時計と同じく、デジタルで味わえない高級感をアピールする方向と、小型薄型というニッチなニーズを埋める方向に二分化している。少なくともまだ10年くらいは、小銭や紙幣を持ち歩く需要もある。電子マネーと併用すれば分量は少なくて済むので、必要に見合ったサイズに縮小するのは妥当だ。
世間を観察していて、ミニ財布というのはそこまで普及していないように思う。年齢を問わず、昔ながらの長財布や小銭入れ付き二つ折り財布を持っている人が圧倒的多数だ。やはり長年培われたロングライフデザインとして、財布の形状はそう簡単に変わらないのだろう。
ミニ財布が小さいのに高い理由
キーボードのQWERTY配列のように、必ずしも人間工学にかなったデザインが主流になるとは限らない。いったん定着してしまうと、慣れたユーザーが乗り換えたがらないというジャンルが存在する。財布もそのひとつだ。
ミニ財布の新製品は続々発売されるが、一般的に流行っているかどうかは疑わしい。むしろ一部の愛好者が、とっかえひっかえ購入するから市場が広がっているように思う。元祖「薄い財布」のアブラサスはよく新聞広告を見かけるが、宣伝料が上乗せされていて意外と高い。
小さい財布で材料費は安く済むのに、加工が面倒というより需要が少ないから価格が上がっている気もする。外から見れば、極小財布は一部のマニアがこぞって買い漁っている限定的なマーケットに過ぎないのだろう。