松島観光といえば、地上にあるのはまず瑞巌寺や五大堂の歴史的建造物。フェリーで海に出れば、大小さまざまな島や奇岩を眺められる。牡蠣をはじめとした海鮮料理に温泉も楽しめるので、1日滞在しても飽きない街だ。
瑞巌寺の庫裏と本堂は国宝
2018年の春に平成の大修理が完了したとのことで、久々に瑞巌寺を訪れてみた。古建築としては台所である庫裏のインパクトが強いが、本堂も国宝である。ともに1600年頃の建造で、幾多の地震や津波にも耐えて伊達政宗の時代から存続している。
今回修理が行われたのは本堂ほか7棟の建物だが、襖絵も金ぴかで新しくなったように見える。オリジナルの障壁画は宝物館の方に移されていて、中尊寺金色堂のようにガラス越しに鑑賞することができる。
本堂には仏殿のほかに、藩主が滞在する書院造の「上段の間」が設えてある。そしてその隣には、さらに一段高い「上々段」の間が隠されている。まるで冗談のように少しずつ床が高くなって位の高さを表すのだが、上々段の間は伊達家より上の将軍や天皇を迎える客間のようだ。
上段の間の床の間に目立つ花頭窓が設けてあり、開閉する仕組みになっている。日本建築としては見慣れない様式だが、襖の奥は武者隠しになっていたようだ。部屋で藩主と対面していたら、花頭窓が気になって仕方ないことだろう。警備システムをあえて目立たせることにより、抑止力や威圧感を持たせるための演出とも思われる。
観覧順路は庫裏からのアプローチとなるが、参道から本堂に直結した御成玄関という入口がある。こちらも例によって藩主しか通ることを許されないため、通常は閉鎖されている。
宝物館の雲居展
宝物館の企画展示では、雲居という伊達忠宗時代の中興の祖を特集していた。この漢字で「うんきょ」ではなく「うんご」と読む。有名な禅僧で達筆だったらしく、様々な書画や掛け軸が展示されていた。
瑞巌寺の歴史は古く、平安時代に坂上田村麻呂が毘沙門堂を建立して、延福寺~円福寺~瑞巌寺と名前も変わりつつ1200年以上続いている。一遍上人や松尾芭蕉が寺を訪れた記録もある。
これだけ風光明美なところだから、昔からありがたがられたのだろう。今は臨済宗の妙心寺派で、たまたま法要のイベントがあり僧侶が大勢集まっていた。堂内は写真撮影禁止だが、中庭の隙間みたいなところにも念入りに庭園が計画されていて、内も外も見ごたえがある。
五大堂ならタダで入れる
瑞巌寺は国宝なので一見の価値はあるが、金箔の貼られた襖絵以外や欄間の透かし彫り以外は、それほど見どころがない。境内はそれなりに趣もあるが、700円も拝観料を取られるなら牡蠣でも食べたいと思う人が多いだろう。
瑞巌寺のすぐ前に、五大堂という無料で入れる建物がある。松島らしい孤島の上に建造されていて、橋を渡ってアプローチする方式だ。これも瑞巌寺の一部らしいが、場所が離れているためこちらは自由に観覧できる。ちょうど修学旅行で訪れたらしき中学生でごった返していた。
五大堂に向かうには、「すかし橋」という橋を2本渡る必要がある。その名の通り、橋の床に隙間があって、海が透けて見えるような構造になっている。昔は縦板もなくさらに透け透けだったらしいので、度胸試しには格好のスポットだったことだろう。用心して渡れば足を踏み外すことはないが、写真を撮ろうとスマホを取り出して、海に落とすと悲劇になる。
五大堂も伊達政宗時代から存続しているので、過去の地震や津波をどうやって切り抜けたのか不思議なくらいだ。四方の壁に十二支の動物が彫られており、無料で拝観できるわりには見応えがある。当時の日本に生きた羊はいなかったのか、どうみてもヤギみたいな変な動物も混ざっていたりする。
松島でカモメの餌付けが禁止に
松島観光で時間に余裕があれば、ぜひフェリーの遊覧も試してみたい。1時間ごとに出航する標準的な仁王丸コースで大人1,500円。映画を見るくらいの金額で、50分の船旅を楽しめる。あとで公式ウェブサイトを見たら、料金150円引きになるお得なクーポンが用意されていた。
ほかにも小型の船が何艘か停泊していたが、それらは団体客の貸し切り専用のようだ。仁王丸の2階はプラス600円で入れるグリーン席になっている。船尾のデッキは見晴らしがよいが、ガソリン臭くてあまり長居はできない。
松島のフェリーといえば、ウミネコの餌やりが人気のアトラクション。しかし近年は数が増えすぎて、湾内の松がフンで枯れてしまう被害が出ているらしい。さすがに松のない松島というのはシャレにならないらしく、平成26年から無期限で餌付けが禁止されてしまっていた。
海鳥にかっぱえびせんを与えても、塩分の摂り過ぎでかえって健康を害しそうだが、松島のウミネコたちは巧みに適応したらしい。フェリーから餌をやりつつ写真を撮ろうとして、携帯電話を奪われる被害も相次いだそうだ。きっと松島の海には、無数のモバイル端末が沈んでいることだろう。
フェリーの旅は途中で飽きる
仁王丸コースは湾内から一部外洋にも出る大回りのコースだ。運行中に音声案内でまわりの島々を説明してくれるのだが、数が多すぎて10分くらいすると飽きてくる。
どの島も波で浸食された崖の上に松の木が立っている。一番有名なのは外洋に面したに仁王島だと思うが、ここは波が強すぎるのか崩壊寸前になっている。名勝の奇岩が失われてしまっては一大事と、今ではコンクリートでがっつり補強されている。どの部分までがオリジナルなのかわからず、いまいちありがたみの薄い島になってしまった。
ほかにも穴が4つ開いている鐘島や、よろい島、かぶと島のあたりは特徴がある。一方、人の住んでいる桂島のような大きめの島もあり、人家や港を見ることができる。岩礁みたいな小島も合わせれば、全部で260個も島があるようだ。
仁王丸コースは50分もあるので、桂島を回って港に戻る後半は、みんな疲れて居眠りしている。外洋に出ると波が高くなり船が揺れるのでおもしろいが、それ以外にジャングルクルーズやUSJのジョーズ的アトラクションはない。カモメと交流できなくなってしまったので、ツアーの魅力も半減だ。
カモメも観光客も楽しめる新アイデア
船が港を出ると、一羽か二羽くらいのウミネコが冷やかしに追いかけてくる。それでもこらが餌をやる気がないとわかるや、すぐにそっぽを向いて帰ってしまう。
動物愛護的に問題はありそうだが、毒入りのえびせんを与えるというアイデアはどうだろう。そうすれば観光客も楽しめて、ウミネコも減って松の木も保護できる。
例えば奄美大島では固有種のアマミノクロウサギを守るため、天敵の野良猫を去勢したり殺処分する対策が行われている。ハブ駆除のため輸入されたマングースも今では捕獲対象なので、動物を道具にしたり見世物にすると、時として悲惨なことになる。
あまりやりすぎると、今度はウミネコがいなくなって餌付けのアトラクションが成立しなくなってしまう。松とカモメと人間という、食物連鎖と関係ない生態系のバランスを保っていくのは難しそうだ。