法人から自分に払う給与を抑えて所得をゼロにしてみると、個人事業主の方が保険料の軽減・免除措置でうまみが多いとわかった。今手がけている事業が一区切りしたら、会社をたたんで個人事業に戻してもいいかなと思う。
ところがよくよく調べてみると、個人事業主として保険料の軽減措置を受けられる所得の判定基準が意外と厳しいと知った。法人なら当然受けられるはずの各種所得控除を使えない。本気で国保の7割軽減を目指すなら、相当の覚悟で所得を制限しないといけない。
健康保険の軽減基準は年金免除より厳しい
個人事業の場合、国民健康保険料の7割軽減を受けられる判定基準は所得33万円以下。各自治体のウェブサイトを見ていると、どうやらこれは「世帯主の総所得合計金額」に対してであって、基礎控除33万円を引く前の話らしい。とすると、法人の給与所得控除も使えないから掛け値なしに所得ゼロ=無収入でないといけない。
国民年金の全額免除条件も単身世帯で所得57万だが、これも基礎控除前の金額だろう。全額免除になる年収の目安は122万と解説しているサイトもあり、判定条件に基礎控除65万を足した試算と思われる。
自治体によって軽減率や判定方法はまちまちだが、健康保険の7割以上軽減基準はおおむね国民年金の全額免除より厳しい。健康保険の軽減はせいぜい5割や2割で済ますとして、年金の全額免除を目指す方が現実的かもしれない。
あまりに有利な年金全額免除
健康保険はさておき、低所得者に対して「年金全額免除でも半額支給」というのはあまりに有利な状況だ。その裏には「生活保護を厚くするよりは年金を払った方がまし」という、国の打算があるのだろう。
すると制度の裏を突いて、ある程度の資産を持ちながら軽減制度を狙って所得を下げる人も出てくる。マイナンバーで把握した資産状況をかんがみて、免除適用のハードルを上げるような制度改正が将来行われるかもしれない。
あまりにおいしすぎる節税・節保険料スキームには、アービトラージが働くと考えた方が安全だ。最近セーフティ共済の前納減額金が大幅に下がったのもその一例といえる。
利益を出せるのは年間65万まで
いずれにしても、個人事業で保険料軽減を狙うなら、ほとんど稼いではいけないということになる。本末転倒だが、利益を出すのでなく節税目的で開業するならそれが真実だ。
法人のように給与額で調整もできないので、利益計上できるのは青色申告控除の65万がマックスになる。「役員報酬は年度の途中で加減できない(損金不算入になる)から不便」と言われるが、こうやってみると一切控除の余地がない個人事業の方がシビアだ。
貯金がふんだんにあれば、年金支給されるまで取り崩しつつ暮らすこともできる。ただ、貯蓄が毎年目減りしていくというのは気持ち的に寂しい。年間の生活費くらいはキャッシュを稼いで貯金に手を付けず、塩漬けした資産が複利の長期運用で2倍になるくらいの方が、投資の醍醐味を味わえる。
基礎控除しか適用できない国民健康保険
国民健康保険料の軽減率には妥協するとしても、算定元の所得に基礎控除33万しか適用できないというのもデメリットが大きい。法人では常識である給与控除はおろか、社会保険、生命保険、小規模企業共済等掛金、扶養・配偶者・障害者など、その他すべての所得控除をあきらめることになる。
所得税・住民税であれば、上記控除に加えて青色申告控除の65万も利益と相殺できる。しかし、保険料の計算に基礎控除しか効かないというのは圧倒的に不利だ。個人事業でうっかり売上が増えてしまうと、7割軽減どころでない恐ろしい料率の保険料を徴収されてしまう。
社会保険料の等級判定は厳しいと思っていたが、国民健康保険の方はそれ以上に過酷といえる。やはり問題は税金より保険料である。消費税や所得税の話題で国民の目をくらましながら、逃れようのない保険料をがっつり取るのが政府のやり方だ。
「iDeCoで節税」なんて浮かれている間に、給与から2割も保険料が天引きされていたりする。一人法人なら「半額は会社負担」なんてごまかしも通用しない。税金と比べて、経費を積んだり控除を駆使したり、節約ゲームを楽しめないのが保険と年金の不愉快なところだ。
家族がいるなら法人成りがベターか
本気で世捨て人になって無収入を貫く覚悟でなければ、国保の7割軽減、国民年金全額免除を達成するのは難しいだろう。一度は個人事業主に戻って実験してみたい気もするが、今の会社を清算・休眠する手間と費用がかさんでしまう。
先日、均等割7万も含めて個人事業より毎年約30万のオーバーヘッドが生じると試算した法人社長。現実的にはそちらの方が無難で、精神的にも負担が少ないといえそうだ。利益が上振れした際に、税金・保険料負担が急増するリスクも抑えられる。
問答無用で取られる均等割7万がネックだが、それでも世の中大半のサラリーマンよりは実効税率を下げられるはずだ。そして法人=社会保険であれば、扶養家族の保険料がかからず、頭数に応じて扶養控除も増やせるオプションが使えるようになる。
個人事業主と法人社長、メリット・デメリットをトータルで比べると、普通に商売して家族を養うなら法人の方がリーズナブルだろう。「売上1千万超えたら…」とかいわずに、結婚していれば最初から法人成りした方が、保険料を安く抑えられる。
逆に言うと、せっかく会社経営して余剰な税金・保険料を納めているなら、家族を何人か扶養しないと割に合わない。老後に扶養した妻の分と合わせて、老齢基礎年金がダブルでもらえるというのも、社会保険だけのメリットだ。