2006年に買ったKNOXのシステム手帳について、長年使った感想をまとめてみたい。
ノックスの定番シリーズ、水牛革のピアスでミニ5穴規格。現在は廃番で手に入らないサイズだ。
10年使って壊れた部分は少し修理した。それでも革自体やバインダーの寿命はまだ持ちそう。頑丈そうな厚革の見た目どおり、おそろしく長持ちする手帳だった。
ミニ5穴手帳のリフィルの使いこなしや、財布や鍵を合体させる案についても紹介したい。
(2020年1月25日更新)
ノックスとノックスブレインの違い
表紙の裏にある印字を調べると”MADE IN JAPAN 06”、2006年製だった。
反対側には古い円形のKNOXBRAINロゴ。KB頭文字の周囲を”PRODUSED BY KNOX TRANSPORT INC”というテキストが囲んでいる。
このようにKNOXBRAIN(ノックスブレイン)とはKNOX(ノックス)のステーショナリーブランドで、システム手帳やペンケースを取り扱っている。母体であるKNOXの方はカバンや財布など革小物もつくっている。
ノックスを展開しているのは株式会社デザインフィル。今さらながらミドリノートやトラベラーズダイアリーを扱っている会社だと知った。
NOx(ノックス)ではない
最初にノックスブレインというブランド名を見たときは、「NOx(窒素酸化物)に侵された脳」というネガティブな印象を受けてしまった。実際はKNOX(ノックス)という人名を意味する。
その後2008年にロゴが変わってknoxbrainと小文字になり、コンセプトを表すバクのマークが並記されるようになった。大気中の有害物質を食べてくれる、環境にやさしいバクらしい。
ノックスは1990年に新しいシステム手帳の規格、「ナローサイズ」を発売したことでも知られている。
そのため各シリーズで細身のサイズは必ず用意されている。蛇腹式の超整理手帳と同じく、ジャケットの内ポケットに収まりやすいアイデア商品といえる。
バイブルサイズからミニ5穴へ
ピアスのミニ5穴を買うまでは、他社のバイブルサイズ手帳を使っていた。
安定感があり広く書き込めるのはよいが、服のポケットには収まらない。とっさの時にメモを取るため、別のミニノートやジョッターを持ち歩くこともあった。
気軽に持ち運べるサイズの手帳に換えたいと思って調べたら、ミニ5穴の最小サイズがあることを知った。
これなら名刺入れやカードケースとほぼ同じサイズ。スマホや財布と一緒にポケットに入れて運ぶことができる。そのサイズ感から「名刺フォン」と呼ばれることもある。
高校生の頃は安いダイゴー。大学生ではクオバディスのSapaX(サパックス)やBusinessを使っていたので、手帳はやはりポケットサイズの方がしっくりくる。
そしてミニ5穴は他の大型手帳よりサイズが小さいため、価格が安いというのも売りだ。お財布への影響もミニマムで済む。
ピアスのバリエーション
ノックスブレインの手帳の中で、ピアスは1993年から販売されている定番のロングセラーだ。
英語で書くとPEARCE。ピアスもしくはピアースという人名を意味する。
これに対して耳に着けるピアスはpierce。本来は「~に穴を開ける」という意味で、ピアスという用法は和製英語になる。英語圏ではピアスとイヤリングと区別せず、どちらもearringsと呼ばれる。
PEARCEの素材は水牛革のバッファローカーフ。現行製品のスペックを見ると中面の一部は「合皮」と書かれている。しかし手元の手帳は見たところ裏地もポケット内も同じ革素材だ。
ピアスは同社の製品の中で、わりと安めのシリーズといえる。しかし2019年10月23日に、内側にアリゾナレザーを使った「プレミアム」が加わった。同じミニサイズでも定価は4,000円高くなる。
表と裏がツートンカラーなので、見た目はややカジュアルになる。しかし手帳の内側で高級革の手触りを楽しめるのは、まさにハイスペックな体験といえる。
KNOXにもうMICRO5はない
ノックスブレインのシステム手帳ラインナップから、ミニ5穴の規格が消えて久しい。
現行ピアスおよびプレミアムラインも最小サイズは「ミニ」の6穴リング。それ以外はナロー、バイブル、A5といった標準的ラインナップだ。他のシリーズもほぼ同じ構成。
ミニ5穴といえばアシュフォードやファイロファックスが充実しているうえ、持ち歩いている人はあまり多くない。昨今のミニマリストブームで脚光を浴びているようにも見えるが、システム手帳の主流規格でないことは明らかだ。
ミニ5穴を持ち歩いている人も、たいていはバイブルサイズのサブ用途やメモ用という感じ。多忙なビジネスマンであれば、この紙面の狭さは心許ないのだろう。
ピアスのミニ5穴を選んだ理由
ミニ5穴の手帳として、アシュフォードやファイロファックスの類似製品も調べてみた。
イギリス製のFilofaxはデザインがよいが、リング径が13ミリなため分厚くなってしまう。ASHFORDのミニ5穴も種類豊富だが、KNOXに比べるとややチープに見えてしまう。
まだアシュフォードの製品は「名刺フォン」という名前のとおり、大き目の名刺用ポケットが付いている。
予備用としてはありだが、やはり名刺はきちんと名刺入れから取り出す方がマナーが良い。内部に分厚いポケットがある分、手帳の厚みが増えてしまうので、これは余計な機能に思われた。
結局リング径8ミリの薄型で、張りのある水牛革のピアスが気に入った。ポケットも左右1つずつ、左にカード入れが2つというシンプルな仕様になっている。
コンパクトサイズだが、革が良いせいか当時の値段で1万円くらいしたと思う。ミニ5穴なわりには高くついたが、バイブルサイズの同等品よりは半額くらいで済んだ。
ペンホルダーのサイズが決め手
ピアスが良かったもうひとつの理由は、ペンホルダーの大きさが手持ちのペンにちょうどフィットしたことだ。
手帳用にはカランダッシュのエクリドールXSというショートサイズのシャープペンシルを使っている。長さ10センチ以下と短いわりに、同社特有の六角形軸で太さはそこそこある。
ほかにも細軸の手帳用ペンは多く発売されているが、エクリドールXSの質感と握りやすさを超えるものはなかった。そのまま打合せやスケッチにも使えるくらい汎用性が高いので、できればこのペンを使いまわしたい。
アシュフォードの手帳はペンホルダーが小さすぎて、残念ながらエクリドールが入らなかった。その点ノックスのピアスなら内径がぴったりで、ちょうどよいホールド感を得られる。
バッファローカーフの質感も高級感があり、エクリドールのロジウムメッキに引けを取らない。フィット感だけでなく、道具としての格も合う。
またホルダー部分の長さが3センチと、アシュフォードの類似製品より若干長い。そのためペン先がブラブラせず、カバンやポケットの中で暴れにくい。
その後さらにペン先を保護するため、製本テープを丸めて表紙の内側に貼ってみたりしてみた。
ペンの先端がずれて手に刺さったり、カバンの中で引っかかったりするトラブルは減った。しかし見た目はいかにも素人のDIYという感じになってしまったので、恥ずかしくなりそのうち外してしまった。
頑丈なバッファローカーフ
革の素材にこだわった手帳はいくつもあるが、ピアスの特徴は地味な頑健性だ。
水牛革の耐久性は並みの牛革を上回るようだ。アシュフォード製の廉価品より値段が高いだけのことはある。
表も裏も分厚いバッファローカーフのせいで、ミニ5穴のサイズにしても妙に存在感がある。傷みやすい背中の部分に、革が二重に貼られているためでもある。
革が固くて勝手に開かない
おかげでピアスの手帳は表紙が固く、自己復元性が高い。
180度はおろか、ちょっと開いた状態でもキープできず自然に閉じてしまう。最近はやりの「180度開ける」手帳とは真逆のコンセプトだ。
中に書き込んだり予定を見たりする際にはストレスになるが、カバンの中で勝手に開きにくいというメリットもある。
バネのように開閉が固いおかげで、ピアスにはブックバンドを使う必要がなかった。ボタン式・差し込み式のベルトも必要ないため、素早く開いて中身を確認できる。
背中は二重だが、内側のバインダーに当たる部分には補強材が貼られていない。これはアシュフォード製品との大きな違いで、ピアスは内側にリングの跡がついてしまう。
長年使ってくっきりへこみが目立つようになったが、実用上は問題ないようだ。革を貫通して穴が開くところまではいかなかった。
お尻の汗にも耐える水牛革
過去10年間、カバンやポケットの中で雑に扱い、雨や汗だけでなく泥や砂にまみれたこともある。仕事でもプライベートでも世界中に持ち歩き、山頂や砂漠にも連れて行った。
ミニ5穴のサイズ感を生かして、上着のない夏場はズボンの後ろポケットに入れてきた。そのためお尻の汗をたっぷり吸い込み、そのまま椅子に座って折り曲げそうになったことも何度かある。
ポケットに入れて雑に扱ったわりには、革の表面がそこまで劣化していない。時計の革ベルトや革バッグの持ち手に比べれば、耐久性は高い方だ。
メンテナンスとしては数か月に1回、モウブレイのデリケートクリームを塗る程度。普段から体の脂が染み込んでいるせいか、それすら不要に感じるくらいだった。
クラウゼのバインダーも強い
金属のバインダーは定番のKRAUSE(クラウゼ)製。毎日リフィルを抜き差ししていたので、もう3,000回以上開閉したと思う。
金具の色がくすんで若干サビも浮いてきたが、開閉動作や固定力はまったく問題ない。過去14年間、一度も油など差していないのに、この頑丈さは並大抵でないといえる。
さすがドイツ製。システム手帳業界のデファクトスタンダードとして、信頼性は間違いない。
経年変化と補修部分
ピアスの革は強いのだが、縫い目の糸が先にほつれてきた。
2枚重ねになった背が出っ張るため、どうしてもここが他のものとこすれてしまう。気がついたら糸がすべてなくなっていた。また開閉時に負担のかかる背中の上下端(花ぎれ)も革が分離してしまっている。
さすがにこのままでは背当ての革が取れそうな気がして、隙間から接着剤を入れてくっつけた。内側ポケットの縫い糸も徐々に取れてきているが、カードを何枚も入れるのをやめたら劣化は収まった。
ペンホルダーも抜き差しを繰り返したため、両端から破れてきている。革自体はまだ持ちそうだが、中身の白い繊維質が見えてしまうのはみすぼらしい。
革の表面が剥げて白っぽく見えてきたところは、サフィールのクリームでレタッチした。細かい色合わせを気にせずに済むので、黒い色を選んだのも正解だったと思う。
革素材のエイジング
革の表面には小さいひび割れが見える。ただし革の表層が分離して、ポロポロ取れてくるまでは悪化していない。
表に小さい傷はいくつもあるが、パッと見はそれほど目立たないのがピアスの売りだ。
ベビーカーフのようなきめの細かい高級素材に比べてフォーマル度は劣る。その分、がしがし普段使いして味が出るのを楽しめるのが水牛革の特徴。
黒革なので、ナチュラルタンのヌメ革ほど明らかな経年変化は見られない。むしろこれ見よがしに味が出ないほうがビジネスシーンでは使いやすい。
カジュアルすぎないのもピアスの持ち味。「見る人が見ればよい革とわかる」「自分だけがエイジングを楽しめる」そういう渋い手帳といえる。
手垢にまみれた独特のツヤ
手帳を使い込むにつれて、革のツヤは「煮しまった」感じに変化してきた。ガラスレザーほど派手ではないが、光の当たり方によって鈍く反射する。
てかりの原因は主に自分の手垢と皮脂なので、他人からすればゴキブリのように汚らしい光沢かもしれない。さいわい悪臭を放つほどではなく、まわりに迷惑はかけていないと思う。
ほかの手帳を10年単位で使い込んだことはないので、厳密に耐久性の比較はできない。KNOXのピアスと同じくらい長持ちしている革小物は、HERZのペンケースくらいだ。
システム手帳の表紙素材として、ピアスの水牛革は十分に必要性能を満たしている。むしろ頑丈すぎて、他の手帳に買い替える必要がないのがさみしい。
14年経ってもまだ使える
10年使った手帳はさすがに見た目がぼろくなった。
しかし実用上は問題ないし、ある程度の年齢なら、このくらい使い込んだ道具を持っていた方がさまになる。
そもそも接客とか会議とか外観を気にする場面が減ったので、手帳が古くても気にすることはない。パリッとした新品の革小物は気分が良いが、他の手帳を試してもまたピアスのミニ5穴に戻ってくるパターンが多かった。
ここ数年は他の手帳に切り替えて引き出しにしまったまま。特にクリームで栄養も与えていないが、革の質は変化していない。新しいリフィルに差し替えれば、そのままそのまま使えそうだ。
製造から14年経ってもまだ現役というタフな手帳。ミニ5穴でも当時1万円くらいはしたと思うので、値段相応のクオリティーはある。
KNOXの手帳を買うなら、うっかり一生ものになってしまうくらいの覚悟が必要だ。
リフィルはアシュフォード製品
ミニ5穴のリフィルはアシュフォードの方が好みなので、特にブランドを気にせず入れていた。他社性でも互換性はまったく問題ない。
毎年発売される見開き1週間のダイアリーに、月間・年間カレンダー、そして気分に合わせてフリーのメモ用紙を挟んでいた。アシュフォードなら無地から5ミリドットや罫線入り、100枚入りの再生紙など種類豊富にリフィルがそろっている。
年によっては見開き1週間が品切れで、2週間タイプしか手に入らないことがある。この場合は月間ダイアリーも入れると内容がかぶるので、2週間1冊で何とか済ませていた。
見開き1週間でも2週間でも、ミニ5穴のサイズで1日分の予定をすべて書き込むのは厳しい。結局フリーペーパーを毎朝1枚表紙側に移して、ここに当日分の予定を書き込むことにした。
インデックスはミニ付箋で
ミニ5穴は他サイズに比べてリフィルの種類が少ないのが難点だ。
見出しに使うインデックスのシートは、上部にタブのついた製品が便利だ。横にタブが出たバージョンだと、ペンと干渉して厚みが出てしまう。
ところがしばらく前からアシュフォード製、縦型インデックスの在庫が消えてしまったので、強粘着のミニ付箋で代用していた。
よく考えるとこの方が薄手でかさばらず、貼る位置も融通が利く。付箋がよれたら張り替えればいいだけで、維持費用も格安で済む。手帳の見出しは普通のふせんで十分といえる。
※2020年1月現在『カラーインデックス トップ5段 MICRO5』の在庫は復活している。
ミニ5穴手帳を財布と兼ねる案
ミニ5穴の極小手帳を眺めていると、これで財布も兼ねられないかという気になってくる。
都心で暮らしていればコンビニも自販機も電子マネー、キャッシュレスで済ませられる。いまだに硬貨を使うのはスポーツセンターの返却式100円ロッカーくらいだ。
その程度の使用頻度で済むなら、お札は数枚手帳に折りたたみ、100円玉を何枚か仕込んでおけば財布は不要といえる。カード類も厳選すれば2~3枚に絞れる。
ノックスのピアスにはカード入れが合計4つある。アシュフォードから出ている透明ポケットで札入れを増やし、さらにシールドホルダーを使って小銭を入れるスペースをつくってみた。
ビニール製の圧着式ポーチで、細かい小物の収納に便利。小銭なら10枚くらいは余裕で収まる。
中のお金をとり出しにくい
手帳のポーチに小銭は入ったが、いざ買い物で取り出そうとすると時間がかかる。その理由は以下のとおり。
- リフィル自体がリング固定のため不安定
- 収納スペースが狭く目的の硬貨を探すのに手間取る
- ファスナーに取っ手がなく開きにくい
※取っ手付きのファスナーホルダーはMINI6サイズから
スーパーのレジでお金を取り出すのに苦労して、店員さんや並んでいるお客さんに迷惑をかけてしまう。
またお札をポケットに入れる際、どうしても折り目がついてしまうのが難点だ。支払う際にピン札である必要はないが、紙幣を傷めてしまうのは申し訳ない。相手にも失礼な気がする。
「使い勝手は財布の専用品にかなわない。手帳にお金を入れるのは予備程度」という結論に達した。
リフィルの増やし過ぎに注意
アシュフォードの関連製品で、ミニ5穴用のリフィルはいくつか出ている。
クリアポケットは汎用性があるが、カード類を入れると抜け落ちてしまう。カードを入れるなら専用のダブル定期券ホルダーなどを使う方が安全だ。
ミニ5穴の場合、これらの特殊リフィルは横幅が広くてペンホルダーと干渉してしまう。さらに手帳の厚みが増えるうえ、紙の下地がでこぼこして文字を書きにくくなる。
リフィルを増やせば手帳の収納量は増やせる。しかし増やしすぎるとせっかくのコンパクトさを損なってしまう。
結局財布もカード入れも別で持ち歩いて、手帳には紙以外のリフィルを差さない方がスマートだと感じた。
手帳に鍵を取り付ける案
さらに今度は家の鍵を手帳に合体させてみた。
住所入りの免許証などを挟んでいる場合は、万が一落としたときに防犯上の懸念がある。しかし鍵と手帳・財布を別々に持ち歩けば、落とす危険性が2倍に増える。
リスクとしては、どちらもたいして変わらないように思う。
最初は東急ハンズで根付(ねつけ)のヒモだけ買って鍵をつけてみた。しかし強度が足りないのか、1か月くらい経つとちぎれてしまった。
長さ10センチの強力ワイヤー
次に選んだのは超極細(線径0.25ミリ)のワイヤーロープ。うっかり触ると手が切れそうな不安はあるが、これで耐荷重は1キロもある。
ワイヤーの長さが10センチあれば、手帳から家の扉まで届く。リフィルのリング部分に引っ掛けてポケットに鍵を挟めば、十分役に立った。
もし鍵をなくしやすくて困っている人がいたら、案外役に立つテクニックかもしれない。自前で紐を用意すれば、手帳でなくても財布やスマホなどあらゆる小物に鍵はくっつけられる。
ミニ5穴の手帳は小さいので、付属品もそれほどお金がかからない。アシュフォードから出ているMICRO5のリフィルなどは片っ端から試して、気に入ったものを見つければいいと思う。
KNOXのピアスは構造がシンプルなので、カスタムベースとして使いやすかった。