御茶ノ水・神保町のレンタルCDジャニスはプログレマニアの聖地

田舎でのんびり暮らしたいが、自分が東京を離れられない理由が、仕事以外にもいくつかある。その1つがジャニスだ。

マイナージャンルの音楽に特化した、国内最大級の在庫を抱えるレンタルCDショップ。全額金券バックの日を狙って年に1回は巡礼に行く。ある特定ジャンルの音楽愛好家にとっては、まさにサンクチュアリと呼べる場所だ。

かつては田舎のプログレ少年

北陸の地方都市で過ごした陰惨な中高生時代、ちょっとかっこつけて洋楽を聴きはじめたら70年代のプログレ名盤にはまり、そこから派生して現代にいたる雑多な前衛音楽のコレクターに成長していった。

なぜか市立図書館にあったマーキー別冊の『ブリティッシュロック集成』というカタログ本を手掛かりに、どんな街にも1つはあるマニアックなレコードショップに入りびたり、わずかなお小遣いをかき集めて月に1枚、厳選したCDを買い求めていった。

次第に英語圏以外のフレンチ・ジャーマン・北欧系のユーロ・ロックにも趣味が発展していった。ここまで来ると玉石混交で、FocusとかTai Phongとか一発ネタのCDをつかまされては憤慨したものだ。今のようにiTunesとかAmazonで視聴できたら、なんと便利であったことか。

さすがにマーキーの集成シリーズは絶版のようで、今、書店で手に入るレビュー本はこのくらい。

ちなみにタイフォンは『ファイブスター物語』のファティマ名の元ネタ。他にもアトールとかアシュラ・テンプルとかユーロ・ロックからの引用が多いので、いつかジョジョのスタンド名と合わせて整理してみたいと思う。

ジャケットデザインが秀逸だが、1976年の2ndアルバムは、なんとWindowsの元ネタという説もある。

Windows
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大学受験で初めて新宿に来たときは、都会の高層ビルに驚きながらも、ひそかにディスクユニオンのプログレッシブ・ロック館に寄って新譜を買い漁ってはホクホクしていた。Doctor Nerveや、初々しいMats & Morganのデビュー作など。MARQUEEでレビューされても、さすがに地方都市には入荷されてこない、レアアイテムをゲットして狂喜したものだ。

新宿のプログレ館も、今では地下から日の当たる向かいのビル3階に移転したが、自分はLP盤とか限定紙ジャケのコレクションには興味がないので、最近はもっぱらジャニスで借りてリッピングして済ませている。

今は渋谷のクラブで黒服

大学に入ってからはクラブの裏方でバイトをするようになり、ドラムンベースやサイケデリック・トランスに開眼しては「これぞ真のプログレッションだ!」と踊り狂っていたが、クラブの遊び仲間にエルドンやタンジェリン・ドリームを聴かせて、おもしろいと言ってもらえたのは嬉しかった。

当時は知らなかったが、マニュエル・ゲッチングの『E2-E4』とかはテクノ界隈でもリミックスされてリバイバルしていたらしい。21世紀になってからクラフトワークが来日するなんて夢にも思っていなかった。いつかラルフ・ヒュッターとツール・ド・フランスのコースを一緒にサイクリングしてみたいものだ。

今でも不思議なご縁でクラブ関係のお仕事をいただくことがあるが、渋谷のちょっとしたハコにInfected Mashroomが出演したり、つくづく東京に住んでいるのは恵まれていると思う。プログレバンドの来日公演御用達、渋谷O-EASTや川崎のクラブチッタにも行けるし。

ジャニスの絶妙なジャンル分けと豊富な品揃え

神保町駅か新御茶ノ水駅からアクセスして、靖国通り沿い、ヴィクトリアのビルの9階にジャニスはある。

自分がうろつくのはもっぱら店内奥の音響~辺境派コーナーと、現代音楽、プログレ棚だ。ちょっと大きいレンタルビデオ屋だと、SF映画でもエイリアン物とか天変地異系とか細かくジャンル分けされているように、ジャニスの棚も「ダブ」とか「辺境派」などよくわからないことになっている。さらに各ジャンルの邦楽まで揃っている。

マーキー集成本にも載っていなかったような謎のバンドもあり、まだまだ開拓の余地がある。例えば、世界広しといえどもM.B.(マウリッツォ・ビアンキ)がこんなに並んでいるCDショップは他にあるだろうか。

渋谷のツタヤあたりだと、稀にアレアとかマグマくらいはあったりするが、ジャニスのプログレ棚はユーロ勢のカバーも手厚い。PFM、ニュー・トロルスあたりの耽美なイタリアンから、ノヴァーリス、ヘルダーリンといったドイツ文学まで網羅されている。

最近は現代音楽コーナーで、ブライアン・イーノ関連の大人しいアンビエント物を集めていたりするが、『Ambient 2: Plateaux of Mirror』で共演していたハロルド・バッドのソロ作がこんなにあるとは知らなかった。『Music For Airports』を生楽器でカバーしているBang on a Canの作品群もかなり良い。

ちなみにジャズ棚でオルガンといえば、ジミー・スミス以外にラリー・ヤングやジミー・マクグリフも揃っていたりするので、プログレ以外のジャンルも相当充実していると思われる。最近はクラブ棚のサブジャンルでゴア・サイケデリック関係を漁りながら、Astral Projectionとか今でも聞けそうな90年代トランスを発掘しては楽しんでいる。

各バンドメンバーのソロ作も並置されているので、例えば、

「ヘンリー・カウ(大物バンド)>フレッド・フリス(ソロ作)>マサカー(コラボ作)>ビル・ラズウェル(別の大物)>…つづく」

という風に、無限に関連作をレコメンドされて借りてしまうという、恐ろしい仕組みだ。

ジャニスの会員種別と料金体系

ジャニスが気に入ったら、入会金2,000円を払っても特別会員になった方が間違いなくリーズナブルだ。CD1枚50円引きになるので、30枚も借りれば一般会員の入会金500円との差額はすぐに元が取れる。

毎月5・15・25日やカード更新後に「金券半額バック」のサービスがあるので、日を選んで足を運んだ方がよい。特に年末年始には恒例の「金券全額バック」のキャンペーンがあるので、実家帰省前か初詣の後に、ジャニス詣でのスケジュールを必ず組んでおこう。

家が遠ければ、ゆうパックか宅急便で返送するのが便利だ。お会計5千円以上からクレジットカードで支払いができる。

Richard PinhasからDavid Langまで

今回借りたCDは15枚。内訳は最近アンダーワールド、カール・ハイドのソロ作を聴いてよかったので、ブライアン・イーノとの共演作を2枚(渋谷ツタヤには、さすがに置いていなかった)。Bang on a CanとDavid Langの作品を各数枚。自分のライフワークである、カンタベリー・ミュージックの系譜探求として、フィル・ミラーの作品。HELDON首謀者にしてジル・ドゥルーズの弟子という、ロバート・フリップと並ぶギタリスト哲学者、リシャール・ピナスの近作を2枚。そしてマグマの最新作がやっと棚に並んだので2枚。ついでにテリー・ライリーの未視聴作品も。

プログレのメジャーどころはウェブに解説が充実しているが、ソロ作やレコメン系はまだまだ情報が少ないので、いずれレビューしていきたいと思う。

インターネットが普及して海外のマイナーバンドを調べるのも楽になり、今ではプログレ専門のネットラジオすら存在する。高校生の頃は視聴のチャンスといえばUSENのプログレ特集くらいしかなかった。大学に入って、パソコン部屋のUnixとNetscapeで真っ先に調べたのは、キャラバンの英語の歌詞だったりした。

節約派はiTunesよりジャニスでCDレンタル

以上を読んで、ちょっとでもピンと来た方がいたら、東京出張の折にはぜひジャニスを訪れてはいかがだろうか。iTunesでプログレ系のバンドもそこそこフォローされるようになってきたが、今のところはネットでダウンロード購入するより、CDを借りてmp3化した方が安上がりだ。

ジャニスの棚はバベルの図書館、汲み尽くせぬ泉であり、網羅するには自分もまだ数十年かかりそうな気がする。